FC2ブログ

plumeria

plumeria

-
爺さんの話は衝撃的だった。
この人が西門の先々代の子供・・・俺から見れば大叔父様、ということになる。正妻の子でなかったから西門の姓をもらえなかった、ということか。

その時の家元夫人の逆鱗に触れたんだろうな。
俺のお袋が天然で可笑しいだけで、今までの家元夫人は全員すげぇ怖かったらしいから。


「武蔵の母親はの、西門の使用人なのだ。つまりは儂の父、先々代の家元の愛人の息子、ということになる。だが生まれたのは西門の本邸内、儂を取り上げた産婆によって武蔵も取り上げられたのじゃ。その頃はそういうことも珍しくはなかったが母親が使用人というのが世間体悪くての・・・武蔵は今で言う認知というものはされておらん。儂と兄弟のように育ったのは確かだが、ここでも宗家の跡取りと使用人の私生児。扱いは良くはなかった・・・」

「お爺ちゃん・・・小さい頃は辛かったんだね。今は裕福そうで良かったねぇ・・・」
「つくし、もう少し後にしろ」

感動して泣くのはまだ早いって!話が全部終わってないんだから。
それなのにもうつくしは自分がされた事は置いといて佐々木さんに同情してやがる。マジ、お人好し!
そんなつくしをニコニコと笑って見てるけど、この人にしてみたら西門は母親に冷たくした家だろ?いくら血を引いてても親近感なんてないだろうに。


「まぁ、これは儂としては不本意じゃが・・・」

爺さんは今度は嫌そうな顔をして、自分にとって不味い話を切り出した。

「今でこそ先代の家元なんて言われておるが、この武蔵と儂が小さい頃にその時の家元が武蔵の腕を褒めでおったんじゃ。1番筋がいいとな。だから可愛がっておって儂なんかよりも色々と声をかけてもらっておったわ」

「は?お爺さまよりも筋がいいと・・・?佐々木さんがですか?後継者よりも?次期家元のお爺さまよりもいい茶を点てて・・・」
「何度も言うな!・・・コホン、それで今度は儂の母親がそれに激怒して武蔵と母親を西門から追い出したんじゃよ」

「・・・もう、昔の事ですから」

佐々木さんは穏やかに笑っていたが、お爺さまにとっては面白くない話だから不機嫌な顔してふて腐れていた。
だから今度は佐々木さんが自分の事を話し出した。

「追い出されて行くところもなかったんじゃがの・・・父である家元が天澤家を紹介してくれてそこに身を寄せることにしたのじゃよ。それからも家元は何かにつけ心配してくれて儂をその時の学校に行かせてくれて、母の葬儀も家元が出してくれての。天澤家にも西門の血と引く人間だと話して立場が悪くならんようにして下さったのです。おかげで若い内から天澤家の中を取り仕切る役目を仰せつかって、今では隠居しても部屋を持たせてもらい家中の人間からも”ご隠居様”などと言われて可愛がってもらっておりますのじゃ」

「あっ!だから駅でも大事にされてたのね?私なんか弾き飛ばされたもん!」
「つくし、静かにしろ」

ぽん!と膝を叩いて、思い出したように自分が拉致されたときのことを言ってる。
今はいいから!ってジロッと睨んだら、こっちもふて腐れたような顔で俺の反対側を向いた。

「・・・当時の家元は京都に来る度に天澤に来て、こっそり私に茶の指導をして下さいました。その時に毎度家の中が苦しいと言われてましてな。もっと伸び伸びと自由に茶を点てたいのだが、と笑っておられた。家元夫人が厳しい方でしたからな・・・ご夫婦仲が冷めておって面白くはなかったようですわ。そしたらこちらのご隠居の元に嫁がれた奥様もお強い人での・・・ふふふ、この人も息苦しくて堪らんかったようですわ」

「・・・うむ、結構どころか最強に怖い女じゃったわ。総二郎の母も随分泣かされておるからの」
「はい、聞いております」

この後に佐々木さんは、自分には優しかった父親が大事に守ってきた西門の事をずっと気にしていたのだと言った。だから俺のお袋が嫁いできた時も様子を見に東京に来たらしいし、今度は俺の話を聞いてつくしのことが知りたかったのだと。



「それで、話を戻しましょうか。ご隠居・・・この2人のことはどうされますのかな?お認めにはなれませんかな?」

「・・・そうじゃな。はっきり言えば落ち着きがなくて茶の方もまだまだ。これがこの先上達するのかどうか・・・これでは到底西門を継いでゆく総二郎の支えと言うよりは足手纏いになりそうな気がするがの?やはりここは穂華のようにこの世界に慣れた娘の方がいいと思うが・・・」

佐々木さんが本来の議題に戻して再びお爺さまの意見が述べられた。
今回は認められない・・・そういう結論だ。だが、俺もすんなり「そうですか」と引き下がるわけにはいかない。


「お爺さま。これまで確かに西門は家元や先代、長老のご意見に従って結婚相手を選んでおりましたが、私はそうはしたくないのです。家元にもその話はしております。それに・・・こう申し上げるのは長く西門を支えて下さったお爺さまに申し訳ないのですが、私はこの西門流という窮屈で息苦しい世界で生きていかなくてはならないのです。それならば生涯を共に過ごしてくれる人を自分で選びたい、せめて茶の世界から離れた時間だけは1人の男として楽しみたいと思っております。我儘だとは思いますがこれも時代の流れ、決して私は西門を軽く見ているわけでも、伝統を甘く考えているわけでもございません。今後も彼女と西門を受け継ぎ、守っていこうと思っております」

こんなに長く爺さんに話しかけた事が今まであったか?
1度も詰まらずに言えて良かった・・・てな事を考えていた。

爺さんは腕組みをして考え込んでいたが、また佐々木さんが言葉を繋げた。

「私が突然つくしちゃんを連れ出したのはこの子の本心を聞きたいと申し上げました。私はね・・・この子に聞いたんですよ。もっと楽な道があるだろうと・・・わざわざ苦労しなくても良くないかと。そうしたら答えが”好きになった人の家だから苦労するのもその人のためならいい”と言いましてなぁ。若宗匠と新しい風を西門に入れようと話されとるそうですわ。そのために今日が自分にとって1番初めの大仕事だと。ほっほっほっ・・・面白い子じゃなぁ」

この言葉でつくしは一気に耳まで赤くして着物の袖で顔を隠した。
それは確かに俺とも話したことだけど、そんなことを佐々木さんに言ったのか・・・?そう思うと爺さんの前だけど押し倒してしまいそうで怖かった!

「お茶の世界は辛くはないかね?・・・と聞いたときには”辛くないことの方が珍しい”とな。えっと・・・お母さんはなんと言ったんじゃったかな?つくしちゃん」

「え?あぁ・・・あのですね、”人って生きていくだけで辛いものだ”です。だから好きな人が側にいてくれてなんとか頑張れるんだと思うんです。1人だと挫けるから・・・私にとってはそれが総二郎さんなんだと思います」

「そうじゃったなぁ・・・私の母もようそう言っておったよ。たまに来てくれる家元の顔を見るだけで頑張れると・・・」


この後にもう一度佐々木さんが爺さんに問いかけた。
どうしても認めてやらんのですかな?・・・と。

「私の母はもう奥方がおいでの方に惚れてしまったので仕方がなかったが、この2人は違います。それに私がご隠居に無理を言ってこの茶席に入ったのはあなたが最終的には頑固になって若宗匠の話を聞いてやらんかもしれんと思ったからじゃ。
東京でのこの子の思いやりと優しさ、京都での正直な気持ち・・・人が良すぎるくらいで、ちと不安もありますがな。どうですか?この先は若宗匠に西門もつくしちゃんも育ててもらいながら、というのも悪くはないと思いますがな」

やはり、この人は急な客だったのか?
つくしを驚かすためじゃなくて、穂華のためでもなくて、自分の父親に対する感謝の気持ちから西門の将来を考えてのこと、そういうことなんだろうか。

爺さんは暫く腕組みしながら目を閉じていたが、その手を解いて姿勢を正したら俺達の方にド真面目な顔を向けてきた。


「もう少し腕を磨いてもう一度来るがいい。それでいいかな?・・・牧野つくしさん」

「・・・はい!わかりました!頑張りますっ!」
「声がデカい!茶室ではそのように声を張り上げるな!・・・総二郎っ、お前がよく教えておけ!」


「はい、お爺さま。ありがとうございます」


爺さんがつくしの事を名前で呼んだ・・・それが『答え』と言うことだ。


**


この後屋敷を出ようとしたらつくしが玄関先でガラスの花瓶を指さしてた。ハリエンジュの花が生けてある花瓶。

「これっ!ここに来てたんだ!」
「は?何がだ?」

「武蔵お爺ちゃんが東京で最後に買った江戸切り子の花瓶!あっはは!ここにあるーっ!」
「・・・そりゃ良かったな」

お前のお人好しが変なところで役に立ったんだな。あの行方不明事件も最終的にはいい結果を生んだってことか?
そんなことを思いながら一乗寺の屋敷を出て西門の別邸に帰った。



別邸の門前では今日も志乃さんが泣きそうな顔で立ってる。
予定の時間を大幅に過ぎてるから心配だったんだろう・・・俺達を見たらすごい速さで駆け寄ってきた。


「い・・・いかがでしたか?ちゃんと出来ました?何か粗相をして遅くなったんじゃないんですか?」

そんなことを早口で言うからつくしと顔を見合わせて笑った。そして2人揃ってVサインを出したら志乃さんはその場に座り込んでしまった。

「あぁっ!志乃さん、大丈夫?」
「おいっ!腰でも抜かしたのか?!」

「・・・はぁ、良かったわ・・・心臓が止まるかと思いました。牧野さんがお湯でも溢したりお菓子を飛ばしたかと思って・・・」

それ、両方やったけど・・・って今は黙っててやる。
俺の腕に捕まってやっと立ち上がった志乃さんを抱えて、俺達はやっと長い半日を終えて戻った。


この後は昼飯も食わずにつくしと爆睡した。
脱いだ着物もたたまずに、大の字になった俺の横で小さく丸まってるつくし。

でも、その小指の先だけ絡ませてた。




15287579000.jpeg
関連記事
Posted by