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plumeria

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数日後、俺は花沢物産に出向いていた。

ここに来るなんて数年ぶり・・・エントランスから入るなり受付が総立ちして頭を下げる。
まだここに入社すらしていない俺にまでそんな態度をとらなくていいのに、と鬱陶しく思うけど連絡しておいた営業部の人間に案内され小さな会議室に向かった。

ここに来た理由は齋藤工業の倒産時の状況確認。
当時花沢物産の子会社で営業部長をしていた人間が今は花沢本社で勤務していると聞き、話が出来ればと家には黙ったまま訪れた。もし母さんに知られたとしても会社に興味を示したとしか思わないだろう、そこは何とでも誤魔化せる。

数人しか入れない会議室には既に緊張した面持ちの杉村という人間が座っていて、俺が入るとこの男もすごい勢いで立ち上がって礼をした。
俺は何も言わずに座るように合図して、案内してくれた営業部の人間には退出させた。

この部屋に二人きり。杉村は何を聞かれるのかと戸惑っているのか俺の方を見ようとしなかった。


「今日は忙しい中呼び出してすみません。俺はまだこの会社の人間じゃない・・・もう少し気を楽にして下さい」
「は、はい!申し訳ございません!」

「・・・いや、謝らなくていいんだけど。頼んでおいたこと、わかった?」
「はい、齋藤工業について、ですね?この時の内部資料を確認しましたところ・・・」

杉村の説明は半分以上俺が既に調べた事と同じだった。
当時、花沢の子会社が取引していたとある下請け会社が起こした設計ミスにより製品の自主回収を余儀なくされ、その影響で経営状態が悪化、いくつかの下請け会社を切り捨てることで子会社は自社を守った形になった。
その時、花沢本社としては下請け会社にまで救済措置をしなくていいとの社長、つまり父さんの指示で援助をしなかったのは事実。

ただし、切り捨てる予定の下請け会社の選定は子会社の営業責任者が行っていた。

「この緒方薬品・・・どうしてこの会社が残って他の関連会社が切り捨てられたのかわかる?どう考えたって製薬会社はうちの子会社の売上げ貢献度から見たら低いよね?建築関係の会社に製薬会社を残すメリットはなに?」

「あぁ・・・緒方薬品ですか。実は緒方薬品のトップはこの子会社の代表取締役のご学友です。なんでも学生時代に緒方薬品の社長に随分世話になったらしくて無理矢理取引先の中に入ってるんですよ。花沢物産の関連企業と付き合いがあると言うことは宣伝にもなるらしく、この緒方薬品のホームページには主要取引先に花沢物産がありました。直接花沢物産とは関係ないんですがね・・・」

「子会社の方とだけ取引があるの?」

「そうです。まぁ、建築資材にも薬品というものは使います。医療用だけが薬品ではないですからね。多分、経営が苦しくなってもいずれは花沢本社が救済すると見込んで、自分の会社の手を切らないように頼み込んだんだと思いますよ。初めは緒方薬品が切り捨てられる予定でしたが、途中からそれが別の会社数社に変わったんです。齋藤工業もその1つですよ」

「・・・そう、わかった」


杉村は一礼して出て行った。
今度はここのパソコンを使って緒方医院と緒方薬品の関係を調べた。
齋藤の新しい父親、緒方医院の院長、緒方透の実弟が緒方薬品の代表取締役社長だということはネットですぐにわかった。

もしかしたら・・・計画したのは緒方透か?


今度は直接子会社の方に出向いた。
これは俺の想像だけど、答えてくれるとしたらここの代表者だ。

アポも取らずに急に押しかけたけど、花沢の訪問とあってすぐに時間をとってくれた。当然、誰もいない場所で。

そんな訪問の仕方に不思議そうな顔をして俺の前に座っている代表者の榊という男。俺に名刺を差し出そうとするからそれを止めた。

「急に押しかけて申し訳ありません。本日はお聞きしたいことがあって来ただけです。私を花沢物産からの訪問者だと思わなくて結構です」
「は?・・・では、後継者のあなたが何故うちのような会社に足を運ばれたのですかな?しかも私とだけ話がしたいとは・・・どのような内容のことでしょう?」

「3年ぐらい前、こちらは随分と大変でしたよね?その時のことです」
「あの時の?はて・・・私共は花沢物産のご子息に報告することも探られるようなこともしておらんつもりですが?」

榊社長の眉間に深い皺が寄り、それまで揃えて足の上に置いていた手を腕組みにした。ほんの少し動揺した表情・・・これから何を聞かれるのかと焦っているようにも見えた。

「単刀直入に聞きます。そしてこれは花沢物産とは無関係。私が個人的に調べていることなので今更何処にも報告はしません。なので正直にお答えいただきたい。3年前・・・この会社は緒方薬品もしくは緒方医院から金銭を受け取っていませんか?」

「・・・な、何を根拠に・・・!」
「申し上げたでしょう?これは今更世間に公表するものではありませんし、私が花沢の後継者だからといってこの会社をどうこうする権限は持っていません。知りたいのはそういうことがあったかどうか・・・それだけです」

しばらく榊は黙っていたが、大きく深呼吸した後でその時の事を話してくれた。


「確かに・・・ありましたよ。表帳簿には出していない金額ですが緒方医院から受け取りました。どうしても緒方薬品を助けて欲しいからと。そして下請け会社の中から何社か、緒方薬品の代わりに取引を停止する企業を選んでくれってわざわざ言いに来ました」

「それは緒方透氏ですか?そして指名したのではありませんか?取引停止リストにあげる企業を」

「・・・そうです。彼が持ってきたリストにあったのは近藤産業、石田運送、齋藤工業です。私も何故指定するのか不思議でしたが、その時はとにかく花沢の援助がまだ明確ではなかったので焦っていました。緒方さんが送金してくれた金がどうしても必要だったのです」

榊社長は自分でもその時の事を悔いているようで、俯いたまま顔を上げなくなった。
俺としては自分の想像が真実だったとわかればいい・・・榊社長に礼を言ってその部屋を出た。


つまり・・・齋藤の父親の会社を倒産に追い込んだのは今の父親、緒方透だ。

齋藤の母親もその計画に絡んでいたとしたら悲劇だけどそれは俺にはわからない。だけど、齋藤工業を経営破綻に追い込んで離婚するように仕向けたんだ。
そして緒方のシナリオ通り齋藤の両親は離婚し、その再婚相手に名乗り出て齋藤工業の夫妻も返済してやって恩を売った。自分がそう仕組んだとは思わせずに、何も知らない齋藤の父親は一人きりになった。

母親の気持ちだけが不明だが、この時の倒産劇は演出家がいたって事だ。


「いつかのタイミングでこの話を齋藤にしてやらないといけないかな・・・」


あいつの怒りの向き先を変えても、今度は現在の父親だ。
自分の気持ちも何もかもを家と親に振り回される・・・いつも針のように尖っている齋藤の心が、いずれ穏やかになればいいと願うしかなかった。


**********


「ね、橋本さんに会いに行かない?」

類がバイト先に迎えに来てくれた時にそう言った。
私たちの事を気にしてくれていたから2人で話しに行こうって・・・少し照れくさいけど「うん!」と頷いた。

花沢類は”恋人”っていう関係になってからバイト帰りは全部迎えに行くと言ってくれた。私が1人で夜道を歩くことがイヤだと。それに由依さんの事がまだ落ち着かないから、万が一の事があっちゃいけないって。


そして出来たらバイトも1つにして欲しいと言われた。
でも、それは私が自分で生活するためには必要なお金だから、花沢類に負担してもらうような事は考えないと言ったら初めて喧嘩になった。

背中を向けて部屋の隅と隅に分かれた・・・1時間後謝って来たのは彼の方。


『牧野のやり方を否定してごめん・・・』
『・・・ううん、私こそ頑固でごめん。そこはまだ甘えたくないだけ』

『行かなかったら一緒の時間が増えると思っただけ・・・』


この会話を車の中で思い出してクスクス笑ったら「どうしたの?」って不思議な顔してる。初めてこの人に会った時に、まさかこんな日が来るとは思わなかったんだもの。


「ううん、なんでもない。この時間はcantabileでは食べられないんだよね?」
「簡単なものなら作ってくれるよ。あの店、気分で開いてるからわかんないよね」

「あはは!営業時間がマスターの気分ってお店も珍しいよね!」
「うん、そうだよね」


そして車はcantabileに着いて、私たちは手を繋いでお店に入っていった。
橋本さんはニコニコして出迎えてくれて、お腹が空いた私にパスタを用意してくれた。

以前のように3人だけの店内で花沢類が私との事を伝えたら、私たちの間に入って肩を抱いて喜んでくれた。


「大切な人が出来たのなら人生は2倍楽しくなるんだ。でも、時間は限られてるんだから大切に・・・一番初めの気持ちを大事に持ってるんだよ?そうしたら幸せになれるから」




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