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plumeria

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陽翔とあの話をしてから1週間。

それまで全然大学内で見かけなかったからホッとしていたのに、今日はばったり講堂の横で出会ってしまった。
陽翔は試験勉強のせいなのか少し顔色が悪い。それにちゃんと食べてないのかもしれない、少しだけ痩せたように見えた。

お互いに気不味くて視線をそらせてしまう。
陽翔もいつものように笑わなかったし、私はこれ以上陽翔に優しい言葉を掛けない方がいいと思った。

だから会話もせずに離れた方がいいだろうと陽翔の横を知らん顔して通り過ぎようとした。でも、通り過ぎてすぐに呼び止めたのは陽翔の方だった。


「・・・牧野、この前はごめん」

「ううん、私こそ余計な事言ってごめんなさい。その・・・変なところ指摘したみたいで・・・」
「あぁ、別に。事実だから」

今はもう痕なんて無いんだろうけど今日も首筋に手をやった。青冷めてた頬を少しだけ赤らめて。

事実だから・・・あぁ、やっぱりそうなんだって思ったけど前よりは気にならない。そして「仲直りしなよ」なんて言葉も出せなかった。私の事が好きだって言った人に、別の人を見ろって言えない。
早く私の事なんか忘れてくれればいいって思うだけ。

流石に陽翔には私の口から花沢類との事は言えなかったから、この時は黙っておいた。
もしかしたらそのうち噂で聞くかもしれないし、陽翔の気持ちが落ち着いたら私から話せるかもしれない。今日、この時間に話せないだけ・・・。

「あれからはなにも起きてないよな。俺、あんまり寮に帰ってないんだ。ずっと大学に泊まり込んでてさ・・・」
「そうなんだ。うん、何もないよ。わかってくれたんならいいのよ。2度としないって約束してくれるんなら」

「俺が由依と別れなければいいんだろうけどな・・・」
「それは私が言える事じゃないから。でも、それに関係なく嫌がらせはやめてって伝えてね。それじゃ・・・」

「牧野・・・!」

また背中を向けた私に陽翔は声を掛けた。
このあとに何を言うのか・・・私は振り向かずに背中で陽翔の声を聞いていた。


「あいつに自分の気持ちを伝えるのか?何もかもが違いすぎるぞ?お前・・・絶対に傷つくぞ!」

「陽翔には関係ないよ。ごめん、行くね」


何もかもが違い過ぎるなんて知ってる。
そして私が知ってる花沢類のことが、まだほんの少しだということも知ってる。

それでも私は彼のことを信じてるし、困難なことは2人で乗り越えられるって思ってる。たとえ私が出来ることが極僅かで、彼を励ますことしか出来なくても、そういう人間が花沢類には必要なのよ。

それが自分だって信じたい・・・。



「・・・なんでそんな顔してんの?」

急に講堂から出たところで横から声をかけられた。その声は・・・花沢類。
隣に同じ学部の美作さんがいて、彼の方はさりげなくウインクして先に何処かに行ってしまった。そして振り向いて陽翔と出会った場所を見たけど彼ももうそこにはいなかった。少しだけ・・・ホッとした。

「どうしたの?泣きそうな顔して。誰かに何か言われたの?」
「ううん、何でもない。何も言われてない・・・泣きそうな顔なんてしてないもん」

「うそ。だってもう目から涙が落ちそうだよ?・・・話、聞こうか?」
「大丈夫、このぐらい。それにここから我慢して落とさないようにするの、得意だもん。ありがとう、花沢類」

「くすっ・・・じゃ、ちょっといい?」

そう言って目の前まで来たら髪を撫でてくれて、そこにチュッとキスをした!

「うわあっ!ちょっと、ここ学校だってば!もう、なんてことすんのっ!」
「あはは!元気な声が出た!・・・・・・良かった」


ポンともう1度優しく頭を撫でてから彼は美作さんと同じ方向に歩いて行った。
彼に触れられた頭が熱い・・・!意外と大胆なんだから!ってブツブツ言ったけど気持ち悪いほど笑ってる自分がいた。


***********


<side陽翔>
正直言えば寮に帰りたくなかった。
偶然でも牧野に会うかもしれない。あんなことを話したくせに由依を抱いたことを見抜かれるような失態・・・情けなくて顔を合わせられなかった。

だから試験勉強だと言って医学部の研修室で遅くまで教科書を読み込んでここの仮眠室で寝る。この1週間で寮に戻ったのは2回ぐらいだ。それに・・・由依が近づいてくるから。
由比とよく似た女が医学部の周りをウロウロしていると同級生から聞いた。

俺を呼び出すことはなかったが、何処で見張られてるかわからない。ある意味ストーカーに追われてるかのような恐怖があった。

でも、やはり久しぶりに牧野に会うと自分の気持ちは高ぶった。
もうそんな気持ちを抑えなければと思うのに、頭で考えるよりも身体の方は正直なんだろう・・・ドキドキして熱くなるのがわかった。


牧野と別れて医学部に戻ると教授から大学への寝泊まりを注意された。
それもそうだ、ここには重要な検体や薬品、研究中の資料など外部に漏れては不味いものもある。あくまでも医学実習で夜間を利用する上級生のための仮眠室。1年生の俺が居残りするわけにはいかなかった。

仕方なくずっしりと重たい荷物を抱えて今日は寮に帰ることにした。


大学の門を出た所で1度辺りを見回したが由依の姿はないと思った。
だからホッとして寮に向かって歩き出したら、門から少し離れた建物の陰にあいつは隠れていたようだ。俺の姿を見つけると今日も勝ち誇ったような笑顔で俺の前に現れた。

一気に気分が沈んだ・・・笑顔が眩しすぎる時ほどこいつは絶対に何かを企んでるんだ。それを知っているから今度は何をするのかという恐怖で荷物を持つ手に汗が滲んだ。


「・・・随分無視してくれるじゃない。陽翔、逃げられないって言ったでしょ?」
「別に逃げてるわけじゃない。研究で残ってただけだ。ここまで見張ることもないだろう、自分の学校に行けよ」

「あんなものどうでもいいのよ。それよりさ、いいこと教えてあげようか?」

「いいこと?いや、お前から聞くいいことなんて興味ない。帰ってくれ。もう少ししたら試験なんだ」

自分のスマホをチラチラと俺の方に向けてるけど、そんなものに何が映っていても見る気にもならなかった。どうせくだらない脅しに使うようなものだろう。もしかしたら俺との”最中”の写真でも撮ったのか・・・もし、そうだとしても関係なかった。

由依を押しのけて寮に向かおうとしたら、今度は俺の肩を掴んで無理矢理自分の方に向けさせた!

「何するんだ!いい加減にしろ!」
「だって見てくれないんだもん!ほら、陽翔の気になってる女はもう男がいるのよ?見てみなさいよ!」

「え?それって・・・」
「残念だけどいい男だったわよ?あんたなんか敵わないと思うわ。でも、私は陽翔の方が好き・・・ね?見て。これ・・・」


牧野の事だと聞いて見るつもりのなかった由依のスマホを見てしまった。
そこに写っていたのは牧野と花沢が手を繋いで小さな店に入る場面。画面が暗いってことは夜か・・・?

顔なんてはっきりしなかったけど背格好でこの2人だとわかる。そして確かにこの雰囲気は恋人同士に見えた。
ぼやけた画像の中の牧野はこの時どんな顔でこいつの隣にいたんだろう・・・そう思うとイラッとした。


「このあとね、この店の横の階段を2人が手を繋いで上がっていったの。すごく嬉しそうだったわ。もしかしたらさぁ、ここの2階に2人の秘密の部屋があってベッドでも置いてあるんじゃない?」

「・・・勝手に想像すんな!牧野はそんな女じゃねぇよ!」
「あら!女なんて誰でも一緒よ!好きな人のためならいくらでも変われるものよ?残念だったね、これで牧野つくしの事は諦められるでしょ?ふふっ・・・はい、今、陽翔のスマホにも送っておいたからよーく見るといいわ」

「由依!余計なことをするな!いいか・・・牧野に手を出したら許さねぇからな!」

「この時は指1本出してないわ。偶然見かけて写真撮っただけ。それに何にも悪用してないわ。ご心配なく・・・じゃね!」


由依は言うだけ言ってこの日は帰って行った。
そして取りだした自分のスマホ・・・メッセージが点滅していた。



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