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plumeria

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目が覚めたのは夕方近くになってから。
疲れ切って着物もたたまずに2人で寝てしまったから志乃さんに滅茶苦茶叱られた。もちろん俺も。

「本当にしっかりして下さいませ!ご隠居様にお許しをいただいたのなら、これからはもっと厳しいお稽古をしていかなくてはダメなんですよ?今日で終わりじゃありません!今日始まったと思ってください!」

「まぁまぁ、志乃さん。今日だけは勘弁してよ。つくしもめっちゃ頑張ったんだから。見せてやりたかったよ」
「ダメだよ!見せたら大変なことに・・・あっ!」

「はい?見てはいけないとは何ですか?何をしたんです?牧野さん!」
「えっ?いや、それは・・・ご想像にお任せということで・・・」

「総二郎様!上手くいったのではなかったのですか?!」
「・・・・・・」

仕方なくこの後、茶会でやった失敗を1つずつ話してやった。志乃さんは途中まで聞いてから「あといくつあるんですか?」って聞くから「まだ半分?」って答えたらがっくり肩を落としてた。
つくしが「そう気を落とさずに!」って言うと余計に眉を吊り上げて怒ってるし。

「良くそれでお許しいただけましたわね!私もご隠居様は存じ上げてますけど、そんなにお優しい方ではございませんでしたわよ?」
「どうしててすかねぇ。私にもさっぱり・・・」

「俺なんか次客の席で何回爺さんに怒られたか・・・すげぇ心臓に悪い茶席だったよ」

「ホント、ドキドキしたよねぇ!」
「お前のせいだろうが!」

佐々木さんの事は俺達の胸に留めておけという爺さんの言葉に従って志乃さんには話さなかった。東京に帰っても両親に言わない。もう謎の”小次郎爺さん”のことは皆が忘れてるみたいだからそっとしておくことにした。

ただつくしの事を随分気に入った佐々木さんは、これから先、京都を訪れた時にはつくしに会わせて欲しいと言ってきた。
血が繋がってるのは俺の方だけどな・・・って疑問には思うけど。



「それではお着替えくださいませ。そろそろ出ないと間に合いませんわ」

志乃さんの一言で時計を確認したら5時前。
今日は関西西門、京都支部の連中との会食だった。京都でも老舗の料亭を貸しきっての大宴会・・・あんまり気乗りはしなかったけど宗家の人間としては避けられない地方行事みたいなもの。

「仕方ねぇか・・・」と重い腰を上げて準備に取りかかった。
この席には爺さんの許可が出たつくしも同席する事になる。着物が続いてて窮屈だから2人とも洋服に着替えて行くことにしていた。

パーティーじゃないし気軽な装いで、って事でつくしは上品なワンピース、俺はカジュアルなスーツ。
つくしにはピアスとお揃いで買ってやったネックレスをつけさせて、寂しくならないようにとこっそり買っておいた指輪を渡した。特別な石はついてなくて小さなダイヤが1つだけ埋め込まれてる普段使いのもの。

「でも、ここに来る前にもらったよ?ピンクダイヤの指輪・・・いいの?」
「心配すんな。これは数億もするようなもんじゃねぇよ。値段で言えば100分の1ぐらいだから普通の時につけとけ。あ、茶席は外せよ?」

「数億・・・?」
「まぁな。そういうのにも慣れろ。この俺が相手なんだから」

まだ正式に発表してないから右手にはめてやると、嬉しそうに何度も指先を自分に向けてそれを眺めていた。


「それじゃ、行ってくる。志乃さん、明日は最後の野点だけど特別な用意はしなくていいから着物だけ準備しておいてくれる?」
「畏まりました。牧野さん、これ以上の失敗はしないようにお願いしますよ?」

「はーい!もう大丈夫です!」
「会食のマナーのことです!ちゃんとしないと誰から見られてるかわかりませんよ?内定取り消されても知りませんからね!」

「・・・はーい」

やっぱり呆れ顔の和真に車のドアを開けてもらい、俺達はそれに乗り込んだ。
昼飯を食ってないつくしは既に会食にワクワクしてて、昼間の緊張なんてとっくに忘れたようだ。見慣れない景色を指さしながら車の中で騒いでいた。

「あっ!総二郎、ここを左に行ったら銀閣寺だって!銀色のニワトリがいるのかしら!」
「銀色のニワトリ?なんだそりゃ」

真剣な顔で言われたからドン引きしたが、それって鳳凰のことか?運転手の和真の肩も震えてるけど当の本人はそれに気が付くこともなく「行ってみたーい!」と通り過ぎた銀閣寺の方を振り返っていた。

「・・・多分、つくしが言ってるのは鳳凰の事だと思うけど、京都には5カ所ほど鳳凰がいる場所があるんだぜ?」
「あっ!そうそう、武蔵お爺ちゃんの付き人さんにニワトリじゃないって言われたんだった!へぇ・・・5カ所もあるの?」

「確かに銀閣寺にも鳳凰は立ってる。金閣寺ほど光ってねぇけどな。他は平安神宮と宇治の平等院。あんまり知られてねぇかもだけど勧修寺って寺の池のほとりに建つ観音堂の屋根の上にいるよ」

「ふーん・・・いつか全部見られるかな?」
「ニワトリって言ったクセに見たいのか?くくっ・・・そのうち連れてってやるよ」

こんな疲れる訪問じゃなく、のんびりと京都観光か・・・今まで面倒だって思ってた事もこいつと一緒なら面白そうだ。
そんなことを考えながら俺も車の窓から京都の街を眺めてた。


**************


出町柳にある古い料亭に着いたのは6時。
開始は6時半だったが爺さんに言われて支部の連中より一足先に店に来ていた。

「お越しやす。ご隠居様は奥の控えの間でお待ちでございますわ。どうぞ・・・」

女将に案内されて奥の部屋に入ると爺さんが1人で茶を飲んで待っていた。佐々木さんもいると思っていたから驚いて尋ねたら、ついさっき帰ったと言われた。

「お帰りになったのですか?同席されるものとばかり思っておりました。どうされたのですか?」
「はは!随分疲れたと言って帰ってしまったわ。それに今日は穂華も来るのでな・・・」

「穂華・・・やはり天澤家の方は私と穂華の事は本気だったんでしょうか。それが気になってるとか?」
「いや、実はな・・・天澤のご当主はそうは思うておらんのだよ。穂華の本当の気持ちを知っておるからの」

「えっ!じゃあ四王司の事を?」
「なんだ!お前も知っておるのか!」

爺さんの話によると穂華が京都に来た頃は確かに俺との会話を持ち出して「西門にお嫁に行く!」と言っていたそうだが、何かのパーティーで四王司に会い、その時からあいつのことが気になっているらしい。
あまりにも穂華の態度がわかり易かったが、本人は意地を張って俺の名前を出し続けたから知らん顔していたと。

四王司の方は本来大人しい性格だから、こっちも穂華のことが気になっているらしいが何も言わないようで、親たちの間ではヤキモキしていると。
それでこの前、四王司がやっと穂華を東京のパーティーに連れて行ったから進展があるかと思えば、運悪く俺と出会い、何故かここでも意地を張って俺の婚約者だと言い出した。

俺の事を利用して四王司にヤキモチ焼かせようとしたんだが、そこは穂華のプライドが高すぎたんだろう。つくしと比べられるのはお嬢の穂華には耐えられなかったのか、そうじゃなければ言い出したことの引っ込みがつかなくなったのか・・・。

どーでもいいが面倒臭い奴らだ!!


「それで、何故定刻より早くに呼ばれたのでしょう?穂華のことで何か?」
「うむ・・・そうなのじゃ。今日の座席での・・・」

「座席?」

「総二郎と穂華は儂の横で隣同士、つくしさんと四王司を末席で隣同士にするからの。上手い具合に・・・なんて言うかその・・・」
「要するにわざとベタベタしてお互いに焦らせるって事ですか?・・・お断りします」

馬鹿言うなってんだ!言いたいことはわかるがなんでそのために演技までしなきゃいけねぇんだよ!それにつくしをあんな男の横に置くわけにいくか!

「総二郎、そのぐらいいいんじゃないの?私たちが頑張って、お互いの気持ちを気付かせてあげたらいいんでしょ?」
「冗談じゃねぇよ!なんで俺が穂華とイチャイチャしなきゃいけねぇんだよ!絶対にイヤだ!」


「困ったのぉ・・・武蔵が『頼みます』と、頭を下げて帰ったんだが・・・」
「・・・!」

卑怯な・・・!ここで佐々木さんの名前を出したらつくしが絶対に反応するのに。
案の定つくしは急に焦ったように言葉が早口になる。あれだけ騙された爺さんなのに身内並みの親近感持ってんだから!

「武蔵お爺ちゃんが?そうだよね、穂華さんのことは孫と同じだって言ってたもん。そりゃ可愛いわよね、幸せになってもらいたいって思うよね。必死でお土産買ってたもん・・・わかったわ、私1人が演技するわ!」
「はぁ?!何言ってんだよ!」

「私が四王司さんを誘惑するからそれを上手く総二郎が穂華さんに教えてヤキモチ焼かせるのよ。私に盗られちゃいけないからって、穂華さんはすぐに四王司さんに告白するんじゃない?ねぇ!」

ねぇ!って言われても。
目を輝かせて自分の考えを口にするが、”私に盗られちゃいけない”ってよく自信たっぷりに言えるな。それにだ、1番の問題ってこれじゃね?


「・・・・・・その前にさ、お前に男を誘惑とか出来んのかよ」

「・・・ん?」




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