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「今日の野点は立礼りゅうれいでするからな。専用の末広棚を使うから」
「うわ・・・初めて見るかも」

「そうだろうな。最近は客の高齢化もあるし、直に朱毛氈の上に座りにくいってこともあるから野点はこれが多くなってるかもな。本来はこれも室内で使われるものなんだけどたまに外国人も来るだろ?まぁ、俺としては外国人だろうが和室の畳の上に正座して茶を味わってもらいたいけど・・・これも変化の1つかな」

一乗寺のお庭には朱色の傘が広げられ、その近くに同じ朱毛氈で覆われた椅子がいくつも並べられていた。
所々にお茶を点てるための末広棚というものが置かれてお弟子さん達がもうすぐ始まる野点の準備に忙しそうだった。

「宗家の若宗匠のお点前席はこちらをお使いください。あ、お付きの方がおいででしたか?」
「あぁ、悪いけどもう1つ席を頼みます」

総二郎が言ったのは自分のお茶を点てる席の後ろに私の席を準備するということだったみたい。大きな末広棚に並べられた2つの椅子を見て何故が赤くなってしまった。

「半東って言ってもここでは平手前(畳の上の作法)と違って立ったままだからそこまで緊張するな。菓子の差し出しと茶碗の片付けを時々回って集めたりとかだけど、俺がその都度指示するから」

「うん、わかった。お菓子の準備はここのお屋敷でしてくれてるの?」
「あぁ、もう準備は出来てるはずだ。だけど野外だから乾燥しないように直前まで出さないから。黒文字を水に浸けたあと、濡れた布巾で包んでおくように」

「はい、わかりました」


野点の場合、総二郎が居ずまいを正したら、控えの間から正客の菓子が入ってる菓子器を持ってくる。菓子の説明は総二郎がしてくれるから私は順番にお菓子を置いていく。
そしてすべてを出し終えたあたりから菓子器が空になったものをさりげなく見に回って、もしあれば引いていく。

総二郎がお茶を点て始めたら次茶碗を棚左隅に、邪魔にならないよう持って行く。
3番目のお客様までは必ず総二郎のお茶を出す。そのあとからは奥の水屋で点てたものでもいいからどんどん順番に出していく。そして全員に回ったかどうかを確認しながら水屋で点てるお茶の数の調整・・・難しくはないけど目が回りそう・・・。

「ははっ!心配すんな。本当にそこまで堅苦しくないから。ただ、人だけは多いから緊張するかもな。今日来る連中は俺だけじゃなくてお前の事も気になるだろうよ。俺が後ろに女を付けたことは1度もねぇから」

「はぁ・・・やだなぁ。また転けそう・・・」
「だから、それ止めろって。そんなこと言ったらホントに転けるから」


**********


「お客様がお見えになりましたので・・・」

竹中さんの声で1度俺達は奥の控え室に下がる。
野点開始時に爺さんと一緒にこの場につくしを伴って出てくることになっていた。つくしの紹介はあくまでも宗家からの俺の補佐役であり、婚約者だなんて説明はしない。

ただ、これが内々での初披露だということは全員が納得済みって訳だ。


時間になって爺さんが現れ、俺とつくしが続いた。後ろには関西西門の親戚筋が続き、屋敷の廊下を歩いて庭の方に進んでいると既にあちこちからガヤガヤと声が聞こえる。
つくしは自分のことを噂されてるなんて思ってもないんだろう、来客の数に驚いて目をまん丸くさせながらオドオドしていた。

「おい・・・背中、真っ直ぐ!お前、亭主側の人間で歩いてんだからビビるな!」
「あっ、はい!でもさ・・・なんか怖い顔した女の人が多いねぇ。なんでかしら・・・」

「さぁな。でもお前がビクビクしてると余計睨まれるぞ。堂々としとけ」
「・・・はーい」

そして庭に作られた会場に降りると爺さんが初めの挨拶ってのをした。
俺は爺さんの右隣に、その横につくしが並び、他の親族は左側にズラリと並んだ。

「皆さん、今日は我が屋敷にお越しいただいてありがとう。東京より宗家の若宗匠である孫の総二郎が来ておりますので、暑い時期に申し訳ないがこのような野点を催した次第です。総二郎も25歳になりましてな、まだ修行中ではありますがこちらで茶を点てることも少ないものですから是非この機会に味わってみてくだされ。お手伝いには総二郎の弟子の牧野つくしさんを同行しております・・・以後、宜しゅうな」

客達は軽く頭を下げてるが視線は俺達の方に向いている。
次期家元の俺に気に入られようとする人間もいるだろうし、つくしがそういう立場に収まったのなら自分の娘のことで悔しがる人間もいるだろう。
どっちにしてもこのあとの野点の茶席、俺の周りは大変そうだ。

隣を見たら梅雨の晴れ間に清々しい笑顔を見せてるつくしがいる。
暢気で天然だがこいつを見てると自分の気持ちが明るく前向きになる。何かが起きてもこいつが全部いい方に持っていきそうな気がする。
今更ながら不思議な女・・・それにやっぱり綺麗になったし。

俺の視線に気が付いて「へ?」って顔するから思わず噴き出した。

「なによ、どうしたの?私の顔、変?」
「いいや、今日は少し大人の女の色気があるなって思っただけ」

「ほんとっ?!やっぱり?お化粧品、変えたのよ!」
「・・・そこはわかんねぇな。化粧してるのかどうかもイマイチだし」



そして野点が始まりあちこちで用意した棚から湯気が上がり、茶が点てられてる。
俺の前には予想通り1番多くの客が座り、つくしの出番も多かった。一生懸命菓子を運び、客の相手をし、俺の手伝いをする。
会話こそそんなに出来ないけど俺の動きを見て少しずつ手際が良くなってくる。
何も言わなくても次にしなくてはいけないことがわかるのかサッと用意してくれる。小さな声で「サンキュ!」って言うと「役に立つでしょ?」なんて戯けてる。

つくしのその笑顔にギロッとすげぇ目つきで睨むお嬢にはこっそり流し目でも送っておく・・・茶を点てながら俺も神経使わなきゃいけないから大変だった。
関西のお嬢には今日だけのサービスでいいんだからイチイチつくしには言わない。・・・てか、気が付いてないし。

しかも殆どの客が水屋からの茶ではなく、俺が点てたものを、と要望するからつくしが説得すると「私、待てますわ!」と怒られ、泣きそうな顔して戻ってくる。
急いで点ててやりたいが俺にも限界があるし、野点だからと手を抜きたくないのは当然。だから俺の茶席だけ異常に回転が悪く、爺さんは呆れ顔でこっちを見ていた。

俺のせいじゃねぇし・・・そんな気配を感じさせないように涼しい顔して休みなく茶を点てた。

「つくし、あと何人お待ちだ?」
「・・・20人ほどはお待ちかと。どうしましょう?」

「急ごうか・・・釜の湯が足りなくなるから他の釜戸で湯だけ確保してくれ」
「わかりました」


全員に1度目の茶が行き渡ってから俺の休憩の時間がもらえた。だから一緒に奥の控えの間に入ろうとしたらつくしが俺の袖を引っ張った。

「なんだ?どうした?」
「あれ・・・見て見て!あそこ!」

「は?あぁ・・・くくっ、上手いこといったのかな」

つくしが指さした方を見たら穂華と四王司が並んで座っていた。
相変わらず拗ねたような顔の穂華だけど、四王司の方が何か一生懸命話しかけてる。自分の気持ち・・・伝えてんのかな。
面倒臭い二人だったけど、つくしが頑張って飲めない酒を飲んで誘惑したんだからくっついてくれないとな!

「ね、お似合いじゃない?」
「そうか?俺達ほどじゃねぇよ。行こうぜ?ちょっと疲れた」

「うん、嬉しいなぁ!仲良さそう・・・四王司さん、なんて告白したのかしら」
「他の男の話はすんな。早く来い。休憩なんてあっという間に終わるぞ」

「あっ!待って、総二郎」


控え室に入ると襖を閉めて2人きり、当然すぐにつくしを抱き締めた。
着物が乱れない程度に、帯が邪魔だから当然手は行く場所が決まるんだけど。

「あっ・・・あのさ、野点だけどこれも茶会でしょ?その途中に何してんのよ!」
「なんで?いいじゃん。疲れ取ってるんだから・・・そのまま抱かれてろよ」

「総二郎ったら・・・あ、どこ触ってんの!」
「ん?気持ちいいとこ・・・少しさ、胸がデカくなっただろ?」


この時、つくしに軽く引っぱたかれた。
左頬を赤くして庭に戻ったら爺さんがそれを見て一言。


「何をしとるんじゃ!そんなことは日が落ちてからにせい!誰に似てそんな男になったんだか・・・!」
「・・・お爺さまに性格もそっくりだと言われておりますので」




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これが末広棚です。
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