FC2ブログ

plumeria

plumeria

-
休憩後の茶席も俺の前には前半と違うお嬢達が競い合って順番をとった。
つくしが差し出す菓子なんて見もせずに、中には露骨に嫌みな態度をとるヤツもいたがそれでも笑顔を絶やさずに動いてくれた。

本当はそいつらを睨みたかったがあいつが我慢してるのに俺がこの場をシラけさせるわけにもいかず、これまでと同じようにお嬢達に嘘っぱちな笑顔と流し目を送っておいた。
ま、こんな時にはこれまでの「仮面」を被ればいいだけのこと。こっちのお嬢達のことは覚えなくてもいいから気は楽だ。


つくしが飲み残したまま置かれていた茶碗を片付けていた時に、わざと着物の袖を振り回して邪魔をしたお嬢がいた。飲み干すのが原則という作法に反するヤツもどうかと思うが、あり得ない動きで半東の邪魔をするってのはどうなんだ?
そのお嬢はいきなり大声を出して席を立ち、つくしに向かって怒鳴りだした。

「まぁ!ちょっと、着物にお茶が掛かってしまったじゃないの!どうして下さるの?大事な着物ですのよ!」
「申し訳ございません!あの・・・すぐにお拭き致しますので控え室の方に・・・」

「その前に謝りなさいよ!シミが残ったら、あなた、弁償できるの?」
「・・・申し訳ございません、できる限りのことはさせていただきますので」

その場が少しザワついて、周りにいた連中もつくしとお嬢の方を見始めた。当然、爺さんも。
鬼のような顔でつくしに謝罪を何度も要求してるが、それに頭を下げ続けるつくしは同じ言葉の繰り返ししか出来ない。明らかにつくしの評判を下げようとしてるのが丸わかり。
またか・・・と、仕方なく手を止めて亭主席から移動した。


「お嬢様、何かこちらの者に粗相がございましたか?」
「・・・あ、あら!いいえ、こちらの方が乱暴に動かれるから私の着物を少し・・・でも、別にこのぐらいは大丈夫ですわ。若宗匠が是非と言うことであればご一緒に控え室に行ってもいいけど・・・?」

「その前に・・・申し訳ございません、私の茶にご不満があったようですね。飲み残されたと言うことはそういう意味ですね?」
「え?いえ、そんな・・・そういうことではございませんわ。美味しゅうございましたわ」

「お嬢様が気に召さない茶を点てるようでは私の方が至らないのでしょう、お詫び申し上げます」

大勢の前で俺の方が頭を下げると一斉に他の人間がお嬢の方を睨んだ。くくっ・・・当たり前だ!
「これは貴子様の方がいけないのでは?」「若宗匠に失礼ですわ」「それに何処が汚れましたの?わからないわ」・・・そんな声が聞こえ始めてお嬢の方が狼狽え始めた。

俺が頭を上げると貴子というお嬢はバツが悪そうに顔を赤くして、くるりと向きを変えて庭から出ていった。


「若宗匠、宜しいのですか?」
「・・・お着物の汚れを取りに行かれたんだろう。それよりお客様がお待ちだから始めようか」

「はい。申し訳ございませんでした」
「大丈夫だ、お前が悪いんじゃない。これまで通り、落ち着いてな」

俺が亭主席に座ると少し離れた場所で爺さんがニヤニヤ笑ってやがった。くそっ・・・面白がってるな?
その後も何もなかったかのように茶を点てて、つくしもすぐに元に戻って忙しく動いていた。



そして野点終了後、客を見送ってから俺達は屋敷の控え室で一息ついていた。
そんな中で爺さんはやたらつくしの傍に行き話しかけてる。もうすっかり女の孫が出来たって感じで嬉しそうだ。

「また近いうちに京都においで。紅葉の綺麗な時期がいいかのぉ。総二郎は来んでもいいからつくしさんだけでもな」
「お爺さま、そのような冗談はお止めください。つくしは1人で行動させられないんですから!」
「ふふっ・・・また2人でお邪魔します。お爺さま」

「総二郎はすぐに稽古が脱線するから儂が一から稽古をつけてやろう。そうじゃな、こっちの呉服屋に頼んで新年の着物は儂が作ってやろう!」
「そのようなお気遣いは無用です。ご自分の老後のために使ってください」

そう言うと無茶苦茶嫌そうな顔をしたが、つくしの着物は今度から俺が作るんだっての!まずは婚約会見の大振袖から。
でも、何かしたい爺さんは「それなら帯を・・・」と言ってはつくしの手を握っていた。

「お離し下さい、お爺さま!孫の恋人だからってそんなに簡単に触らないでください!」
「いいじゃないか!減るもんじゃなし」

「いい歳して何言ってるんですか!もうそろそろ芸者遊びとかもお止めくださいね。周りが言わないだけで迷惑ですよ!」
「馬鹿言うな。花街に行かずして若さなんぞ保てんわい!お前こそ自分が夜遊び出来なくなったからって僻むな!」

向かい合ってこんな話をしたら俺達はエンドレスだ。
だから竹中さんが間に入って無理矢理止めて、俺達はようやく一乗寺の屋敷を出た。


門の外まで見送りに出てくれた爺さん。
車に入る前にもう一度振り向いたら少しドキッとした。

やっぱり歳をとったんだな・・・座って向かい合ってるとそうは思わないし、茶事をしてると師匠として見るから何故か大きく見えるもの。だけど、ただそこに立っているだけの爺さんを少し離れて見てみると、背中が曲がったシワシワの年寄りだ。


「お爺さま。色々とありがとうございました。お身体、お大事になさってくださいね」
「総二郎もな・・・楽しいだけじゃいかんぞ?日々精進、一生稽古じゃ。まぁ、また顔を見せに来い。曾孫も急がんと間に合わんぞ?」

「・・・くくっ、大丈夫でしょう。それでは、また」


つくしが丁寧に頭を下げるとニコニコと手を振ってくれた。
なんか変だな・・・あれだけ会うのが嫌だった爺さんなのに、今度はやけに寂しい気がする。

これも俺が1人じゃないからなのか?隣で笑ってるこいつの存在が、その場を居心地良くさせるから・・・なのかもな。


***********


「それでは明日帰るんですからお早めにお戻りくださいね」

最後の夜はつくしと2人で「鴨川納涼床」に行くことにした。
毎年5月から9月に木屋町二条から五条までの間の禊川の上に張り出した床の上で食事をすることが出来る。涼しい夜風に打たれながらの食事は非日常的な雰囲気を味わえて旅行客には人気だ。


4日間和食ばっかりだったから、今日は2人ともラフな格好で「川床イタリアン」の店に行った。

予約した店は、イタリアでの修業経験のあるシェフが作る南イタリア中心の料理が楽しめるところ。店内には大きな薪窯があり、ピッツァイオーロが焼き上げり、本格派ピザは抜群の旨さ!コースはもちろん気軽にアラカルトも楽しめる。

「うわあっ!カラフルだね、可愛い・・・美味しそう!」
「くくっ、毎日刺身とか豆腐とかだったから余計に美味そうだろ?つくし、お疲れさん。無事に終わって良かったな」

「あはは!役になんか立たなかったけどね。どっちかって言うと足引っ張ってばっかりだよ。やっぱり・・・まだまだだなぁ・・・」
「つくし?」

この時間に作法なんて関係ねぇからつくしは前菜を手で摘まみながらクスって笑った。少し、残念そうに・・・。
ちょっとだけ失敗したことを悔いてるんだろうか。でも、それは佐々木さんっていう存在のせいもあって持てる力が出せなかっただけのこと。気にすることなんてないのに・・・。

「あんなのはイレギュラーだ。普通の茶席じゃなかったんだから気にすんな。これからも稽古は続くんだし・・・」
「うん、そうなのよね。そうなの・・・お稽古は嫌いじゃないし、問題ないの。そうじゃなくてね・・・」

「それ以外のなんだ?」

「総二郎と出会ってからまだ半年でしょ?自分でも頑張ったとは思うの。でもね、どうしても埋められないじゃない?出会う前の24年間ってさ。当たり前なんだけどね・・・。それでも、もう少し何かが違って、私がこの世界をもう少し早く知ってたらって思ったの。そしたらもっと早く総二郎と出会って、もう少し早く面白いことが沢山あったんじゃないかなぁ・・・って、お手伝いしながら思ったの。ふふっ、変だよね」

今度は出されたピザを切り分けながら顔を赤くして、照れくさそうに笑ってる。そして小さな皿に入れて俺の方に差し出して、自分の指についたチーズを舐めてた。
ホント・・・面白いヤツ。馬鹿正直でお人好しで、天然で鈍感で・・・全然女らしくなくて。

それでもなんで俺はこんなに今、嬉しいんだろうな・・・。


「・・・いいんじゃね?これから先の方が長いんだし。今からもっと面白い事も楽しいこともあるって考えればさ」


川床での食事が終わったら2人で鴨川沿いをのんびり歩いた。
観光客だらけで風情なんて全然なかったけど、1本中の花見小路通を歩いたらたまに出会う舞子芸子に大はしゃぎ。

「また今度来ようよ。私、1回お座敷って体験してみたいなぁ!」
「それじゃ爺さんと行ってみろよ。飲まされるぜ?お前なら10分でダウンだと思うぞ?」

「えっ!そうなの?ふふっ、連れて行ってくれるかな?」
「俺なんか放ったらかしてお前を連れて行くだろうよ。気に入ったみたいだし」

「あっ!そう言えばお茶席で言ってた芸者って何よ?芸者さんと遊んでるの、総二郎!」
「遊んだのは爺さんだっての!俺じゃねぇよ」


「ほんとかなぁ・・・」
「・・・今晩、お前で遊んでやろうか?」

いきなり真っ赤になって俺を置いてすげぇ速さで走りやがった!馬鹿め、足の長さが違うんだよっ!
すぐに追いついて後ろから抱き締めたら道のド真ん中だって言うのにギャアギャア喚きやがった。



こうして次の日、お袋に頼まれていた京都土産を手に入れて俺達は京都を後にした。
当然つくしの手は俺に繋がれてて、和真も志乃さんも随分離れて歩いてる。


「つくし、食うもん持ってるか?」
「え?なんで?」

「せっかく乗っても買いに出るようなヤツだから!」




no-translate-detected_1220-799.jpg

関連記事
Posted by