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<side陽翔>
由依が送ってきた画像を眺めていた。
嫌だったけど顔の部分を拡大してみた・・・だけどやっぱり表情はわからない。だけど2人の手が結ばれているのはしっかり写っていた。
そして拡大ついでに読んだ店の名前。

「なんだ?なんて読むんだ?」

ぼやけてるアルファベットを何度も見直して繋げていくと「cantabile」・・・カンタービレって読めた。
俺の知らない店・・・この2階に何があるんだろう。由依の言っていた言葉が本当かどうかなんてわからないけど、牧野はともかく花沢がこんな場所に隠れ家的な部屋を持つとは思えなかった。

こいつならいくらでもマンションは持てるはず。いや、既に所有してるんじゃないのか?そう考える方が妥当だ・・・何故好き好んで寮に入ってるかは知らないけど。


次の日に大学でこの店のことを聞いてみたけど数人に聞いても誰も知らなかった。余程小さな店なんだろうか・・・この薄暗い画像からは周りの風景なんてわからなかった。

由依が偶然歩いてて見つけたってことは、あいつが大学に来る道の途中か?
そう思って大学の外を少し歩いてみた。殆どの学生が知らないって言うぐらいだから裏道のほう・・・あまり人が通らない道に向かった。

そしてその辺りを歩いていた人に店を聞いたら「この1つ向こう側の道沿いにあるよ」と教えてくれた。

試験前なのに講義をサボってまでこんな事して・・・そう思うけど気持ちの方が焦って、俺は必死に牧野があいつと入っていった「cantabile」を探した。

そして教えてもらった通り、大学から歩いて15分ぐらいの人通りの少ない道沿いにこの店はあった。
3階建ての古いビルの1階・・・そして確かに店の横には2階に上がる階段があった。やっぱりどう見ても花沢物産の跡取りが通う店には見えない。経営が成り立ってるのが不思議なぐらいの店だ。


俺が店の外に立って眺めていたら、急にカランと音を立てて男性が顔を出した。
この店のマスターだろうか、外の植木に水をやってる。俺の方をチラッと見てニッコリ笑った。
その自然な笑顔につられて俺も慌てて頭を下げた。

「お店にご用ですか?それとも食事?ランチにはまだ少し早いんですがね」
「あ・・・珈琲、飲めますか?」

「ははっ!喫茶店ですからね。珈琲でいいのならどうぞ」

マスターがドアを開けて待っててくれたから、入る気なんてなかったのに入ってしまった。『珈琲飲めますか』って聞いたんだから入るしかないよな・・・って、ブツブツ独り言を言いながら。

**

外見通り店内はそこまで広くない。カウンター席が少しとあとはテーブルが3セットのみ。しかも2人席だから満席で10人程度・・・道楽でやってるのかって思うほどの規模だった。
それなのに隅にはアンティークなピアノ。誰かの写真と落ち着いた感じの絵が掛けてあって花が生けられてる。

殆どが木製でアースカラーが中心、これを懐かしいっていうのか田舎風というのか・・・俺達のような年代の人間にはウケないだろうって気がする。


「珈琲はブレンドでいいですか?うちは初めてですよね?」
「あ、はい。それでいいです」

「今日は?見たところ大学生でしょう?授業中じゃないんですか?」
「あぁ・・・すみません。サボりました。息苦しくて」

「ははっ!今は試験前なのに余裕があるんですね。まぁ、珈琲飲んで気分が変わったら戻るんですよ?」
「・・・はい」

随分と優しい声の穏やかそうな人。歳はもう50に近いのかな・・・?
こんな歳の離れた人と花沢が知り合い・・・ってことも考えにくいし、この人が大企業に通じてるとも思えない。何故、あいつはこの店に来るんだろう。もしかしたら牧野の方が連れてきたのか?でも、牧野に喫茶店通いする余裕は時間的にも金銭的にもないはずだし・・・。

店内をキョロキョロと見渡してしまったからなのか、マスターにまた声を掛けられた。

「どうかしましたか?何か気になるの?」
「いえ、あの・・・ここによく英徳大学の学生は来るんですか?」

「いや、馴染みの学生さんは少ないかな。ここは少し奥まった所にあるから気が付かない人が多いんですよ。それに英徳大学の生徒さんはこんな店に来ないでしょう。もっとお洒落な店を選ぶんじゃないかな?」
「・・・花沢さんは来るんですか?」

「花沢君?類君のこと?」

マスターは花沢類の名前で手を止めた。
そして驚いたように俺の方を見ていたけど、すぐにコーヒーメーカーの方に視線を移した。やはり牧野じゃなくて花沢の知り合いか?

「ここに花沢さんが時々来るって聞いたもんですから。彼はここに1人で来るんですか?」
「・・・1人で来ることの方が多いですね」

「どうしてここに?すみません、変な意味じゃないんですが彼の家・・・ご存じですか?」
「・・・君は何か調べてるの?もしそうなら彼はここに珈琲を飲みに来るだけで家とは関係ない。私から話すことはありませんよ。お馴染みのお客さんの1人ってだけです。はは・・・何にも知らないんですよ。プライベートなお喋りはしないのでね」

マスターは珈琲を持って俺の前に置いた。
そして穏やかな表情は変えないままカウンターに入っていった。

その時、カランカラン!と勢いよくドアが開いて子供が飛び込んで来た。こんな店に子供が?と驚いたけどマスターは特に顔色も変えずにその子に話しかけた。

「おや、啓太くん、学校どうしたの?まだお昼になってないよ?」
「先生、今日はね創立記念日でお休みなの。あのさ、今日のレッスン何時からだっけ?」

「啓太君は3時かな。おいおい、レッスン予定表渡してるだろ?なくしたのかい?」
「お母さんがどっかにやったんだよ。じゃあ3時にね、ばいばい!」

「あぁ、気をつけてお帰り」


俺は唖然としてそのやりとりを聞いていた。先生・・・レッスン?なんのレッスンだろう。
チラッとマスターを見たら少し笑いながら今の説明をしてくれた。

「驚きました?実はここの2階でヴァイオリン教室を開いていまして子供達に教えてるんです。1日2~3人相手にね。だから急にこの店を閉めて私はマスターから講師に変わるんです。今の子は今日がレッスン日でね」

「あぁ、そういうことですか。ここの2階で・・・え?じゃあ花沢さんもここで?」
「・・・いや、花沢君のことはお話出来ません。すみませんね」


マスターはそれ以上話をしなくなった。
ここの2階がヴァイオリン教室?そこに花沢と牧野が・・・?牧野はそんなことはしない。じゃあ、やはり花沢が?
あいつがどんな趣味を持っていようが関係なかったけど、自分の趣味の中に牧野を連れ込んでることに何となく腹が立った。


いつの間にそういう関係になったんだ?
もしお互いに確かめ合ったんなら最近だ・・・俺が聞いたときには牧野は花沢とは付き合ってなかった。

あいつの手が牧野に触れてると想像しただけで眉がピクッと歪む。
それを横目でマスターが見た・・・俺は慌てて残りの珈琲を飲んで席を立った。


「ご馳走様でした。また来ますね」
「はい、お待ちしてますよ」


マスターの笑顔は最後まで変わらない。ただ・・・俺の事は警戒しただろう、そう思った。


*************


「Les frais de scolarité des universités japonaises sont très élevés par rapport aux pays du monde(日本 の大学の授業料は世界の国々と比べるととても高い)・・・うん、正解。ちゃんと出来てるよ」

「そうなのよね・・・ホントに高いよね!今回の試験範囲は人ごとじゃない内容だから気になるのよ!昨日の夜も訳しながら頭にきちゃって!」
「・・・ちゃんと勉強になってんの?」

音楽堂の3階の非常口でお昼休みに花沢類とご飯を食べながらのフランス語。
彼は私が作ったお弁当に手を伸ばしながら昨日頑張った試験範囲の確認をしてくれた。と、言ってもご飯が優先。私は食べてるだけだったけど花沢類はノートを見ながら間違ったところにマーカーしてる。

「Le fardeau des frais de scolarité est faible dans les pays européens(ヨーロッパ諸国では学費負担は少ない)、スペル気をつけな?あんた、よく間違えてる。ここんとこ・・・」
「どこどこ?あっ、ホントだ!」

間違えた所はすぐに書き直して昼のお勉強は終わり。
花沢類も飲むことに抵抗なくなった紙パックの珈琲にストロー刺して、2人並んで飲んでいた。


「でもさ、それほんとなの?ヨーロッパって学費、安いの?」
「さぁ・・・考えたこともないけど。日本と韓国、アメリカが高いのは有名だよね。それにこの先はもっと値上がりするって言ってるじゃん」

「えっ!これ以上?じゃあ私の子供が大学に行く頃はだめじゃん!払えないよ、そんなの!」
「だからフランスはそこまで高くないよ?」

「・・・え?」
「・・・ね?」


・・・顔が熱い。クスって声が聞こえるけど反対側を向いて手で扇いでた。




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