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plumeria

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「あーっ!!もうダメ!頭に入んないっ!」
「・・・そう言ってる間に1問解ける」

「無理無理ーっ!花沢類が話してる言葉が全部同じに聞こえるーっ!」
「・・・だって同じところ読んでるもん」

牧野はフランス語のリスニングで完全ダウン。
まだ1年生だからそこまで難しい問題じゃないんだけど、英語の次に専攻してるからフランス語基礎と、リスニング、筆記問題、教授との会話と英語と同じだけの試験がある。

筆記はなんとかなりそうだけどホントに聞くことが苦手みたい。だから話すのもまだ上手く出来ない。

日本人がフランス語を勉強する時に1番の大きな壁となるのが「R」の発音。日本語にも英語にもない発音だから習得するのはなかなか大変だ。

Rは日本で言う「ラ行」っていうわけじゃない。
よく「Bonjour 」を「ボンジュール」と振り仮名を振ってるけど実際フランス語で話すとそれは「ル」にはならない。
実際にネイティブの発音を聞くとよく分かると思うんだけど、むしろ「ハ行」もしくは「カ行」に近い音に聞こえるんだ。

だからフランス語を綺麗でお洒落だという固定観念を持ってる日本人は、話そうと思うと「ラ行」が邪魔して上手く言えないし、特に大人になってから覚えようとしたら女性は恥ずかしがってなかなか上達しない。
牧野のいいところはこの「恥ずかしがる」ってことをあまり気にしないってこと・・・教えれば素直に聞いてくれるから。

何度も同じ文章を読んでやって、言葉に慣れさせようとしたけどそのうち涙目になってきた。

「どうしたの?今日だけだよ、っていうか4年間ある定期試験の1番初めだよ?」
「・・・少し休ませて・・・限界来た」 

机に突っ伏してペンも放り投げたから、気分転換に珈琲を煎れることにした。くすくすっ、ホント・・・面白い。


いい香りが部屋に広がると少しだけ顔を横に向けて俺の方を見てる。気が付いてるけど知らん顔してたら、悪いと思ったのかまた教科書を取りだした。

・・・俺はいいんだけどね。
頑張った結果がもし上手くいかなくても自分がやれるだけやったって思えるなら。


これで特待を外されたとしても裏から手を回して学費を払ってもいい。そう思うけど、それは牧野が嫌いなことだからやりたくなかった。でもホントにそうなったらどうする?「花沢」を利用する・・・?
牧野には悪いけど、そんな状況を想像しながら出来上がった珈琲をカップに注いだ。


「あっ!花沢類、忘れてた。ごめん、昨日渡そうと思ってたのに」
「・・・何を?はい、珈琲」

「あ、ありがと!これ、私からも・・・はい!最後の1万円。どうも長いことありがとう。これでやっとあのスーツが私のものになったわ」

そう言って嬉しそうに茶封筒を俺に差し出した。
先月までは返してもらったら何故か不機嫌になった1万円。今月はそんな気分にはならなかった。

この封筒が俺達を引き離すものじゃなくなったから。


「もう少し頑張れる?珈琲飲む間、弾いてあげようか?」
「ホント?!うん、頑張る!」

この時に弾いたのはアントニン・ドヴォルザーク作曲のユーモレスク変ト長調の第7曲。
本来ユーモレスク集として8曲構成だけど、この第7曲『ポコ・レント・エ・グラツィオーソ (変ト長調)』が特に有名だ。これもピアノ伴奏が出来る曲・・・いつか牧野と協奏したい1つだった。

寮だから少し加減して弾いてみたけど、やっぱり弾き始めると熱が入って後半からは全然周りを気にしなかった。


「うわあっ!これもいいよね・・・うん、すごい!やる気が出た!」
「あはは!簡単だね。ただ眠たかったんでしょ?」

「そうだったのかなぁ・・・でも、珈琲とヴァイオリンで目が覚めたよ」
「そう?じゃ、ついでに・・・」


珈琲の香りがするキス。


・・・明日、頑張れ。



***********



ジリリリリリリリ・・・!

「終了です。用紙回収しますから筆記用具から手を離してください」


はぁ・・・午前中のフランス語が終わった。
なんとか全部書き終わったけど、自信があるかって聞かれたら・・・うーん、8割ぐらいは大丈夫だと思うけど。
残りは午後からの教授との会話テスト。そのためにお昼休みは音楽堂の非常口で花沢類と特訓するって約束していた。

お昼ご飯は持って来るなって言うから、いつもの珈琲だけ買って、急いで階段を駆け上がった。
不思議だけどこういう時って3階まで駆け上がっても辛くないのよね。誰かがそこで待っててくれる・・・行けば楽しいことがあるって思えば!

人間って実に単純だなって思う。
足よりも早くに心だけが非常口に行ってるみたい。自分の心を追いかけて、足はいつもより早く動いてた。


息を整える間もなく3階について、はぁはぁ言いながら非常口に向かった。そして、キィ・・・と軋んだ音をさせてドアを開けると彼は自分の教科書を読みながら待っててくれた。

「ごめんね、お待たせ!花沢類もお勉強?」
「・・・ん、何となく。春から殆ど開いてないから・・・」

「え?講義の時はどうしてるの?」
「耳で聞いてる。目は閉じてるかも・・・」

「それって覚えられるの?」
「うん、問題ない」

それでも国際経済学部じゃトップクラスって言うんだから大丈夫なんだろう。神様って本当に不公平だって、花沢類見てたら思う。苦手科目とかあるのかしら?もしかしたら・・・絵は描けないかも!変な想像してプッ!と噴き出したら睨まれた。


「お昼、食べてないんでしょ?」
「うん、花沢類は?」

「牧野、待ってたから」

花沢類は自分が座ってる場所の横に可愛らしい紙袋を置いてて、それを私に「はい」って渡してくれた。
中身は手作りマフィン!クルミ入りやチョコバナナや抹茶味まであって、それが可愛いカップに入れられてすごく沢山入ってた。それとは別に綺麗に盛り付けられた野菜サラダ!色もカラフルで特製ドレッシングがついててサラダなのにご馳走みたい。

「うわっ、どうしたの?美味しそう!」
「あきらのお母さんから。あそこのお母さん、お菓子作りが趣味でさ、試験の時とか頑張れって意味で作ってくれるの。あきらのだけじゃなくて俺のも総二郎のも・・・食べられないって言ってるのに」

「美作さんのお母さん?へぇ・・・意外と家庭的なのね。花沢類はどれにする?せっかくだから食べようよ!」
「牧野、選んで?」

「クルミは?大丈夫?」
「ん、何でもいい」

1つ取りだして手渡すとニコッと笑って受け取った。その顔・・・反則なんだけど。

私もチョコバナナマフィンを手に持って、パクンと齧りついた。
思ったよりすごく美味しい・・・お母さんの手作りかぁ!って思うと余計に美味しく感じた。美作さんの家は1番平和だって言ってたけど本当なんだなぁ。

どういう気持ちで食べてるんだろ?って彼を見たけど表情は何も変わらなかった。花沢類のお母さんはこんな事、してくれなかったのかな・・・まだ踏み込めないこの人の家庭事情だ。

いつか毎日が家庭の味で楽しめるようになるといいのにね。



「じゃ、始めようか。午後は教授との会話でしょ?」
「あ!そうそう。まだ初めてだから簡単な自己紹介と挨拶程度だって言ってた!」

「・・・はい、じゃ自己紹介から言ってみて?」
「えっとね、Je m'appelle Tsukushi Makino。Je suis une première année de 18 ans à l'université・・・」
(私の名前は牧野つくしです。現在18歳の大学1年生です)

「Qu'est-ce que tu aimes ou quoi?」(あなたは何が好きですか?)

「J'aime cuisiner」(私は料理が好きです)

「ほら、間違った」
「え?何処が?料理って単語違った?」

「じゃあ言い方変えようか?Qui est-ce que vous aime?」(あなたは誰が好きですか?)


「・・・ Je suis amoureuse de toi」(私はあなたに恋しています)
「Bonne réponse」(正解)


だから・・・これだと試験に合格しないって!もうっ・・・!




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