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plumeria

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パトカーと消防車と野次馬と・・・まだ燻ってる煙を見ながら呆然と店の前に立っていた。

2階へ上がる階段にはKEEPOUTのテープが張られ、店全体にも現場保全のためブルーシートが掛けられるんだろう、すぐ横で準備が進められていた。
少しずつ人が帰っていく・・・炎は確かに見えないけれどもの凄い匂いが付近一帯を覆っていた。


俺の横には涙を流す牧野がいて、その向こうには俺と同じ顔をした橋本さん・・・何が起きたか全くわからなかった。

何故こんな事になった?
何故・・・誰もいない店から出火した?自分が今見ている光景が真実だとどうしても思えずに、「嘘だ」・・・と何度も呟いた。


これは嘘だ・・・夢だ・・・何かの間違い。今、俺はすごくリアルな夢を見てるんだ・・・匂いまで感じるようなリアルな夢。
目が覚めたら「あぁ・・・びっくりした」って牧野と笑うんだ。そう・・・これは夢だ。

偶然だよね、牧野と同じ夢を見るなんて・・・そう言って胸を撫で下ろすんだ・・・きっとそうだ。



「放火・・・かもしれないって言うんだ。こんな店にだよ?」

「え?・・・放火?」

いきなり橋本さんがそんな言葉を出して、俺と牧野は彼の方を見た。橋本さんは感情をすべて失ったかのような目で変わり果てた自分の店を見つめていた。
投光器で照らされてるけど店内は焼け焦げて真っ黒で、カウンターやテーブルがすべて木製だったからもう区別すら出来ない。それでも視線は沙耶香さんのピアノがあった場所に向いていた・・・最愛の妻の、唯一残されたピアノ。

沙耶香さんと自分と、それ以外に触れたのは牧野だけだというピアノ。


「現場検証をしてみないとわからないけど、目撃した人がいるんだって。火が出始めたのが初めは2階の階段付近・・・その後に店の裏側・・・勝手口の方だって。古い建物だからさ・・・気が付いたら燃え広がって・・・あっという間にさ。油類は多いし、ガス管に引火して一気にここまで・・・」

「店の外側から?橋本さんが帰ってから?」
「そうだろうね。俺が自宅に戻って1時間経った頃かな・・・このビルの管理会社から電話があってね」

その時に警察に橋本さんが呼ばれた。
事情聴取されるらしい。項垂れた彼は警察車両に乗せられた。

「類・・・大丈夫?ううん、ごめん、大丈夫じゃないとは思うけど・・・しっかりして。私、傍にいるから・・・」
「・・・ごめん。まだ・・・言葉が」

「いいよ、何も言わなくて」


俺の身体を牧野がすごい力で抱き締めてくれる・・・だけど、俺はそんな彼女に手を伸ばすことが出来なかった。両方の手はだらりと身体の横に落ちたまま、牧野はそんな俺の腕ごと泣きながら抱き締めてくれた。

ありがとう、そう言いたいのにそれすら口から出ない。情けないほど真っ白になった・・・これはあの日と同じだ。


お婆さまが亡くなったと聞かされた日・・・。
なんの前触れもなく、ある日突然別れを告げられたあの日と同じ。恐ろしいほどの虚無感・・・世界が色を失った日だった。


今の俺はその日と同じ。牧野の身体でさえモノクロの世界の一部になった。


*********


類の腕を必死に支えて、その場に崩れ落ちないようにするのが精一杯だった。
片手で背中を支え、片手で手を握って・・・私の事をも見ることも出来ない彼をただ黙って支え続けた。

涙で目の前の焼け焦げたcantabileを見ることが出来ない。
お昼にはあんなに楽しく食事をしたのに・・・橋本さんと大笑いしてお話ししたのに。すごく美味しいチョコケーキ・・・また食べに来ますって言ったばかりなのに・・・!

消防隊員の人が中で何かの作業をしてるのが少し見える。無造作にその辺を歩き回ってるけど、そこは可愛らしいテーブルがあった場所だ。橋本さんが毎日綺麗に掃除して、いつも可愛い花が一輪生けられていて、白いレースのカフェカーテンが掛かってて。

橋本さんが第二の人生のために頑張っていたお店なのに・・・。

類が楽しくヴァイオリンを弾けるたった1つの場所だったのに・・・!!


橋本さんが放火かもしれないと言った時、私と類は言葉を失った。
類も何も言わなかったけれど、これが橋本さんの失火だったらどうしようかと思った。歳は離れてるけど心を許して話していた数少ない友人だから、その橋本さんのせいでヴァイオリンを失ったとしたら・・・その先は考えられなかったんだと思う。

それがまさか・・・放火?故意に燃やされたのだとしたら誰が?何のために?

目の前の悲劇と思いがけない一言に類の顔から一気に感情がなくなった・・・悲しむのか怒るのか、一切の感情が何処かに行ってしまったように見える。

その目には今、何が映ってるんだろう・・・私はとにかくこの場から彼を連れ出したかった。


ここから離れて心を落ち着かせて、それからのことはそれから考えたらいい・・・ここから帰ろう?そう言いたいけど言葉に出来ないから必死に彼を抱き締めた。

ザワザワとしていた近所の人達もだんだん少なくなってきた。
私は類の身体を支えながら、何となく視線をその人達の方に向けた。

その時、その疎らになった人の中に陽翔の姿を見つけた。

すごく驚いてて目を大きくして固まってる。私と目が合ったのかどうかはわかんなかったけど、陽翔は燃え尽きて崩れたcantabileを見ながら口を開けて呆然としていた。

この店の事を知っているの?大学の人は殆どここの存在を知らないと思ったのに?
私と同じように最近この土地に来たばかりの彼が・・・何故この時間にここに来てるの?

陽翔は暫く火事の現場を見ていたけど、私が視線を類に戻してもう一度見たときにはもういなかった。


なんだったんだろう・・・陽翔、どうして?



「この中にスーパーファストの運転手さんはいますか!白のスーパーファストの持ち主はいませんか!」

1人の警察官が大声で怒鳴った時、類がそれにビクッと反応した。
やっと目をcantabileの残骸から動かして声のした方に顔を向けたら、それに気が付いた警察官の方が私たちに寄って来て「急いで車を動かすように!」と怒った口調で告げた。
「ごめんなさい、すぐに行きます!」、私が代わりに返事をして類の身体を引っ張った。

「類、行こう?ここはまだ私たちは入れないから。ね?類・・・私と一緒に帰ろう?」
「・・・うん、牧野・・・ごめん」

「謝らなくていいよ。さ、行こう」


今にも倒れてしまいそう・・・そんな類をこんな小さな私が守るようにして車まで戻った。
そこからはどうやって運転して帰ったかなんて彼も私も覚えてない。とにかく苦しくて苦しくて、わんわん泣けたらどれだけいいかと思うくらい胸が締め付けられた。

寮に戻っても私は彼を支えながら階段を上がり、1人に出来ないから私の部屋に入れた。

もしかしたらほんの少し防犯カメラに映ったかも。
でも、そんなことはどうでも良かった。


とにかく類を抱き締めてなきゃ・・・今はこの人を1人にしちゃいけない。私が傍にいなきゃ・・・それしか頭になかった。




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2018/07/08 (Sun) 11:22 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: No title

水香様、こんにちは。

大変申し訳ない・・・こんな展開になって。
まぁまぁ、このぐらいないと後半が盛り上がらないと思っていただいて・・・。

ダメですか?ははは!

そうですね、どのくらいだろう?
1週間ぐらい?明るく戻しますよ。待っててくださいませ。


あらら!雨が振ってるの?被害はないんですよね?
十分に気をつけてくださいね。

こっちはもう雨降ってないので大丈夫ですが、色んな所で土砂崩れしてます。
大変だ・・・自然災害は避けられないんだけど、大きな被害が出ませんようにと願うだけですね。

うんうん・・・早く落ち着きますように。

2018/07/08 (Sun) 11:30 | EDIT | REPLY |   

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