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plumeria

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さっきまで握っていた彼の手は今はお母様のもの。
私は少しずつ後ろに下がって行ってガタンと椅子に当たって大きな音を立ててしまった。

それに驚いてやっとお母様が私の方を見た。まるで花沢類に見つめられてるみたい・・・真っ赤な目から溢れた涙を隠すこともしないで。

「ごめんなさい、大きな音を立ててしまって・・・あの」

やっと指で涙を拭いて身体を起こした。そして私の方に向いて小首を傾げるように・・・それはとても綺麗な仕草でドキッとした。
その仕草・・・花沢類も時々してる。変なところが似るんだなぁって・・・。

「あなた・・・牧野さんって方かしら?」

「・・・はい、牧野つくしと申します。ごめんなさい、ご家族の人しかは入れない場所に他人の私が入り込んで・・・」

自分の名前を出されると怖くてまともに顔が合わせられない。
私は顔をお母様の方に向けていたけど、目線は完全に床の方・・・感じ悪い子だなって自分でも思った。

お母様はまた前屈みになって彼の顔をもう1度撫でて、何回か名前を呼んだ後にまた私の方に身体を向けた。そしてゆっくりベッドを回って来る・・・もしかしたら叩かれるのかと思って身体に力が入った。

思い出すのは・・・あいつの母親だったから。

叩かれたこともある。暴言を吐かれたことも罵られたこともある・・・哀れんで蔑まれて、粉々に砕かれたんだもの。
その時の恐怖が私の中に蘇って来た。この美しい顔のお母様に同じ事を言われるんだろうか・・・ヒールの音が近づくと自分の身体がどんどん硬くなってるのがわかった。


「どうかしたの?あなたまで真っ青だわ・・・いらっしゃい、お話ししましょう?」
「・・・え?」

「初めまして。類の母です・・・ごめんなさいね、取り乱してしまって。なんといっても一人息子でしょう?この子のことになると私、周りが見えなくなるの。驚かせてしまったわね」

「いえ・・・!とんでもないです。あ、当たり前です。息子さん・・・ですから」

思っていたのとはあまりにも違う一言に私の方が驚いてその場に倒れそうになった。
そんな私の背中を支えてくれてすぐ近くのソファーに座るように言われ、お母様と向かい合って座った。
でも、申し訳なくて顔が上げられない。スカートを両手で握りしめて、ここにいるってだけで息が詰まりそう・・・足がしっかり床に着いていないのかガタガタと震えた。


「ふふ・・・そんなに緊張しないで下さる?類は大丈夫よ、きっと目を覚ますわ。いつもよく寝る子だからこういう時も長いのかもね。そう思うことにしましょう?牧野さん、私のこと、怖がってるの?」

「いえ!そんなことは・・・そんなことはないです」

何もかも見透かされてる。それが余計に怖かった・・・。
でもあいつの母親とは違うのかもしれない、花沢類のお母様からは鋭い刃物のような感覚は受けなかった。
とても穏やかな・・・優しい空気に包まれてるような、そんな気がした。


「安心して?ちゃんとあなたのことは聞いてるわ。類からも加代からも・・・司君のことも知ってるわ。だから何も心配しなくていいのよ。あなたを類の傍についててもらってって頼んだのも実は私なの。だからいいのよ、ここにいても。私は嬉しいわ」

「・・・道明寺のこと、知ってるんですか?あの・・・私の病気のことは・・・?」

「類から聞いてるわ。大変な心の後遺症を抱えてるって。だから雨の日には傍にいてあげるんだって・・・大切にしたいの?って聞いたらもう随分前から大切な人だって言ってた・・・きっと、あなたが立ち直るのを待ってるんだと思うわ。だから、いつかあなたに会ってみたいって思っていたの」


花沢類がそんなこと、言ってたの?
私の事が大切だって?

それなのに私はあの時の事ばかり気にして・・・花沢類のことは”友達”から進めちゃいけないって思ってた。
同じ思いをするって決めつけて、どうしても幸せな未来を描こうとしなかった。それなのに彼は待ってくれてるの?


「・・・事故の事も聞いたわ。雨が振りそうだったんですってね。でも、他にもあなたに話したかったことがあると思うの」

「話したかったこと?どんなことですか?」

「それは私が言ってはいけないの。類から聞いて?それを言わなきゃいけないから、この子も急いで目を覚まさないとね。ふふっ・・・きっと早くあなたと話がしたくて頭の中では焦ってるわ。・・・だから大丈夫。もうすぐ目が覚めるわよ」


花沢類のお父様はどうしても仕事が終わらなくて一緒に帰国できなかったらしい。
都合がつけばすぐに日本に戻ってくるってお母様は言っていた。そしてお母様も日本に暫くいるけどこっちの会社で仕事をするから私に彼の傍にいて欲しいと。
たとえ意識が戻っても暫く社会復帰に時間がかかるっていう判断だろう、私の事も心配してくれた。


「牧野さんの会社は大丈夫かしら。よかったら花沢から今回の休暇のことはこちらの要望だと伝えさせていただくわ」

「いえ、そのご心配はいりません。私・・・会社を辞めてもいいと思っています」

「え?簡単に仕事を辞めるなんて決めてはいけないわ。あなたもお仕事は適当にする人ではないでしょう?類のことで責任なんか感じなくてもいいのよ?ただ、私たちが我儘を言ってるからあなたに不利な事が起きないようにしたいだけなの」

「そういう意味ではありません。まだ入社して間がない私はそんな責任ある部署にはおりません。有休だってまだないし・・・でも、私も彼の傍にいたいと思います。それには気にするのは彼のことだけで十分・・・会社のことを気にしながらって言うよりも彼の回復だけを考えたいんです。だから・・・それがいいんです」


お母様は「あなたがそれでいいなら・・・」って少しだけ悲しそうに笑ってた。

そしてまだ目を開けない花沢類の横に2人で移動して、両側から彼の顔を覗き込んだ。
「額の絆創膏・・・傷、酷いのかしら」って心配そうにまた撫でてる。左腕の骨折のギプスを摩りながら「綺麗にくっつくのかしら」ってそっちもまた涙目で。


「ここに来る前に車を見たの・・・よく、あんなにぐしゃぐしゃだったのにこの子は助かったわね。運がいい子・・・神様に感謝しなくちゃね」

「はい・・・ホントですね。ホントに・・・ホントによかった・・・」
「あらあら!牧野さんまで泣かないで?やだ・・・この子が目を開けたときは絶対に笑っててね?」

「はい、わかりました」


お母様はこのあと少しだけ彼の顔を見ていたけど、色々と事故のことも会社のこともあるからって帰って行った。
「もし、意識が戻ったらすぐに教えてね」って私に言い残して。




その日の夜遅く・・・私はせっかく働き出した会社に退職願いを書いた。


これまでの事を全部脱ぎ捨てて新しく自分も生まれ変わるために。

長い間心の何処かが暗闇だった。
彼に甘えてばかりで、怖がってばかりで・・・ほんの少し自分に嘘をついてた。


「花沢類・・・早く起きて?私、ずっと待ってるよ?目を覚ましてくれたら伝えたいことがあるの・・・ね、聞こえてる?」


まだ、彼の指は私の声に応えてくれなかったけど、今でもとても温かい。
その手を私の両手で包み込んで祈り続けた。




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2018/07/11 (Wed) 07:12 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: No title

水香様、おはようございます。

えっ!その展開はないですよ?
そんなことしたらこの世界で生きていけません(笑)

いつも言ってるでしょ?基本ハピエンですって!
ちょっと事件が多いだけですよ。やっぱり楽しく終わらないと・・・そこは大事!


うーん・・・そうなんですよね。
まさかこんな風になるとは思わなかったので。

雨の話も書きにくくなりました。こんなに災害になるほど降ると雨も憎たらしいですよね。
毎日のニュースがちと辛いです。家の周りの土砂崩れを見るとね・・・暫く降らないで欲しいですね。

水香様も気をつけてお過ごしくださいませ。

2018/07/11 (Wed) 07:51 | EDIT | REPLY |   

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