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plumeria

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「珈琲、煎れ直してくる。何か飲まなきゃ・・・ね」
「・・・ん」

類が子供の時の話をしてくれたけど、それは彼の不幸だった過去を思い出させたようなもの。聞いているだけで胸が苦しくなった。
遊びたい盛りにそこまで縛り付けられて、好きなこともさせてもらえず、言いたいことも言えず、ただ親の言うことだけを聞かなきゃいけなかっただなんて。
みんなが羨ましがって、自分たちも手に入れたいって思ってる暮らしが実はこんなにも苦しいだとは・・・なんて悲劇なんだろう。

自分の子供の頃はどうだった?
進と遊びすぎて暗くなって家に帰って何度叱られたか・・・それでも温かいご飯が待ってた。
どんな悪戯したって最後には一緒になって笑ってくれた。誰かと喧嘩したら泣きながら謝りに行ってくれた。

家は貧しかったけど沢山の笑いと幸せと愛情の中で育った。それが今の私の原点であり、宝物だと胸を張って言える。


たった1つの楽しみだったお婆さまとのヴァイオリンの時間、何故花沢のご両親はそれさえも許さなかったんだろう。
そこまでしなきゃこの大企業を継げないの?こんな会社のトップって1人でやるものなの?信頼できる補佐役の人がいたらいいんじゃないの?

それとも・・・自分以外が信じられないんだろうか。類のお父様を知らないから口には出せなかったけど。

初めて会ったときの類が無表情で感情が乏しかったのは彼の過去に辛いことが多かったからなんだ。
それでもこんなにも優しい部分があるってことは、それを育ててくれたのはお婆さまなんだって思った。


私もその人に会ってみたかったなぁ・・・。
類にヴァイオリンを教えてくれた人。類に愛を教えてくれた人・・・類が大好きだった人。


珈琲を彼の前にコトンと置いて、また私は真横に座った。
そしたらすぐに捕まえられる片腕・・・類はもう随分と落ち着いたようでさっきまでの震えはなかった。いや・・・心はまだ悲鳴をあげてるんだろうけど。

「そう言えばさ・・・現場に陽翔が来てた。どうしてあの店に来てたんだろう・・・cantabileのこと、知ってたのかしら」
「え・・・齋藤が?ホントに?」

「うん、警察官が車を移動させてくれって来たじゃない?その少し前・・・凄く驚いた顔してね、野次馬の中にいたの。ちょっと目を外しちゃったからもう1回見たらもういなかった。でもさ、あの店って奥まった所にあるから学生って殆ど知らないでしょ?陽翔は知ってたのかなぁ・・・」

何気なく言葉に出してしまった陽翔のこと。
このあと類の表情が少し変わった。何かを考え始めて、その目の力が戻った。



***********



「牧野・・・今日は一緒にいてくれる?」

あの雨の日以来、一緒に朝まで過ごしたことはなかったけど今日はどうしても1人になりたくなかった。
だけど牧野の言葉で少し調べたいことが出来た。

少し戸惑ってる牧野を半ば強引に自分の部屋に連れて行き、俺の部屋のバスルームを使うように言って着替えを手渡した。
まるで急かすようにバスルームに押し込んだから不思議そうな顔してたけど、俺の服を抱えて恥ずかしそうにドアの向こうに消えて行った。

その間に連絡をしたのはあきら。いつもこういう時に利用して申し訳ないけど警察より早く情報を得るには美作のシステム以外考えられなかったから。


「あきら、ごめん。また大至急で調べて欲しいんだけど、今どこにいる?」
『・・・残念。家にいる・・・今度はなんだ?』

「あのさ、大学周辺のコンビニの防犯カメラ映像が大至急欲しい。時間は今から2時間ぐらい前。確認したいのは齋藤の彼女が歩いてないか・・・出来たら持ち物が映ってる映像が欲しい。彼女知ってる?」
『知るわけないだろ?でも顔写真を手に入れることは出来る』

「どうして?」
『指紋照合したときに実はわかってたんだけどな。その子、暴行の補導歴があって警察の内部情報には顔写真が残されてる。4年ぐらい前のもので未成年で法律に守られてたし、反省してるってことで事件にもなってないし相手の子の怪我も軽かったから誰も知らなくて当たり前ってぐらいの内容だったな』

あきらに簡単にcantabileの放火のことを話して、もしかしたら関わってるかもしれないと言うと驚いていた。

そりゃそうだ・・・現住建造物等放火罪は、人が現に住居に使用しているか、または現に人のいる建造物を放火により焼損させることを内容とする犯罪と刑法第108条で定められている。
公共危険罪として刑は重い。最高で死刑、それに続いて無期もしくは5年以上の懲役。

まだ警察は現場検証中でそれは断定されてはいない・・・まだ仮定の話だ。
だけど火元を考えたらおそらく放火・・・牧野が齋藤の名前を出すまでは全然見当もつかなかった。でもなにかの偶然で俺達がcantabileによく顔を出していることを知った彼女、もしくは齋藤が、これも理由はわからないけどあの店を焼失させようとしたのなら?

齋藤がわざわざ現場を見に来ていたのが偶然なのか、それとも思い当たる節があるのかなんてわからなかったけど、あいつは放火なんて手段は取らないような気がした。そこまで愚かではない・・・一時的な感情で殴りかかってくることはあってもわざわざ計画を立てて犯罪を犯すような人間には思えなかった。


『本当に齋藤の女が関わってるのか?でも、そんな小さな店になんで放火?』

「よくわからない。俺と牧野がたまに食事に行くだけだから。だけどあの彼女なら何をするかわかんないよね。逆恨みか勘違いか、逆上したら見境ないのかも」

『確かにな。普通じゃなかったもんな・・・わかった。ちょっと地下に行って大学付近の防犯カメラに侵入してみる。わかったら連絡する。電話がいいか?メールの方がいい?』

「牧野がいるからメールがいい。ごめん、毎回こんな事で」


あきらとの電話を切ったらすぐに赤い顔の牧野がバスルームから帰ってきた。
俺のぶかぶかのTシャツ着て今にも落ちそうな短パンはいて、まだほんのりピンク色の素肌は子供みたいに綺麗で・・・。

これが何もなかった日ならすぐにでも抱いてしまうんだろうけどね。


「我儘言ってごめんね。今日は抱き締めたまま眠ってもいい?何もしないから・・・」
「うん、類がそれで安心するなら抱き枕になるよ」

「くすっ・・・最高だね」
「あ、笑った。ふふっ・・・よかった」



この部屋に持って帰っていたお爺さまのヴァイオリンをすぐ傍に置いて、牧野の隣でお婆さまのことを考えていた。

牧野は疲れたんだろう、ウトウトして目も閉じてる。
この子も幼い頃に目の前で火事を見て、それで雷がダメになったって言ってたっけ。それなのに今日は怖かっただろうに俺のために必死になってずっと支えてくれた。

彼女を抱えてベッドに寝かせて、俺もその隣で横になった。
リズムよく聞こえてくる寝息・・・1人じゃない温かさでホッとする。いつの間にか俺も眠気が来て目を閉じてしまった。



『類・・・心配しなくても私は今でもあなたの傍にいるわ。私の大事な類が笑ってくれてる方が嬉しいのよ』


その日、牧野を抱き締めたまま見た夢の中で、お婆さまの優しい声を聞いた。





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2018/07/10 (Tue) 10:04 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。

あはは!またやってましたね・・・ダメだね、最近(いや、昔から💦)
いつもありがとうございます。助かります。

ちょっと強に限ってお仕事が忙しくて今見たのよね・・・さて、何人の人に笑われたかな(笑)
コメディならいいけどこんな場面に限ってやらかしますよね。

ホント・・・反省。


えっと・・・今日は真面目に見ます!いや、いつも真面目なんだけど。


そうねぇ・・・この2人にそういう日がくるんでしょうか。
最近不安になってきました。

桜チンネル・・・もういいって!



2018/07/10 (Tue) 21:07 | EDIT | REPLY |   
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2018/07/11 (Wed) 07:11 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

水香様、おはようございます。

ふふふ、ごめんなさいね!
早くここから動きたいんだけどこれだけの内容書くと簡単には動けないんですよ。

色んな感情書きたいですしね。
楽しいところだけ?もうっ、甘いお話しが好きですねぇ!

そのうち甘くなるから待っててくださいね。

彼が悪い・・・ご尤もです。
えー?!私は嫌いじゃないんですけどね。

でも、この由依ちゃんじゃ番外編は書けそうにないですね・・・うんうん。
書かない書かない(笑)

2018/07/11 (Wed) 07:38 | EDIT | REPLY |   

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