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次の日、大学を休むと言い張る牧野を無理矢理行かせて1人でcantabileに向かった。

そこはブルーシートで覆われていて、橋本さんが消防関係者と警察官に事情を聞かれていた。目は合ったけど取り敢えず声は掛けずにその無残な姿を朝日の中で見ていた。

まだかなり匂いが残ってて黒く焦げた壁面が炎の凄まじさを物語ってる。少し風が吹けば白っぽい灰が飛んできて息が出来なかった。
まだ立ち入りは出来ない・・・というか入ることは禁じられてるんだろう、消防調査隊の連中が火元とみられる店の裏側を念入りに調べているのだけはわかった。
そしてなんとか上がることが出来る階段に足をかけた調査員に声を掛けてみた。


「ここの2階に自分の楽器があったんだけど自分で上がって見ることは可能?」

「え?いやいや、2階には上がれないよ。床の半分は下に落ちてるからね。いつ全体が崩れ落ちるかもわからないから専門家じゃないとね。ほら、危ないから下がって!」

「じゃあさ、写真撮ってきて欲しいんだけど。奥の方に楽器の保管庫があるんだ。そこの回りを出来るだけ沢山・・・どうしても確認したいものがあるから」
「・・・仕方ないな。じゃあ先に撮ってくるからもう少し下がって待っていなさい」

少し迷惑そうに調査隊の人間は俺のスマホを持ってブルーシートの中に消えて行った。
そして暫くしたら戻って来て、残されてた部分の写真を撮ったからとスマホを返してくれた。

正直言えば見るのでさえ勇気がいる・・・ヴァイオリンの保管庫はそこにまだあるんだろうか・・・それとも跡形もなく焼けたんだろうか。収納していたケースは確かに強度はあったけどこれだけの火災には耐えられると思えない。
でも、万が一保管庫が残っているのなら弾くことは出来なくなっても原型を留めてくれているかもしれない・・・ひと呼吸置いてからその画面を確認した。

・・・そこに写っていたものは俺の僅かな期待をあっさり裏切ってくれた。


保管庫は黒く焼け焦げてドアが開いてて、中にあったいくつかの弦楽器はケースが重なり合っててどれがどれだかわからない。
お婆さまのヴァイオリンケースだと明確にわかる画像はなかった。
しかも半分以上は床に崩れ落ちてるし、すぐ傍にあったピアノのあった場所は床が抜けてて1階に落ちているようだった。


覚悟はしていた・・・やはり、あのストラディバリウスは消えてしまったんだ、と・・・。



「類君・・・」

力ない声で橋本さんが俺に話しかけてきた。
警察との話が終わったんだろうか、今まで橋本さんと話し込んでいた警察官はブルーシートを捲って中に入って行った。


「・・・事情聴取、終わったの?」
「あぁ・・・まだ呼び出しはあるだろうけど」

「そう・・・放火みたい?」
「おそらく・・・俺が帰ってから発火までの時間が1時間ぐらいあるのと出火元が2カ所だっていう証言からそうじゃないかってね。火の気がない2階にガソリンを使った痕跡があるらしい」


まだ現場から動けないと言うから、倒れそうな彼を自分の車に連れていき助手席に座らせた。
でも、そこで橋本さんは俺に何度も謝り続けた。

「どうしてこんな事をされたのかわかんないんだけど、君の大事なものを奪ってしまったことが悔しくてね。金で弁償できるんならどうにかしたいけどそういう問題じゃないだろ。どんな形であれ君のお婆さんの形見だ・・・手元に戻してあげたかった」

「橋本さんのせいじゃない。それはわかってるから」

「・・・沙耶香のピアノもなくなってしまったよ。まさかあのピアノがこの世から消えるだなんて思わなかったな・・・。あのピアノは俺が死ぬまで傍に置いて、出来たら俺と一緒に沙耶香の所に持っていけたらって…そう思ってたからさ」

「・・・うん、気持ち・・・わかるよ」
「お互い・・・愛する人の形見だもんな。あんな炎の中に置きっぱなしにして、もう1度苦しめたような気がしてね。堪んないよ・・・」

「ん、俺も昨日そう思った。そしたらさ、牧野が言ったんだ・・・」


『大丈夫・・・お婆さまは類の中に今でもいるよ。今でも守ってくれてるよ。ヴァイオリンって形はなくなったかもしれないけど、魂はそこから抜け出してきっとお爺さまのヴァイオリンの中に逃げたんだよ。今・・・類の部屋できっと2人は寄り添ってるよ』


牧野の言葉を伝えると橋本さんの目からまた涙が溢れた。
「・・・類君、いい人を見つけたんだね。素敵な考え方だよ。救われるね・・・」そう言って両手で顔を覆った。



「お店、どうするの?保険、入ってるでしょ?」
「・・・しばらくは何も出来ないさ。それじゃなくてもギリギリの生活しか出来ない経営状態だったからね。生徒達はそれぞれ楽器を持ち帰ってたからいいんだけど、類君のだけが保険がね・・・」

「・・・わかってるから気にしないで」

お婆さまのヴァイオリンは当然数億という値段から保険は掛けていたけど、焼失場所が自宅外で勝手に持ち出して置いていたことから対象外になる。もし、対象になっていたとしてもそんなことはどうでもよかったけど。

橋本さんはこの場所以外で店を持つ気にはならないと言った。
それに沙耶香さんのピアノを思い出してしまうから今はまだ何も考えられないと・・・。本格的にヴァイオリン教室に絞って仕事をしてみないかと言ってみたけど力なく笑うだけだった。

「ありがとう・・・迷惑を掛けたのに心配してもらって。俺の事は気にしないでくれ。独りには慣れてる・・・ゆっくり考えるよ」
「あのさ・・・変なことだけは考えないでよ?あなたは俺の大事な友達だから・・・」

「・・・あぁ、そんな勇気もない臆病者だよ」
「それでいい。俺には必要な人だって覚えておいて」


橋本さんはすぐにまた警察官に呼ばれて現場に戻っていった。

彼と話していて思った・・・もしこれが彼女の仕業だったら、原因は俺の・・・俺達の方だと。
橋本さんは俺達の巻き添えで大事なものを失ったってことになる。ピアノも店も・・・この先の彼の人生を狂わせたのは俺達だ。



その時、あきらから電話が入った。


『類?今いいか?』
「あぁ、今現場に来てた。昨日の件、わかった?」

『あれから俺とうちのスタッフでこの周辺の防犯カメラに侵入してみたけどお前が気にしてる子は映ってはいなかった。推測出来る時間も場所も拡大して調べたけどな。もしかしたら今回は事が事だけに慎重に計算して動いたんじゃないか?』
「そう・・・わかった。ありがと」

『牧野も落ち込んでて見てられなかったよ。そんなに大事な店だったのか?』
「まぁね・・・今から大学に行くよ。牧野にはメールいれとくから」

齋藤の彼女が確認できなかった。
それでも齋藤が現れたって事がどうしてもその結末を想像させる。何か他にそれを証明できるもの・・・目撃情報がないなら残るのは”自白”・・・それしかないけど。



俺は車を大学に向けた。俺が不安で堪らないように牧野も同じく心細くて泣いてるかもしれない。
自分もだけど、お互いの温もりが欲しい、きっとそう思ってる。だからメッセージに一言だけ・・・「あの場所で待ってて」と。


そして大学に着いた昼休みの時間、急いで音楽堂の非常口に向かった。
そこのドアを開けようかと思ったら、逆に牧野が開けて俺に飛びついて来た。

「ごめんね、牧野・・・1人で行かせて」
「・・・大丈夫。大丈夫だけど類が泣いてる気がしてただけ。そんな時に傍にいられないのは悲しいよ、類」

「ん・・・そうだよね」


「そうだよ、ずっと傍にいるよ」




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2018/07/11 (Wed) 07:13 | EDIT | REPLY |   
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2018/07/11 (Wed) 08:12 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さゆ様、こんばんは。

はい、元気になりつつありますがこちらの話は後半に入りまして新しい問題が起きて参ります。
ふふふ、でも2人はラブラブしてると思うので(ホントか?)ご安心ください。

雨・・・(笑)
はい、こちらは類君が目を覚ましてくれるのを待つだけです。
何も忘れてなけりゃいいんですけどね・・・てか、寝坊助なのでいつ起きるんだか(笑)

1度蹴ってベッドから落としたりしないと起きないのではなかろうか・・・?
いい夢見てるんでしょうねぇ・・・ははは!

こちらは間もなく終わります。
どうぞ宜しくお願いします。

2018/07/11 (Wed) 19:28 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

有香様 こんばんは。

ありがとうございます。
はい、ボチボチで頑張ります!

ちょっと長くなりますのでまだまだ・・・おそらく類君のお話では最長になるかと思います。
8月・・・終わってるかな?そんな感じです。

もう彼女は出てこないですよ。
最悪でしたか?ごめんなさいねっ!(笑)悪役って必要なんですよ・・・ほんと、すみません。

あら、よく覚えてますね!
そうなんです、これからその解決に向けて類君は動きます。

最後はほっこり・・・これ、絶対ですからね!待っててくださいませ。
今日はありがとうございました。

2018/07/11 (Wed) 19:39 | EDIT | REPLY |   

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