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「あなた・・・どうしてここにいるの?」


階段を降りた私の少し前方に立っていたのは由依さんだった。

彼女も私がこんな崩れそうなビルから出てくるとは思わなかったんだろう、驚いた顔で私の顔を見ていた。
しかも私は全身煤だらけで汚れてて、手には半分折れたヴァイオリン抱えてるんだもの、そりゃ驚くだろうと思うけど。

「ここ・・・由依さんも知ってる店なの?数日前に全焼したの・・・それを見に来たの?」

「あ・・・あんたに答えなくてもいいでしょう?たまたま通りかかったのよ。そしたら火事の現場だったから見てただけ。深い意味なんてないわよ。あんたこそこんな時間に何してんの?ここ、立ち入り禁止ってなってるじゃない」

「ここには大事な物があったのよ。それを探しに来たの・・・お昼だと止められるから」

「大事なもの?その抱えてる焦げたものがそうなの?ふんっ・・・もうボロボロじゃない。そんなものゴミと一緒よ!」


ゴミ・・・その言い方にムカッとしたけどこの人に関わらない方がいい、そう思って無視して帰ろうとした。彼女も私のことなんて知らん顔してお互いに顔を背けて歩き出したら、暗闇からヌッと出て来た人がいてビクッとして立ち止まった。

今度は誰?そう思ってよく見たら・・・陽翔だった。陽翔が怖い顔してそこに立っている。

どうして今度は陽翔がここにいるの?
振り向いたら由依さんまでがすごく驚いた顔で陽翔のことを見ていた。私はこの2人に挟まれて、両方の顔を交互に見ながら足は完全に固まって動けなくなった。


陽翔はあの日にもここに来ていた・・・何が起きたの?
この2人はなんでここに来てるの?これは偶然?それとも意味があるの?

陽翔は私っていうよりも由依さんのことを睨んでいた。今までに見たこともないような恐ろしい顔で・・・。
そして私の横を通り過ぎて彼女の近くまで行った。


「由依・・・お前、なんでここに来てるんだよ」
「・・・なんだっていいじゃない。通りかかったのよ、それだけよ!」

「嘘つけ!こんな道を歩く理由なんてないだろう!確認したかったのか・・・!」


「・・・え?どういう事?陽翔、由依さんが確認したいって・・・」

陽翔の言葉に持っていたものを落としそうになって慌てて抱き締めた。類に見てもらうまでこれ以上壊すわけにはいかないから。

確認しに来たってどういう事?
原因は放火みたいだって橋本さんは言ってたけど、まさか・・・まさか!?


「・・・何言ってるの?証拠でもあるの?どうして私がこんな店に火をつけなきゃいけないのよ!変な言い方しないで!」
「誰が火をつけたって言った!俺はこの店が放火だなんて一言も言ってない。お前、自分のしたことをわかってるからそんな言い方するんじゃないのか!」

「・・・そ、それは・・・・・・知らないわ。陽翔が変な言い方するからよ!」

「由依!自分が何やったかわかってんのか!建物だけだからいいと思ってんのか?これで近所に飛び火でもして燃え広がったら・・・人が犠牲になったら放火殺人だぞ!」
「だから!私には関係がないって言ってるでしょ!」


・・・この2人は何を言ってるの?
由依さんがここに火をつけたって陽翔は言ってるの?それなら・・・ここが燃えたのは私のせいなの?どう・・・して?


全身が震えた・・・本当に私のせいでこの店が燃やされて、類のお婆さまの形見が燃えてしまって・・・沙耶香さんのピアノが燃えてしまってしまったとしたら?
私は類と橋本さんにどうやって謝ればいいの?事実が知りたい・・・でもそれが本当だったら・・・!

由依さんに自分で聞きたかったけど言葉が出ない・・・汚れた手に凄い汗をかいてる。
額からも汗が流れて私の顔を滑り落ちたのがわかった。

ガタガタと足が震えてる、その時に後ろから足音が聞こえた。
ビクッとして振り向いたら・・・今度は類が現れた。


「牧野、やっぱりここに来てたの?・・・どうかした?」


**********


牧野のバイト先に行ったけど今日もいつも通り定時で帰ったと言われた。
それなら寮に戻るのは8時25分ぐらいのはず・・・。
俺が寮を出たのは母さんの電話のせいで9時前だった。寄り道なんてしない牧野が今日は何処に行ったんだろう。

そう考えたら・・・思い当たるのはcantabileだった。
俺があまりにも塞ぎ込んでろくに話もしないから牧野は何かを思ってあの店に向かったんだろうか、そんな気がした。


急いで車をcantabileに向けて走らせ、いつもの場所に車を停めて店の方に歩いて行ったら牧野の後ろ姿を見つけた。

でも様子がおかしい・・・。
何かを抱えて少し前屈みになってるし、それに暗くてよく見えないけどすごく汚れてる?まさかこの火事の現場に入ったんだろうかと目を疑った。


「牧野、やっぱりここに来てたの?・・・どうかした?」
「・・・あ、類・・・いや、あの・・・」

「あんたが帰らないからバイト先まで行ったんだよ。そしたらいつも通り帰ったって言うから・・・なに持ってるの?」
「これは・・・でも、それより・・・」

「牧野?どうしたのさ」

牧野の動揺の仕方が普通じゃない。言葉が上手く出なくて何かをすごく気にしてる。
そこに何があるのかと思ってすぐ傍まで行ったら、牧野の視線の先に人の姿が見えた。街灯の少ない通りだけどちょうど通りかかった車のライトでその2人の姿が照らされた。
齋藤と・・・相手の女性は齋藤の彼女だとすぐにわかった。

齋藤は俺達に背中を向けてるけど彼女の方は顔を向けてる・・・その顔が恐ろしいまでに歪んでいた。


「なに?・・・呼び出されたの?」
「ううん、違う・・・私がここに先に来てて、帰ろうかと思ったら由依さんと陽翔が来て・・・あの・・・」

「・・・それは?」
「これは・・・これを探しに来たの。もしかしたら探せるかと思って・・・ごめん、何も言わないで勝手なことして」

牧野は顔から足まで真っ黒だった。
手には”取ってきたもの”と鞄、そこに懐中電灯も握りしめてた。

既に原型は留めてなかったけど、それは確かにヴァイオリンの一部・・・真っ黒に焦げてるそれを両手で抱き締めるように持っていた。いつ崩れてもおかしくないほど無残に焼けたこのビルの2階に上がって必死にこれを探したんだろうか。

怖かっただろうに、こんなに汚れて・・・それでも見つけたものを持ち出してくれたんだね。

胸が痛かった・・・同時にすごく嬉しかった。


確かにその半分しかないヴァイオリンを見るのは悲しかったけど、牧野の心がそれ以上に有り難かった。


でも、今はそれよりもこの目の前の2人。
無言のまま対峙してるこの2人に真実を聞く時だと思った。

牧野には「ここを動かないで。なにも言わなくていいから」、そう言って2人に近づいた。


「どうしてこんな場所に2人がいるの?説明してもらえる?」

「・・・花沢か。あんたも都合よく現れるんだな・・・流石だよ」
「私には話す事なんて何もないわ。歩いていただけで何かの疑いをかけられるなんて迷惑よ!」

「齋藤、どうして火事の時ここに来たんだ?牧野がお前を目撃してる。ここ、知ってる人間じゃないと来ないような場所だろ?お前が万が一火事のことを知ったからって見に来るような所じゃない・・・だよね?」

俺の言葉に動揺の色を見せたのは彼女の方。
齋藤の方は何一つ動かずに黙ったまま彼女を睨んでいた。


「寮から煙が上がってるぐらいは確認できたかもしれない・・・でも、余程のことがない限り場所も不明確な火事現場には来ないよね。それなのにお前は火事の最中にここまで来て確認してる。この店に何かが起きるかもしれないって感じたから・・・そうじゃないの?」

「・・・・・・」
「・・・あんた、見に来たの?」

「しかも牧野の話じゃ相当驚いてたんだって?嫌な予感でも当たったから?」


齋藤の拳がグッと固く握られ、横顔しか見えなかったけどその目が一段と険しくなった。


「・・・火事のあった日の昼間、お前達がこの店に入ってる時に、俺と由依はそれを店の前で見てたんだ。ここが牧野の大事な場所だと話したのは・・・俺なんだよ!」


齋藤の振り絞るような声が暗闇の中で響いた。
この瞬間、cantabileの焼失は橋本さんのせいじゃなく、俺達のせいだと確信した。

火を放ったのが彼女だとしても・・・。




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2018/07/15 (Sun) 11:59 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ゆか様、こんにちは🎵

ふふふ、ありがとうございます🎵
安心しましたか?

もう少しだけこの場面が続きますが我慢してね?

それはね~💦
私もよくわからないんですよ!
飛ばしちゃだめかしら?(笑)

あはは‼️だめなんでしょうね!
頑張ります🎵

暑いですから体調管理、しっかりと!
寝不足しないようにしてくださいね♥️

2018/07/15 (Sun) 12:02 | EDIT | REPLY |   

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