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花沢類が事故に遭ってから1週間が過ぎた。

まだ意識は回復しなかった。私が見たい瞳は閉じたまま・・・額のガーゼだけ取れてほんの少し切り傷があった。

「この傷は少し痕が残りそうだね。でも髪の生え際だから目立たないね。良かった・・・花沢類、他の傷は全部綺麗になったよ?」

身体中にあったガーゼや包帯は殆どなくなって、左腕の骨折のギプスだけになった。
寝ている顔も穏やかで苦しそうには見えないから、本当に大好きなお昼寝してるみたい・・・いい夢でも見てるのかな?なんて勘違いしてしまいそう。

食事がとれないから24時間点滴が続いてる。早く私の作ったご飯、食べて欲しいなって思いながらその点滴が終わりそうになったらナースコールを押してた。


何度か来た加代さんとお母様がいるときにバスルームを使って仮眠をとって、いつも部屋でとっている食事をお母様と一緒に病院のレストランに行くこともあった。

その時に色んな話を聞いた。


「司君・・・ご婚約したのよ」
「・・・え?道明寺がですか?」

「えぇ。アメリカの大手企業のお嬢様でね、凄く盛大に婚約記者会見をしたの。全世界に報道されたと思うわ。牧野さんは病院にいたから見てないでしょう?」
「はい。でも・・・もう終わったことだから気にはなりません。むしろ安心しました」

「そう?類から聞いてたの。司君もあなたと別れてから随分と辛そうだったって・・・仲の良かった幼馴染みと連絡を絶って独りで世界を相手に闘ってるんだって。不器用なのよね・・・司君も」


「・・・道明寺はその婚約、自分の意思で決めたのかしら」

お母様はこの質問には苦笑いだった。多分・・・気持ちのない結婚に踏み切ったんだろう、そう思った。
そういう人生を送りたくないからって私といた時には母親と闘ったんだもの。見事に惨敗したけど・・・。
だけど、最終的には意に反する道を選ばざるを得ないのね。

あいつの悲しいまでに尖った瞳を思い出してやっぱり辛かった。


「いつも思うの・・・こんな家に生まれてしまったあの子達の人生がどうか少しでも幸せでありますようにって。だってね・・・ただでさえ重い荷物持ってるわけでしょう?何万って社員の事を守らなきゃいけないの。花沢っていう企業が今のまま継続して存続するだけでも大変なのよ。優雅に暮らしてるだなんてとんでもないわ。経済的には裕福かもしれないけど、同じくらい辛くて苦しいこともあるわ。司君も類も・・・あきら君も総二郎君も同じでしょうね」

「・・・はい。花沢類はあまりそんな話はしませんけど感じています」

「だからね、私は類に素敵な恋をして欲しいの。それがあの子の人生を楽しくしてくれるでしょう?楓さんもそう考えてくれたらいいのにって・・・司君見てたら思うわ。仕方ないんだけどね・・・考え方は人それぞれ。せめて後悔しないといいわね」

「そうですね・・・」


本当にそっくりな笑顔・・・お母様が笑うと彼が笑ってるような気がした。
素敵なお母様だね。花沢類、子供の時は寂しかったって言うけど、こんな素敵なお母様だったんだね・・・だから、彼はあんなに優しい人なんだね。



そしてお母様の計らいで花沢の人が私の会社に出向いて退職の手続きをすべて終わらせてくれた。
僅か3ヶ月しか働くことが出来なかったけど、これで1つすっきりした。私の1日は全部彼のために使える。彼が目を覚ましたあとでも、ずっと彼のことだけ考えていける。

加代さんが新しい服を持ってきてくれた。
この特別室の小さなタンスに私のものが並んだ。そして花沢類が目を覚ましてここを出る時の服が一揃え・・・早くこの服の出番が来ますようにと毎日それを触っていた。


今日も雨が降ってる。
花沢類の声はまだ聞けなかった。


**


そして10日目が過ぎて花沢類のお父様が帰国してきた。
お父様もお母様同様彼の身体に触れながら名前を繰り返す・・・流石に涙は見せなかったけど何度も頬を撫でて辛そうな表情を見せた。
それは会社の後継者を心配する顔ではなく、父親としての愛情・・・お父様も息子の回復を純粋に願ってる。
大勢の秘書を従えていることだけがこの人を世界的企業の代表者なんだと思わせたけど、あの楓社長のような恐怖心は感じさせない人だった。

やっぱりお父様も私のことは責めなかった。
「長い人生の中ではこんな不運な時もあるものだよ。でも、類はそれに打ち勝つ子だと信じているからね」・・・そう言ってくれた。

そして私に彼のことを頼むと手を握られ、数日後お父様はまたフランスに戻ると言っていた。



「まだかしらねぇ・・・いくら寝るのが好きでも少し寝過ぎだわ。類・・・早く起きなさい。もう何回朝が来たと思ってるの?」

お母様は枕元で話しかけた。

そろそろお医者様達も焦りだした。ここまで意識が戻らないのはおかしいと。
だけど、こればかりは誰にも予測が出来ないというのが病院の答えだった。
数ヶ月意識がないまま帰らぬ人となったケースもあれば、数年間意識が回復しなかったのにある日突然目を覚ました人もいる。

「大丈夫ですよ、お母様。彼は私に会いに来てくれるって約束したんです。今まで1度も約束を破ったことがないんです。だからきっともうすぐ会いに来てくれます。多分、雨の日に・・・」

「牧野さん・・・くすっ、そうね。きっともうすぐね」


「あとはお願いね」と、お母様はまた仕事に戻っていった。
私と花沢類はまた2人きり・・・窓の外の重たい雲を眺めていた。


「花沢類・・・もうすぐ雨が降りそうだわ。今日は少し酷くなるみたい。でもここは雨の音は聞こえないものね」


その時にふと考えた。
もしかしたら彼が目を覚ますなら・・・。


私は急いでお母様のあとを追いかけた。

エレベーターの前に行ったらちょうど降りたばかり。次に上がってくるのを待つ気分にならなくて、私はすぐ横の病院関係者用の階段を駆け下りた。
数段飛ばしなんて子供の時以来、すごく怖くてドキドキしたけど一気に下まで降りていった。途中ですれ違った何人かの看護師さんに怒られたけど、そんなことに返事もしないで。

そして車に乗り込んだお母様を見つけて大声で呼び止めた。
お母様がその車から降りてきて、駆け寄った私を抱き留めてくれた。1度も止まらずに階段を駆け下りたから息が上がって、額に汗までかいて、そんな私を見てお母様は驚いていた。

「牧野さん、どうしたの?類が目を覚ましたの?」
「いえ、違うんですけど、探して欲しいものがあります!はぁはぁ・・・もしかしたら彼が目を覚ますかもしれないから・・・」

「え?何を?何を用意したらいいの?」
「それは・・・」


私はお母様に「雨の音」を頼んだ。

花沢類に聞いてもらうの・・・雨の音。
そうしたら彼はきっと私の所に来る。


『大丈夫・・・俺はいつもあんたの横にいるよ。雨の日には必ず来てあげるからね』



次の日、お母様は効果音専門の業者に頼んで「雨の音」を持ってきてくれた。
そのCDを病室でかけて、私は彼の手を握りしめた。

彼の髪を撫でて、頬に触れて、そっと話しかけた。


「花沢類・・・今日は雨なの。迎えに来て?私、ずっと待ってるのよ」




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2018/07/12 (Thu) 14:53 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ノエノエ様、こちらでは初めましてですね♥こんばんは~!
ご訪問&コメントありがとうございます。

おおっ!そのように優しいお言葉・・・「隣の部屋の彼」お楽しみいただけているのなら嬉しいです!
ほんのちょっとの笑いとほんのちょっとのラブ度で申し訳ないと思いつつ、毎日書き進めております。

ちょうど今が1番辛い部分でしょうか・・・。
これから2人で乗り越えて行きますので応援してやってくださいませ。

ふふふ、お気づきですよね。
バイオリンの謎にもこの火事の後に入っていきます。

雨の方は・・・類君、ちょっと寝坊助なのでなかなか起きてくれません(笑)
そろそろ起きてくれないかなぁ?ですよね。

こちらは短編ですのでもうラストに向かっています。
雨の被害が多い中での公開が少し気にはなっているのですが、あと2話ほどですのでお付き合いいただけたらと。


どんどん暑くなって来ましたね。
ノエノエ様もどうぞ体調にお気をつけてお過ごしくださいね。

それでは、また~♥

2018/07/12 (Thu) 20:29 | EDIT | REPLY |   

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