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plumeria

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・・・・・・なんだろう、誰かが呼んでる。泣きながら・・・誰かが呼んでる気がする。

それになんの音だろう・・・。
小さい音だけど、この音が聞こえたら・・・俺は行かなきゃいけない場所がある・・・そんな気がする。


俺を呼んでるその声が・・・この音の中で泣いてる。
だから傍に行かなくちゃ・・・抱き締めなきゃ。

待ってるから・・・俺の事を待ってるから。

でも、誰が?


雑音みたいな音から・・・雫のような音に変わった。これはなに?・・・水の音?何かに水が落ちてる音・・・?
でも聞いたことがある、大事な人とこの音を聞いた気がする・・・遠い昔に。

この音を聞いたら・・・泣いてしまうから。


俺がいないと泣いてしまうから・・・行かなきゃ。
誰かが肩を振るわせてるから。



『・・・花沢類・・・花沢類?・・・目を開けて?』


また誰かが呼んだ。俺の名前を悲しそうな声で・・・でも、身体が動かない。何処かが凄く痛む・・・頭?そう、頭が痛い・・・。
何処かで打ち付けた?凄い大きな物体が目の前に・・・そう、目の前に何かが来て、それで・・・


『・・・今日はね、雨なの。花沢類・・・雨が降ってるのよ・・・』


雨?・・・雨が降ってる?
雨が降ったら・・・迎えに行かなきゃ。誰を?・・・1人で傘を差せない人・・・雨が降ると怯える人がいたような・・・。

でも、俺は雨が降るのを楽しみしてた・・・その人に会えるから。


『・・・独りだと寂しいよ。ねぇ、花沢類、私ね、あの傘・・・使ってみようかな。2人で入れるかな・・・どう思う?』


え?傘を差すの?あんた・・・大丈夫なの?あんたって・・・誰?
今そこにいるのは誰?俺を呼ぶのは・・・雨が降ったって教えてくれるのは・・・その声、凄く聞きたかった声だよ・・・。

もう1度、俺の名前を呼んで?今、目を・・・開けるから・・・


『花沢類?ねぇ・・・今度連れて行ってくれるお店、見つけてくれた?花沢類・・・』


うん、待ってて・・・

探したんだよ、新しくオープンしたお店・・・あんたのために探したよ。



**



「ねぇ、花沢類。もうすぐ梅雨が開けるんだって。そしたら暑い日が続くね。晴れの日ばっかりかも・・・今年の夏は雨が少ないって言ってたよ?」

お母様が持ってきてくれたCDを流しっぱなしにして私は彼の手を握っていた。
気のせいかもしれないけど花沢類はこの音を聞いてる気がした・・・心なしか顔色が明るいように見えるから。

綺麗な手・・・事故に遭ったとは思えない手。
それを自分の口元まで持ってきてそっとキスして指をさすった。早く・・・この指が動いて私の手を握って欲しいなって・・・そればかりを祈ってた。


「花沢類?ねぇ・・・今度連れて行ってくれるお店、見つけてくれた?花沢類・・・」

その時、微かに小指が動いた・・・?


私はビクッとして彼の顔を見た。でも、顔は全然動かなくて目も開いてない・・・だけど、今少しだけ指が動いた!

私は急に手を握る力が強くなって、片方の手を彼の頬に伸ばした。耳元まで顔を近づけて名前を呼んだ。

「花沢類?気が付いた?花沢類・・・ねぇ、類?私だよ?牧野だよ・・・類?」

そう言ったらピクッとまた指が・・・!今度は人差し指が動いた・・・!
慌てて手をさすって、身体を少しだけ揺さぶった。自分の心臓がドキドキし始めて涙が出てきた・・・目を開けるかもしれない!

「花沢類!ねぇ、目を・・・目を開けて?声を聞かせて?花沢類、お願い・・・!」


急いでCDの音量を上げた。
まるでこの部屋の中が本当に雨の中にあるみたい・・・まるであの時の、傘を飛ばした夜みたい。
泣いて泣いて彼の胸を叩きながら泣いたあの日の夜みたい。だけど私の耳はこの音をしっかりと捉えていた。

聞こえなくなんかならない。あなたがここにいるんだもの・・・私はもう怖くない。

「花沢類、私はもう雨は怖くないよ?大丈夫だよ?・・・花沢類を失うことの方が怖い・・・だから目を開けて?私の所に戻って来てよ・・・類、私の横にずっといてよ。類・・・類・・・!」


・・・花沢類の眉が少し歪んだ。
・・・彼の酸素マスクの中の唇が少し動いた。

・・・彼の閉じていた目がほんの少し・・・開いたのはその直後だった。


「花沢類・・・!気が付いた・・・気が付いたんだね?類、良かった・・・良かった!!」
「・・・・・・あ・・・」

「え?なに?・・・なんて言ったの?花沢類・・・私はここにいるよ、類!」
「・・・あ、め・・・が」

雨?雨って言ったの?花沢類・・・声を出してくれたんだね?!
もう1度彼の頬を手で覆ったら今度は顔を少し傾けた。ホントに・・・ホントに少しだけ・・・でも、その目がさっきよりも開いて、私の方を見ようとしてる。
その唇が何度も動いて何かを伝えようとしてる・・・酸素マスクを外して唇に少し指を当てたらそこが微かに震えていた。


「ね、私のことわかる?類・・・わかる?」
「・・・ま・・・きの?」

「うん、うん、牧野だよ・・・類、私ずっと待ってたんだよ・・・類」
「・・・まきの・・・雨、の・・・音がする」

「そうだね・・・でも、私はもう平気だよ?耳は聞こえてるよ?類の声、聞くために待ってた・・・!」

類の手が弱々しく動いて私の手に触れた。
まだ力なんて全然入らないのに・・・そしてもっと伸ばして私の頬を撫でてくれた。


その手を私が両手で掴んだら・・・嬉しそうに笑った。
前のように優しい瞳で、痩せてしまった顔だけどその口元が少しだけ緩んで白い歯が見えた。


花沢類は・・・私の所に戻って来たんだ・・・!


「おはよう、花沢類・・・随分長いお昼寝だったね」
「・・・ごめんね。待たせたんだね・・・」


特別室に流れる雨の音は・・・今は穏やかな音に変わっていた。




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お話しの中の気象に関する記述は現実のものとは違います。
あくまでもお話しの中の設定です。
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2018/07/14 (Sat) 14:28 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんにちは。

ふふふ、類の記憶がなくなると思った方も多かったようですが、ここは記憶飛ばしたら短編じゃなくなるんで。
この辺で目を覚ましてもらってめでたしめでたし・・・(笑)

雨の効果音って何かの番組で見たことがあって、それで思いついたお話しです。
波の音とかもあったなー・・・予想外のすごいものを使って出すんですよね。

波の音は小さな石とか砂とか使ってたような気がする・・・。


猛暑の中ではございますが、あと2話で終了です。
最後まで宜しく~♥

2018/07/14 (Sat) 19:33 | EDIT | REPLY |   

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