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plumeria

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類に抱きかかえられるようにして立ち上がり、彼の車に向かった。

こんなに汚れた私を抱き締めてたから彼まですごく汚れてる。この人の身体をこんなに汚した上に彼の車に乗ることが出来ず、私は歩いて帰ると言ったけど、そんな言葉を無視して助手席に強引に入れられた。

窓の向こうは真っ暗だったけど微かに陽翔の影が見える。
まだ呆然とその場に立ち竦んでる・・・同じ寮で同じ階なのに一緒に帰ろうなんて言葉は類の口からは当然出なかった。

たとえそう言ってもこの車に乗るわけはない。それがわかっているからなにも言えなかった。

類も黙ったまま車を発進させて、崩れかけたcantabileから遠ざかった。
暗闇の中に消えて行く陽翔とお店を目の端で見ながら、ヴァイオリンを抱えた指に力が入る・・・そしたらまた少し欠けてしまって小さな悲鳴を上げた。

「あ・・・」
「どうした?」

「何でもない・・・ごめんなさい」
「もう謝るのはやめな。あんた1人のせいじゃない」

類はそう言ってくれるけど、橋本さんにはどう言えばいいの?間違いなく、これは私のせいだよ・・・。
私がきちんと陽翔に話していたらこんな事にはならなかったかもしれない。沙耶香さんのピアノがこの世から消えずにすんだかもしれない。
私の罪は・・・許してもらえるもんじゃない。堪えられなくなって私の目はからはまた涙が溢れてきた。

「うっ・・・えっ、え・・・うっ・・・」

「泣いて気が済むなら寮までね・・・運転してるから拭いてあげられない。ごめんね・・・」


優しい言葉ほど胸に突き刺さる。
類の言葉はすごく嬉しくてたまらないのに、同じぐらい苦しくなる。ごめんね、なんて言わないで・・・悪いのは私なんだから。



そして寮に着いたらいつものように「先に降りな」なんて言わなかった。
毎回ガレージに車を入れる前に降ろしてくれるのに、今日はそこに入れてから助手席のドアを開けてくれた。そして黙って手を差し出してくれて、私の黒い手は彼の手を取った。

背中を支えられて、一緒に寮の中に入ろうとするから私の方が足を止めた。


「一緒に入ってもいいの?守衛さんはいいかもだけど・・・管理人さんは?」
「・・・いいんだ。もう気にしない。このまま俺の部屋においで」

「え?あの、玄関から?」
「そう、もうベランダなんて渡らなくていい。牧野は心配しないで」

類の表情は火事の真相がわかったってことだけじゃなく、この焦げたヴァイオリンが見つかったってことじゃなく、何か別の問題が起きたんだって感じさせた。
それほど真剣で思い詰めたような目をしてる・・・もう、301号室に私が入ってもいいってどういう事だろう?


すごく汚れた私達が門から寮に入ると、その光景に守衛さんは驚いていた。
でも、類がチラッと見ただけで定位置に戻り顔を背けた。管理人さんは出てくる様子もなく、私達は足早に階段を上がってドアから301号室に入った。

それは花沢の監視カメラに当然、映ってる。
花沢家に見られてるかどうか・・・それすら私たちはわかってないんだけど。

見ちゃいけないと思うのに、ドアが閉まる直前・・・監視カメラを見てしまった。あれだけ類は避けてきたのに・・・私の中の疑問は言葉に出来なかった。


************


思った通り、cantabileに放火したのはあの子だった。

橋本さんにはきちんと話しに行こう、もうそれしか自分には出来ないから・・・これで彼との付き合いが終わってしまうことも諦めがついていた。
警察はすぐに由依から事情を聞き出し、あの子は誤魔化しきれずにそれに答えるだろう。
それがすべて終わってから橋本さんと向き合おう・・・牧野を助手席に乗せて車を走らせながら、その時彼がどういう反応をするかを恐れていた。


そしてもうひとつ、母さんからの電話をここで思い出していた。


『急なんだけどあなたにすぐにフランスに行って欲しいの。大学に休学届を出して1度自宅に戻ってきてくれない?』


明日には自宅に戻ると言ってしまった。

恐ろしいのはそのまま寮に戻ることを許されない状況になってしまうこと。それなら牧野にこのことを話さないといけない。
こんなにショックを受けているのにこれ以上泣かせたくはなかったけど、花沢が焦っている・・・こういう時はどんな手段に出るかわからなかった。

これは今までに無いことだから。
単なるパーティーの参加や誰かと会食するとか、そんな簡単なことではないはずだ。


だから、もう牧野の事を隠したりする余裕はない。
フランスに行く理由が想像通りなら牧野の存在を表に出して闘わなきゃいけない・・・そうじゃないと俺の人生はなんの夢も光もなくなって、花沢に縛り付けられた闇の中で生きていくことになってしまうから。

だから寮に着いてもこれまでのように牧野と別れて入るようなことをしなかった。
見るんなら見たらいい・・・俺には牧野という存在が傍にいて、それを誰にも邪魔させない。もう、隠したりはしない。

あえてそれを記録させるかのように牧野の背中を支えて自分の部屋に戻った。


部屋に入っても牧野はすぐに靴を脱ごうとはしなかった。
自分があまりにも汚れてるから・・・それを気にしてのことだろうからすぐにバスルームの準備をした。


「牧野・・・シャワー浴びておいで。それ、もらうよ。ありがとう」

「うん、ごめん。こんな形でしか持って来れなかった。ケースが外に落ちてて半分焼けたみたいになってて、出来るだけ丁寧に取り出したんだけど、もう・・・こんなに焦げてて」

「仕方ないよ。ガスに引火して爆発してるし、あの保管庫は調理場の真上だから衝撃はあったと思う。少しでも手元に帰ってきてくれて嬉しいよ」

「・・・・・・ほんと?」
「もちろん」


牧野はヴァイオリンをテーブルの上に丁寧に置いて、そのままバスルームに向かった。
試験勉強をした時に何度か俺の部屋のバスルームを使ってるから、少しだけドレッシングルームに自分の着替えを置いている。バスローブだけ手渡すといつもは赤くなって受け取るのに、今日は無表情だった。


牧野が置いたヴァイオリン・・・もう、元々の色でさえわからない、黒く汚れた半分だけの姿。
これがお婆さまが弾いていたあのヴァイオリンだとは信じたくなかった。

すぐ近くに置いてある無傷のお爺さまのヴァイオリンが余計に悲しく見える。
仲良く並んでいたのに・・・すぐにお返ししますよ、と約束していたのに。


こんな姿になったけど、これをお爺さまの横に置こうと思って比較的形を留めていたネックグリップのスクロール部分を手に取った。

そして・・・やはりこの時も思い出した。


どうしてこのスクロールに俺がつけた傷がないんだろう・・・黒くなったその部分を手で拭いてみたけど、やはり傷はない。
確かにここに小さな傷をつけてしまったのに。


何故・・・こんなにも胸がザワつくんだろう。




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2018/07/16 (Mon) 09:01 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、おはようございます・・・。

イヤ・・・ホントにそうだったらギャグだよね?(笑)
橋本さん、生活苦で・・・「ごめんね、類君。これ、よく似てるから許して?」・・・ひえ~💦

でも、そうだったらいいのか!戻ってくる・・・いや、もう売ってるか(笑)


橋本さんが逃亡するかどうか、見届けましょう!!

そちらは気温が高いみたいですね。
お身体には気をつけてね?水分とって睡眠とって、倒れないで下さいね~!

2018/07/16 (Mon) 09:18 | EDIT | REPLY |   

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