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plumeria

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バスルームから牧野が出てきて、少しピンク色に染まった頬で目の前に現れた。
いつもなら恥ずかしそうにしてるのに今日は目が潤んだまま・・・自分が抱えて帰ったヴァイオリンがお爺さまのケースの前に動かされてるのを見てまた涙を流した。

「もう気にしないで・・・これはこれでいいんだよ。牧野の言う通り、きっとお婆さまはお爺さまと一緒にいるから」
「・・・うん、そう・・・だよね」

「ん、俺もシャワーしてくるから、何か飲んで待ってて」


牧野と入れ替わりにバスルームに向かって、自分も煤だらけの身体を洗い流した。
身体を伝って流れていく灰色に変わった湯を見ながら・・・牧野がどんな想いで2階に上がったのかを想像してしまった。

懐中電灯1つ持って、崩れそうな階段をたった1人で上がって、不安定な足元に怯えながらあれを必死に探したんだろう・・・自分がどれだけ汚れても、どうしても俺に届けたかったんだろう。
座り込んで暗闇に当てた光の中で震えていたのかと思うと・・・ショックで部屋から動けなかった自分の事が情けなかった。


俺がバスルームから出ても牧野はジッと焦げたヴァイオリンを見つめていた。

小さな彼女がもっと小さく見えてしまう、それが悲しくて後ろからそっと抱き締めたら身体を俺に預けてくる・・・まだ少し濡れてる髪にキスした後にすぐ傍のベッドに座らせた。

「くすっ・・・ちゃんと洗った?鼻の頭に煤がついてる・・・」
「うそっ・・・!洗ったはずなのに」

「ちょっと待って・・・すぐに取れるよ」

近くに置いていたティッシュを手に取って牧野の鼻の頭を拭いたら、今度は恥ずかしそうに頬を染めて俺にしがみついてきた。


「牧野・・・本当にありがとう。ごめんね、俺が落ち込んでばかりで動かないからあんたにそんな心配かけて」
「・・・ううん、落ち込むのは当たり前だよ。それだけ大事なものだもん・・・もう弾けないだなんて残酷だよ。あんなに・・・あんなに大事にしてたのに」

「でも、お爺さまのは牧野のお強請りのせいでここに来てたから助かったよ。もう大丈夫・・・このヴァイオリンが2人の形見になっただけ。俺の傍にはちゃんと2人がいるよ」

「・・・でも、ピアノは・・・」

「それは事件が解決したら橋本さんにも真相は伝わるはず。もし彼がこのことで俺達を恨むんなら俺が全部引き受けるし、許してくれるならこの先安心して暮らせるように援助したい。それは俺の仕事だからあんたは気にしないで。悪いのはあんたじゃない・・・色んな不幸が重なっただけ」

「類・・・私たちは笑ってもいいのかしら」


「・・・うん、橋本さんもお婆さまも・・・会ったことはないけど沙耶香さんもそれを願ってるとは思うよ」



*************



由依さんがパトカーに乗せられて、陽翔が呆然と立ってて・・・類は何故か私を玄関から部屋の中に入れた。
どれをとっても断片的な映像が頭の中で繰り返される。わからないことが沢山ありすぎでパニック寸前だった。

そして、今は類の腕の中にいる・・・すごく温かくて安心するけど、自分だけがこんなに温かい場所にいていいのかと思うと苦しかった。

どのくらいこうしていたのかわかんないけど、日付がもう翌日に変わったと思う頃に類が小さな声で話し始めた。
それは火事のこととは全然違う、私が気になってた彼のもうひとつの悩みだった。

「実はさ・・・明日、自宅に呼ばれてる。フランスへ行けって連絡があったんだ」
「・・・え?類がフランス・・・日本を出るの?」

「いや、仕事じゃないと思う。俺はまだ会社に関わっていないから。そうじゃなくて・・・何かが起きたらしくてね。俺に力になれって言ってきたんだ」
「・・・仕事以外で類に力を?どういう事?」

「・・・よくわからない。ちょっと待ってて」


彼は1度私を離してからパソコンを取りに行った。
そしてベッドに戻って来て私を後ろから抱くような感じで、私の膝の上にパソコンを置いた。私の肩の横からその画面を覗くように・・・パソコンで自分の会社、花沢物産について調べ始めた。

ネット上で見る花沢物産のホームページは世界有数の大企業であることを感じさせるものだった。私にはよくわからないページの数々、専門用語・・・日本語以外の表記も多く、すべてのページが英語とフランス語に切り替えられるみたい。

トップページには少し怖い顔の社長・・・類のお父様の写真があった。

類はその中で最新のニュースなんかを見ていた。
私には何が書いてあるのかわからなかったけど、一緒に覗き込んでいたら今やってる事業のことや過去の事業の成果についてとか、社員のレクリエーションのこともあったし社長やお母様のプライベートも書いてあった。

そしてその中に瞬間見えた類の写真・・・無表情で両親の後ろに並び、何かのパーティーに出ている時のものみたいだった。
チラッとその時に類の顔を見たら・・・「写真嫌いなんだって・・」って恥ずかしそうにしていた。


暫くそれを見ていたけど急にホームページを閉じた。
そして今度はフランスの経済関連のニュースが載ってるサイトに変えた。

すべてがフランス語で書いてあるんだけど私にはまだ全然読めない。だけどフランス語が完璧な類にはそこに何が書いてあるか、日本語を読むのと変わりなくわかるらしい。
何度もページを変えては何かを探しているようだった。

そして「あった・・・」って小さな声で言うと、あるニュースについて書いてあるページを読み始めた。
私には時々読める”Hanazawa”の単語しかわからない。でもその記事を読み込んでいく類の表情は少し厳しくなっていった。

「どうかしたの?フランスで何があったの?」
「ちょっと待ってて・・・うん、向こうで今やってる事業がトラブったみたい」

「トラブった?なんの事業?」

「フランスで1,2を争うローラン社って企業と共同で、フランス国内の主要観光都市を最速で結ぶ鉄道工事に取り組んでる。今年の春から初めて完成までには数年間かかるって言われてるんだけどね。その事業でうちの方が設計をミスって凄い損害が出そうだって・・・まだ調査中みたいだけど、そのせいでローラン社と他でも組んでる事業全て手を切られそうだって・・・そうなったら企業経営の立て直しに時間がかかりそうだね」

「それで・・・類は何をしに行くの?」


「・・・ローラン社の1人娘に会えって言うんだと思う」


どうして?会社のトラブルに・・・どうしてそんな事が必要なの?

会ってどうするの?
会わなかったらこの事業は失敗で終わるの?

もし、会ってしまったら・・・その人と類はどうなるの?会えば事業は進むの?・・・頭に浮かんだ疑問は言葉には出来なかった。

類はパソコンの電源を落とした。
そしてそれを机に戻して、私の横に戻って来た。


「心配しないで。あんたのことは会社とは別・・・俺は会社のために相手を選ばないから」


「・・・私は類のことを好きなままでいいの?」
「勿論。俺は変わんないよ」

「・・・絶対?類・・・約束してくれる?」


「今から約束しようか・・・」




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2018/07/17 (Tue) 06:04 | EDIT | REPLY |   
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2018/07/17 (Tue) 09:34 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんにちは。

あっはは!!爆笑ーっ!!
まだ何も書いてないのにーっ!

違ったらどうする?

2018/07/17 (Tue) 11:54 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さゆ様、こんにちは!

あはは!そんなに・・・(笑)
さてさて、類君、どうなるんでしょうか。気になるとは思いますが応援していただけると嬉しいです。

意外な展開かもしれませんよ?

雨は明日がラストですね!
読んで下さった方の中には記憶が・・・と、思った人も多いでしょうね(笑)

大丈夫♥こちらはラブラブで・・・。
ほとんどお話しの展開はわかっているとは思いますが、類君の幸せを見届けてやって下さいね♥

宜しくお願い致します!

2018/07/17 (Tue) 12:00 | EDIT | REPLY |   

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