FC2ブログ

plumeria

plumeria

牧野は笑っていた。とても優しい笑顔で・・・


「お前・・・類の事を忘れられないって事じゃなかったのか?それなのに俺に振り回された事に怒ってるとかじゃ・・・
自分の知らないうちにだぞ?」

牧野は照れ笑いをしながら俺の横で話しを続けた。

「総二郎がいなかったら私はもう生きてなかったかもしれないよ?ずっと側にいてくれたでしょ?そうね・・・2ヶ月
くらいかな。私、まるで人形みたいに何にも出来ない状態が続いてて、あの離れにいたのを覚えてるよ。
総二郎は毎日そんな私を抱き締めてくれてたでしょう?
本当はね、1人になりたいときもあったのよ。総二郎がいることが気になることもあった。でもね、いつの間にか
総二郎がいないと不安になってきて・・・今度は私の方が総二郎を追いかけるようになってしまって・・・」

俺は牧野に抱き締められたまま、優しく囁かれる牧野の声を聞いていた。

「それは今でも同じなの。類の事は思い出したと同時に過去になったの。今はあのパーティーのことも平気だよ?
類の事も嫌いになったとか許せないとかって思わないし、むしろ今の類の方が幸せかどうかが気になるくらいよ?
これは総二郎のお陰だよ。・・・ありがとう、総二郎」


そうじゃないよ。そうじゃない・・・

お前のためにしたんじゃない・・・俺は自分のためにしたんだ。
お前を離したくなくて、自分が幸せになりたかっただけだ・・・。

「牧野が思ってるような男じゃねーよ。自分勝手で我儘だっただけだ・・・」

「それでも私は沢山幸せをもらって、この一年間楽しかったよ?出来たらこの先も総二郎と一緒にいたい.
それとも、総二郎は思い出した私は嫌なの?あなたの友達ばかりを好きになる女だから・・・」

そんなわけないだろ・・・何年間黙ってみてきたと思ってんだ?今更・・・そんな昔の事なんて言わねーよ!
そんな言葉ですら口から出ないほど、俺は自分が情けなくてたまらなかった。


「じゃあ、もう一度聞いていいか?これで最後だ」

「どうぞ?何でも聞いて。ちゃんと答えるから」

以前に何回も確認したこの言葉を、改めて言うよ・・・今度は間違いなくお前の本心だろうから。


「俺はお前とこの西門を継ぎたいと思っている。俺の抱えてるものを半分持ってくれるか?」

前にしたお前へのプロポーズの言葉、あの時はちゃんと返してくれたなかったよな。

「はい。・・・どんな荷物でも大丈夫よ・・・私が半分持ってあげる」


今までの力が全部抜けて、そこに残ったのは自分の思い込みのせいで溜まってしまった疲れだけ・・・

「ねぇ、総二郎。それで、さっきからの話の続きなんだけど、私の病気のことを・・・」
「もう我慢できない・・・その前にキスさせて・・・」

俺はこんなに大事な話をしてるのに、牧野が欲しくて欲しくて・・・夢中でキスをした。
こいつの中から類が消えたんだと思うと、もう我慢なんて出来なかった。
結局、朝まで牧野を離さなくて・・・どこかでいつも引っ掛かっていたものがなくなったせいなのか、この日の夜の
牧野は今までで一番綺麗に見えた。

******

牧野を離さないまま次の日になってしまってベッドの中で小さな声で怒られた。

「あのね?!私は本当に真面目に話をしてたのよ?」

「悪かったって・・・真面目に話すつもりだったんだけどお前があんまりにも可愛い事言うからさ、つい・・・なっ」
「総二郎がこんな時にプロポーズみたいなこと言うからっ!」

「あのプロポーズは2回目だ。お前、最初の時に返事してくれなったからな。順番が変だけど再確認だよ」

えっ!って顔すんな。
最初に言ったときはお前がまで不安定な時だったから許してやるけど、こんなこと2回もこの俺に言わせるのはお前くらいだ。

まだ一つの布団の中で向かい合うように寝ていた俺たちは自然と唇が近づいた。
そしてそれを重ねながら、牧野の腕は俺の背中に回る・・・もちろん俺の腕は牧野の身体を引き寄せる。
・・・っていい感じになったところで、

「だめよ?もう朝だから!ここまで!」

突然の待て!にびっくりはしたが、それもそうだ。もうすぐ朝の早い弟子達が動き始めそうな時間だ。

「はいはい、わかったよ。お前も昨日のままだから早めにシャワーでもしとけよ?」


今日は2人揃ってダイニングへ朝食を食べに行った。
志乃さんがちょっと笑って俺の方を見ている。それが気恥ずかしくて自分が赤くなってるような気がする・・・

「志乃さん。今日は家元夫人はどんな予定でしょうか?話したいことがあるんですが」

「今日ですか?午後は確かお客様がいらっしゃいますけど、午前中なら大丈夫だと思いますよ?」

「では、食事が済んだらお会いしたいので伝えてもらえますか?」

今日は親父は不在だったから、まずはお袋に牧野の事を早く話したかった。
俺の隣では牧野が少しだけ照れながら箸を動かす・・・わざと俺から視線をそらせてるけどそれって・・・かえって
皆にバレると思うんだけどな。


******


「お話しがあるそうですけど、どうしたんですか?何かあったの?」

不安そうに聞いてくるお袋に2人で笑顔を返した。お袋は怪訝な顔で俺からの言葉を待っている。

「牧野から昨日聞いたんです。記憶が・・・戻っていたそうです。やはり、この間のクリスマスに倒れたときに。
それで、そのご報告をしに来ました」

「おば様、長いことご心配をおかけしました。すぐにお話ししなくて申し訳ありませんでした。自分の中で整理してから
と思っていましたらこんなに伸びてしまって」

お袋は持っていた湯飲みを落としそうになりながら・・・その細い眼を見開いて俺たちを見ていた。
俺達が普通だったからすぐに、表情を戻したが何かを聞きたそうにしながらも言葉が出ないようだった。

「ご心配いらないようです。ちゃんと私とのことを考えていてくれるようですから・・・安心して下さい」

そう言うと、大きなため息と共に湯飲みを置いて両手で顔を覆った。
牧野が慌てて席を立ってお袋の横に付いた。

「大丈夫ですか?ごめんなさい、おば様にそんなご心労おかけしてたなんて・・・」
「大丈夫よ・・・びっくりしちゃって!本当にあなた達は大丈夫なのね?その・・・」

「花沢さんの事ですか?もう大丈夫です・・・でも私の身体のことで心配があるので総二郎さんにご相談したんです。
おば様もご存じでしょう?私が時々変になってしまうこと・・・自分でもどうしていいかわかなくて・・・」

お袋は牧野の手を握ったまま、泣きそうな顔をしていた。
田村さん達から報告もいっていただろうから、この人なりに心配してたんだろうな。

「いいのよ。少しずつ良くなっていけばいいわ。自分自身を取り戻したのなら変わってくるかもしれないじゃない?
本当にびっくりしたわ・・・じゃあ、西門に入ることもお嫌じゃないのね?」

「はい。まだ何にも出来ませんけど、これからも宜しくお願いします」


「牧野の身体のことですが、精神的なものだとは思いますが治療などについてもまだどうするか決めてないんです。
専門家に相談するか・・・もう私にも話してくれましたから側で様子を見るか、またそれはご報告しますから」

いつまでも牧野の手を離さないんだけど・・・どうすりゃいいんだ?

「おば様、もう少し総二郎さんとお話ししなくてはいけないので、そろそろ・・・手を・・・」

「まぁっ!ごめんなさいね!もう心配で・・・ここまで来て総二郎さんが捨てられたら可哀想だと思って!」


「・・・その心配ならいいですから。万が一捨てられても親に可哀想がられる年じゃないですからね!」

お袋から牧野を引きはがして自分たちの部屋に戻った。


それよりもこれからは・・・本格的に類の影との戦いが始まる。

14920355660.jpeg
関連記事

Comments 0

There are no comments yet.

Leave a reply