FC2ブログ

plumeria

plumeria

「・・・つくし、お前・・・なんで」
「総二郎こそ何処に行っていたの?私はお屋敷にいたわよ」

「いや、俺はつくしが新しいケーキ屋があるって言うからそこに・・・」

総二郎は後ろを振り返ったけど、その時そこには誰もいなかった。
私も見たはずの長い黒髪の人は一瞬で消えてしまっていた。私も確かに黒髪が揺れたのを見たけど・・・誰もいなかった。

総二郎の顔が真っ青になる・・・そして額からは汗が・・・。


「でも、お前・・・部屋に踞ってたよな?誰とも口をききたくないって、顔も会わせたくないって」
「えぇ、そうよ。でも・・・それじゃいけないと思ってさっき思い切って厨房に行ってみたの。そこならお義母様は来ないと思って」

「俺が休憩の間に声をかけた時、近くなら行けるからって・・・それで着物を着替えるって言ったのは・・・」
「・・・それは既に私じゃないわ。私は何処にも行ってないんだもの」


「お前・・・今でもメロンは嫌いか?」
「うん、あんまり好きじゃない」

私たちはもう1度総二郎の後ろを見た。やっぱり・・・誰もいなかった。



部屋に入ったけど総二郎は頭を抱え込んで何も言わなかった。私もそんな総二郎を見て、厨房で思った事を言えなかった。

それよりもはっきりしたのは、もう1人”私”がいると言うこと。
それが誰で、なんの目的で西門で騒動を起こしているかわからなかったけど、これまでの不可解な出来事は彼女がやったこと。それをどうやって暴くのか、どうやってお義父様とお義母様に説明するのか・・・総二郎はそれを考えてるんだろう。

1番困るのは・・・総二郎にとって目の前にいる私が「本物」かどうか、区別がつかないと言うこと。


「総二郎・・・どうしたらいいんだろうね。わかってる・・・総二郎はこうして話してる私がつくしなのか、そうじゃないのかわからないんでしょう?総二郎でさえ騙せるんだもの、本当に私に似てるんでしょうね・・・って言うか、私そのものなんでしょうね。
どうやったらその人は私の前に現れてくれるんだろう。総二郎・・・私、どうしてこんな目に遭うの?」

「・・・すまない。俺は絶対につくしを見間違うはずはないって自信があったんだ。でも、そうじゃなかった。以前廊下で出会ったヤツも部屋で泣いてたヤツも少しつくしとは感じが違うって思ったんだ。大胆で・・・やけに甘い香りがして・・・でも、顔はお前なんだ。ただ、今日の女は・・・完全にお前だと思った」

「そして本当は今も私のことを疑ってるよね・・・本物かどうか。そうでしょ?」


「・・・ごめん」


いつもなら抱き締めてくれる腕が来ない・・・私の身体を包んでくれた腕は今、彼自身を包んでるから。
それを責めることも出来なかった。


総二郎がパソコンで何かを調べてる。

「何を調べているの?」って聞いたら何も答えてはくれなかった。ただ黙ってその画面を私に向けてくれた。
そこに表示されていたのは 「解離性同一性障害(多重人格)」の文字・・・総二郎は私が精神的な疾患を患っていると思ったらしい。

解離性同一性障害とは自分が自分であるという感覚が失われている状態。そんな中、自分の中にいくつもの人格が現れるのをそう呼ぶらしく、表面的にはまさに今の私だ。

記憶喪失、催眠状態や憑依状態なんかもこの解離性障害に入るらしい。
その中でも最も深刻なのが解離性同一性障害・・・1人の人間の中に複数の人格が存在するような状態で、それらの人格が交代であらわれる。多くの場合、人格が切り替わると前の人格の記憶がないらしい。

本来、受身的で控えめな人格であれば、これとは対照的な、より支配的、自己主張的、敵対的、性的にもより開放的な人格が存在する・・・と書いてあった。


「俺が出会ったのは・・・こっちのつくしなのかな」
「私では判断できないわ。だって覚えがないんだもん」

でも人格交代のスイッチがはいると一瞬、うつろな状態になり、時には演技かと思えるような発作が現れるとあったけど私にはそんな覚えはなかった。
この中で頷けるものと言えば、家族・・・お義母様達のことだけど、その人達に信用してもらえないという事だけだった。


「総二郎・・・でも、この症状だと身体は私のもの1つだよね?私の中に違う人格がいるって言うんでしょ?」
「・・・そうなるよな」

「でも、お庭の作業の時も、今日の総二郎のお出掛けの時も、私は自分の居場所を把握してるわ。それでも他の場所で”私”が動いてる・・・そういうことだよね?」


総二郎の手が止まる・・・。
人格も違うけれど、確かに身体も違うんだ。

さっき・・・彼の後ろに長い髪を見たんだから。


*************


この仮定の話を両親に伝えたが何ひとつ信じてもらえず、俺にまで指導不足だと説教する始末。
つくしの立場はどんどん悪くなっていった。

つくしも俺にまで間違えられたことが余程ショックだったのか部屋を分けたいと申し出てきたが、出来るだけ同じ場所にいないと俺が不安だと言い、仕事のない時は自室でつくしを抱き締めたまま離せなくなった。
その度に「私を信じて・・・」と小さな声で泣くつくし・・・どんどん細くなるこいつのことが心配で堪らなかった。

このまま消えてしまいそうで・・・それがもう1人の”つくし”の思惑のような気がして。


「・・・何か食わないとこれ以上は身体が持たないよな。料理長に何か頼むか・・・」

つくしがベッドで伏せているときに粥でもいいから作ってもらおうと調理場へ向かった。
お袋は今は来客中、親父も自室で仕事中・・・今なら何も言われないだろうと足早にそこに向い、厨房のドアを開けたら目の前で料理長が作業をしていた。

「おや、若宗匠がここに来られるとはお珍しい。若奥様のお食事ですか?」
「あぁ、あんまり食えねぇみたいだから何か粥でもと思って」

「いけませんねぇ・・・でもそのうち食べられるようになりますから若宗匠があまりご心配されなくても大丈夫ですよ。お粥が良ければ栄養価の高いものを作りましょうかね」

「そのうち・・・?」

「・・・あれ?病院に行かれたのではないのですか?いやね、お屋敷でその話にならないからまだ公にしてないのかと心配していたんですが?」


「・・・料理長、なんの話だ?」

驚いたような顔の料理長につくしが前にここに来た時の会話を聞いた。
それに驚いて俺は調理場を飛び出した。

まさか・・・本当にそうなのか?それならすぐに病院に・・・!こんな時なのに自分がすげぇニヤけてるのがわかって笑えた!


だが、そんな俺の前に出てきたのは志乃さんを従えたお袋・・・いつもより怖い顔で睨み付け俺の足を止めた。

「どうしたんだ?悪いけど今、急いでんだ。つくしの所に・・・」
「そのつくしさんの事なんだけど」

「つくしにまだ何か言いたいのかよ!だから何度も言うけどあれはつくし本人じゃねぇんだって!」
「そんな馬鹿げた話はどうでもいいのよ。婦人会でも話が出たんだけど、あなた達・・・離婚するかもしれないわ」

「・・・は?何言ってんだよ!そんな事するわけがねぇだろうが!!」

「婦人会や後援会からはそんな話が出てるのよ。やはり無理だったんじゃないかって。追い出されやすいように自分から種を撒いてるんじゃないのかって言う人もいるわ。総二郎さん、頭に入れておくことね」

「冗談じゃねぇ!今はそれどころじゃねぇんだよっ!!」


離婚だと?そんな事になるわけがない!

もしかしたらあいつの中には俺の・・・


お袋の戯れ言なんかに付き合ってる暇はない。
急いで自室に戻ってつくしから話を聞こうと思って必死だった。大きな音を立ててドアを開け、つくしが寝ているはずのベッドに向かった。


「おい!つくし、寝てるのか?・・・つくし?」


そのベッドには・・・誰もいなかった。




b2ae1b1e555ffd087dc713ee83c4fedd_t.jpg
関連記事
Posted by

Comments 4

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/08/04 (Sat) 11:17 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

みわちゃん様 こんにちは!

暑いですねぇ~💦
私が住んでるところは以外と高くはならないんですが(西日本なのに)それでも暑い!
ニュースで38度とか40度とか……想像できません。

で、お話(笑)

あっはは!明日から物の怪さんが登場ですっ!!
もうよくある話なので深く考えずに総ちゃんとつくしちゃんの活躍をお待ち下さい。

うんうん、問題は西門ですよね~。
ここもラストでわかります。

怖くはないですからご安心下さい!(ホントホント!)

2018/08/04 (Sat) 11:57 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/08/04 (Sat) 16:54 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。

すみませんねぇっ!こんなにつくしちゃんを苛めて!
物の怪退治は今からですからお待ち下さいませ。

そのドラマ、私は知らないんですよ。
多重人格の話なの?物の怪の話なの?・・・その名前は聞いたことがあるんですけどねぇ。

テレビっ子じゃないからな(笑)


そうそう!気になってました。
大丈夫ですか?うちの土地はまだ35度しかいってないので想像が出来ないんです。

子供はね、毎日生存確認はしています。
電気代はいいから24時間エアコンつけとけっ!って言ってますけど。
運動するのでねぇ・・・気になります。

ご心配下さってありがとうございます。
さとぴょん様本人もご家族も熱中症にならないように気をつけて下さいね?

火星はねぇ・・・見えませんでした。
残念っ!!誰か見たって言ってましたよ。あすさんだったかな?

天体望遠鏡かぁ!いいなぁ・・・土星の輪と聞くと坊ちゃんを思い出しますが・・・。


95年後、挑戦したいと思います!!

2018/08/05 (Sun) 00:05 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply