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ここに来る前に前田さんに頼んでおいたもの。
それはお婆さまが生活する中で残していた手紙や伝票といった書類を纏めたものだった。

日記のような個人的なものではなく、誰かからの招待状や見舞いの数々、それに対しての返事や贈り物の内容。俺達のような家ではこういうものは一定期間処分せずに保管されている。いつ、どんな理由でそれが必要になるかわからないからだ。

小さな事でもトラブルを招くことがあるからすごく慎重に贈り物のやりとりは行われる。


この残された書類の中に、ヴァイオリンに関するものがないか・・・このドライブは牧野との時間を過ごすことも大事だったけど、それを探しに来たようなものだった。

「古い伝票とかだね・・・何か調べるの?」
「・・・うん、少しお婆さまのヴァイオリンで気になることがあってね・・・手掛かりを探してる」

「手掛かり・・・?なんの?」
「・・・実はさ」

不思議そうな顔で俺の事を覗き込む牧野に、自分が抱えている疑問の事を話した。
まだお婆さまが東京の花沢邸に来ていた頃にあのヴァイオリンのスクロールに小さな傷をつけてしまったこと。それは装飾の間と間、言わなければ気が付かないのかもしれないほどの大きさだったけど、傷をつけてしまった俺はずっとそれが気になっていたこと。

「それなのにさ、少し前にcantabileの2階で弾いた時、気が付いたんだ。その日はたまたまお婆さまのヴァイオリンを使ったんだけど、弾き終わった後で手入れをしていたらその傷がなかった。
磨いてなくなるような傷じゃなかったからどうしてそれがなくなったのか・・・その時は深くは考えなかったんだよね。でもさ、牧野が持って帰ったものを見た時やっぱり気になったんだ。どうして傷がないのか・・・もしかしたら修復に出したのかなって思って」

「傷って修復するようなものなの?そこって音と関係してるの?」

「いや、俺がつけた傷の部分は職人の拘りのようなもので掘られた装飾だから音とは直接関係ないんだ。ただ売るつもりなんてないから考えたことはないけど、そこの装飾も込みの価値ってことかな。俺が気になってるのは修復に出しててくれたならいいなって思ってさ。それなら傷がなくても納得できる・・・俺に言わなかったのもお婆さまの優しさかもしれないしね」

そう・・・修復したんならいいんだ。
それなら俺の心に燻ってる疑念も解決される。


そう思って上の方から1枚ずつ、書類を捲っていった。
驚いたのは意外と母さんとの贈り物のやりとりがあったこと。お互いの誕生日やクリスマス、母の日に敬老の日、何かの祝日には母さんが贈り物をしてお婆さまはお返しを送ってる。

特に仲が悪い嫁姑じゃなかったからこんなものなのか?
俺の知らないところでの2人のやりとりに違和感はあったけど、それはもう昔の事・・・何年分かの書類を捲っていくとそこに1枚の送り状のようなものがあった。

しかも・・・イタリア語。お婆さまの字で宛名が書かれている。
そこに一緒に保管されていたものはイタリアのヴァイオリン工房からの修復修了証と書かれたもの。お婆さまは自分のヴァイオリンを1度イタリアに送ったんだろうか?

その修復修了証にはイタリア語で『ご依頼の駒の高さとアールの調整、および魂柱のズレを修復致しました。その他、細部の補修と清掃完了』と書かれている。
つまりこちらから依頼して送ってるんだ。その時にこのストラディバリウスの鑑定書もつけているはず。それを探したけどなかったので前田さんに確認した。


「あぁ、ヴァイオリンの鑑定書でしたらここの金庫に保管してあります。ヴァイオリンが貴重なものですのでね、簡単にお部屋には置いておけないと奥様がいつも仰ってましたから」

「・・・見せてもらえる?」
「はいはい、持ってきますね」

ズキッとくる一言・・・牧野は困ったような顔で俺のシャツの裾を掴んだから苦笑いしてしまった。
そして金庫からお爺さまとお婆さま、両方の鑑定書を持ってきた。前田さんにはどっちがどっちだかわからないからだろう。


ヴァイオリンの鑑定書はほぼイタリア語で書かれていて、イタリア弦楽器鑑定家で知られるE、B氏のものが1番信用できると言われている。当然このヴァイオリンにもそれがついていた。
鑑定書には必ず写真がついてる。本体の表と裏、f字孔とスクロール・・・そう、スクロールの写真がついてるんだ。

ヴァイオリンには内側に紙で貼られたラベルがあるけどこれは当てにはならない。古いヴァイオリンなら尚のこと。
補修のためにその紙で貼られた程度のラベルは痛んでくるし、見えなくなったからってわざわざ張り替えられることもある。
このヴァイオリンが本物かどうかは鑑定書以外では判断できないのが現状だ。

そして写真もきちんと割り印がないといけない。それほど偽造が多いのが楽器の鑑定だから。


お爺さまのもお婆さまのもそういう意味では鑑定書は信用が出来た。
だからお爺さまのヴァイオリンを鑑定書の写真を念入りに比べて見た。木の模様からサイズ、スクロールの装飾など。どれを見ても間違いはなさそうで俺はそれをケースに戻した。

問題のお婆さまのヴァイオリン。
判定できるのはスクロールの部分だけ。あとは焼失してしまったから。


「類・・・何かわかったの?今、何を見てるの?」

牧野は俺のしてることがわからないから心配そうに覗き込んだ。
鑑定書は独特な書き方で普通にイタリア語を習っていても読めるものじゃない。音楽用語が殆どだから牧野には解読不可能だろう。だからわかりやすく説明してみたけど首を捻ってた。

「・・・さっき見てた書類の中にイタリアの工房から届いた修復修了証があったんだ。やっぱりお婆さまはわざわざイタリアまで修理に出してたんだろうけど、それがこの部分の修理までしたのかどうかを確かめたくてさ」

「写真で確認するのね?修理されてたらいいね!」
「・・・そうだね」


でも、その結果は逆だった。


お婆さまのヴァイオリンの鑑定書にあるスクロールの写真、そこに写ってるものと、この牧野が取ってきてくれたヴァイオリンのスクロールの装飾がほんの少しだけ違ってる。

何度見てもそれは間違ってなくて、牧野にも確認してもらったけど本当に僅かな、1本の線が多いか少ないか・・・そのぐらいの違いだけど一致していなかった。
お婆さまが見落としたとしても不思議はないくらいのもの。歳を重ねたから視力だって衰えていただろうし、若干違う木の模様にも気が付かなくてもおかしくはない。


「どうして?ここ・・・写真の方が筋が1本多いの?もう1回見せて?・・・・・・やっぱりそうなの?」
「うん、ほんとにここのカーブの所にわざわざ掘ってある模様が違う」

「じゃあ、私が取ってきたのがお婆さまのじゃないってこと?」
「いや、俺が持っていたものに間違いはない。ここは普通は装飾なんてしないから。cantabileにはこんなヴァイオリンは他にはなかったからね」

「・・・じゃあ、類は初めからお婆さまのヴァイオリンじゃないものを持ってたってこと?」

「・・・そうなるよね」


でも、俺はお婆さまが預けていた銀行の貸金庫からこれを持ってきた。
橋本さんのところですり替わった訳でもない。

俺は長いこと全然違うヴァイオリンを、お婆さまだと思って持っていた?

でも、音は悪くはなかった・・・お婆さまが弾いていた時と同じように素晴らしい音を出していた。あのヴァイオリンは確かにそれなりの職人が作ったストラディバリウスに違いないと思うのに。

どこでお婆さまのものと入れ替わったのか。



考えられるのは・・・イタリアの工房か?


それと同時に1つのことが俺の頭に浮かんだ。
お婆さまのヴァイオリンが・・・まだこの世に存在しているんじゃないかって。

俺がつけた傷を抱えたヴァイオリンが・・・もしかしたら何処かで俺を待っているのかもしれない。




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↑バイオリンのスクロールはここです。
普通はここに装飾はないそうですので、これはこのお話しの為に書いたまで。
ちなみにこのお話の「装飾」も優美なデザイン、と言う意味なんですよ。動物が彫ってあるとか宝石が埋められてるとかそういう感じの装飾ではありません(笑)
ご理解くださいね♥

参考までに(笑)
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Comments 4

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2018/07/30 (Mon) 08:20 | EDIT | REPLY |   
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2018/07/30 (Mon) 08:48 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。

えーと。平次でもいいでしょうか。
私、コナンより平次が好きです。
もっと言えば平次より安室さんが好きです。安室さんより赤井秀一が好きです♥

・・・すみません、話がそれましたね。

そうね!あんな所にライオンとかがあって、それを真面目に弾く類君とかなんか嫌ですよね(笑)

「類・・・そんな所にライオンって変だね」
「そう?でも・・・先っぽが野獣のようになることはあるんだよ?」

「えっ?そうなの?」
「・・・試してみる?」

2018/07/30 (Mon) 21:04 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さゆ様、こんばんは♥

あっ・・・素敵な類君?ははは・・・どうしよう。

私の類君はたまに変な行動に出るときがあります。それでもいいかしら(笑)
基本は素敵な類君を目指しておりますよ?

でも・・・たまーにおかしくなるんです。
その時は見なかったことにしてくださいね~💦

お祝いコメント、ありがとうございました。
これからも頑張りまーす!

2018/07/30 (Mon) 21:07 | EDIT | REPLY |   

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