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plumeria

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夕食は1階のダイニングでいただくことにして、時間になったら類と一緒にそこに向かった。

連絡をしていたから今日だけシェフが来ていて久しぶりにここの厨房が使われたみたい。前田さんは「久しぶり過ぎて忘れてしまったわ!」と言いながら色んなものを探しながら動き回っていた。

「あの、私たちの事はあんまり気にしないでください。私までくっついて急に来たんですから」
「うん、牧野の言う通りだよ。ここではマナーとか考えないから順番なんて気にしないで並べていいよ」

「そうですか?はい・・・なんと言っても数年ぶりですからねぇ。でも、お料理は大丈夫ですわ!元々ここに務めていたシェフですし、腕は一級品ですのよ?ここら辺りで採れた野菜でヘルシーなものにしましたよ。お年頃のお嬢様もいらっしゃるし、類様はお野菜が苦手だから工夫しないとお口に入らないから」

「あら、そうなの?類、野菜嫌いだっけ?」
「・・・そんなことないよ」

子供の時の事を言われたからなのか、少し赤い顔して拗ねちゃったみたい。
そんな類が面白くて笑っていたら前田さんが料理を運んできて嬉しそうに話し始めた。

「そんな風に感情をお出しになる類様はお珍しいですわ。奥様はいつも類様が必要以上に大人の顔をするのを気になさってましたから」

テーブルにナイフやフォーク、グラスを並べながらニコニコしている。
相変わらず口が尖ってる類は「いいよ、昔話は・・・」なんて言ってるけど、前田さんには聞こえなかったのか話は続いた。


「お小さい頃は1年に何度かここにお見えだったんですが、いつもお1人でしたので来たらすぐに奥様の部屋に閉じこもって、お食事ですらお部屋でしたわねぇ。いつでしたかしら、夜も奥様とお休みになるって駄々を捏ねられた事がありましたわ。
その時珍しく奥様が怒ってしまわれて、類様をゲストルームに連れて行かれたんですよ。そしたらそれを嫌がって泣いてしまわれて、気が付いたら奥様のお部屋の前の廊下で寝ていらしたから抱きかかえてご自分のベッドでご一緒に・・・」

「前田さん・・・その話はいいってば」
「くすっ!類にもそんな可愛い時があったの?」

「可愛い・・・と言うか寂しかったんですわよね。ここに来るのでさえお1人で行かされるんですもの。本当はお母様と一緒が良かったでしょうに、とにかくお忙しい時代でした。花沢物産が成長し始めた頃ですから」

私はハッとして類を見たけど、もう彼は普通の顔に戻ってた。
「ごめんね」って小さな声で言うと「何が?」って・・・。


この後、ちょっとだけ気楽な夕食が始まり美味しそうな料理が並んだ。
ホテルで出されるようなものより少し家庭的な飾らない料理だったけど味はホテル並み!本当に野菜が多くて彩りも綺麗でいくらでも食べられそう。

ついフォークが進んじゃう私を類が面白そうに眺めていた。
類も出されたものを残さす食べて前田さんを驚かせた。


「いつも牧野が作ってくれるから食べられるようになっただけ。1人の時は美味しくなかったんだって・・・」

「まぁまぁ、そうなんですね?お嬢様はお料理が得意なのね?それは良かったわ。奥様はいつも仰ってましたの。『類の彼女は絶対に料理を作る人じゃなきゃ!そうじゃないとあの子は食べないんですもの』って。ほほ、今頃は空の上で喜んでおいでですわ」


お婆さまという人はどれほど類のことを愛していたんだろう。
毎日一緒にいたかっただろうに・・・前田さんの話を聞いて類が小さな頃の、このお屋敷の光景を想像した。

泣いてる類
笑ってる類
拗ねて怒ってる類

お婆さまに抱かれてる、私の知らない小さな・・・類。


「なに考えてるの?牧野」
「なんでもない。ふふっ・・・お婆さまって人に私も会いたかったなって思っただけ」


***********


食事が終わってから、今日はここに泊まると言った前田さんにお婆さまの話を聞いた。

東京の屋敷に出入りを禁じられてからここでどんな風に毎日を過ごしていたのか・・・電話をすれば「元気だから心配しないで」を繰り返して声は明るかったけど、それは果たして本当だったのか。
今だったら聞けるだろうか・・・何故、父さんはお婆さまをここまで遠ざけたんだろうか。

俺の質問に前田さんは「私が知っている範囲ですが・・・」と言って教えてくれた。


「奥様は東京の若旦那様にヴァイオリンの件で出入りを止められてからと言うもの、しばらくは食事も召し上がれないほど落ち込んでおられました。毎日お部屋の類様のお写真を手に取っては涙を流されるので私たちも胸が苦しかったのを覚えています。
教えられないのなら、一緒に弾けないのならもうヴァイオリンは持たないとまで言われましてね・・・ちょうど色んな部分の調整をしてもらおうってお考えになってイタリアまで送られたんだと思います。ヴァイオリンを見ると辛いって言われていたので・・・」

「特に何かが気になるとか・・・傷があるからって訳じゃなく?」

「はい。何も言われませんでした。工房はお若い時から世話になっているところだからってご自分でお手紙を書かれて、そちらで見て修復が必要ならして欲しい・・・確かそのぐらいのお考えだったと思います」

「鑑定書はつけて・・・だよね?」

「そこまではわかりませんわ。奥様がご自分で業者を呼ばれて梱包を目の前でご覧になって・・・私たちはヴァイオリンに関する事には手を出さないって決まりでしたから」

鑑定書はもしかしたらここに置いたままだったんだろうか。
鑑定書もつけて送っていたら楽器が入れ替わるだなんてミスは起こりそうにないし・・・それは今となってはわからないこと。
それこそイタリアの工房に確かめるしかないが、そこでも数年前の修復のことがわかるかどうかは疑問だ。

この工房に限らずヨーロッパでは伝票類を長く保管する習慣がない。日本ほど徹底して過去の資料を保管管理するっていう体制を取っている企業はあまりないし、あったとしても期間は短いところが多い。
それが楽器の工房であれば尚のこと・・・どちらかと言えば職人が自分の頭で記憶していることの方が正確かもしれない。


「ヴァイオリンが戻ってきた時にはそれは嬉しそうに見ておいででしたけどね、実はもうあまり弾けるほどの体力がなかったんです。指もあまり動かせなくて・・・ですから弾かずに眺めておいででした。ベッドの横にあるテーブルに置いてね・・・類様の写真と交互に良く眺めておいででしたよ」

「その頃から体調を崩してたの?会えなくなって1年もしないうちに?」

「はい。いつでしたかしら・・・あぁ、類様のお誕生日ですわ。3月の終わりに1度だけ音を聞きました。よく弾いておられた『トロイメライ』ですわ。それを1曲、最後まで弾いてから・・・そしてその日のうちにケースに仕舞われて銀行の貸金庫に預ける手配をされました。でも、とても満足そうでしたわ。穏やかな顔でとても嬉しそうに・・・今日はよく指が動いたわ、なんて笑っておられた・・・」

前田さんも思い出したのか涙を浮かべて、少し言葉を詰まらせた。
牧野なんかもう数分前からハンカチが手放せない。目と鼻を真っ赤にさせて前田さんの話を黙って聞いていた。


「その時・・・お婆さまはヴァイオリンの変化みたいなことに気が付いてなかった?」

「え?変化・・・いいえ、なにも言われませんでしたわ。音が良くなったわね、ぐらいかしら」


「そう・・・ありがとう。昔の事を思い出させてごめんね」


お婆さまは気が付いていない。
やはり・・・このヴァイオリンに何かが起きたのはその修復の時・・・イタリアでってことか。




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2018/07/31 (Tue) 09:35 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: こんにちは🎵

meimei様、こんにちは🎵

ありがとうございます🎵
そうなのよ(笑)ガラリと方向が変わっておりますので大変でしょ?

一応、全部を通して関係してるのはバイオリンです。
イタリア………(笑)まだ内緒です🎵


半分は過ぎたかも?(笑)
あはは‼️ラストシーンはそんな感じかもよ?

楽しみにしておいてくださいね!

今日はありがとうございました♥️

2018/07/31 (Tue) 11:02 | EDIT | REPLY |   

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