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翌日、母さんに呼び出されて花沢の家に戻った。
父さんは既に社に出向いたらしく自宅にいるのは母さんだけ。

部屋に入ると早速一昨日の事について小言が始まった。


「ローラン社の奥様からお電話があったの。お嬢様が塞いでおられるらしいわ。類・・・あなた、何を言ったの?」

「別に何も言ってませんよ。アリスが自分のことを何か聞いているか、と言うから取引先のお嬢さんだということだけだと。事実でしょう?」

「・・・そんなに簡単に済ませたの?何故私達があなた達を2人きりにしたと思ってるの?私達の前じゃ話しにくい会話もあると思ったからじゃないの」

「そんなものあるわけが無いでしょう?母さんこそ何度言ったらわかってもらえるんです?俺はアリスを恋人にする気はありませんよ。それを持ちだしたらきっぱり断ると言ってるでしょう」

首を横に小さく振りながら椅子に座って、片手で頭を抱え込んだ。
そんなリアクション、何度見せられても気持ちは変わらないけど。


「・・・いいわ。この前の会食のことでローラン社長は怒っているわけじゃないわ。向こうも1人娘さんが可愛いから必死ですもの。類の態度が少しぐらい冷たくても待ってくれる気はあるみたいだから。でも、何度も同じ事は続けられないわよ」

「何度でも同じです。いい加減他の手段を考えたらどうですか?経常利益がマイナスになるならそれをどのくらいで取り戻すのか、長期の計画見直しをすればいいだけのこと。その間、多少無理をしたとしてもこのままローラン社の言うことに従っていたら肩を並べるどころか吸収される可能性もあります。今が良ければ、と言う考えには反対なだけですが」

生意気なことを・・・とでも思ったのか母さんは厳しい顔を俺に向けた。
赤いマニキュアの爪を少し噛むような仕草と同時に、眉間の皺を隠すことなく見せて苛立つ感情を露わにしている。

傍にあるテーブルをコツコツと指で叩いて次の言葉を考えているようだった。


「・・・今日呼ばれたのはその話だけですか?」

母さんが言わないのであれば自分から聞くしかなく、既に予定しているだろうスケジュールの確認をした。
チラッと俺の顔を見て、母さんはローラン社のホームページに記載のあったパーティーの話を始めた。

「今度の土曜日、アリスの19歳の誕生日パーティーがあるわ。伝えていた通りエスコート役はあなたよ。その日1日はアリスのために空けておいてちょうだい。お屋敷までお迎えに行かなくてはならないし、贈り物も考えなくてはならないわ。いえ、贈り物は私が用意します。あなたは渡せばいいだけ・・・その日の終わりはアリスと類に任せるわ」

「・・・好きにしろって意味ですか?」

「好きにしてもいいけどアリスの機嫌を損ねないで」

「たった19歳の女の子の機嫌で花沢が揺らぐんですか?」


「今はそのぐらい危機なのよ!類・・・これ以上言わせないで!」

ガタンと席を立ち、窓際まで行くと俺に背中を向けたまま外の景色を眺めるフリをする。
両腕はしっかりと組まれていて、服を掴んでいる指が震えてる。それは・・・母さんのどういう感情から来ているのか俺にはさっぱりわからなかった。

副社長として後継者の俺に対する命令ならば甘すぎる。
母親として息子の将来を利用していることを申し訳ないと思うのか・・・それなら、この話を強要するのは酷すぎる。


「それでは土曜日に」とひと言だけ残して自宅を後にした。
その日の終わりは俺に任せる・・・そんなもの、考えなくても牧野の所に帰るだけ。


***********


昨日の電話で呼び出された類がアパルトマンを出て行ってから、私は1人でご飯の支度をしていた。
今日は暑いから、市場で沢山買ったトマトで冷製パスタを作ろうと思って。

彼が何時に帰ってもいいように、ソースだけ作っておけば大丈夫。
何も考えないようにといちいち小さな声で手順を唱えてみたり、鼻歌を歌ってみたり。それでも頭に嫌なことが浮かんでくるとスマホで音楽をかけてみたり、わかりもしないのにフランスのテレビをつけてみたり。

それが終わったら手作りのグレープフルーツジュースを作る。
作り置きが出来ないから今日の分だけ。ほんの少し蜂蜜を入れて飲みやすくして・・・類が帰ってきたらすぐにあげようと思って冷蔵庫で冷やした。

「お昼には戻るって言ったよね。まだ10時半かぁ。作るの早過ぎたかな?」

お昼ご飯の支度が終わってしまったから仕方なくレポートの続きをしようとテーブルに教科書と電子辞書、レポート用紙を並べて類のパソコンを借りた。

「類みたいにパソコンでガンガン打てたら楽なのになぁ。どうしても紙に書かないと不安になるって損だよねぇ・・・」

よし!と気合いを入れてペンを持ったその時、カランカランと呼び鈴が鳴った。
日本と違って可愛らしい呼び鈴。まだ類が帰ってくる時間じゃなかったから大家さんかと思って急いでドアまで行った。

「はーい!あっ・・・日本語じゃダメか!S'il vous plaît, attendez un moment!(ちょっと待ってください)」


ガチャッとドアを開けるとそこにいたのは大家さんじゃなかった。
どう見ても日本人。キッチリしたスーツ姿で眼鏡をかけていて、短髪で如何にもエリートサラリーマンって感じの人。

この人、何処かで見たことがあるような気がするんだけど・・・と、その人の顔を見ていたらコホン!と咳払いされた。

「あっ・・・すみません。日本の方ですよね・・・どなたですか?」
「・・・お忘れですか?空港でお会いしましたが」

そう言われて思いだした!この人は類を迎えに来た人だ、って事は花沢の人・・・でも今、類はその花沢に戻ってるのに?
類から誰も部屋に入れてはいけないと言われてるから、急いでドアを閉めて外に出た。
そしてこの人の前に立ってゴクリと唾を飲み込んだ・・・一体何をしにここまで来たんだろう。

「あの、類は・・・類さんは今、ご自宅に戻っていますけど。何か伝えることがあれば聞きますが・・・」

「私は花沢家の依頼であなたに会いに来たんですよ、牧野さん」
「え?私にですか?」

私に話があると言われ、驚いて顔を上げてその人を見た。
彼は無表情で眼鏡の奥の瞳がすごく冷たく感じる・・・いい話ではないことはすぐにわかった。次に言われる言葉も・・・何となく想像できた。


「おわかりでしょうが類様にはこの度ローラン社のお嬢様とのお話が持ち上がっております。それなのにあなたがここにいては非情に迷惑・・・なので、すぐにでも日本にお戻りいただきたいのです。少しばかりの現金も準備致しました。聞けば大学も特待でないと続けられないほどお困りだそうですね。それが理由で類様にお近づきなのであればこれで解決しませんか?」

「・・・は?私がお金のことで類の傍にいると・・・そう思ってるんですか?」

「いえ、花沢家がそう思っているわけではありません。今のは私が個人的に思った事です。どちらしてもフランスからは早めにお帰りになった方があなたが傷つかなくていいだろうと副社長・・・類様のお母様が申されていますよ」

「類の・・・お母様が?」


この人は封筒に入った”何か”を私の前に差し出した。
多分この中には飛行機のチケットやお金に関する書類があるんだろう・・・私はそれを手に取ることが出来なかった。

「さぁ、どうぞ。牧野さん・・・何もご自分から苦しい場所に身を置く必要はありませんよ。これで楽しく日本で暮らせます」

「・・・いえ、それは・・・」


強引に私に持たせようと1歩詰め寄られたとき、後ろから類の声が聞こえた。


「岡田・・・何してるの?」

「・・・これは類様。お早いお帰りだったのですね・・・」

岡田と呼ばれたこの人は少しだけ驚いた顔をしたけどすぐに冷静になり、私に持たせようとした書類を引っ込めた。
そして悔しそうな表情のまま類の方に向き直り一礼した。類はそんな岡田さんを無視して横を通り過ぎ、私の肩を抱き寄せて「中に入ろう」と笑顔を向けてくれた。


「牧野に何を言ったのか知らないけど、次にやったら許さない。あんたの態度で牧野じゃなく俺がここを出ていくよ?」


ドアを閉める直前に類が言い放った言葉。
私はそれを彼の背中で聞いていた。





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2018/08/12 (Sun) 13:35 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。

藤本はおりません・・・申し訳ない!
(てか、拍手コメでも他の方が”藤本はいないの?!”と言ってたので笑ってしまった)

類の味方・・・今度出てくると思います。意外な人が・・・。

で、お母さんは謎の人ですよね。
一体何を考えてるんでしょうか・・・。最後には・・・きっと!むふふ。

お母様にも白アスパラ突っ込んでおきましょうかね・・・。

2018/08/12 (Sun) 23:20 | EDIT | REPLY |   

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