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目を覚ましたのはその日の夜遅くだった。
総二郎が心配そうに私の顔を覗き込んでいるのがぼんやりと見える・・・その向こうにはお義父様とお義母様もいた。

「つくし・・・気が付いたか?・・・気分はどうだ?」
「総二郎?私・・・どうしたの?ここは・・・」

「ここは母屋の中だ。お前が倒れたから医者に行って看てもらって、さっき帰ったんだ。全然目を覚まさねぇから焦った・・・何か飲むか?」
「倒れた・・・?」

「・・・余程怖かったんだろ。仕方ねぇな・・・俺も同じだ」
「怖かった?・・・あ・・・あっ、あの!総二郎・・・あの人は!」

急に身体を起こしたら総二郎がそれを押さえて、またゆっくりと布団の中に入れられた。
それを後ろからお義母様がオロオロしながら見ている・・・いつもと違う心配そうな表情が逆に怖かった。

なんでそんなに心配そうな顔してるんだろう・・・私が困った顔をしたら総二郎がそっと手を握ってくれた。


「・・・大丈夫だってさ、俺達の子供。お前が寝てるから俺1人だったけどちゃんと見たからな。エコー写真っての?お前にもあとで見せてやるよ」
「え?ほんと・・・?本当に私・・・赤ちゃん、出来てたの?」

「あぁ、多分2ヶ月だってさ。大事にしないとな・・・初めての子供だし」

それを聞いて涙が溢れて、総二郎の手を強く握った。
ポロポロと流れる涙が耳の横を通って髪を濡らしてしまう・・・それを指で拭いてくれるけど溢れる涙は止まるどころか次から次へと・・・。

とにかく無事で良かった・・・授かった命を守ることが出来て良かったってことが1番だったけど、意識がはっきりしてきたらあの時の光景を思い出して恐怖で身体が震えた。

総二郎もそれがわかるから布団から起こしてくれて、座ったまま私を抱き締めて背中をさすってくれた。
「もう大丈夫だから・・・」って、その言葉はあの人から逃げられた事を言ってるのか、子供が無事だったことを言ってるのか・・・多分両方なんだろうけど。
そこに両親がいるのに今度は総二郎にしがみついて泣いてしまった。


どのくらい経ってからなのか、私がやっと泣き止んだら両親が傍に来て座った。
慌てて私も正座しようとすると「楽にしなさい」と、お義母様に言われ、総二郎に縋って肩を抱かれたままお義父様の話を聞いた。


「・・・つくしさん、総二郎から聞いて私たちも北の部屋にさっき行ってみたよ・・・」

低く・・・小さく呟くようなお義父様の声。
その話はもう今から400年ぐらい前の事だと言って説明は始まった。


**


400年前と言えば江戸初期・・・この頃の西門には総二郎と同じ名前の男性がいたらしい。
漢字では「宗二郎」、後継者ではなく彼もまた次男でお茶の師範をしていたようだ。

宗二郎が見初めたのは町娘の「小春」という女性で、やがて2人は恋仲になった。
小春は控えめな性格でおとなしく、素直であったために家元夫妻からも可愛がられ、身分違いとはいえ2人の仲を許していたようだった。

だが宗二郎は見た目の美しい男性で憧れの的であり、西門に嫁ぎたいという名家の娘も多かった。故に貧しい町娘、小春とのことを冷ややかな目で見る人間も当然の如く多かった。
呉服屋の娘「若菜」が宗二郎に特に想いを寄せており、親を通して縁談を纏めようと必死だったのに、そこに現れた小春・・・小春に対する若菜の嫌がらせは随分長く続いたらしい。

それを気にした宗二郎が早く嫁として西門に入れた方が安心だというので、両親を説得して小春を嫁にする事を公表し、その話を聞いた若菜は逆上してしまった。


2人の祝言の日・・・。

宗二郎が準備した白無垢に身を包んだ小春が西門の廊下を歩いていたら、1人の女性が近寄り「控え室はこちらですので・・・」と小春を北にある部屋に案内しようとした。
でも、どんどん母屋から離れていく事に疑問を持った小春がその女性に尋ねた。

「あの・・・本当にこっちなんですか?随分母屋から離れてしまいましたけど」
「・・・えぇ、こっちで間違いないのですよ」

「そうなんですか?宗二郎様はこっちにいるんですか?」
「・・・宗二郎様は・・・母屋で別の人をお待ちですよ。あなたは・・・あの人の傍にはもう行けないのですよ・・・」

「・・・え?どういう事ですか?」

小春を案内していたのは若菜・・・彼女は母屋から遠く離れた場所に花嫁衣装を纏った小春を連れ出し、その北の部屋の前で彼女の命を奪った。
遺体は北の庭に投げ捨てられ、草が生い茂った大木の根元に若菜によって埋められた。


何故か祝言の直前に姿を消した小春にショックを受けた宗二郎は、その後親の進めるままに若菜を嫁に迎えた。

しかし、念願の西門に嫁に来て、恋い焦がれた宗二郎の妻となった若菜はその後原因不明の病気で床につき、僅か22歳という若さでこの世を去った。

若菜が病の床でずっと手に持って自分の顔を映して眺めていたのが飾り扉の鏡・・・どんどん痩せて醜くなっていく自分を見ては紅を引いて化粧をしていたという。
その最後は北側の庭の木の根元…いくつもの血のついた小石を握って息絶えていたそうだ。

おかしく思った使用人達がそこを掘り返したら泥塗れの白無垢姿の白骨が現れた・・・宗二郎が作ってやった紋付きの白無垢はこの白骨が小春であると物語っていた。

宗二郎は嘆き悲しみ、その後妻を持たなかったらしい。


その時の西門の家元は悲しい女達の最後を供養しようと、その大木を清めて小さな祠を建て目印にと小石を積み重ねて「この先は足を入れてはならぬ」と語り継いだ。
そして若菜の花嫁道具として持ってこられた鏡は扉を閉められ北にある部屋にしまわれた。

この部屋も「誰も入ってはならぬ」と錠がかけられ、その後誰も入ることはなかった。


**


「・・・この話は総二郎から話を聞いた後に京都のご隠居に聞いたものだ。代々語りついてきたらしいがそろそろいいだろうと思ってご隠居が私には話さなかったらしい。だから私も家元夫人もこの話は初耳でね・・・。あの部屋に入って割れた鏡を見て、総二郎の話を合わせると本当に物の怪の仕業だったのかもしれん・・・いや、まだ信じられないが・・・」

「・・・そう言えば私は少し前に小石が積まれているものを崩してしまったので、お庭の木の中に投げ入れてしまいました。誰かが躓いたら危ないと思って・・・北側の大きな木の根元です。そこに小石が・・・」

お義父様の話を聞いて思い出したことを伝えると3人共が驚いた顔をした。
そして明日になったら早速その場所を清めることになり、北の部屋も開け放ってお祓いをしようと決まった。

総二郎達が小さい時にあの部屋に近づいてはならないと言われていたのはそこにご先祖の遺品もあって、暴れん坊の男の子が勝手に入って壊してはいけないと思っただけらしく、あの部屋に入ったら恐ろしい事が起きるというのはお義母様の作り話だった。

まさかそれが本当に起こってしまうとは・・・と、お義母様は肩を震わせた。


「つくしさん・・・まだ私も信じられないのだけど、私がこれまでに見たもの聞いたものは忘れることにします。どれが本当のあなたで、どれが偽物だったのかなんてわからないもの。ですから明日からのあなたを記憶することにするわ。それでいいかしら」

「お義母様・・・はい、それで十分です。ご心配をおかけしました」
「いいのよ。私こそごめんなさいね・・・でも、良かったわ。身体が無事で!」


この後、気分が良くなった私は総二郎に抱えられて自分達の部屋に戻った。

その日の夜は総二郎の腕の中。
彼の手が私のお腹を守るように包んでる・・・でも、今の自分の幸せと過去の悲劇を同時に考えるとやはり涙が流れた。



**************



その後、西門縁の寺の住職を呼んで大掛りな供養が行われた。
大木の根元の小さな植木を取り除いて念入りに調べたら、もう腐りかけた小さな祠が話の通りに出てきた。そこには新しく祠を建ててつくしが取り去ったと思われる石もその中に入れて経を上げた。

北側の部屋があった棟は古かったこともあって取り壊し、そこには茶花の畑を作ることにした。

ただ、割ってしまった若菜の鏡の扉が何処にも見当たらなかった。あの日から誰も立ち入ってないし、割れた鏡の破片は飛び散ったままだったのに・・・。



一連の行事が終わった頃にはつくしの腹も目立ってきて安定期に入り、お袋とも仲が良くなり明るい話題で毎日が賑やかになった。

後援会の連中にはつくしによく似た使用人が俺達の結婚を妬んで嫌がらせをしていたようだと苦しい言い訳をしたみたいだが、実際お袋がつくしと笑って話すところを見るようになるとそれまでの噂も薄れていった。
逆に俺に対して「総二郎さんの素行が悪かったからこんな事が起きるんです!」とつくしを庇っていたが、それで治まるならと俺も頭を下げてやった。




そんなある日、庭師の田村さんが俺に話しかけてきた。

「若宗匠・・・少しいいですか?」
「どうかしたのか、田村さん」


「いや・・・今、出掛けておったんですがね・・・裏門から屋敷に入ろうとしたら1人の若い女性が出てきて『お世話になりました・・・』って言うんですわ。それが見たこともない女の人でね・・・顔も上げないし目も見せないし、肌の色は白いしで薄気味悪くて。誰か今日で暇をもらった使用人がいましたかね?」

「いや、そんな人は知らないけど」

「はぁ・・・そうですか。誰だったんだろう・・・気味悪かったなぁ・・・通り過ぎたらボソッと言ったんですわ。『私が持ってきた嫁入道具は総二郎様のお部屋に置いておきましたから』って。何のことですかね?」

「持ってきた嫁入り道具?」


つくしが言ってなかったか?


『初めて見る女の人が急に声を掛けてきて奥の部屋に連れて行ってくれって。そこにある鏡を掃除しなきゃいけないからって言うの。でも、おかしいのよ。その人、私なんかよりこのお屋敷のこと知ってるのか1人でどんどん進んでいって部屋まで行ってね、そのまま何処かに消えたの・・・どう思う?』


ちょっと待て・・・。

俺達はあの使用人も偽物のつくしも「小春」の怨念だと思っていたが・・・他にもいたのか?


急いで自分たちの部屋に戻ったらそこには誰もいなかった。

だが、俺の机の上に何かが置いてある。
ゆっくり近づいたらそれは・・・あの鏡の扉だった。

と言うことは・・・つくしをあの部屋に連れて行ったのは「若菜」の怨念が人の姿になったものか?


自分が殺めた小春の為になのか、それとも小春の怨念が若菜の魂を眠らせずに動かしたのか、今となってはもうわからない。
ただこの鏡を割った日から約3ヶ月・・・若菜の魂は西門に留まっていたのか?


その後、この鏡の扉は縁の寺に引き取ってもらうことになった。
若菜と小春の供養も兼ねて俺が直接持っていき、経を上げ、祠に入れるところまでを見届けて東京に戻った。


そして西門に戻ったら少しふっくらしたつくしが大きな封筒を持ってニコニコしながら傍に来た。

「ご苦労様、総二郎。ついさっき総二郎宛に荷物が来たよ?はい、これ」
「なんだ?何処から?」

「さぁ?差出人が書いてないから不思議だねって事務の人と話したんだけどね。ドジな人もいるよねって!じゃあ、私は今からお義母様と産婦人科に行ってくるから」

「あぁ、気をつけろよ」


部屋に戻って封筒を開けてみた。結構重たいものが入ってるようだったから丁寧に取り出したら・・・


それは今朝供養したはずの・・・若菜の「鏡の扉」だった・・・。



『宗二郎様・・・私もあなたの所に嫁ぎたかった・・・あなたの傍にずっと居たかったの・・・』








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『鏡の中の私』終了です~!最後長くなってすみません~💦
怖かったですか?そうでも・・・なかったですよね?(笑)

今度は類君のオカルト作品、『夾竹桃は夜に誘う』・・・17日からスタートです。
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2018/08/08 (Wed) 11:31 | EDIT | REPLY |   
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2018/08/08 (Wed) 11:51 | EDIT | REPLY |   
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2018/08/08 (Wed) 12:28 | EDIT | REPLY |   
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2018/08/08 (Wed) 12:32 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんにちは。

あれ?怖かった?あはは!!ごめんね?
全部解決させたはずなのに・・・あれから書き直したのよ?余韻を残してたから・・・。

まだダメでしたかー・・・。そりゃすみませんでした💦

夾竹桃・・・キョウチクトウです。花の名前ですね。
こいつのせいで類君がとんでもないことになりますが、総ちゃんので怖かったらこっちはそうでもないです。
どっちかって言うと、類君ファンの人の怒りの方が私には怖いです(笑)

レベル・・・鏡が4.5なら夾竹桃は3.5。
読者さんの怒りは5.0かもしれない・・・ははは💦


2018/08/08 (Wed) 18:25 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

みわちゃん様、こんにちは!

いやいや(笑)
よくある話でそこまで怖いものは書けません。
類君の方が怖くないんじゃないかな?

ただ、類君に問題が起こるので私が怒られそうな気がするだけです。

「なんで類君がこんなことするのよーっ!」と読者様にコメントされたら逃げようかと思っています(笑)

だから楽しみにしなくても・・・(笑)
あぁ、またplumeriaがアホな話を始めたな・・・ぐらいの感じでお願いします。

実は9月にはあきら君のオカルトも用意しています(笑)
イベントの肝試し以来、少し壊れてるのかも・・・。ホントにごめんなさい。


西門の誤魔化し方・・・かなりここは無理矢理でしたね!自分でも可笑しくて笑いました。
でも、まぁオカルトには何処か無理があるもの、笑って許してくださいませ♥

こんなお話しにお付き合いくださいましてありがとうございました。



2018/08/08 (Wed) 18:33 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

わんこ様、こんばんは。

台風、心配ですね。
気をつけてお過ごしください。暑かったり雨が降ったり台風だったり・・・身体も休まりませんね。
夏は苦手だなぁ・・・💦


そうですね、私はハピエンしか書かないつもりでしたが、これはある意味ハピエンではないかもですね(笑)

昔からこの手の話は多いようですが、女の執念は凄まじいものがあるんですよ・・・きっと。
あの扉はですね・・・何度何処かに持っていっても総ちゃんのところに戻ってくると思うから、西門で供養して祀っててもらいましょう!もしかしたら生まれてくる子の守護霊とかになってくれるかもしれません!

そういうことにしておきましょう・・・

オカルトというのは謎が残るものですから(笑)

えーと、ノリノリで書いてる訳でもないんですが、何となく趣向を変えてみようかと思っただけです。
類君のもよくある心霊話ですよ♥


でも、この話を書いてから、自分の部屋の姿見が怖いplumeriaでした(笑)

2018/08/08 (Wed) 20:39 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、こんばんは。

ほほほ、夏のオカルト特集、堪能していただけましたか?
そうですねぇ、オカルトでハッピーはないのでどうしても哀しい部分は出てきますね。

それで総ちゃんや類君とつくしちゃんが不幸になる話は書きませんが、どうしても物の怪さんの過去には辛いものが隠されてるものですよね。
ごめんねって感じですけど。

これだけ過去の怨霊に触れられるのは西門しかないのでねぇ・・・。

類君ち、最近の家だから(笑)

類君の話は同じような憑依ものです。苦手だったらパスしてくださいね?
こちらのお話しにはお付き合いくださいましてありがとうございました。

2018/08/08 (Wed) 20:44 | EDIT | REPLY |   
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2018/08/09 (Thu) 19:53 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: こんにちは🎵

meimei様 こんばんは。

お返事遅くなってすみません。

怖かったですか?ふふふ、初めてこんなの書くので迷ったんですが話はよくあるパターンだったのでわかりやすかったでしょう?
今度は類君ですがこっちはそこまで怖くないかな?

良かったら遊びに来て下さいね!
あっ!読んだ後で怒っちゃダメですよ?(笑)

2018/08/10 (Fri) 00:26 | EDIT | REPLY |   

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