FC2ブログ

plumeria

plumeria

その日の夜は最後だってことで、1階のダイニングで響子さんも交えて食事をすることにした。
お料理は来た時と同じフレンチの創作料理。マナーなんて細かく言わないからって最初から全部並べられて豪華な食卓になった。

飲み物はワインが出されたけど私はあまり飲む気がしなくて一口だけ。
類はやっぱり食欲がないみたいでお皿の上のものは減らなかった。


「早くお帰りになるのは類さんの具合が悪いからかしら・・・お食事、お口に合いませんでしたか?」
「いや、そんな事じゃないんだけど、どうしてかな・・・ここに来てから頭がスッキリしなくて」

「そうですか。お薬、効かなかったのかしらねぇ・・・お嬢さん、湖はどうでした?綺麗でしたでしょう?」
「あっ、はい!素敵でした。あんなに綺麗な水の色は初めてです。お魚も沢山いたし、ボートがあれば乗りたかったです」

この時、チラッと類を見たけど私とは目を合わせなかった。
さっき私が変なことを言ったから怒ってるのかもしれない。

あれから部屋に戻っても気不味くてお互いに口を開かなかったから。


殆ど喋らない類の代わりに私はずっと響子さんの話し相手をしていたけど、響子さんの目はいつも類を見てる。女性なら当然のことだけどやっぱり面白くなかった。
最後まで「つくしさん」とも「牧野さん」とも言わないのね。それにも少し腹が立って、2人を眺めながらだんだん顰めっ面になるのが自分でもわかる。


「・・・お2人はもうどのぐらいお付き合いしてるの?長いんですか?」

急に響子さんがそんな事を聞いてきた。私は類と顔を見合わせて・・・すぐに赤くなって下を向くのは私の癖。
この質問には類が答えてくれた。

「いや、最近だけど。今年は2人で過ごす初めての夏・・・それがどうかした?」
「あら、恋人になって間がないのね?ふふ、じゃあ1番楽しい時ね・・・羨ましいわ。私にはそういう人がいないから」

「響子さん、彼氏、いないんですか?そんなに綺麗なのに?」

私もついそんな言葉を出してしまった。だって本当にそう思うんだもの・・・綺麗なのにこんな山奥で旅館やってるなんて勿体ない!都会に出て行ったらすぐに恋人なんて出来るのに。
そうしたら響子さんは私達を見ずに目の前のサラダにフォークを入れながら答えた。


「もうずっと待っているの。迎えに来てくれるって言ったから・・・でも酷いのよ?まだ来てくれないの」
「この辺の人じゃないんですね?都会の人?」

「東京の人・・・一緒に東京で暮らそうって言ってくれたのに。いつ来るのかしらねぇ・・・待ち遠しいわ」
「・・・早く来てくれたらいいですね!こんな彼女放っておくなんてダメですよ!ねぇ、類」

「・・・そうだね」

「ありがとう。でも、何となくだけどもうすぐ来てくれそうな気がしてるの。ふふっ、ごめんなさいね、私の話なんてしちゃって」


この後は普通に料理の話やハーブの話を私と響子さんがしてるだけ。
類はやっぱり気分が優れないのか、あまり食べずにそこに座っていた。

「はい、お嬢さんには特製のケーキ。うちの自慢なのよ、召し上がってね」

最後のデザートが出されたけど、それはとても可愛らしいケーキだった。チョコレートでコーティングされてて上に乗せられた真っ赤な実が甘酸っぱくて・・・でも、食べたことがない味だった。

「この実は何ですか?美味しいけど初めて・・・」
「ふふっ、それは私がとっても大事に育ててるハーブの実・・・少ししか取れないからこのケーキは滅多に作らないのよ」

「へぇ、ハーブの実!大人っぽい味って言うかちょっと苦いって言うか・・・」
「チョコと合うのよ?」

そう言われればそうかもだけど・・・食べたあとに少し気分が悪くなった。


デザートが終わって自分たちの部屋に帰ろうと席を立った。

階段の下で響子さんに挨拶して私が先に上がり始めた。類はゆっくりと、少しふらふらしながら上がってくる。
それを響子さんが呼び止めた。

「類さん、あの・・・少しいいかしら?」
「・・・・・・なに?」


私はもう2階の吹き抜けの所まで上がってて何を話してるのか聞こえなかったけど、類が面倒臭そうに振り向いて響子さんの前に立っていた。

何故か胸がザワザワした。それに、まだ気分が悪い。
響子さんの嬉しそうな顔・・・どうしてそんな顔で類を見るの?



**********



「類さん、あの・・・少しいいかしら?」
「・・・・・・なに?」

背中から聞こえて来た彼女の声・・・あまり話したくはないのに、もう今晩が最後だからと思って振り向いた。
そこには何故か嬉しそうな彼女の顔があって、少し妖しげに笑っていた。

「なに?・・・もう部屋に戻りたいんだけど」

「ごめんなさい、実はね・・・私、余計な事をしてしまったみたいなの」

「余計な事?どういう・・・」

余計な事をしたって言いながら顔は笑ってる・・・その相反する表情にイラついた。それにやけに小さい声で牧野に聞こえないようにしてる。


「さっきお嬢さんに出したケーキに乗せてた実、彼女、食べたあとに苦いって言ったでしょう?あれね、実は女性の感度を上げるハーブの実なんです。苦いって言う人ほどすぐに効果が出るわ・・・しかも結構強い作用があるの」

「え?なんでそんなものを・・・ここはそんな特殊なサービスがあるわけ?ホントに余計だけど!」

「ごめんなさい・・・だってお嬢さん、子供みたいなんですもの。類さん、満足できないのかと思って。こんな避暑地に来てるのに遊んでばかりの彼女に怒ってしまう彼氏はたまに見るのよ。だからそういう時はあれを出して差し上げるの・・・そうしたら楽しい夜になってるみたいだったから・・・」

信じられない言葉に呆れて響子を睨み付けたが、俺の怒った顔にもただ笑うだけ。
自分の口元に手を当てて含み笑いをした後にチラッと俺を見上げる目にゾクッとした。その目の奥・・・そこは笑っていない、冷たくて憎しみを持った色に見えたから。


「悪いけどそんな心配してもらわなくても大丈夫だから。あんたの言いたいことはわかった・・・牧野の様子を見ておけばいいって事だね」

「そうですわね。余り効き過ぎるとどんな行動をとるかわかりませんもの」

「・・・もしかしていつも出してたハーブティーにも妙な効能があったの?幻覚や幻聴を感じさせるような?」

「まさか!それはありませんわ。あれは本当にリラックス効果のあるハーブティー・・・深い意味なんてありませんよ」


響子はそこまで話すと自分から向きを変えて奥の部屋に戻っていった。
足音1つ立てずにこの古びた旅館の廊下を歩く・・・まるで体重すら感じさせない響子の後ろ姿だった。

その姿が見えなくなってから階段を上がって、そこで待っていた牧野と一緒に部屋に戻った。


「類・・・響子さん何かあったの?何の話?」
「・・・なんでもない。明日帰るときの手続きのこと。牧野は心配しなくていいよ」

招待なんだからなんの手続きもないのに牧野は簡単に納得した。

とにかく今晩は牧野の様子だけ見ておかなきゃ・・・もし、牧野にそんな行動があったら抱き締めてあげたらいいんだから。
早くここから出て行きたい・・・何もかも終わらせて牧野と東京に帰りたい。それしか頭になかった。


帰り支度を済ませてシャワーも浴びて、牧野は半分ウトウトしながら椅子に座っていた。

特別変わった様子はない。
響子の出したハーブの実もそこまでの作用はしなかったのかと思った時、牧野がムクッと起き上がった。

でも何処を見てるのかわからない虚ろな目をしていた。瞬きもせずに・・・。


「牧野?どうしたの?」

「・・・・・・」

「寝ぼけてるの?ベッドに行きなよ」


そう言ったのに牧野はふらふらと部屋のドアを開けて廊下に出て、そのまま黙って階段を降り始めた。
その様子が普通じゃなくて・・・何かに引き寄せられてるみたいだった。

「牧野、部屋に戻りな!牧野・・・おい!」

「・・・・・・」


俺の声なんて聞こえてないのか?牧野は裸足のまま玄関の扉を開けて外に出た。

真っ暗な・・・この旅館の庭に向かって。





yjimageGL5MO6TN.jpg
関連記事
Posted by

Comments 4

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/08/31 (Fri) 14:17 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/08/31 (Fri) 16:20 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さゆ様、こんばんは!

応援コメントありがとうございます!

確かに(笑)
1日にどんだけ違う顔の類君が出てくるんでしょうか・・・。
書く方もですが、読む方も混乱しますよね~💦

申し訳ございません!オカルトの話をあんまり遅くに出すのもどうかと思ったのと、
実はあきら君のオカルトが控えておりまして、早いとこ類君のを終わらせないといけなかったのですが話数が増えて増えて・・・💦

隣の話をイベント中は止めようかと思ったのですが、それもねぇ・・・(笑)

楽しんでいただけて嬉しいです。
早く夾竹桃、終わらせないとね(笑)

2018/08/31 (Fri) 22:01 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは!

そうそう、今度はつくしちゃんがターゲットに?

類君じゃすぐに我に返るから?
それとも・・・私が読者様を怖がって?(笑)

だって、類君にこんな事したら絶対に怒る人がいるんだもーん!!
(つくしちゃんならいいのか?)

今から・・・闘いの場面です!キリッ!

2018/08/31 (Fri) 23:29 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply