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土曜日になった。

その日、牧野はいつもより朝早くに起きてキッチンで朝食を作っていた。
いつもの鼻歌はなくて静かに・・・でも、いつもと同じいい香りがベッドまで届いて俺は目を覚ました。

窓から差し込む朝日が眩しい・・・その光の中に牧野はいて、ここから見える彼女の髪が光ってる・・・くるっと振り向いたらベッドで起き上がった俺と目が合った。

「あぁ!おはよう。まだ寝ててもいいのに。もう少し時間がかかるから」
「・・・ううん、起きる・・・」

ベッドから降りて顔を洗って・・・いい匂いのするタオル、それで顔を拭いたら牧野の所に行った。
そしてお決まりのように後ろから抱き締めて朝のキスをする。
「類ったらまだ髪が濡れてるよ?」なんてクスクス笑って平静を装ってるけど、本当は心の中で凄く泣いてるんだろうね。

プレートに上にはいつものようにフランスパンのサンドイッチ。
それにサラダと今日は卵焼き。その横では珈琲の準備が進んでいた。


「私ね、こっちに来て驚いたんだけど、フランスの人って朝ご飯をきちんと食べないんだってね!びっくりしたよ」
「うーん・・・食べないんじゃなくて少なくて甘い物が多いんだと思う。俺が朝ご飯を食べられなくなった原因の1つだから」

「あはは!そうなんだ?わかる気がするなぁ」

フランスって名前だけで優雅な朝食を想像する人がいるけれど、フランス人の朝食は驚くほど簡単で質素。クロワッサンとカフェオレっていうのが定番でこんな卵料理は朝から出ることはない。サラダもスープも絶対に出ない。
クロワッサンじゃなかったらビスケットやバゲットに甘いシロップやジャムを乗せたもの。子供の頃、それから逃げるために隠れたこともあったって話したら牧野が大笑いしていた。


「日本の朝ご飯ってフランスの人から見たら豪華なんだろうねぇ!旅館とかホテルに泊まったら凄い量で出てくるもんね!あれ見たら元気になってウキウキしちゃうのに」

「これもホテルじゃなくて自分で作れるアパルトマンにした理由のひとつだよ。牧野、絶対我慢出来ないと思ってさ」

「ふふっ、よくわかってるね!」


わざと明るくする会話ももうすぐ終わり。
朝食が済んだら俺は花沢に向かうから。

その時間を引き延ばそうとするのか、忘れてしまおうとするのか・・・牧野の空元気は続いて、俺はその笑顔を見ながら込み上げてくるものを抑えるのに必死だった。


それでも来てしまう時間・・・牧野は表情を見せないために洗濯機の所にいた。
そんなもの、付きっきりで見なくてもいいのに。俺が支度をする小さな音を聞かなくて済むように機械音の傍から離れないんだ。

「牧野・・・行ってくるね。帰りは何時になるかわからないけど必ず帰るから」
「・・・うん、行ってらっしゃい。待ってるね」

「・・・どうして顔を見せてくれないのさ」
「・・・いいから早く行きなよ。迎えの人が待ってるんでしょ?」


「バカだね。また泣いてんの?」

ここでも後ろから抱き締めたら既に涙がいくつもいくつも頬を伝ってて、それを拭うので必死になってる。
そんなの、手でなんて拭けないじゃん・・・って牧野の身体をくるっと回して俺の胸の中に・・・。そこで声を押し殺して泣くからしばらく抱き締めていた。


「牧野・・・俺はこんな事じゃ気持ちは変わらないよ。俺はあんたのために強くなりたいって思った・・・守りたいって思ったんだ。
だから、牧野も強くなってほしい。俺のためにいつも笑っててよ」
「・・・類」

「大丈夫・・・あんたは真っ直ぐ俺だけ見てればいい。俺もあんたしか見えないから」
「うん・・・そうだね。ありがとう、類」

濡らしたついでって俺のシャツで顔を拭いて、「もう1回着替えなきゃ!」って1人で大笑いを始めた。
急いで俺のシャツを持ってきて、その場で着替えたら玄関まで急いだ・・・もうとっくに予定の時間は過ぎていたから。


ドアを閉める前のキス。
小さな声で「愛してる・・・」って言うとまた一粒だけ涙が溢れた。


**


今日の迎えの運転手は岡田じゃなかった。
初めて見るフランス人の男性が運転していて「岡田は?」って聞いたけど何も知らない様子だった。

顔も見たくなかったからいいけど、いつもと違う動きは何か引っ掛かる・・・家に行く前から少し不安が過ぎった。



花沢に戻ると早速用意されたタキシードに着替えさせられ、両親と会った。
如何にも正式発表でもする気なのかという正装。勿論父さんもそうだし、母さんもフォーマルドレスに身を包んでいた。

40を過ぎているのにその歳を感じさせない人だからか、シャンパンベージュのドレス姿は母親ながら美しいと思う。
東洋人の肌の白さはこちらの女性よりもむしろ色気があるのか、深く開けた胸元が艶めかしい。そこに輝くダイヤのネックレスは派手で豪華・・・何処かの王室のパーティーに招待されたかのような支度に違和感を覚えた。


「支度は整った?ローラン社長夫妻へのご挨拶、子供じゃないんだから教えなくても大丈夫よね?」

「勿論大丈夫です。それにしても取引先のお嬢さんの誕生日パーティーにしては力を入れるんですね。随分と本格的な装いですが、ここで何かの報告なんて考えてないでしょうね?」

「・・・言ってるでしょう?これはもはやビジネスなの。でも、あなた達の気持ちを無視しようなんて思ってはいないわ。とにかくアリスのご機嫌を損ねないで。会食の時のように悲しい思いをさせないで頂戴ね。お誕生日なんだから」

「機嫌を損ねさせたつもりはありませんし、今日も特に機嫌を取ろうとは思いません。与えられた役目だけは果たしてきますがそれ以上の期待も困ります」

「・・・類、アリスのいいところもちゃんと見てあげて。1人の女性しか知らないからそんな事を言うのよ。とてもいいお嬢さんだと思うわよ?」

「アリスがいい人かどうかなんて問題じゃないんです。俺の中にはもう住んでる人がいると言うだけのこと・・・そこには1人で充分ですから」

父さんのいる場所での反抗的な言葉には敏感に反応して、せっかく磨き上げた表情を暗くする。ピクッと動かした眉を見るとこの人の緊張感が伝わってくるようだった。


「岡田は?今日は岡田を見掛けませんね」

「あぁ・・・彼は所用で出掛けているわ」

「そうですか。言っておきますがこの前のような事は2度としないでもらえますか?彼女は自分の力で生きる人です。花沢から何1つ受け取りはしませんよ」

「・・・親切心だったのよ。不快な思いをさせたのなら謝るわ」


父さんは何1つ言葉を出さずに母さんの後ろにいた。
俺とは目を合わせようともせずに、今日も難しい顔でタキシードのまま経済誌を読んでいる。
それを時々横目で確認しながら怯えているようにも見える母さん・・・この2人は愛情で繋がってるんだろうかと時々考えてしまう。

息が詰まるようなこの部屋から早く出たくて2人に背中を向けた。


「類、お待ちなさい。アリスへのプレゼント・・・こちらをお渡ししてね」
「これは?」

「アクセサリーだけど指輪とか意味深なものじゃないわ。Van Cleef & Arpelsのネックレスよ。もし、彼女が今日身につけているものと替えたいと言えば類が付け替えて差し上げて」

「・・・わかりました」



今から行くのはローラン家・・・アリスの迎えだ。

これは”エスコート”という仕事、そう思えば苦にはならない。そこに感情は入らない。

ただ、アリスの本心がわからなかった。彼女はこうやって親が決めてしまう自分の人生をどう思っているんだろう。
会ったこともなく、話したことのない俺の写真を見ただけでそんな事で決められるものなのか。


会食の時の彼女は確かに恥ずかしそうに顔を赤らめていたけど、そこに俺に対する恋愛感情なんて感じなかった。
無理矢理恋をしようとしている・・・そんな風に見えた。

彼女もまた「それは違う」と反論できない立場なんだろうか。

もしそうなら・・・可哀想な人だ。



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2018/08/14 (Tue) 00:32 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さゆ様、こんにちは!

娘は大はしゃぎです・・・はい、鬱陶しいです。
嵐の番組を見せられ、過去のドラマは勿論ですが毎日隣にいるので文章が打てないっ!!💢
「友達と遊びに行きなさいよ!」って言うけど「家がいい~♥」って。

はぁ・・ですよ。

そして持って帰った衣装の宿題を私がするという・・・。
「自分でしようとは思わないの?」って言っても「お願い~💦」・・・。
実は家庭科が驚くほど悪かった娘はミシンすら使えない・・・不器用なんです。

今週いっぱいおりますのでがっくり・・・既にクタクタです。


お話し・・・(笑)

そんなに心配しないでくださいませ💦
可哀想なシーンは多少ございますが(あるんかいっ!!)きっと大丈夫!

ハンカチ片手に(うそです)お付き合いくださいませ。

2018/08/14 (Tue) 10:34 | EDIT | REPLY |   

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