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ローランの屋敷を出る時にはアリスに腕を差し出していたけど顔を見ることはなかった。

アリスの目は花沢の車の後ろにやってきたローラン社長達が乗るリムジンの運転席に向けられている。
そこをチラッと見ると運転手のジルベールもアリスのことを見ていたが、俺の視線を感じたのかすぐに顔をそむけた。

車に彼女乗せて後から自分も乗り込んで、向かい合わせに座ったけれどそれだけ。アリスに何かを話しかけるとか自分の事を話すなんてこともしなかった。
それはそれで物足りないのだろう、少し戸惑ったような顔をしているようだけど。


車はベルサイユからまたパリの中心へと移動して今日のパーティーが行われるホテルに着いた。
ドアマンが後部座席のドアを開けると今度は俺が先に出て、アリスに手を差し出す・・・それを静かに取って車から出るとすぐに俺の腕を持った。

ホテルの中に入る時にも何も話さずに、案内されるがままに控え室へと向かった。



控え室は何故か俺とアリス専用になっていて始まるまでのあと1時間をここで過ごすようにと言われた。
それだけでうんざり・・・彼女には悪いけど1人でソファーに座って目を閉じた。こんな場所でスマホを触るのは流石にマナー違反だろうからこうするしかなかった。

彼女もどうしていいのかわからずに俺の向かい側に座って大人しくしている。
時々薄く目を開けると彼女は俺ではなく窓の外を見て何かを考えているようだった。

やはりそうか?俺の事が気に入っていると聞いていたけど・・・アリスの心の中には俺じゃないヤツがいる?

そう思うと少しは気が楽だ・・・それならお互いに愛する人を選べばいいだけのこと。
無理矢理な婚約なんて意味がないと2人で主張できるかもしれない。あとはそのタイミングだけ。もし、俺の想像が当たっていたのならアリスは”味方”になるかもしれない。


「・・・私なんかといてもつまらないでしょう?想像していたタイプとは違う・・・そうじゃないですか?」

「え?いえ・・・そんな事はありませんわ。物静かな方だと聞いてましたから」

「物静か・・・無関心なんですよ。自分にとって特別なもの以外に対してはね」

「無関心?それでは私にも無関心だと仰るの?」

普通はここで激怒されてもおかしくはないのにアリスの反応は至って冷静だった。
むしろそれでいい・・・とも取れる態度。自分も実は無関心だと、そう言ってくれればいいのにアリスの口から言葉はなかった。


「1番初めにホテルでお会いした時に私の事を気に入っていたような話をされましたが・・・本当はあなたにも心に想う人がいるんじゃないですか?ご両親の手前、私の事を気に入ったフリをしている・・・そんな気がしたのですが?」

「・・・そ、そんな事はありませんわ。私は本当にルイ様の事が好き・・・なんです。このまま話が進んでも私は大丈夫ですわ」

「くすっ・・・人と恋するのに大丈夫って表現はおかしいとは思いませんか?それは我慢してるからでしょう?」

アリスは真っ赤になって下を向いた。
こういう所は牧野に似てるかもしれない。アリスは両親とは違って純粋で真っ直ぐで・・・自分には臆病なのかもしれない。
もう少しこの話を続けようとした時、ホテル内に流れているBGMにアリスが耳を傾けた。

それはバッハ の「2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調」・・・橋本さんと弾いたあの曲だった。
この曲を聞いて嬉しそうに笑ったから思わず聞いてしまった。


「ヴァイオリン、お好きなんですか?」

「えぇ、私のお婆さまが弾くんです。今はイタリアに住んでますけどフランスにいた時はいつも聴いていましたの。何でも遠い昔に恋をした人がヴァイオリンがお上手だったとか・・・」

「あなたのお婆さまが?本当に?」

「はい。両親は全然音楽には興味を持っていませんけどお婆さまは音楽が好きな人なんです。ふふっ・・・ローラン社というのもお婆さまが1番の権力者ですわ。お強い方でお父様でさえ頭が上がりませんの。でも私にはとても優しい方ですからヴァイオリンを聴くと会いたくなります」


こんな偶然もあるものなんだ。
この子のお婆さまもヴァイオリンを・・・。

「イタリアのクレモナと言う街をご存じですか?今はそこにいますの。お元気かしら・・・」
「え?クレモナに?」

「ご実家はミラノですけどそこが元々お婆さまの生まれた所なんですって。故郷で余生を過ごすと仰ってクレモナにお屋敷を建てましたの。時々はお仕事のこともあってこっちに来られますが最近は足があまり調子良くなくて・・・」


今日初めて見たアリスの自然な笑顔がヴァイオリンとお婆さまの話だということがすごく不思議だった。
この子に恋をすることはないけど、見つけてしまった共通点に俺は思わず笑ってしまった。



***********



「あなたが・・・牧野つくしさん?」
「・・・はい。初めまして・・・牧野つくしと申します」

目の前に立っている類のお母様の美しさに呆然としていた。
髪の色もそっくり・・・それ以上に瞳の色が同じ。本当によく似ている親子・・・でも、この人が敵なのか味方なのかは私にはわからなかった。

「そんなに固くならなくて宜しくてよ。どうぞ、奥の方に」
「あの!・・・私はどうしてここに呼ばれたんでしょう?」

「・・・私たちと一緒に来ていただきたかったの。だから支度をしましょうか」


岡田さんの言ったことは本当だった。
私を連れてパーティーへ・・・そこで類と何処かのお嬢さんが一緒にいるところを見ろと言うの?
お母様の真意がわからない。私は岡田さんに引っ張られるようにしてお母様の後をついていった。

そして2階の奥の部屋に連れてこられるとそこで岡田さんは私の手を離し、お母様に促されてそこに入った。


そこには2人のお手伝いさんがいて椅子の上には薄いブルーのドレスが掛けてある。
お母様はフランス語で何か彼女たちに指示をして「後でね・・・隣で待ってるわ」と言って出て行ってしまった。

『さぁ、お嬢様、こちらにどうぞ。まずはメイクからしましょうか』
「え?あ・・・あの!」

『綺麗な髪ですわね。少し巻いても宜しいかしら?』
「え?あっ、ちょっと!」

私の事なんてお構いなしに用意された椅子に座らされて大きな鏡の前でメイクが始まった。
フランス語で『お肌が綺麗ですわね』なんて言われても返事も出来ない。目を閉じろとか開けろとか、色んな事をされてるときに爪にはネイルまで。
それにすごくいい匂いのするお化粧品・・・優しい手つきで触られてるといい気分になってうっとりしてきた。

しばらくしたら『出来上がりましたわ』と言われ、鏡を見たらそこに映っているのは誰だかわかんないくらいだった。
自分には不似合いなお嬢様メイク・・・眉も整えられて可愛らしいピンク系のアイメイクに同じくピンクのルージュ。
まだTシャツにジーンズだったからそれをブルーのドレスに替えられて今度は『ヘアメイクを始めますから』とまた座らされた。

そして全部が終わった時に最後に出されたハイヒール。
シルバーのヒールは私を10㎝も引き上げて、床がすごく遠い!怖くてガクガクしたら2人にクスクス笑われてしまった。

髪の毛は下半分を巻かれてサイドだけ上げて、そこで綺麗な髪飾りを付けられた。
これ以上何をするのかと思ったら仕上げにネックレスとピアス。


『あら!随分と変わりましたわねぇ!何処から見てもお嬢様ですわ。それでは奥様をお呼びしましょうね』
「えっ?あ、あの・・・本当に私こんなのでパーティーに行くんですか?」

『そのように聞いておりますわ。少しお待ちくださいね』

お手伝いさんがドアを開けたまま隣の部屋にお母様を呼びに行って、すぐにこの部屋に戻ってきた。
私とは違って堂々とした足音・・・お母様は部屋に入ると私を見て一瞬驚いたようだった。


「あら!可愛らしくなったわね。ふふ・・・女の子はいいわねぇ。こういうの・・・夢だったわ」


類と同じ顔が優しく笑う。少しだけ・・・哀しげに。

そして私の横に立って、類と同じ瞳で私を見下ろした。


「今日は私と一緒に会場に行って欲しいの。牧野さん・・・あなたには悪いけどこの世界を自分の目で見てちょうだい。類があなたに夢中なのは知ってるのよ・・・でもね、私たちには自分の人生ですら簡単に決められない時があるの。
類にも悪いとは思ってるわ。自由に恋をさせてあげられなくて・・・そういう運命の下に生まれてしまったのね」

「でも、類の人生は類のものです。それに彼は自分の好きにしたからって会社や家のことを軽く考えているわけじゃありません。私にはよくわかりませんがちゃんと話してくれました。この度のトラブルで損害が出たなら自分が会社に入った後、何年掛けても取り戻すって。私の事は受け入れてくれって言いません。でも、類の気持ちはわかってあげてもらえませんか?」

「・・・そうなのね。類はあなたとはちゃんと話すのね」


どうしてだろう。
私にはお母様が”敵”には思えなかった。
類がいつも言ってるような強い部分は感じられない。


この人もまた・・・何かに縛り付けられて身動きが取れないのだろうか。




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2018/08/16 (Thu) 11:59 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

みわちゃん様、こんにちは~♥

おおっ!色々とお考えですね?ふふふ・・・当たっているようないないような?(笑)

はい!アリスちゃんが類じゃないと!!っていうのは違います。
好きな人がいるんですよ~・・・ここも身分違いっぽいですが。

うんうん、岡田が嫌なヤツ。これもそうかも・・・。

後は・・・どうなるでしょうかね。
意外な展開があるかも?です。

ややこしくなってきたので申し訳ないのですが、最後までお付き合いくださいね♥



今日は私の住んでる所には雨が降りませんでした。
湿度だけ上がって蒸し暑くて!気温は今までより低いんだけど・・・。

そして今日も台風が発生しましたねぇ・・・。
西日本に向かってるらしいので心配ですが、どうなるんだろう。

風が強いのは嫌だなぁ・・・雨もそこそこでいいです。
人に優しい季節ってこうしてみると少ないもんなんですね・・・。

体調管理、お互いに気をつけましょうね♥今日はありがとうございました!

2018/08/16 (Thu) 18:02 | EDIT | REPLY |   
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2018/08/16 (Thu) 19:09 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。

そうそう、謎多きお母さんです。
多分、この人が1番わかりにくいんだと思う(笑)

最後の方でわかると思うから気長に待ってあげて下さい。

待て!の出来る女・・・その名はさとぴょん(笑)
待たせるのはRだけじゃないってことで。

2018/08/16 (Thu) 23:45 | EDIT | REPLY |   

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