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plumeria

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西門に着いたのはお稽古の30分前。
何故かいつもより緊張して玄関に入った。このお屋敷には似合わないサンダルを隅っこに揃えて。

すれ違うお弟子さんにも「今日は感じが違いますね」なんて言われて照れてしまう。髪を上げるだけでこんなにも印象って変わるのかなぁ?って不思議だった。
「あら、今日は大人っぽいですねぇ」って言ったのはいつも挨拶するお手伝いさん。
何処が?って思うけどそれって西門さんが選んでくれた服のせいじゃないのかな・・・ここでも顔を赤くして足早に通り過ぎた。


お茶室に向かう途中、女性のお手伝いさんが数人で庭掃除をしている横を通り過ぎようとしていたら、その人達の会話が耳に入ってきた。


「若宗匠のお話し聞いた?やっぱりそろそろそういう話が来るとは思ったけどさぁ」


若宗匠・・・西門さんの話?そろそろってなんだろう・・・何となくその会話が気になって廊下の柱の陰に隠れて立ち聞きしてしまった。


「後援会の皆さんが心配してるって?今年23歳におなりになるのに気が早いわよねぇ・・・」
「でも、会長さんは本気らしいわよ?若宗匠のお遊びがこれ以上派手にならないうちにって」

「佐川様のお嬢様が第1候補ですって?綺麗な人ですものねぇ」
「でも性格的にはどうかしら・・・気が強いのよね、あの方。男性の前と女性の前では態度が違うのよ。だから会長さん達は騙されてるとおもうのよね~」

・・・佐川様のお嬢様?第1候補・・・ってことは西門さんのお相手ってこと?
既に高校の時から色んな人が将来の話を持って来るから煩いって言ってたけど・・・そういうこと?

自分の背中の方から聞こえてくる声にドキドキする。
手には汗が滲んで喉が渇いたような気がして・・・煩く鳴いていた蝉の声が気にならないぐらいこの人達の会話に耳を澄ました。

「西園寺様はご自分のお孫さん押しよ?でも若宗匠のお好みじゃなさそうだけどねぇ!」
「豊田様はご親戚の高校生の写真を準備してるって聞いたわよ?まだ高校生なのにって家元夫人が驚いていらっしゃったわ」


そんなに・・・色んなお屋敷のお嬢様がそんなに候補に挙がってるの?
その中から西門さんが選ぶんだろうか・・・どうやって?全員とデートでもするの?どんな会話してどこに行くんだろう・・・。


「神楽様のお嬢様も候補ですって。あの方なら納得だわ。お綺麗なのはもちろんだけどすごく頭がいいのよ。会話も上品だし確か4カ国語ぐらい喋れるのよ。若宗匠とはお話しが合いそうじゃない?」
「あぁ~!神楽様ね!お父様もダンディーですもの。こちらにお越しになった時、私、絶対見に行くのよね~!これからしょっちゅう来てくれるなら神楽様に1票だわ!」

「なんであんたの好みで決めるのよ!」
「あはは!馬鹿みたい。決めるのはお家元でしょ?若宗匠のお気持ちだけじゃ決まらないのがこの世界の常識よ」


そうなんだ・・・ホントにそんな話があるんだ。
そして決めるのはお家元・・・西門さんの希望通りにはいかないんだね。

そう言えば昔っから言い続けてたもんね・・・「だから遊んでやるんだ」って・・・。


お手伝いさん達が庭掃除を終えて何処かに行ってしまってからその場を離れた。
それまで浮かれてたのに何故か気分はどんよりしてて、あれだけ揺らしたポニーテールも今は少しも動かない。そのぐらい静かに歩いてお茶室に向かった。

こんな気分で西門さんのお稽古・・・受けられるのかな。


なんて考えながら・・・。


**


「え?今日は西門さんじゃないんですか?具合でも悪いんですか?」

「いえ、そうじゃないんですけど遅れ気味のお仕事があるらしくてそれを済ませたいって仰られましてね。意外と書き物のお仕事も多いので溜まってしまうんですよ。ですから今日は私が代わりに・・・ほほ、お嫌でしたか?」

「いえ!そんな事はありません。宜しくお願い致します!」

今日のお稽古はこの西門でも古いお弟子さんの志乃さんという人に変わっていた。
今朝はそんな事ひと言も言わなかったのに・・・そうは思ったけど、あのキスの件もあったからほんの少しだけホッとした。

いや・・・ホントはすごく残念だったけど。


志乃さんのお稽古はスムーズに進んで怒られることもなく、褒められることもなく、良く言えば順調に、悪く言えば面白くないまま終わった。
「何年習っておいででしたっけ?」なんて言われるから「5年です」って言うと首を傾げられたけど、それは5年間もやってこれしか出来ないのかって事なのかしら。

確かに道明寺の依頼は「恥ずかしくない程度に適当で」だったから、西門さんは難しいことは何も言わなかった。
基本所作には煩くて注意が多かったけど「本格的」ではなかった。最低限ここまではっていう所の繰り返し・・・後はとにかく穏やかに時間を過ごしていたから。

「そろそろ新しいお稽古をしてみようか、とは言われたんですが私の方が難しいものはいいって断ってしまったんです。でも、やってみようかしら・・・せっかくこれだけ長いこと習ってますし」

「あら、そうなんですか?若宗匠からのお言葉なら是非挑戦してみてくださいな。人に教えることもいい修行になりますのよ?」

「はい・・・次回のお稽古の時に相談してみます」

にこやかに志乃さんが笑うからつられて一緒に笑って、後片付けに入った。
その時、この人なら何かもっと詳しいことを知ってるのかも・・・と思って、西門さんのことを聞いてみた。


「西門さん・・・ご縁談があるんですか?」
「あら、どうして?」

「さっき少しだけお手伝いの方が話してるのを聞いてしまって。もしそうならお祝い・・・しなきゃいけないかなって思って」

西門さん本人には興味なんてないってフリして言葉を出した。私がそんな事を気にしてるだなんてこのお屋敷で噂されたらとんでもないことになりそう・・・。
そこは道明寺の元婚約者って立場が頭に浮かんじゃうし。

「ほほほ、ちゃんとしたお見合いの話なんてまだ来ていませんよ。でもね、若宗匠がこの2年ぐらい、随分と落ち着いていらっしゃるから今のうちに身を固めたらどうかって言う後援会の方がいるんです。また昔のように夜遊びが派手になると困るから、いいお嬢さんがいたら早いほうがいいんじゃないかってね。それだけですよ」

「・・・西門さん、今は夜遊びしないんですか?」

「えぇ・・・そうねぇ。大学の後半ぐらいから本当に落ち着いてるのよ。だから好きな方がいるんじゃないかってみんなが噂してねぇ。お1人に絞ることが出来ると思わなかったから家元夫人も喜んでらっしゃるけど、それが誰なのかはわからないのよ」


「好きな人・・・ですか?」

「えぇ、その方が西門に釣り合う人なら大賛成じゃないかしら。でも、そうじゃなかったらお家が決めた方を選ばれるかもしれませんけどね。そこはまだご家族で話し合う所まで進んでないと思うわ」


西門さんの好きな人・・・西門流が認める人。
道明寺と別れた私・・・何も持ってない私。

どうしてだろう・・・こんなに哀しく感じるなんて。


見て欲しくて着てきたワンピースが寂しく翻る。
朝よりも可愛くしたつもりのポニーテールのせいで頭が痛い気がする。

志乃さんに丁寧に頭を下げて西門邸から出て行った。





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2018/08/22 (Wed) 22:13 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。

えぇっ!そんなに・・・泣かした?ごめんなさい~💦

総ちゃんは自分の気持ちはわかってるけどつくし待ち・・・。
はっきり言わない理由は彼なりにあるんですよ。

それなのに昨日はあんなにダダ漏れしちゃって今頃自己嫌悪なんでしょうね(笑)


つくしちゃんは天性の鈍感なのですがそろそろ自分でもわかってきてますね。
そんな時にこんな話を聞いたのでガックリ。
ここはいつもの「自分じゃダメなんだよね」のパターンですが・・・。

この先どうなるやら?


焦れったい総ちゃん・・ムズいっ!!(笑)

2018/08/22 (Wed) 23:51 | EDIT | REPLY |   

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