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「・・・おい、大丈夫かい?おい・・・おい!」


・・・俺の身体を揺らしながら誰かが頭の上で声をかけてる。
全然知らない声・・・嗄れたおじさんの声でそれは何度も繰り返された。

鼻をつくのは森の匂い・・・その独特の匂いがして、手に掴んでるのは草?やけに冷たい空気の中、ゆっくり目を開けた。

「・・・ん、うん・・・」
「お!気が付いたか?お兄ちゃん、おい!大丈夫か?」

「・・・・・・あれ、ここは?」


少しだけ身体を起こしたら、目の前には会ったこともない50歳ぐらいの男性が座り込んで心配そうに俺の肩に手を当ててる。
目だけ動かして辺りを見たけどまるで覚えのない、森に囲まれた草むらの中で寝ていた。

「・・・・・・あ、牧野・・・牧野は何処?・・・牧野!」

上半身を起こした瞬間、全身に痛みが走った。小さな傷が沢山ある・・・それを見たら昨日の光景が蘇って来た。

「まきの?えっと、お嬢ちゃんならあんたの真横に寝てるよ」
「え?どこ・・・」

おじさんが言ったように牧野は俺が身体を起こした反対側で、俺にぴったりくっついた状態で倒れていた。
慌てて身体に触れてみたけど温かい・・・ホッとしたけど状況が理解出来なくて自分が寝ていた場所をぐるっと見渡した。



「ネリウムの館」なんて・・・何処にもなかった。


俺達の周りには静かな森があるだけで夾竹桃の木もなかった。
あれだけ咲いていた花も古い洋館も・・・門も何もなく俺の車だけが少し離れたところに駐めてある。

呆然とそれを見ていたら牧野も気が付いて起き上がってきた。そして同じように驚いた顔で辺りを見渡して「ここは何処?」って俺に聞いた。

「・・・俺にもわからない。俺達が泊まっていた屋敷が何処にもないんだ・・・木も花も何も・・・」
「うそ・・・でも、私たちはあのお屋敷に3日間居たよ?ご飯食べて散歩して・・・湖は?湖は何処?」


「湖?湖を知ってるのかい?いや、でもそんなはずは・・・」

急におじさんがその言葉に反応した。

「この近くに湖がありますよね?私たち昨日はそこで魚を見たもの」
「魚?湖って・・・小さな青いヤツだろう?もうその湖は50年ぐらい前に干上がってしまったよ」

「え?でも、だって私たちはちゃんと見たわ。それに大きなお屋敷があってそこに泊まってたのよ?」
「大きな屋敷?ここにあったのかい?」

「そう!お花が沢山咲いててとっても綺麗で、バルコニーのあるお部屋に泊まってね」
「いやいや、儂はここに何十年も住んでるが大きな屋敷が建ったことなんてないよ?」


おじさんと牧野の噛み合わない会話が続いて、おじさんの方がその場に座り込んだ。そして被っていた麦わら帽子を1度とってからタオルで顔や頭を拭いて・・・そして大きく溜息をついた。

「どうやらあんた達は見てしまったんだなぁ・・・ここで無残な最期を遂げた人の魂を・・・」


「無残な最期を遂げた人・・・?」

おじさんは目を細めてこの草むらの奥を見つめ・・・そして「自分も爺さんから聞いたんだが」と言って話し始めた。


**


今から80年くらい前、世の中は国家総動員法が制定され第二次世界大戦が勃発する頃、混沌として落ち着かない不安定な時代だった。
その頃、東京からここ軽井沢に別荘を持つ裕福な家庭の若者が、混乱を避けるために数人の使用人を連れてやってきた。


それが花沢透。
彼はこの土地で1人の女性と知り合い恋に落ちた。


毎回別荘と彼女の家の中間辺りにあった神社の祠の夾竹桃の下で愛を語り合い、将来は東京で暮らそうとお互いに話し合っていた。
女性の名前は響子・・・この辺りの農家の娘だったがとても美しくて明るい人だった。

響子の家の近くにあった湖は2人のお気に入りで、よくそこでも2人は並んで歩いていた。透き通った湖面に自分たちの姿を映してお互いの夢を話し合った。


これを知った花沢家がこの恋を許さず、透を東京に戻すことにした。
親の言うことにも逆らえず、透は1度東京に戻り両親を説得してから響子を迎えに来ると言い、最後にもう1度会う約束をした。


それがいつも愛を語った夾竹桃の下。
明日、透が軽井沢を出るという日の夜、響子は家を抜け出して神社に来ていた。

透も花沢の別荘を出て響子に会いに向かったが、使用人に見つかり連れ戻されてしまう。


『離せ!東京に帰る前に1度会うだけだ!逃げようというわけではない!』
『透様には申し訳ありませんが旦那様からのご命令です!どなたにも会わせてはならぬと・・・ですから行かれては困ります!』

『必ず戻ると約束する、だから行かせてくれ!響子が待ってるんだ!頼む!』

透の必死の願いも叶わず、彼は別荘の一室に閉じ込められ監視された。


それを知らない響子はいつまでも透を待ち、来ないのは夜道でわかりにくいからだろうと枯れ枝を集めて火を付けた。
その煙で場所を知らせようとしたのだ。

だが、響子は夾竹桃に毒があることを知らず、その枝を燃やして毒を含んだ煙を吸い込んでしまった。
身体が痺れてふらふらした響子は誤って自分で付けた火の中に倒れ込み着物に火が燃え移った。その時ちょうど姉を探しに来た誠司が助けようとして自分も炎の中に飛び込んだ。

誠司はその炎の中で焼死、響子も全身に大火傷を負ったがまだ息があった。

煙に気が付いた両親に見つけられ、響子は自宅に連れ戻され手当を受けたが、顔は焼け爛れ、手も足も皮膚が爛れて引き攣り、美しかった面影は何処にもなくなった。
激しい痛みの中で何度も呼んだのは透の名前・・・だが、結局透は響子の元に来ることはなかった。


一時期危篤状態に陥ったが、透は必ず来てくれると信じ続けた響子は奇跡的に一命を取り留めた。

ほぼ視力を失い、姉思いの弟を失い、誰かに起こしてもらわなければ歩くことも出来ず食事も1人では出来ない、そんな身体になっても響子は窓の外を眺めて透が来るのをずっと待っていた。

そして数年が過ぎてどんどん衰弱していく響子だったが、毎年夏になると窓の外に僅かに見える夾竹桃の木を眺めて透への想いを囁いていた。

『あそこに行きたい・・・透さんが来るかもしれない。誰か・・・誰かあそこに連れて行って・・・』


その頃、透は親に言われるまま東京で妻を娶り、響子のことを想いながらも穏やかな生活を送り男子も生まれていた。
このような惨事が起きていることも知らずに・・・。


『・・・うそ、うそよ・・・透さんはそんな事しない。私を迎えに来るって言ったもの・・・』
『残念だが本当なんだよ。噂では花沢の坊ちゃんはもうお子さんも生まれて幸せに暮らしてるんだそうだ。ここに来ることはもうないだろうよ』

『そんな・・・そんなはずはないわ!私はどうなるの?こんなになった私はどうなるの!!』


透の事を聞いた日の夜・・・響子は歩けないはずの足を引き摺り、殆ど見えない目で草むらを掻き分けて祠に向かい、あの夾竹桃の木まで辿り着いた。
そこで響子は夾竹桃の枝を切り・・・自分の首に刺して命を絶った。

その夾竹桃の木の幹には響子の血が飛び散り、薄いピンクの花が咲いていたのに翌年からは妖しく濃いピンク色の花を咲かせるようになったと言う・・・。


その後、祠は戦争で必要だった材木のために取り壊され、この辺り一帯には避難民で溢れかえった。湖も元々小さかった為、汲み取られていくうちにやがて姿を消した。


透と響子の思い出の土地は何もなくなったが、その夾竹桃だけは枯れることもなく、翌年も血のような花を咲かせていたらしい。


**


「それ以来この辺で夏になると1本だけ夾竹桃が咲いておったんじゃが・・・ほれ、あの辺りにな。だが、どうしてなくなったんだ?去年も咲いておったと思うんだが・・・」

「昨日・・・俺が燃やしたから?夾竹桃に火を付けてしまったんだ・・・」
「夾竹桃に火を?それで倒れていたのか・・・あれの毒は下手したら命を落とすんだぞ?」

俺達はその木のあった場所に行ってみた。
そこは焼け焦げた跡なんて何もなくて、ただ年老いて朽ちて枯れたと思われる夾竹桃の根元だけがあり、そこに写真展に出された俺の写真が載せられた広告が汚れたまま落ちていた。

牧野はそれを拾って俺の顔についてる汚れを指で拭き取った。

「あぁ、こんな所に飛んで行ったのかな?多分儂が持って帰ろうとしたチラシじゃろう。孫が毎年楽しみにしてるからと思ったんだが途中で無くしてしまって怒られてねぇ。おや・・・これはお兄ちゃんかい?」

「うん・・・私が応募しちゃったの」


「でも、おかしいなぁ・・・時々ここを通っているが毎年ピンク色の花を見たと思うんだがなぁ?」

おじさんは最後まで首を捻っていた。


おそらく彷徨っていた響子の魂が毎年花を咲かせていたんだろう。
もう朽ちてしまった木をその時だけ蘇らせて・・・俺の曾お爺さまを待っていたのかもしれない。



おじさんに礼を言ってその場で別れた。
そして離れた場所に駐めていた車に乗って東京に戻った・・・確かに日にちはちゃんと3日間経過していた。


**


東京に戻ったら供養のために軽井沢のあの場所に慰霊碑を建てるように指示して、俺と牧野はもう1度足を運んで響子と誠司の墓に手を合わせた。
そこにはもう読めなくなったような字で確かに「松田響子」と書かれた墓標があった。

「・・・哀しい出来事だったんだね」
「うん・・・そうだね」

「わかるなぁ・・・私も不安だもん」
「牧野は心配しなくてもいいよ。俺は離れたりしないから」

「・・・そうだね。同じ場所にいるもんね」
「うん・・・」


墓に花を備えて線香を上げて牧野と東京に戻ったのはその日の夕方だった。


花沢に帰らずに今日も牧野のアパートに向かった。
すべてが終わったって事から会話も弾んで、今度はこの秋にどこに行くかで盛り上がった。

「だって類ったら私が言わないと何処にも行かないんだもん!今度は紅葉を見に行こうよ。お弁当作るからさ」
「今度は大きなホテルにしよ?出来るだけ街の中がいい。もう暫く森には行かないからね?」

「そうねぇ・・・でも、温泉があるところがいいなぁ!」

そんな会話をしながら駐車場からアパートに向かっていた。


「あれ?何かポストに入ってる。またDMかなぁ?ゴミになるのに!」

牧野がそんな事を言って封筒を取り出しそれを手に持って部屋に入った。
入ったら冷たい麦茶を2人で飲んでまずは休憩・・・ソファーに並んで倒れ込んだあと、届いていた封筒を開けてみた。

「なんだろ、これ・・・きゃあああぁーっ!」
「どうした?!」

ガタガタ震えて牧野が投げ捨てた紙・・・それを俺が拾って書いてある文字を見た。




『ご利用ありがとうございました。
またのお越しをお待ちしております。   

    ネリウムの館  松田響子』










nerium-oleander-199638_1280.jpg


最後までお付き合いくださりありがとうございます。

次はあきら君のオカルト、「忘れられた約束」です。
同じく偶数日に公開です。
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Comments 8

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2018/09/08 (Sat) 12:40 | EDIT | REPLY |   
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2018/09/08 (Sat) 13:59 | EDIT | REPLY |   
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2018/09/08 (Sat) 14:14 | EDIT | REPLY |   
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2018/09/08 (Sat) 16:53 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

みわちゃん様、こんばんは。

そうですね(笑)

その頃は何かと混乱があって手紙1つも大変だったのかも・・・と、言うことにしましょう(笑)
ふふふ、響子さん、今度は類に恋したかも・・・?

そんな余韻を残してみました(笑)

また会いに来るのかもしれません。怖い怖い(笑)


はい、今度はあきら君です。久しぶりに書くので全然彼のことが掴めませんでしたが(笑)

え?司君?


・・・・・・えっと、そのものがねぇ、怖いから。
襲ってくる亡霊はいない・・・かな?

2018/09/08 (Sat) 19:15 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ミキッp 様、こんばんは!

怖かったですか?そこまでは・・・なかったですよね?
響子さんより類君が憑依されたのを読者様が「いやぁーっ!」って思われる方が怖かったですが(笑)

憑依されて終わっては類君の立場がございませんから最後はバッチリ闘っていただこうと思っていました。
少々無理はございましたが読んでいただいてありがとうございました。

あきら君(笑)

はははっ!どうなりますか・・・実はあきら君を書くのは苦手なのです。
でも2度とオカルトは書かないと思うので最後に頑張ろうと思います!

2018/09/08 (Sat) 22:28 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

わんこ様 こんばんは!

あはは!終わったんですよ~!
オカルトは最後に不思議現象で終わらないと(笑)

で、そうそう!そうなんです!
響子さんは今度は類君に恋をしたって感じで終わったんです~♥

もしかしたら姿を変えて出てくるかも?

なーんて!もうオカルトは書きませんのでご安心下さい。


夾竹桃・・・実は子供の時に花を口にしてしまって倒れたのは・・・私です(笑)
(そしてわたしの母の名前がキョウコです)

2018/09/08 (Sat) 22:31 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。

3日間?妄想の世界に行ってたんだと思います(笑)
多分草むらで草食べたりしたんじゃないかしら。

雑草の小さな花に向かって「綺麗な薔薇~」とか言ってたりしたんですよ。


あれ?言われたらこの2人・・・一応R紛いの行為をしていましたよね?
ってことは「星空の下」だったんでしょうか?

あ~れ~💦そりゃヤバいですねぇっ!
あのおじさんが見てたらどうすんの?怖い怖い・・・!


あきら君・・・どうなんだろう(笑)
私は怖くないんだけど、もしかしたらやっぱり1番怖いかも?
総ちゃん、400年前、類君80年前・・・あきら君はさて?

2018/09/09 (Sun) 01:06 | EDIT | REPLY |   

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