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空港に着いたら「ここで待ってて」って私をロビーの椅子に座らせて類は何処かに行ってしまった。

突然の事だからチケットの手続きをしてるんだろうけど、私は今でも何が起こったのかわからなくてキョトンとしてしまう。
フランスに来た時とは違う、ヨーロッパ圏内を飛ぶ飛行機が離発着するターミナルだからビジネススーツの人が多いように感じる。そんな中、部屋着で荷物も僅かな私は逆に目立っているのか、通り過ぎる人の視線が怖いぐらい。

暫くしたら類が戻ってきて「もうすぐ飛び立つ便が手配出来たよ」、そう言ってスーツケースを持って歩き出した。


「ねぇ、類、こんなに急いでイタリアに行くなんてやっぱり何かあったんじゃないの?」
「ううん、元々イタリアに行きたかったからね」

「でも、またフランスに戻るって言ったよね?イタリアでそんなに早くヴァイオリンのことがわかるの?」
「それは探してみないとわからないけど?」

「今度はいつフランスに帰ってくるの?」
「長引いても1ヶ月後。その後は日本に戻るよ」

「1ヶ月後?」


イタリアに行く便の搭乗ゲートをくぐって私たちは急いで飛行機に乗り込んだ。
急いでるからなのか類が普通の便で行くなんて・・・本当に小さな飛行機の狭いシートに彼が座るだなんて思いもしなかったから少し驚いた。

これまでの行動と彼の家のことを考えたら、こんな飛行機は想像できない。
でも買い物といい、アパルトマンといい、私に合わせてくれてるのかと思うと嬉しかった。私の世界でもちゃんと暮らしていけるよって・・・類がそう言ってくれているような気がしたから。


フランスからイタリア・ミラノまでは飛行機で僅か1時間20分しかかからない。
アパルトマンを出て3時間後には私たちはミラノの空港にいた。

ミラノはイタリアでは首都ローマに次ぎ第2位、イタリア北部の最大都市。だけど経済的に見ればミラノの方が主要都市らしい。
古くから服飾や繊維産業などファッション関連の産業が盛んな土地だけど、近年は自動車や精密機器なんかでも注目されてる経済都市だって類が教えてくれた。

「ヨーロッパなんて来ることもないと思ってたから全然わかんない。類は何度も来てるの?」

「うん、子供の時からね。ヴェネチアに別荘があるからそこに数週間泊まったりはしてたよ。もう何年も行ってないけど」

類の説明によるとローマとミラノは東京と関西って言うぐらいの違いがあるそうだ。
人間の性格で言えば「ミラノ人は個人主義的で人との距離を空ける」ローマ人は「迷惑なくらいお節介焼きな所がある」ってクスクス笑いながら話してくれた。
元々が違う国だったから言葉のイントネーションや発声の仕方も違うんだって。

そんな類の言葉は流石、国際経済学部トップの頭脳なんだけど私には全然わかんなかった。
わかったのはただ1つ・・・彼の隣に立つのなら相当勉強しなくてはならないということだった。


「本当なら観光に連れて行ってあげたいんだけどすぐに電車に乗るね。余裕があったら帰りに観光しようよ」
「ここには何かあるの?この空港の周りには何にもないね」

「ミラノ大聖堂、知らない?イタリア語で”ドゥオーモ”と呼ばれる大聖堂で135本の尖塔があるんだけど、それぞれの天辺には聖人たちの像が立ってるんだ。一番高いところにある金のマリア像は『この街にはこの像よりも高いものを作ってはならない』っていう信仰心らしいよ」

こんな話をしながら私たちは急ぎ足で小さな国際空港を出た。
ここから何処に行くんだろうと思ったら駅の方を指さして「あっちみたい」 ・・・流石の類もこの町での個人行動は初めてらしい。


「ここから電車で移動するね」
「電車?類が電車に乗るの?」

「・・・乗ったことがないからさっきから凄く調べてたんだって・・・」
「え?タクシーの中でスマホを見てると思ったら移動手段調べてたの?」

「色んな国に行ってるけど全部用意してもらってから行くだろ?自分1人で行ったことなんてないから」

少し照れくさそうに話す類は新鮮。
彼と手を繋いで目的の駅まで向かった。



**********



ミラノから向かうのはヴァイオリンで有名なクレモナという街。

類のお婆さまがあのヴァイオリンを送った工房もその街にあるらしく、そこで当時の状況を調べることが目的だった。
修理をしてくれた職人さんが今でもいるのか、その時の事を詳しく覚えてくれているのかわからないけれど本物のお婆さまのヴァイオリンの行方が知りたい、ただそれだけのために。

そして、急いでここまで来た理由も教えてくれた。

1ヶ月後・・・今度はローラン社の会長の誕生日を祝うパーティーに出席しなくてはならないと。
その時にアリスさんとの婚約を正式発表するつもりでお母様達は動いていると。


「それまでに早くヴァイオリンのことを終わらせなきゃね。これが早く終われば今度はアリスと彼のことを応援出来る・・・アリスが俺を望まなければこの話はなくなるし、そうなると花沢とローランの間がどうなるか・・・大学が始まるまでにこれを全部解決しなきゃ日本に戻れないでしょ?」

「・・・出来るの?1ヶ月しかないんでしょ?」

「やるだけやってみるさ。俺がイタリアにいる間にアリスも上手く動いてくれるといいけどね」

それがどれだけ大変で難しいのか私には見当もつかない。
類にそこまでの負担をさせているのは私のせい・・・私の存在が彼を苦しめているような気がして胸が痛んだ。それが顔に出てしまうのか、類は優しく笑ってくれる。


「あんたがそんな顔をしなくてもいいんだって。俺は自分で決めたんだから。牧野と居たいっていうのは俺の希望・・・もし、これで花沢を捨てることになっても、自分を押し殺して生きていくよりずっといいよ。だから牧野は笑っててよ・・・俺の横で笑ってて?」


クレモナに着くまでの1時間と少しの間、類に肩を抱かれて電車の窓からイタリアの風景を見ていた。
向かいには知らないおばさんが座ってるし、通路の向こうにはお爺さん達が大笑いしてるし、そんな長閑な電車の中で私たちは黙ったままお互いの手を握っていた。

「・・・見つかるといいね」
「うん・・・何処かで待っててくれたら必ず会いに行くんだけどね」

「・・・お婆さまが教えてくれたらいいのにね」
「くすっ・・・お婆さまの悪戯かもね。俺達に旅行のプレゼントでもしてる気分なんじゃないの?」


交わした言葉はこのぐらい。電車がクレモナの街に着いたのは夕方の5時過ぎだった。



クレモナはミラノとヴェネチアという二大都市に挟まれてて、1日もあれば歩いて回れるような小さな街。

ストラディバリなどの有名なヴァイオリン職人が暮らした場所で、今でも80を越える工房があるらしい。小さいけれど意外と裕福な街だから楽器作りが盛んになったみたいだと類が言ってた。
現在日本人も100人ぐらい住んでて日本人のヴァイオリン工房もあるみたい。


イタリアの人は夕方早くに仕事を終えるからこの時間からの訪問は出来ない。
だから今日はこれからホテルに向かうことにした。いつもならこんな時でもリムジンのような車で移動していたのに今回は歩きながら予約したホテルを探した。

「何処だろ・・・俺もこの街は初めてだからわかんない」
「もしかしたらホテルもさっきスマホで調べて予約してたの?」

「うん、いつイタリアに入れるかわかんなかったから下調べが出来なくて」
「ホテルの名前は?」

「えっと・・・クレモナホテルズ・インペロ・・・あっ!ここかも」

類が指をさしたのは私たちが歩いていた場所の100メートルぐらい先。
この町の大聖堂から近くて道路に面した大きなホテルだった。でもフランスのホテルと違う歴史を感じる外装・・・この町全体がオレンジっぽい壁や屋根で出来ててパリほど緑も多くない。

そんな中に私たちの泊まるホテルはあって、そこには類が泊まるようなスィートルームなんてなかったから普通のお部屋。それでも内装はエレガントで景色は最高だった。


小さな窓からここでも肩を寄せ合って外を眺めた。
暮れてゆく空にだんだん外灯が光り出す街・・・沢山の人が行き交う交差点が真下に見える。
少し向こうにはロンバルディア建築の大聖堂が荘厳な姿を見せてる・・・とても穏やかで静かな夜を迎えようとしていた。


何でもない旅行ならどれだけ幸せだろう・・・言葉に出さなくてもお互いにそう思っていた。




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2018/08/24 (Fri) 13:31 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: こんにちは🎵

yuka様 こんばんは。

はい、イタリアに来ました~!

私はローマとポンペイなら行ったことがあります。
忘れもしませんよ・・・新婚旅行でしたが大喧嘩しましてすっごい顔でトレビの泉の前で写真撮ってます。

笑った顔なんて1枚もありません(笑)

で、ポンペイに行ったときはカメラが壊れまして写真がないっ!!
今みたいにスマホもないし、携帯も殆ど「自動車電話」ってな時代ですのでないでしょ?
悲しかったですねぇ・・・。

使い捨てカメラが売られていたのでそれを大量に買って撮りましたよ(笑)

で、航空会社はストライキを始めて飛行機が飛ばなかったりね!


思い出したら腹が立ってきました(笑)

お話しの方は穏やかに進めたいと思います!

2018/08/24 (Fri) 20:22 | EDIT | REPLY |   

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