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ローラン会長の屋敷から連絡があったのは次の日の昼過ぎだった。
「すぐにお越し下さい」と、緊張した声で屋敷の人間から電話があり、少し嫌な予感がした。

「牧野・・・ホテルで待っとく?もしかしたら嫌な話かもしれない」
「ううん。私も行く・・・どんな話でもちゃんと聞くから」

「・・・そう?ありがとう。心強いよ」

牧野と繋いだ手は自然と指まで絡めていく。
その力が少し強くなって、牧野をもっと不安にさせたかもしれないと思うけど。


そして屋敷に着いたら昨日と同じ人間が出迎えてくれて、同じ客間に通された。
ローラン会長が来る前に使用人がお茶を出してくれたけど飲めるような穏やかな空気じゃない・・・やはり、会長は昨日の俺の訪問を受けて、今の「花沢物産」を調べたんだろうか。

そうしているうちにまた使用人に支えられてローラン会長が現われた。
昨日と同じ席につき、今日は少し顔色が悪い・・・機嫌も良くないのか眉間に入った縦皺は深かった。


「こんにちは、ローランさん。急なお呼び出しでしたがヴァイオリンのことで何かありましたか?」

会社に関する内容かどうかわからない。あくまでも楽器のことで・・・と、話を切り出したがやはりローラン社をここまで育てた女実業家は甘くはなかった。


「ルイさん・・・あなた、肝心なことをこの私に話しませんでしたね?」

「肝心なこと・・・フランスのことですか?」

「えぇ、私の孫娘のことです。あなた・・・アリスと婚約する仲なのですって?」

「それは決定事項ではありません。どのように聞かれたか知りませんが私には恋人がいます。ここにいる彼女を裏切る気もありませんし、愛情のない無理矢理な結婚など無意味、そう両親には話しています」


「・・・そちらの方はイタリア語があまりわからないのだったわね?」
「はい、殆どわかりません」

厳しい言葉は出しても牧野の事は気に掛けてくれたんだろう、不安そうな目をした牧野の方を見る時には少しだけ表情をやわらげた。それでも俺の方に向き直った時にはその目の色は変わった。


「アリスは申し分ない子に育っているわ。親には似ず美しいし気立てもいい子よ。それなのに愛情を持てないというの?」

「アリスさんはとても素敵なお嬢さんだと思います。それは本当です。先日もあなたの事を始め色々とお話をして、楽しい時間を過ごしましたよ。だからといって夫婦となり愛していけるかというとそれは違う」


ローラン会長の表情は一層険しくなった。

アリスは多分、まだ両親に自分の愛する人が俺以外にいると言うことを話せてはないだろう。あのパーティーの日からまだ数日しか経っていないのだから。
今は彼を説得しているか、どうやって両親に話すか・・・それを迷っている時期だと思う。


「私は昨日、あなたが帰ってからハナザワについて調べました。マサユキさんの会社が日本で大きくなっていって、その息子さんがヨーロッパに進出し、フランスを中心に事業をしているのは知っていましたからね。私の会社と取引があるのも当然知ってたわ。息子さんの事は知らないけど、マサユキさんの会社なら贔屓にしようと思ってハナザワとの共同事業をさせてきたのはこの私ですもの」

「そうでしたか。私はまだ学生なので花沢物産には直接関わっていませんが、ローラン社のことは最重要取引先として認識しておりました。確かにヴァイオリンの行方を調べてあなたのことを聞いた時、この度のことをお話しすべきかどうか迷いました。ですが、花沢物産のこととヴァイオリンのことは切り離して考えようと思い、あえてお話ししませんでした」

「フランスでハナザワと新事業をするとは聞いていたわ。でも、ハナザワのミスでそれが頓挫してるんですって?その報告は受けていなかったわ。どうやらそれが原因でこの婚約話は出てるようね?」

「そのようです。私も日本でその話を聞き、フランスへ来るようにと言われました。そこにアリスさんがいたわけです」


暫くローラン会長は黙ったまま俯いていた。
どのくらい時間が経っただろう。ようやく頭を上げたときには1人の老婦人の表情ではなく、企業人の目をしていた。

「息子から話を聞いた限りじゃアリスはあなたとの婚約を望んでるらしいわ。それなのにあなたはあまり乗り気ではないようね。先日のあの子の誕生日パーティーも途中で帰ったんですって?可哀想にアリスは悲しんでいたそうよ」

「それはローラン社長のお言葉ですよね?アリスさんとお話しは?」

「まだしていないわ。それにしてもハナザワは考えが甘いようね・・・婚約はしないし、トラブルの解決策も出してこない。跡取り息子は私のヴァイオリンをこの世から消してしまう。そして金銭で弁償して本物のヴァイオリンは返して欲しい・・・そういうことでしょ?」

「・・・昨日からお詫びしているように確かに焼失させたのは私の責任ですから何を言われても弁解は致しません。祖母のヴァイオリンもお返しいただけるのであれば相当の弁償をする・・・それ自体もおかしいとは思いません。
確かに金銭では片付けられない”想い”というものはあるでしょう。私が逆の立場だったら何倍もの金額を払われても納得は出来ないかもしれない。ですが、もはやそれしか出来ないからご提案したのです」

流石、長年第一線で企業を育て、守ってきただけのことはある・・・何かを決心したかのように見える彼女は俺の言葉には眉1つ動かさなかった。
気迫・・・そういう面では完全に負けているような気がする。

それでも隣で会話がわからないために不安になってる牧野の瞳をこれ以上曇らせるわけにはいかなかった。


「ローランさん・・・いや、ローラン会長、私はあなたが祖母のヴァイオリンを今回の騒動の取引材料には使わないと信じていいですよね?まさかそのような事をお考えですか?」

「・・・そのまさかだとしたら?」

「もし、そのようなことをされるのであればすぐにでも弁護士を立て訴訟を起こす・・・そのぐらいの覚悟はあります」

「そんな事は出来ないでしょう?ハナザワを切るかどうかはこの私のひと言で決まるようなもの。私にはなんの報告もなかったから知らなかったけれど、重要案件の最終決済はまだ私なの。私の言葉でハナザワのヨーロッパでの立場は決まるかもしれなくてよ?」


少しニヤリと笑った会長・・・してやったりとでも言いたそうに口角を上げた。

それに俺はなんの反応もしなかった。
今度は俺の方が少し俯いて・・・でも、そこで軽く笑ってしまったからローラン会長は驚いたようだ。


「何が可笑しいの?ルイさん・・・ちゃんと自分の立場を理解したの?」

「私の立場?・・・いえ、そうではありません。祖母のヴァイオリンが会社経営のために利用されるぐらいなら、私はそのヴァイオリンのことを忘れます。お返しいただくためのなんの行動も起こしません。そして・・・私は花沢を出ます。それは両親にも伝えてあることです。自分の思う人生が送れないのであれば自分の家を捨てる、そう言ってありますから」

「なんですって?あなたはたった1人の後継者のはずでしょう?」

「そうです。でも、その前に私は彼女・・・牧野つくしにとって唯一のパートナーでありたい・・・それが1番の願いですから」


「唯一の・・・パートナー?」


ローラン会長の前だけど牧野を抱き寄せて髪にキスしたら「なんてことすんの!」ってここでも大きな声をあげて照れてる。
そんな場面を会長に見せて俺の気持ちを伝えた。

「祖母のヴァイオリンがこの世にあるならどうにかして祖父のヴァイオリンの元に戻してやりたかっただけです。でも、そのためにヴァイオリンが会社の取引に利用されたり、俺の人生を左右するなら祖母は喜ばない。
俺には愛する人と共に人生を歩んで欲しいと望んでくれた人ですからね・・・それなら花沢という家なんてなくても2人で生きる方がいい・・・」

「マサユキさんの元に・・・あのヴァイオリンを?」


「いつか彼女のピアノで私がヴァイオリンを弾き、それを誰かに喜んでもらえばいいんです。祖父のヴァイオリンでそれを叶えますよ・・・それではローラン会長、色々とありがとうございました。ヴァイオリンのことはもう忘れてください」

牧野に「話は終わったから帰ろう」と声を掛けるとニコッと笑ってソファーから立ち上がり、牧野はローラン会長に頭を下げた。
俺ももう1度深く礼をして客間を出ようとした時、思い出したことがあって言葉を出した。

「そう言えばローラン会長のお誕生日のパーティーを1ヶ月後、フランスで行うのでしたね。おそらくそこでまたお会いできると思います。もしかしたらそれが私の花沢としての最後のパーティーになるかもしれません。楽しみにしています・・・それまでどうかお元気で・・・」


会長は座ったまま無言で俺の言葉を聞いていた。


この時、俺は完全にヴァイオリンのことは諦めて、次にする事を考え始めていた。




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2018/08/31 (Fri) 00:37 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、おはようございます。

あら♥嬉しいコメントですわ(いつも嬉しいんだけど)

昔はヴァイオリンとお婆さまでしたが今はつくしちゃんだけ・・・そんな一途な類君です♥
高級ホテルにも泊まらずアパート借りて、お買い物して手を繋いで・・・そんな普通の生活の類君って好きなんです。

でも、いざとなったら豪華になるんですけどね(笑)

「あんたが傍にいたらそれだけで充分」・・・こんな類君m素敵ですよね~!

この先にも少しだけ試練はございますが頑張って最終段階に進みたいと思います。

2018/08/31 (Fri) 08:33 | EDIT | REPLY |   
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2018/08/31 (Fri) 08:54 | EDIT | REPLY |   
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Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんにちは。

さて、どう出てくるかしら。
類君、超格好つけてるけど実は内心めっちゃ泣いてたら笑えますよね。

こうなったら美作の工作員使って夜に屋敷に侵入して奪い取ったらいいと思います!

「もしもし・・・あきら?俺だけど。今、何処にいるの?」
「・・・またか、類」

「大至急イタリアに来てくれない?盗んで欲しいものがあるんだけど」
「女のハートか?いい女か?」

「・・・うん、あきらの大好きな年上だよ」

2018/08/31 (Fri) 11:25 | EDIT | REPLY |   
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2018/08/31 (Fri) 20:54 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは!

あはは!なにやら妄想してますね?

禁断のお部屋にようこそ!さとぴょん様には覆面作家12号のお名前を差し上げます!!

お話出来たら持ってきてねぇっ!

2018/08/31 (Fri) 21:55 | EDIT | REPLY |   

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