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plumeria

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明日はとうとう日本を離れるんだ。
すっかり片付けた部屋をみて少し心細くなる。後は美作さんの家の人がこの荷物を取りに来てくれる。
言われたとおりに、今日は空港に近いホテルに泊まることにしていた。

大家さんに部屋の鍵を返して、この古くて小さいアパートをもう一度振り向いて見てみる。

両親と離れてからずっと1人で過した場所・・・それなりに思い出もある場所。
道明寺も類も・・・美作さんも西門さんも、この狭い道路に大きな車を横付けしていつも迎えに来てくれたっけ。

「お世話になりました・・・」

2階の自分の部屋に向かって頭を下げ、小さく呟いてアパートを後にした。


アパートを出てすぐの曲がり角、やっぱりそこに来てくれてた人・・・
姿を見たら泣くかもしれないから、わざと連絡しなかったのにね。嬉しいけど辛いんだよ?


「1人で行く気だったの?最後まで送るって言ったでしょ?」

「類・・・いつから待ってたの?私、時間言わなかったのに」

類は自分の白い車のドアに寄りかかって立っていた。
本当になんて綺麗な人・・・こんな場所に似合わなさすぎて、こんな時なのに笑ってしまうよ・・・。

類がドアを開けてくれた。

「今日はホテルなんでしょ?そこまで送るよ。乗って?」

「うん。ありがとう・・・」


車に乗っても2人とも何も話さなかった。

どうしたらいいの?この沈黙がすごく重たくて喉に何かが詰まったみたいに息苦しかった。
運転している類も前を見たまま・・・助手席の私を一度も見ようとしない。

今、何を考えてるの?そう聞きたいけど私もその一言が出なかった。

ホテルまでの30分・・・その時間はあっという間に過ぎてしまう。
もうここで類は帰るんだと思っていたら、類はホテルの駐車場に車を入れて一緒に降りてきた。
・・・え?ちょっと待って?類もここに?

多分、私がすごい顔してたんだろうな・・・今まで黙ってた類が笑い出した。

「心配しなくても何にもしないよ?ただ、もう少し一緒にいたいだけだから。食事くらいいいよね?
今日は俺もここに部屋をとってるからさ」

あ、そうなんだ。勘違いした自分が無茶苦茶恥ずかしかったけど笑ったおかげで少し気分が軽くなった。
そして類とホテルの部屋でルームサービスでの食事をとった。でも今日は味なんてわかんない・・・
そして、今しか言えないから・・・類に素直な気持ちを告げた。


「類、今まで本当にありがとう。私、甘えてばかりで類に何もお返しできなかったけど感謝してる。
今回も類が言ってくれなかったら、こんな風に前に進めなかったよ」

「そう?もう大丈夫?牧野があんまり沈んでるからどうしようかと思ってた。明日は笑顔で行けそうだね」

「心配性だね、類は!何とかやってみるよ。ほら、私は雑草なんだから!」

「そうだったね。踏みつけられてもすぐに立ち直るんだよね?」

こうやって2人で食事をするのも最後かもしれない。それなら、やっぱり笑って過したい。
多分、私たちはお互いにそう思っていたと思う。
だから、私は精一杯の空元気で類との食事を楽しんだ。

最後はシャンパンを2人で飲んで、何年か分の思い出話をしていた。時間も忘れて話し続けた。
別に部屋をとっていた類が私の部屋を出たのはもう次の日になっていた。

類が部屋を出て行った後にはその残り香で胸が一杯になって・・・私は訳もわからずに泣いた。
声を出さずに泣いた。・・・声を出したら類が戻ってきそうだったから。

「明日は絶対に泣かないよ・・・そんな顔をあなたには見せたくないから。だから今だけだよ」

私は明日、道明寺の所に行くんだ。
沢山の人に送り出してもらうんだから、絶対に幸せになる・・・!だから今日だけ・・・


******


とうとうこの日が来てしまった。牧野が司の所に行く日・・・。
自分でこのシナリオを作ったのに、いざとなったらまた引き戻したくなってしまう。
でも、牧野があの携帯を握りしめなくて済むんだ・・・これからはもうあの姿を見なくて済むんだ。

ホテルのロビーで待つ牧野の所に行かなきゃね。


下に降りたらロビーのソファーでまっすぐに前を見ている牧野を見つけた。

さすがだね。もうあんたはそうやって一歩進むために上を見上げることが出来るんだね。
俺が愛した人はこんなにも強い女性だったんだ。

「お待たせ!さぁ、行こうか。時間大丈夫だよね?」

「おはよう!類。時間は全然余裕だよ?今日も付き合わせてごめんね」

「いいよ。これは俺の役目なんだから」


空港までの僅かな時間、昨日の延長で話しが弾んだ。
もうわかってるよ。俺もあんたもこの後の時間を恐れてるんだ。だからこんなにもはしゃいでるんだ。
この先で俺たちは別れるけど、悲しいものにしちゃいけないから、わざとこうしてるんだよね。

未来を輝かせるために、あんたはアメリカに行くんだ。そして俺もあんたから卒業しないとね。

空港に着いた・・・沢山の別れを惜しむ声と抱き合う人の中に俺たちもいた。
本当にあの時と同じ・・・ただ今日は2人っていうだけで。


「ここまででいいよ。類・・・後は自分で行けるから」

「うん。向こうに着いたら司に宜しくね。ちゃんと食べて無理はしないで、それと知らないところには・・・」

「行かないから大丈夫!慣れるまでは大人しくしてるよ」

そう言って小さなスーツケースを一つだけ持って、俺の方に手を差し出した。
俺もその手を握り返した・・・引き寄せたくなる衝動を押さえて、そしてその手を離した。


「牧野、あんたの笑顔が大好きだったよ。いつでもその笑顔を忘れないで・・・」

「わかってるよ。類・・・行ってくるね!」

今日、最高の笑顔で牧野は手を振って・・・そしてゲートに消えてった。


「絶対に幸せになってよ・・・。もう、あんたを守るのは俺じゃないけど、それでもちゃんと見てるからね」


遠くで轟音をたてながら飛んでいく飛行機を背中で感じながら、牧野の旅立ちを見送った。

俺の頬を伝ったものは悲しみのそれではない。
牧野の旅立ちを祝ってやるものだと、誰もいないのにやせ我慢をして・・・


桜の花が咲く頃に俺は牧野の背中を押したんだ。
それが牧野のためでもあり、自分のためでもあると・・・そう信じてるよ。

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はい!プロローグ終了です!
この場面には私の中ではイメージソングがございまして・・・
槇原敬之さんの「花水木」です。良かったら聞いてみて下さいね。

明日からタイトルも新しく(?)
dernier amour~最後の恋~に突入します。
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