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両親にもローラン会長にも悟られないようにアリスに連絡を取った。
イタリアから帰ったことが両親に判れば、すぐにアリスとの時間を強制的に作られてしまうだろうから。

彼女にはアパルトマンの住所を教え、そこに来て欲しいと頼んだ。
こんな所に呼ぶとは流石に思わないだろうし、誰かに見られる心配もなかったからだけど、何より牧野をマスコミに晒したくなかったって理由もある。

俺もアリスもこの前のパーティーで顔は出してるし、スキャンダルを狙って何処から記者がやってくるかわからない。
それほどフランスではローラン社は色んな意味で存在感のある企業であり、花沢とのトラブルは既に経済誌で報道済み・・・面白可笑しく書き立てられるわけにはいかなかった。


その連絡をした後には16区で1ヶ月間貸してくれる音楽スタジオを探して申し込んだ。
それと同時にフィラルモニー・ド・パリに連絡をして先日ピアノを弾いてくれたマリアに牧野のピアノ講師を願い出た。
フィラルモニー・ド・パリとの交渉で空いている時間ならと、快く引き受けてもらい、借りた音楽スタジオまで来てくれることになった。


「・・・そこまでして大丈夫かな。出来るかな・・・」
「また不安になってるんだね?くすっ・・・楽しめばいいんだよ。でもさ、よく考えたら俺はあんたの伴奏じゃないと気分が乗らないからどっちにしても弾いてもらわなきゃね」

「え?気分が乗らないって・・・他のピアニストのほうが絶対私より上手いのに?」
「そう、牧野じゃないと俺のヴァイオリンは伸び伸びした音が出ない。本当だよ?だから安心して弾いていいよ」


いくら言っても牧野の不安は消えないってのはわかる。
1度あのパーティーを見てしまったら、そこで素人の牧野がピアノを弾くなんて考えられないだろう。逃げだしたいくらいの恐怖に襲われてる・・・それは少し痩せてしまった牧野の身体を見ても伝わってきた。

だからこそ早く終わらせたかった。
すべてを解決させて日本へ・・・俺達のあの部屋に帰りたい。そう思っていた。


**


アリスがアパルトマンに来ると連絡が入ったのは次の日で、牧野は朝から緊張していた。

気にしなくていいって言ったのに自分が落ち着かないもんだから、作ってるのは「蜂蜜入りレアチーズケーキ」。あの自慢の鼻歌は出てこなくて真剣な表情でキッチンに立っていた。

掃除も洗濯も早くに済ませて俺達の昼食なんてホントに簡単に終わらせて、もうすぐ約束の時間って時には俺にまで聞こえる溜息が漏れる。
何度も時計を確認しては、何をしていいのかわからずウロウロと歩き回っていた。


そして鳴らされた呼び鈴・・・その音に「わっ!」と声まで出して驚いていた。

「牧野、一緒に出迎えようか?おいで・・・」
「う・・・うん」

片手を差し出すと俺の横に来る。
牧野の肩を抱くようにして玄関に行き、そのドアを開けると今日も可愛らしく着飾ったアリスが立っていた。

でも、その後ろには長身の男が1人・・・それはあの時にチラッとしか見なかったけれど社長秘書のジルベール、アリスの恋する男だった。


「いらっしゃい。2人で来たんだね。大丈夫?」
「はい。お婆さまのお誕生日プレゼントを買いに行くと言ったら護衛を兼ねて彼を付けてくれたので・・・」

「あぁ、そうなんだ。よかった・・・どうぞ入って」

「失礼致します。ハナザワルイ様・・・この度は・・・」
「その話は中で。ジルベール、だよね?あなたにも色々と話が聞きたかったから丁度いい」

ここでも会話はフランス語になるから牧野にはまだ聞き取れない。
挨拶だけは自分で出来るからアリスにもジルベールにもカチコチの笑顔で話しかけていた。


部屋に入ったらアリスは珍しそうにアパルトマンの部屋の様子を見ていた。
このぐらいの広さの部屋に入るなんてことは今までなかっただろうから、小さなソファーやテーブル、小さな出窓や机に興味津々・・・「可愛らしいですわね!」って言葉は嫌みではなく本心だろう。
彼女はこのぐらいの生活に憧れがありそうだった。

「こんな場所は初めて?実はね、俺は日本でもこのぐらいの部屋の大学の寮に住んでる。牧野はそのお隣さんで、そこで知り合ったんだ」

「まぁ!寮に?羨ましいわ。私なんてあのお屋敷から出ることもなかなか・・・大学も通わなくていいと言われ通信ですの。どうせ私の大学生活なんて役に立たないと思っているから・・・」

「そう・・・あなたも不自由なんだね」


牧野が紅茶を入れてケーキを差し出すと嬉しそうに頬を染めるのは隣の彼のせいだろうか。
初めて俺と会って会食をした日の恥ずかしそうな笑顔とはまた違うものがあった。


「それじゃ・・・何から話そうか」
「イタリアの事ですか?楽しかったですか?」

「そうだね。楽しかったかと言われると困るけど・・・あなたのお婆さまに会ってきたよ」
「・・・え?私のお婆さまに?クレモナに行ったんですか?」

アリスとジルベールは不思議そうな顔をして目を見合わせた。牧野は黙ったまま俺の隣に・・・少しだけ震えてる手をそっと握ると「大丈夫・・・説明してあげて」と泣きそうな笑顔で答えた。


「元々クレモナに行く予定だったんだ。俺のお婆さまのヴァイオリンを探しにね・・・ここからは話が長くなるけど聞いてもらえる?これを話さないとこれからの話に繋がらないから」


ここから俺は長い時間をかけて自分の家のことを話した。

お婆さまとお爺さまのこと、自分の子供の時の事、ヴァイオリンを取り上げられたこと。
どうしても両親と離れたくて寮に入って牧野と出会い恋をしたこと・・・お婆さまのヴァイオリンが牧野に対する逆恨みで焼失したこと。

だけど、それが本物ではなかったことに気が付いてイタリアまで探しに行こうとしたときにローラン家との話が来たこと。


「まさか・・・ルイ様のお婆さまもヴァイオリンを?それでイタリアで見つかったのですか?」
「見つかったよ。今、ここに持って帰ってる・・・あなたのお婆さまから借りてる事になるんだけどね」

「え?お婆さま・・・私のお婆さまが持っていたんですか?」
「そう・・・あなたのお婆さまが昔、恋をしたのは・・・俺のお爺さまだよ」

「・・・ルイ様のお爺さま?私がいつも聞いていたお婆さまの初恋の人が・・・ルイ様のお爺さま?」

今度はイタリアでの出来事を説明すると、あまりの偶然にアリスは驚いた表情のまま固まってしまった。
自分のお婆さまが俺達に出した『賭け』についても「そんな事を持ち出すなんて・・・」と涙を流した。ジルベールはそんなアリスの肩を支えて、アリスは彼の腕に倒れ込んだ。

この様子を見たら2人の想いは通じたんだろうと思った。


俺の横では牧野が涙を堪えてる。
だから手を伸ばして抱き締めた。

牧野を抱き締めたまま、俺は言葉を続けた。


「俺はこのチャンスを生かすために牧野と闘うことにしたんだ。でも、音楽で勝負なんてしたくないからね・・・練習はするけどそれはあなたのお婆さまの誕生日を祝うため。俺と牧野の協奏を喜んでもらうためだから。
それに俺のお婆さまのヴァイオリンが力をくれると信じてる・・・俺達が闘うのは自分たちの未来のためなんだ」


抱き締めてる牧野の震えが止まった。



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2018/09/04 (Tue) 00:49 | EDIT | REPLY |   
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2018/09/04 (Tue) 11:37 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様 こんにちは!

これから練習が始まりますが・・・辛い場面が多いと疲れるのでたまに甘い場面を入れながら頑張ります(笑)

書き始めた頃に1番の難関になると思っていたこのリサイタル!
音楽音痴が音楽に関する話を書くのはいけないですね(笑)

特にヴァイオリンとか知らないしーっ!!

とはいえ出来るだけ忠実に・・・おかしかったら許してくださいねっ!


つくしも類もですが私の応援も宜しく~💦

2018/09/04 (Tue) 17:55 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんにちは

いつもコメントありがとうございます。

あはは!ただ単に抱き締めてもらったからだったりして!
今からもヒステリー起こしながら、泣きながら、その度に抱っこしてもらって甘々で頑張るんじゃないでしょうか?

マリアさんが来なかったら練習にならないかもしれませんしねぇ(笑)

いやいや、そんな事はない!真面目に頑張りますっ!!

こんな所で発情してはイケナイ・・・。

だんだん終わりに近づいてきました。
最後まで宜しくお願いします!

2018/09/04 (Tue) 17:59 | EDIT | REPLY |   

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