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牧野をスタジオに降ろしてからタクシーを自宅に向けた。

約1ヶ月ぶり・・・両家の間でどんなやりとりがあったのかは全く知らない。こんな事に時間をかけるより、早く事業再開に向けて投資した方がいいと思うのに花沢の動きもローランの動きも止まったままだ。
いくら先が長い大事業とはいえ、余りにも中断期間が長い・・・その分会社の利益的なものにも影響があると思うんだけど。

それはまだ会社に拘わっていない俺が口を出す事でもないから言うつもりもなかった。


自宅に戻ると執事が出てきて母さんが自室で待ってると告げてきた。
相変わらず冷めた空気が漂う自分の家・・・階段を上がる足も自然と重くなった。

母さんの部屋の前、ドアをノックするといつも通りの声が中から聞こえてきた。


「失礼します」
「・・・久しぶりね、類。連絡ぐらい欲しかったわ。いつからパリにいたの?」

「最近戻ったばかりですよ。イタリアでのんびりしてきましたから」
「そう・・・どうして牧野さんを戻さなかったの?最後の思い出作りならこの先は見せない方が優しさじゃないの?」

「何度言ったらわかるんです?牧野とは離れませんよ」

これまでと同じような溜息をついてソファーに座り、額を手で覆って眉間に皺を寄せる・・・それは、わざと俺に見せているのかこの人の自然な行動なのかはよくわからないけど。

母さんと向かい合って座り、今回はちゃんと視線を合わせた。
俺が正面で目を見て話すなんて珍しいから少し驚いたようだ。母さんの方がさりげなく視線を外した。


「今度の日曜日が会長のお誕生日でローラン家でパーティーが開かれるわ。そこにはローラン社の幹部も集まるし、極僅かだけどうちのような取引先の代表者も来るらしいの。
そこでローラン社長からあなたとアリスさんの婚約を発表していいかって聞かれたわ」

「なんて答えたんです?」

「勿論、了承したわ。まぁ、どっちかというと花沢に嫁いでもらうんですもの、うちが言うのが本当でしょうけど今の立場だと仕方ないわ・・・まるで類を養子に出すみたいで嫌だけど」

「そのうち花沢を吸収合併して取り込むつもりだろうから、その時は俺がその大きな組織のトップ・・・ですか?」

吸収合併という言葉には嫌そうな反応・・・そんなもの、この話を受けたら判りきってるのに。
それを軽く「まさか・・・」なんて言ってるけど相手はそれが目的の婚約、結婚だろう。


「フランスではローラン社が幅をきかせてるけど世界的に見たらうちの方が格上よ。そんな事にはならないわよ・・・いえ、させないわ。逆に姻戚関係になることで花沢の方がローラン社を利用させていただくつもりよ」

「それもこれも滞っている事業を早く・・・いえ、口出しはしません。申し訳ありませんでした」

「判ってくれればいいわ。プロポーズは勿論類からよ。何か適当に言葉を作ってアリスと打ち合わせをしておいて」

「・・・へぇ、こういう場合はしてもいないプロポーズの台詞を考えて打ち合わせておくものなんだ・・・知りませんでしたよ」

「茶化すのは止めて。もうそのぐらいのことは判るでしょう?子供じゃないんだから」


そのパーティーの時間だけを確認して、この屋敷からタキシードを持って帰った。
わざわざこの家に来て向かうわけには行かない・・・牧野もその日にはローラン家に行かなければならないのだから。



*************



スタジオに戻ると牧野とマリアがいつものように練習をしていて、俺の顔を見るなり少しだけ怯えたような顔をした。

心配・・・してるんだよね?
だからニコッと笑って「お待たせ!」って言うとホッとした顔をする。でも内心は不安で仕方ないんだろう、また悲しい顔をして鍵盤に指を置いた。


「ルイ、あなたの準備が整ったら今日は1度だけ合わせましょうか。もうあんまりツクシの指に負担をかけない方がいいわ」
「あぁ、そうだね。すぐに弾き慣らしするから待ってて」

「急いでね」

マリアの指示でもう合わせるのは1日1回・・・それでもソナタとカンパネラを続けて弾けば結構長い。耐えられなくて止まってしまうことが1番怖かった。

「ツクシ、あなたは止まり癖がついてるから気をつけてね。音を小さくしてでもいいから絶対に止まらないのよ」
「うん、わかってる」


俺の慣らしが終わってすぐ、ラ・カンパネラを先に弾いた。
こっちはまずまずの出来で悪くはない・・・牧野が気分よくなりすぎて音を飛ばさなければ大丈夫だろうって話になった。

問題のヴァイオリンソナタ・・・出だしこそ上手くいって途中も随分スムーズに弾けるようになった。
たまにチラッと俺の方を見る余裕もあるのか必死に俺のヴァイオリンのメロディーを聴いてピアノの音のコントロールをする。

そして後半に入って少し疲れが出るのか音が小さかったり遅れたり・・・ホントに僅かなズレだから気が付かれないかもしれないが俺やマリアには完全に伝わる。
それでも必死に止めることなく最後まで弾いて、最後の1音が終わったら肩で息をしていた。


「・・・ん、まぁ・・・もう少しだけどコンクールじゃないし、誰かが点数つけるわけじゃないわ。それに聴いてくれる人が音楽家って訳じゃないならあとは表情や身体で誤魔化しましょう!」

「・・・誤魔化す?」

「あぁ、言葉は悪いけどそういうのも必要って事よ。ツクシみたいに必死な顔で歯を食いしばって弾いたら聴いてる人も同じような顔になるわ。身体も自分が音楽に乗ってます!みたいに少しは余裕を見せるの。これもツクシは前のめりになって一生懸命って感じが強いからね」

「そうなんだ・・・うん、わかった!」


今日のレッスンが終わった。

ここで練習するのもあと3日・・・牧野の体力が限界を超えている。
笑顔の向こうに見える疲れは相当なものだった。


**


軽めの食事をして明日のパンを買う。
そのパンの袋でさえ重たいんだろう、両手で抱えようとするから俺が持つと「いつもごめん・・・」って泣きべそをかく。

アパルトマンに帰って風呂の準備も明日の用意も俺がして、牧野はソファーで半分夢の中・・・それを起こしてお風呂に入れて、まだ遅い時間でもないのに2人でベッドに入った。


すぐにウトウトし始めるけど気になってることを小さな声で聞いてくる。

「今日・・・なんの話をしたの?・・・お母様と・・・」
「ん?パーティーの時間を聞いたよ。あとはアリスとのことかな・・・リサイタルの話は知らないからね」

「・・・アリスさん・・・何だって?」
「・・・おかしいよね。アリスにしたプロポーズの言葉を考えておけってさ・・・」

プロポーズって言葉には流石に反応して閉じていた目を開けて俺の顔を覗き込んだ。


「そんなに心配しないでいいよ。俺のプロポーズを受ける人も決まってるし、言葉は・・・どうかな、必要?」
「必要って・・・女の子はちゃんと欲しいものだよ・・・」

「そうなの?じゃ、それは今から考えとくよ」
「アリスさんには?」

「だって台詞でしょ?結婚してください・・・それでいいだろうけど嘘でも言わないよ」
「・・・ホントに?」

「本当だよ」
「絶対?」


「絶対。これは嘘ついちゃダメでしょ?」

「・・・うん、類・・・約束だよ」



俺より早く夢の世界に行ってしまった牧野に「愛してるよ」の言葉と・・・誓いのキスをした。



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2018/09/12 (Wed) 11:16 | EDIT | REPLY |   
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Re: タイトルなし

わんこ様、こんにちは。


はい、そうですね、もうすぐ終わります。でも10月かな?(笑)
長くなりましたねぇ・・・申し訳ないです。

毎日更新で短編だと思いつくのが大変なのでどうしても長くなります💦

1番わからないのはお母様でしょうかね?
この人の隠された過去はまだ先になりますが仰る通り、本当は類君の味方かも?母親ですからね~!
大きな組織になると母親も経営者、色々大変そうです。

つくしちゃんの練習ももう少しです。
応援宜しくお願いします!

2018/09/12 (Wed) 16:59 | EDIT | REPLY |   
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2018/09/13 (Thu) 11:18 | EDIT | REPLY |   
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Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。

・・・私、類君からなら嘘でもいいから言って欲しいかも。

で、思い出そうとしたんだけど、自分はなんて言われたか全然覚えてない!(笑)
あれ?言われたのかな?・・・どうだろう・・・記憶にないってどういう事だ?

まさか・・・省略されたのかな?

旦那がうちの両親に話しに来たときのことだけは覚えてます。
話した事あるっけ?

うちのお父さん、旦那が何も言えずに黙ってるから

「うちの娘が欲しいんかい?いつにするんだ?」

って言ったのよ!!(笑)で、お母さんが

「うちの娘は商品じゃないんだからね!」

ってお父さんにキレてました。あっはは!今考えたら笑える~!!



と、言うわけで自分の事はわかりません。もういいけど。

2018/09/13 (Thu) 21:02 | EDIT | REPLY |   
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2018/09/13 (Thu) 23:42 | EDIT | REPLY |   
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Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは!

ははは、うちの両親は天然記念物ですからね。
亡くなった父ではありますが思い出すのは全部笑い話です。

恐ろしい話でさえ今では笑えますよ(笑)

素敵なお兄様(笑)
秋になったので魚釣りに行き始めたようです。

このお兄様が若かりし頃、とても素行が悪かったのですがね(笑)
あまりにも素行が悪いので父が何故が「このままでは○○(私)が将来苦労するから・・・」

この後ですよ!なんと、苦労するから私の方をこの世から消そうとしたんですよ?!
消すならお兄様でしょうっ!!何故私を消そうとする?

まぁ、実行はされなかったのでこうして元気に二次を書いてますけど(笑)

それを告白されたときは驚きました。


「なんで兄ちゃんじゃなくて私?その考え方おかしくない?」

って言ったら

「だって兄ちゃんの方が背が高いからヤリにくいと思って・・・」

身長かーいっ!!って怒鳴りましたよ。

お父さん、天国でも天然なんでしょうかね?
神様、そんな父を宜しく、ですよ(笑)



2018/09/14 (Fri) 00:13 | EDIT | REPLY |   
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2018/09/14 (Fri) 13:17 | EDIT | REPLY |   
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Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは!

あはは!リアルスナフキン・・・そんな可愛いもんじゃないです!
(明日も釣りだって連絡あったが)

兄は釣りも大好きなんですよ。竿には命かけますけど、あの魚を掬う網まで数万円ですって。
馬鹿でしょ?馬鹿ですよね?クソ馬鹿野郎ですよ!

ちなみに魚は釣りますがさばきません。
実家に置き逃げするんでお母さんが玄関開けたらたまに魚が落ちてるそうです(笑)

持って帰れやーっ!!って母が怒っています。ははは!

我が家にはお刺身になった状態で届きます♡

2018/09/14 (Fri) 20:39 | EDIT | REPLY |   
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2018/09/14 (Fri) 22:03 | EDIT | REPLY |   
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Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんにちは。

サンタさん・・・それも可愛すぎ。そんなんじゃないです。ただの大馬鹿野郎です。
だって魚も大きいのが釣れたら自慢するために私たちまで呼ばれて見せられるのに、
置き逃げするときは小魚です。

しかも多いときは数十匹・・・母が怒るもの無理はありません。

「一日中魚さばいてて指が臭いっ!」って言ってます。


ちなみに・・・キノコが嫌いです。

なのに仕事で行かなきゃいけないところにキノコ農家さんがあるそうで(笑)たまにキノコをもらうんですって。
★私の兄は空調設備のメンテナンスしてるんです★

断ることも出来ずにもらってくるんですが、その匂いが車に充満するんで息を止めて運転するんだそうです。

それも実家に置き逃げ(笑)
40分ぐらいかかるところにある農家さんなのに息を止められるってすごいよね~って母は笑っています。


今日の釣りは・・・どんな結果かしら?(笑)

2018/09/15 (Sat) 10:39 | EDIT | REPLY |   
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2018/09/15 (Sat) 16:37 | EDIT | REPLY |   
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Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。


キノコと海老が全くダメなんですが、キノコは判る・・・独特な香りがあるからね。
でもあの海老が5ミリぐらい料理に入っていても匂いで判るそうです。

麻薬犬みたいなもんですよ。どこにいても海老の匂いはわかるんですって。

ただここで疑問・・・たまに魚釣りで「撒き餌」って言って魚寄せのための小エビを海に投げ入れるんですが
それはいいらしいの。

それってどうなんだろう・・・海老臭いんですけどね。


あぁ!関係ないけど思い出した!(笑)
我が家の爆笑話!!

その①

犬を飼っていたときにカリカリのドッグフードがあったんですが、母がそれを袋から出して別の可愛い容器に入れてたらお兄様が普通のお菓子だと思って食べたんですって!(笑)

「お母さん、この菓子、なかなか美味いね。どこの菓子?」
「それ、ジュリの餌だけど?」←犬の名前

「・・・はっ?!」

その②

母が仕事から帰ったら冷凍庫に見慣れない貝があって、不思議だったけどそれを使って味噌汁を作りましたとさ。

「お兄ちゃんが貝を冷凍庫に入れたの?味噌汁にしてみたけどなかなか美味しいよ~!」
「嘘やろっ!あれを食ったんか?!」

「うん!今食べてる」
「それ、明日の魚釣りの餌なんやけど・・・人間は普通食わんよ?釣具屋で売ってるヤツよ」


「・・・えっ?!」


我が家はどうやらなんでも食べれるみたい。

2018/09/15 (Sat) 21:28 | EDIT | REPLY |   
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2018/09/16 (Sun) 20:57 | EDIT | REPLY |   
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Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。

あっはは!桜エビもダメです。カッパえびせんもダメです。

魚の餌とか犬の餌とか書いて保存して欲しいですよね💦
私は食べてないのよ。お父さんとお母さんが食べてて、私が食べる前に魚の餌って聞いたから止めました。

でも2人とも聞いた後でも美味しそうに食べてたから似てるんでしょうね・・・。

いやいや、楽しいですよ。私以外の3人が。

2018/09/17 (Mon) 00:07 | EDIT | REPLY |   

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