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マリアさんのコンサートの都合で今日が最後の練習日。もうパーティーの2日前だった。
今日も私の手のことを考えて類と合わせるのは1回だけ。
残念だけど両方とも躓いてしまった。

「気にしないで、ツクシ。リハーサルがダメでも本番に強い人はいくらだっているし、本番の方が集中して出来る人もいるんだから」
「・・・うん。そう・・・だよね」

「そうそう!失敗したって命まで取られないんだから悩まないの!いいこと?あとはツクシの気持ちだけだからね?」
「気持ち・・・?」

「そうよ、気持ち・・・頑張ろう!って言うのは誰にだってあるでしょ?そうじゃなくて楽しんで欲しいわ。ルイとの協奏ですもの・・・夢だったし、憧れていたでしょ?それが叶うんだから!」

「夢・・・憧れ?・・・・・・うん、そうよね!」


類も隣で笑ってくれる・・・間違えてばかりの私を、始めた日から今まで1度も怒らなかった。


このあとマリアさんにお礼だって言って一緒に食事をして、彼女は最後に類にではなく私の頬にキスをした。
しかも人通りの多い交差点で!私がびっくりして真っ赤になったら「日本人は恥ずかしがり屋ねぇ!」・・・だって。

「それじゃあね!成功を祈ってるわ」

「ありがとう、マリアさん。彼氏と仲良くね!」
「マリア、本当に助かったよ。コンサート、頑張って」

「えぇ!あなた達が弾いてる頃、私もコンサートだからお互いに頑張りましょうね!」

優しくて明るくて・・・沢山の元気をくれたマリアさんと笑って別れた。


時間は夕方の6時半・・・パリの夕方もだんだん陽が暮れるのが早くなって薄暗くなってきた。
これからアパルトマンに帰って早く休むのかと思ったら類は「少し寄り道していい?」って言い出した。

「何処かに行くの?お買い物?」
「うん、買い物って言ったらそうだけど」

「何を買うの?最近は家で食事を作ってないから食材買っても余らせちゃうよ?」
「くすっ・・・食材じゃないよ」

類はスタジオ近くのブティックに入ると私に可愛らしい服を買ったくれた。スニーカーもサンダルに変えてもらってその場で着替えた。彼も同じお店で簡単なスーツに着替えて正装とまではいかないけどお洒落をした。

そして向かったのは高級ドレスを扱うお店・・・そこでリサイタル用のドレスを選ぼうと言った。


「でもドレスならお母様がくれたブルーのドレスがあるよ?あれじゃダメなの?」
「・・・母さんが選んだんであって俺が選んだんじゃないからさ。今度のは俺が選んであげる」

「え?だって・・・」
「我儘?だって初めからこうしたかったんだ」

こんなお店にはTシャツとジーンズだと入れないんだそうだ。きちんとした服装で、靴もスニーカーでは入れてくれないそうだからわざわざ買って・・・そんな世界なんだとまた驚いた。
私たちが入ると類が何かを説明して、その途端に店員の目つきが変わる。奥の方から綺麗な色のドレスがどんどん持ってこられてそこら中に広げられた。

「わ、私にはこんなの似合わないしわかんないよ、類!」
「じゃあ任せてくれる?そうだね・・・これは少し幼いかな。こっちは色が濃すぎるね」

「もう少し美人だったら良かったのにね」
「えっ?牧野は充分可愛いよ?自分の事だからわかんないんだよ」

「・・・・・・」

その言葉、類に言われたらなんかショックだけど。


「あっ・・・これは?これ、いいんじゃない?」
「うわっ、可愛いね・・・こんな色着たことない。恥ずかしいかも・・・」

類が手にしたのは上の方が白で裾の方がサーモンオレンジのグラデーションになってるドレス。
所々きらきら光ってて可愛らしいけど豪華だった。ビスチェタイプなのに胸のところで生地が寄せられてて胸がない私でも着れるかも・・・店員さんはそこにつける宝飾ブローチがセットだと言ってトパーズとダイヤの飾りを出してきた。

「ね、きらきら星みたい」
「あっ!ホントだ・・・お星さまみたいな色だね」

その言葉でこのドレスに決めて、ネックレスとピアスは本当に星形のものを買ってくれた。
これでアパルトマンに帰るのかと思ったら今度はタクシーをサンポール・サンルイ教会というところに向かわせた。
そこはアリスさんと初めて会ったとき、その帰りに寄ったサン・ルイ島の近く。

そんな教会で何をするのかと思ったら・・・。



************



母さんが用意したブルーのドレス・・・あのドレスを着せたくなくて当日が近づいたら買いに行こうとずっと前から決めていた。

こういう買い物なんてした事もなくて、牧野に内緒で買おうにもそんな時間もなく、総二郎達みたいにひと目でサイズがわかるほど詳しくもない。だから牧野と一緒に行こうって・・・。

選んだのは白からオレンジにグラデーションがかかったヤツ。
ヴァイオリンソナタ・スプリングだからそれっぽいイメージと、座ったときには上の白だけが俺には見えるはず・・・それが”白鳥”をイメージさせてくれそうだったから。

それに鏤められた宝石は本当に星のよう・・・だから星の形のアクセサリーを選んだ。
もうひとつ、それは当日に渡そうと、あるものも牧野に内緒で選んだ。


「じゃあ、このあとデートしようか」
「デート?今から?もう8時だよ?」

「帰ってすぐ寝たら大丈夫だよ。付き合ってくれる?」
「・・・うん。歩くの?」

「タクシーで行くよ。少し離れてるから」


2人で向かったのはバスティーユ広場近くの4区にあるサンポール・サンルイ教会。

リヴォイ通りに面している大きな教会で、夜だからわかりにくいけど白い壁に赤いドアと・・・その上のカラフルな時計が印象的なバロック様式の教会だ。そこで今からミニコンサートがある。
ピアノではなくオルガンになるけど弦楽器との協奏を味わうには丁度いいかもしれない。

中に入るとオレンジ色のランプの下で演奏者が既にスタンバイして音慣らしをしていた。
聞きに来る人は常連だろうか、普段着でひょいっと入ったかと思われるような服装の人や、きちんと正装して座っている人まで様々。

牧野と一緒に座ったのは1番後ろの1番端っこ・・・そこに座って演奏が始まるのを待っていた。
特に誰かが司会をする訳でもなく、時間が来たらヴァイオリン奏者が静かに客に頭を下げ、その場はシーンと静まりかえった。


教会での演奏会は主に弦楽四重奏。2挺のヴァイオリンとビオラとチェロ。
それに弦楽器単独の時はパイプオルガンが加わる。

1曲目はベートーヴェン:弦楽四重奏曲第4番、2曲目はモーツァルト 弦楽四重奏曲 第14番 ト長調・・・教会の高さがある礼拝堂だからその音は特に美しく響き渡る。
牧野と俺は手を繋いだまま聞き入ってたけど、曲が終わると俺の手を離さずに拍手した。

「凄い・・・初めて聞いた。教会でもこんなことするんだね」
「うん、フランスだけじゃなくてヨーロッパでは結構多いんだよ。毎日何処かの教会でやってるぐらいね・・・俺はここが好きなんだ」

「類はここに来たことがあるの?」
「・・・小さい時にね。母さんが連れて来てくれたよ。何でかな・・・あの人、ここにはよく来てたよ」


そして3曲目はオルガンの出番・・・何が弾かれるのかと思ったら、シューベルトのアヴェ・マリア。誰もが知ってる曲だから牧野の顔も緩んだ。出始めのオルガン伴奏の時なんかは指が軽く動いてる。

「ねぇ・・・いつかこれも弾きたい」
「うん、弾こう・・・日本に帰ったらね」


そして最後はヴィターリの シャコンヌ・・・もの悲しい旋律だけど壮大な曲。
1度cantabileで弾いた時に橋本さんが褒めてくれた曲だ。ピアノだと難しいけど、牧野はこの曲の時は俺の手を離して前の座席の背もたれを握っていた。

そして終わる頃になると頬には涙が伝った。


「・・・私には類のヴァイオリンをこんなに引き立てる伴奏が出来るかしら」

「俺が引き立たなくていいんだよ。2人の演奏だから・・・牧野がいないと完成しないんだから」


全部が終わったときには1番後ろの席からこの中で1番大きな拍手を送っていた。
きらきらと・・・星のような涙を流しながら。




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2018/09/13 (Thu) 11:43 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは!

そりゃレッスン料は払いますよ♥多分破格なお値段ではないでしょうか?類君ですもん!

だからマリアが頑張ってくれたって考えたらなんかガックリきますよね!
でも、タダじゃやってくれそうにないですよね~。

類の身体で・・・それだったら燃えるんでしょうけどねぇ(笑)
いかんいかん!そんな事したらいかんって!


教会の名前(笑)
フランスの教会でコンサートする所を調べたらここがあったんですが、サンルイって名前よりも
サンポールってのに反応してしまって。
こういうトイレ洗剤なかったですか?どうしてもそれが頭に浮かぶんですよね~。

でも画像見たらここが1番素敵だったんですよ♥

心もしっかり磨いて本番に向かってほしいものです!

いつもコメントありがとうございます。励みになります♡


2018/09/13 (Thu) 23:50 | EDIT | REPLY |   

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