FC2ブログ

plumeria

plumeria

「・・・パーティー、もうすぐ始まっちゃう」

時計を見たら2時20分・・・2時半から開始だと言ってたから類達はそろそろ会場に向かうんだろうか。
本当に誰も来ない控え室でソワソワしながら待っていたらドアをノックされた。ビクッとしたけど小さな声で「マキノ様・・・」そう聞こえたので急いでドアを開けた。

立っていたのはさっきの秘書の男性で、全員が会場に入ったから急いで2階に行くと言われた。


「それでは今から裏側の階段から2階に上がります。おそらく誰にも出会いませんが出会っても堂々としておいてくださいね」
「は、はい!わかりました」

「では、こちらに」

細心の注意を払って2階に・・・類のヴァイオリンケースを抱えて、こんな派手なドレスでコソコソするのも私だけ?って首を傾げながら彼の後をついていった。
そして今度案内されたのは今までいた部屋よりも可愛らしい応接室のような場所。このずっと奥の方がパーティー会場だと言われ、どれだけ広い家なのかと驚いた。

「美作さんのお屋敷に入ったときも思ったけど、これだけ広くて全部使うの?って感じよね。お掃除が大変なだけじゃないのかしら」
「はい?何か仰いましたか?」

「はっ!い、いえ、何も・・・」

日本語で呟いたからこの人にはわからなかったんだろう、不思議そうな顔をした男性が紅茶を出してくれた。同時に「ここでしばらく待っていてください」と・・・私は今度は上質な椅子に座って湯気の出てるカップを眺めていた。

気のせいかな、音楽と人の声が遠くから聞こえてくるような気がする。



「うわっ!この紅茶、美味しいーっ!溢さないようにしないとね!」
「へぇ、ここのお庭には花がないんだね。木ばっかり・・・何か植えればいいのに。こんなに広いんだからさ」
「今日の晩ご飯、何にしようかなぁ・・・その前に買い物だよね。最近サボってるから」
「ママとパパ、どうしてるかなぁ。私がパリにいるって知ったら驚くよね!」

「・・・日本は今何時なんだろう・・・」


自分でもわかってる・・・ピアノと関係ないことを考えようとしてる。
心臓なんてバクバクを通り越して逆に静かになっちゃった。

でも、ちょっと足と手が震えてる。

1人になりたいような、ここから逃げ出したいような・・・類に会いたいような。
早く終わらせたいような、今からでも辞退したいような・・・もうわけがわかんない自分自身。
マメだらけの汚い指、もう痛さもわからない肘も、押さえただけでズキッとする手首も私の胸の奥の痛みに比べたらどうって事はない。

ただ、ちゃんと弾いて納得して終わりたい。
類のヴァイオリンと私のピアノ・・・主役脇役じゃなくてお互いが高め合って綺麗な音が出せれば・・・。

それでもきっと完璧には出来ない。
私の音にミスはつきもの・・・でも、最後まで頑張らなきゃ。


そんな言葉を何度も何度も繰り返していたら本当に眠たくなってしまった。
私はソファーの座り心地が良すぎて身体を深くそこに埋めて・・・いつの間にか目を閉じてしまった。



『お嬢さん、大丈夫かしら?お嬢さん?』

誰かが私の頭の上で声をかけてきた。ハッと目を開けたら白髪のお婆さんが目の前にいてニコニコ笑ってる。
まさか寝過ごした?!って飛び起きたらそのお婆さんはクスクス笑って『まだ始まってないわ』って教えてくれた。

「なーんだ・・・まだですか。良かった・・・寝過ごしたかと思っちゃった!」

『ほほほほ!疲れてるのね。あと少しじゃないの?今日の夜にはぐっすり寝られるわよ?』

「ホントですよね!最近寝てるんだけど疲れ過ぎてるのか緊張してるのか、起きなきゃいけない時間なのに目が開かないときがあって困るんですよね」

『寝てばかりの類とは大違いだこと。ふふっ、今日はきっと楽しく弾けるわよ。あなた・・・土壇場に強そうだから』


「そうですか?だといいんですけどねぇ・・・って、お婆さん、日本語上手ですね!・・・・・・あれ?」



・・・ここでハッと目が覚めた。

今、誰かと喋ってたよね?ここに誰か来たよね?日本語話すお婆さんが・・・。
でも、よく考えたら私って存在がここにいるのは誰も知らないんじゃなかったの?


この部屋に微かに残ってるいい香り・・・今までホントに誰かいたのかしら。
何となく覚えてる会話の中で確かにその人は「類」って言った。


「類って呼ぶお婆さんは1人しかいないよね?うそ・・・ホントに?」



***********



会場に入る前に会長が控えているという部屋に案内された。

そこにはうちの両親もいるらしい。親族でもなんでもないのに、如何にもこの先に何が発表されるのか計画済みだと言わんばかりにローラン家の中に入り込んでる。

アリスとその部屋に入ると1ヶ月ぶりに見るローラン社長夫妻は極上の笑顔・・・夫人の方は今日も誰が主役なのかわからないほどの飾り立てようだった。
とても品があるとは言えないような派手なネックレスが胸元を広く開けたドレスの真ん中で光り輝く。昼間のパーティーなのに夜会に行くような支度を見ると、やはり少しズレてるのかと思ってしまう。

ローラン会長も夫人のことを呆れたような顔で見上げていた。

それに、さっき下で見せたのとは違う父さんと母さんの笑顔も気味が悪いほど・・・裏に隠されたそれぞれの想いを誤魔化すための笑顔にうんざりした。

「やぁ!ルイ君、久しぶりだね。イタリアはどうだったね?勉強になったかね?」
「お久しぶりです、ローラン社長。はい、とてもいい勉強になりましたよ」

「それはそれは・・・あぁ、紹介しよう。こちらが私の母でローラン社の会長をしているイザベラ・ローラン。今日で75歳になったのだよ」

「余計なひと言よ、お黙りなさい。女性の歳のことはいくつになってもそっとしておくのが紳士というものです」


今日は車椅子に座っているローラン会長。
この人もドレスアップしていてとてもそんな歳には見えなかった。
ただ豪華なネックレスにイヤリングだけどこの人には品があった。上品な化粧にワインカラーのドレスは実年齢よりも若々しく感じさせ、車椅子とはいえ足元はヒールの靴。

キリッとした瞳はあの時と同じだった。


俺はアリスと一緒に会長の前に進み、まるで初対面のように挨拶をした。

「お誕生日おめでとうございます、ローラン会長。花沢類と申します」
「ありがとう。ルイさん・・・というのですね?」

「お婆さま、もうお疲れは取れましたか?今日はとてもお綺麗にしたんですのね!」
「おや、アリス、私はいつもそんなに草臥れてるかしら?ホホホ、もう大丈夫よ。あなたもそんなドレスを着る歳になったのねぇ」

「そうですわ。それなのに縫いぐるみを送ってきたのはお婆さまでしょ?」
「あら!そうだった?1ヶ月も前の事は忘れましたよ」

本当にアリスとローラン会長は仲がいいのだろう、この部屋の中でアリスの笑い声だけが軽やかに響いた。
会長もアリスを見る瞳はとても優しい・・・俺のお婆さまがそうだったように、この2人にとってもお互いが掛け替えのない存在なんだろう。


「それではそろそろ会場に入りましょうか。皆が待っているでしょうから」
「そうですわねぇ。参りましょうか、ハナザワ様」

「車椅子は私が押しますわ、お婆さま」
「えぇ、頼んだわね、アリス」


いよいよ始まる・・・入場して挨拶が終われば牧野とのリサイタル。

ほんの少し、この俺が緊張してる?

アリスに車椅子を押してもらいながら、チラッと俺を見た会長が少しニヤリと笑う。
いつもより早い心臓の音がこの人に聞こえているような気がして焦った。




yjimage5X0YA74K.jpg
関連記事
Posted by

Comments 4

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/09/19 (Wed) 00:35 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、こんにちは。

軽くオカルト現象が起きてますが、ここではいい方にとっていただけで嬉しいです(笑)

何となく「類の方にも現われてくれよ、お婆ちゃん!」って気もしないではありませんが。

ふふふ、類君の方もかなり緊張気味・・・これもレアでしょ?
類君ってあんまり緊張しない感じですもんね。

あっ・・・


今晩はまだ演奏しない(笑)明日かな?焦らしてるつもりはないのですが書かなきゃいけない部分が多くて(笑)
ごめんなさいね?💦

2018/09/19 (Wed) 10:39 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/09/19 (Wed) 17:07 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。

足の指で・・・ははは!そりゃすごい。

私の友人はピアノの発表会で緊張し過ぎて『ド』の位置を1つ間違えて、弾いていたら鍵盤がなくなったそうです。
そんな事あるの?って思いましたが緊張すると何が起きるかわかりませんものね。

私は初めてエレクトーンを習いに行ったとき、先生がピアノで1音弾いて「これは?」って聞くんですが、
普通「ド」とか「ミ」とか言うじゃないですか。

緊張しすぎて「タ」って言ったのを覚えています。


『タ』・・・どうしてそんな事言ったんだろう?(笑)

2018/09/19 (Wed) 18:56 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply