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「何だと?どういう事だ、類!」

今度反応したのは父さん・・・急にローラン社長の秘書を花沢物産に入れると言った俺の言葉に珍しく大声を出した。
その反応は予想済み。ジルベールはうちの両親の前を頭を下げて通り過ぎ、例の書類を俺に渡した。

それを俺から父さんに・・・母さんも何が起きたのかと父さんの横からその書類を覗き込んだ。


「実はジルベールはパリ第6大学の出身で理学・工学のスペシャリストです。この度のローラン社との協同事業での設計ミスを検証して事業計画の見直しが出来ないかと言ったところ、中々いいものを提示してくれましたよ。ご覧になって下さい」

「な、なに?そんな事をこの若者に?」

「・・・確かに若いですよね。でも素人の私が見ても良く出来ている提案書だと思いますよ。花沢のプロジェクトチームの人間に見せればいい刺激になるんじゃないでしょうか?」

「生意気なこと言うな!類・・・全然この事業に拘わっておらんお前に何がわかるというのだ!彼1人で見直しなどと・・・うちが厳選した関連会社を馬鹿にするのか?!」

「そのような事はありませんがその関連会社、もう1度良く中身をお調べになることですね」

「どういう意味だ?それに、いきなり花沢に彼を?お前にそのような権限はない!」

「ですからそれを見てご検討下さい。この頭脳を運転手で終わらせるのは勿体ない。秘書にしても然りです。彼のような人はこのような開発事業の中心で活躍していただきたいと思って花沢に誘いました。
ローラン社長にもこのような乱暴な進め方をしないのであれば、近々お話に行こうかと思っていたところですよ」


ザワザワする会場の中で父さんがジルベールの書類を目にした。
ここでは詳しい内容まで理解は出来ないだろうがその仕上がり具合で彼の実力はわかるだろう。数枚ある資料を捲っては額の汗を拭っていた。


「い、いや・・・ここではわからないから持って帰ってよく読ませていただくが・・・しかし、これは・・・。ローラン社長、この資料を花沢で検証しても宜しいかな?」
「どんなものかも知らんがあの男にそんな事が出来るのか?父親はただの経理社員、その息子なのに?」

ローラン社長はアリスの横に立つジルベールを恐ろしい顔で睨み付け、アリスがそれを庇うようにジルベールに寄り添った。

その光景を少し後ろから見上げている会長の目は優しい。
だがその直後、自分の息子を見る彼女の目は一変し、自分がイタリアに退いている間に好き放題している社長に対して怒りを露わにした。


「父親が経理社員だから?そんな事は関係ないでしょう?あなたはジルベールの能力も考えずに秘書課に入れたようですが彼は違う能力をちゃんと持っているのですよ。それに興味深いこともわかりました。
ここで声に出して言うのはどうかと思うのですが・・・社長、なにか思い当たることはございませんか?」

俺の言葉に「何のことだ?」とシラを切るが、これだけの幹部の中にも知らない人間は多いだろう。
トップが企てた小細工は幹部全員が知らなくてもいいこと・・・花沢にとっても事を荒立てずに事業が再開されれば問題はない。

だから社長の傍まで行き、耳元で囁いた。


「ジルベールは見つけたのですよ。社長秘書室にあった花沢からの初期データのファイルですけどね。それを受け取った後に僅かな数字の改ざんをしましたね?それは何のためでしょう・・・そしてミスをした花沢の関連会社、これまでにローランとも深い繋がりがありますね?」

「なっ・・・そ、それは・・・その」

「この分野は初めての花沢なら簡単に取り込めると思いましたか?」


そこだけ小声で話した後、会場に聞こえるように言葉を出した。

「花沢としてはこれからもローラン社とは良いパートナーとしてお付き合いさせていただきたいのです。それは私とアリスさんが婚約などしなくても変わりません。そうですよね、父さん」

「も、勿論だ」

「せっかくのローラン会長の誕生日パーティーなのにお騒がせしました。この後は会長のために時間を過ごしましょう」


ローラン社長夫妻はそれ以上何も言わなくなった。夫人の方はおそらく何も知らないのだろう、自分の旦那に何やら詰め寄っていたが社長の方が黙り込んだ。
もうこれで俺達の婚約話は終わり・・・皆、どうしていいかわからないような顔つきだったが本来の目的、誕生日パーティーに雰囲気を戻すため、慌てた司会者が再び祝電などを披露しはじめた。


俺はステージを降りてアリスとジルベールの所に向かった。
2人とも幸せそうに見つめ合って、それを下から会長が微笑んでいる・・・今度はその耳元に近づいて囁いた。


「賭けはどうなります?」

「賭け?ほほほ、そうねぇ・・・多少ミスったから減点だけどね。でもあなた達の勝利で宜しくてよ?とても素晴らしかったもの。さぁ、行きなさい。目が覚めていたら可哀想だわ」

「ありがとうございます。また2人でクレモナに行きます。どうぞ、お元気で・・・」

「嬉しいわ。今度は静かな場所で私だけのために弾いてちょうだいね。あのヴァイオリン、確かにお返ししましたよ。マサユキさんのヴァイオリンと一緒に大事にしてあげて」

「勿論です。イザベラ・ローラン・・・あなたの事もお爺さまにちゃんと報告をしておきますよ」


会長と最後に握手をして、アリスに部屋に入る許可をもらった。
このざわついた会場はきっと会長が上手く収めてくれるんだろう、振り返ることなく俺の足は牧野の元に向かった。


**


部屋に入ると牧野はまだぐっすり寝ていた。
熱のせいで息が荒い・・・すぐに医者に診てもらおうと彼女を抱き上げて部屋を出て、屋敷の人間にタクシーを呼んでもらおうとしたら、廊下で待っていたのは不安そうな顔をした母さんだった。

「類・・・牧野さんはどうなの?まだ目が覚めないの?」

「熱が高いんです。すぐに医者に診てもらいますから先に失礼します」

「わかったわ、うちの車を使って花沢に戻りなさい。執事にお医者様の手配をさせておくわ」
「え?でも・・・」

「グズグズしてないで急ぎなさい。もう正面玄関に回ってるはずだから。いいこと?今は私の言うことを聞きなさい・・・彼女の身体が心配ならね」


今までに見せたことのない母親の顔で、母さんは牧野の頬を撫でて「可哀想に・・・」、そう言った。
何故、あんな無茶をした俺の事を怒らないのかわからなかったけど、確かに牧野の身体の方が優先・・・だから母さんに1つ頼み事をして花沢の家に戻ることにした。

「申し訳ありませんが俺のヴァイオリンを持って帰っていただけますか?お婆さまのヴァイオリン・・・形見として俺が譲り受けたものなんです」

「・・・お婆さまの?あのヴァイオリンはお婆さまが弾いていらしたものなの?」

「そうです。後で説明します」


牧野を抱きかかえたまま屋敷を出るとうちの運転手が慌ててドアを開けた。
それに飛び込むように乗り込んで花沢の自宅に向けて車を飛ばした。

「牧野・・・頑張れ、もうすぐだから。もう全部終わったからね」
「ん・・・る、い・・・類・・・ピアノ・・・」

「ん、もう弾かなくていいんだよ。あんたの演奏はみんなの心にちゃんと届いたんだよ・・・ホントに素敵だった」
「・・・はは・・・」

無意識なのに涙を出しながら笑って、もう全く力の入らない手を俺に伸ばした。
だからその手を握ってキスして・・・俺の顔に押し当てて。


自宅に着くまでの時間、ずっと熱い身体を抱き締めていた。



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パリ第6大学は2018年1月1日に、パリ第4大学と合併した「ソルボンヌ大学」となりました。
ここではパリ第6大学のまま書いております。


<お知らせ>

事情によりもしかしたらお話の更新が出来ないかもしれません。
時間になっても公開されてない場合は申し訳ありませんが後日、更新可能となりましたらお届けしますのでご了承ください。

また、「忘れられた約束」は30日から公開致します。
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Comments 10

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2018/09/27 (Thu) 07:21 | EDIT | REPLY |   
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2018/09/27 (Thu) 07:40 | EDIT | REPLY |   
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2018/09/27 (Thu) 10:44 | EDIT | REPLY |   
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2018/09/27 (Thu) 12:06 | EDIT | REPLY |   
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2018/09/27 (Thu) 12:13 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: おはようございます

meimei様、こんにちは🎵

はい、ありがとうございます。
大丈夫です。

体調不良ではないのでご心配なく。
何とか途切れずにいきそうです。

お気遣いいただき、ありがとうございました。
頑張ります🎵

2018/09/27 (Thu) 15:32 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ありす様、こんにちは🎵

ご訪問&コメント、ありがとうございます。

ご心配おかけしたようで申し訳ございません。
ドタバタしたことが終わりそうなので、何とか止めずに更新できそうです。

そうですね、ずいぶん寒くなりましたね。
ありす様もお風邪など引かれませんように、お気をつけてお過ごしくださいませ。

2018/09/27 (Thu) 15:53 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、こんばんは。

はい、ますは良かった!ですね♥
もうこれでフランス編は終わりです。間もなく日本に戻ってラストに向かいますが・・・(笑)


あはは~!ここからがイジワルpluさんの出番です!
何が起こるかお楽しみに~!

2018/09/28 (Fri) 00:15 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

わんこ様、こんばんは。

お気遣いありがとうございます。

体調は崩してはいないのですが、色々と問題が起きるのは仕方のないことで・・・。
家に戻ることが出来ずにパソコンに向かえないのですよね。

でも、少しだけ落ち着いたので頑張れそうです。


お話・・・はい!何とかいい方向へ向かって行きそうです。
これでフランスのドタバタは終わりましたので日本に帰ります。

色々謎な部分も解決していきますが・・・ややこしすぎたので未回収部分があったらどうしようかとヒヤヒヤです💦

ラストまであと少し・・・頑張りますので応援宜しくです!

2018/09/28 (Fri) 00:20 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。

はい!めっちゃ適当に誤魔化した感満載のトラブル解決シーンでしたが終わって良かった!
毎回小難しい事は書かないようにって思うのに、何故かこんなシーンがあって困ります(笑)

ここで疑問点を指摘されても返事が出来ないし(笑)


ふふふ、お母様も少し変わってきたでしょ?
いい人に変身しつつあります。

つくしちゃんが元気になったら日本です・・・はぁ、フランス結構長かった!(笑)

2018/09/28 (Fri) 00:32 | EDIT | REPLY |   

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