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夏休みはあと2日・・・私はどこにも行かずに類の部屋でひたすらレポートを仕上げていた。
それに加えて特待の試験勉強とイタリア語の弁論大会の準備と大忙しで、類は私の手伝いでレポートをパソコンでずっと打ち続けていた。

「はい、次は?」
「えっ?!もう出来たの?ちょ、ちょっと待って!やだ、類、早過ぎ!」

「・・・寝てていい?」
「ダメーっ!寝る暇があったらこっちのレポート半分やって!」

「あんた、自分でしなきゃ試験がヤバいよ?」
「うっ・・・!でも、時間がないんだもん!試験の時は徹夜、宜しく!」

やれやれって苦笑いの類は今度は英語のレポートに取り掛かり、それはあっさり2時間で終わった。

国際経済学部のレポートもあるって今頃言い出して、今度は自分のをやり始めて、部屋の中には資料とレポート用紙と教科書が散乱してる。
疲れた時には類の珈琲でひと休み・・・加代さんが差し入れてくれた極上のケーキで癒やされて、コロンと横になったらいつの間にか寝てたりして。


あぁ・・・この感じ、懐かしいなぁって。


隣を見たら類までラグの上に転がって寝てる。本当によく寝る人だなぁ・・・って私は自分が寝転がっていた場所から移動してそっと類の横に行った。
そして真横で寝転んで類の寝顔を見る。

少し伸びた髪が顔にかかってる・・・柔らかくて綺麗な髪。
触ってみたくなって手を伸ばしたら、類の目がパチッと開いて、途端に私の方が彼に捕まってしまう!

「あぁーっ!類ったら狸寝入りしてたな?!」
「あはは!わかった?あんたが釣れるかと思って待ってたんだよ」

「えーっ?人を魚みたいに言わないでよぉ!」
「魚はもっと敏感で素早いよ。牧野みたいに捕まらないよ」

そんな馬鹿な会話をするのは類の胸の上・・・私の髪が類の顔に触れてしまうからそっと手で掻き上げられて、そのままキスしてくる。片手が私の頭を押さえてるから動けなくて・・・彼が離してくれるまでずっと唇を重ねてた。


「・・・牧野、ヤバいかも」
「は?何が・・・」

「あんたが欲しくなる・・・どうしよ」
「うわっ!ダメダメ!まだこんな昼間なのにーっ!きゃああぁーっ!」


類に抱きかかえられてベッドに運ばれ、レポートも放ったらかして彼の腕の中に入ってしまう。
「愛してるよ」って耳元で囁かれると色んな不安が全部何処かに行ってしまう・・・もう、この手を離すことは出来ない。私もまだ力が戻らない手て必死に類の身体を抱き締めていた。

明るいから身体が余計にはっきり見えて恥ずかしい。
私の胸を口に含みながら少し見上げてくるから枕に顔を埋めて隠しちゃう・・・「照れ屋だね」って小さな声で言いながら類だって頬を染めてる。

それからは夢中で彼を受け止めて、キスをして、抱き締めて・・・同時に息が上がって類は私の横に倒れ込んできた。


「・・・もうっ、類ったら・・・」
「あは、だって我慢出来なかったんだもん・・・牧野があんな風に寄ってくるからだよ」

「あれ?私のせいなの?」
「うん、そう・・・あんたが可愛いから」


もう1回してくれるキスはいつも極上・・・甘くて蕩けそうな優しいキスをくれる。
その後の微睡む時間が大好き。

このまま夜にならないかなぁ、なんて思いながら彼の腕枕で目を閉じてた。



「ね・・・少し外出しない?橋本さんに会いに行こうと思うんだけど」

ベッドの中で急に類がそんな事を言った。

「え?橋本さんに?うんうん、行く!」

「今ね、新しいヴァイオリン教室開くためにリハビリしてるらしいよ。今度は本格的に音楽教室始めるらしいから、軌道に乗ったらピアノ講師を雇ってピアノも教えたいんだって」

「ピアノも?すごい!前を向いてるんだね」
「生徒数もヴァイオリンだけだと少ないからね。音楽に触れて生きていきたいんだよ、きっと」


いつの間にそんな連絡を取っていたのかと驚いたけど、彼は橋本さんのために場所の手配や楽器の注文をフランスにいた頃から進めていたらしい。
橋本さんの希望で新しい土地っていうよりもこの街で・・・今日、その場所を橋本さんが見に行くから来ないかって誘われていたそうだ。

「じゃあ急がなきゃ!こんなコトしてる場合じゃないじゃん!」
「あはは!忘れるとこだった。牧野のレポートがあまりにも沢山あるからさ」

「えぇっ?!それも私のせいなの?」


急いでベッドから降りて支度をする。
部屋中に散らばったレポート用紙がもっと悲惨な状況になったけど、お構いなしに2人で部屋を飛び出した。


**


久しぶりに類の運転でこの街を走る。

バイトしていたファミレスやレンタルビデオの店を通り過ぎて車は大通りに面した工事中の建物についた。
その裏道に車を停めて歩いて行ったら、その工事名の看板には『音楽教室 cantabile 新築工事』って書いてある。新しい教室の名前に「cantabile」を選んだんだと思うと笑いと同時に涙も溢れた。

もう既に工事は内装業者が入る段階にまで進んでて、今度はそこそこ大きなビルの2階。
「防音防火対策には力を入れたんだよ」って、2度と同じようなことが起きないようにセキュリティ対策はバッチリらしい。楽器の保管庫もオーケストラが使うものと同じ造りのものを手配したって。

工事の人が休憩中だから許可をもらって中に入ると、以前とは比べものにならない広さで、明るい内装に落ち着いた床材。
まだ楽器は当然来てないけどここにグランドピアノが置かれると思うと・・・ちょっとフランスを思いだして手首が疼いた。

「落ち着いたらたまにはここに来て弾けばいいよ。俺もそうするし」
「う、うん・・・そうだよね。今度は気楽に弾いていいのよね。間違えても誰にも怒られないしね」

「ん、楽しんで弾いていいんだよ」


その時、コツコツと階段を上がってくる足音が聞こえてきて、ガチャっとこの部屋のドアが開いた。
入ってきたのは相変わらず優しい笑顔の橋本さん・・・私たちを見るなり今日も目を細めて両手を広げてくれたから、思わず走り寄ってそのまま飛びついてしまった!

「あっはは!相変わらず元気だねぇ、つくしちゃん。お帰り、楽しかったかい?」
「ただいま、橋本さん!えっと・・・楽しかったかって言われると・・・う~ん、でも、まぁ楽しかったかな?いい思い出は沢山出来たの!あのね、あのね!」

「牧野、まずは橋本さんから離れなよ・・・」


橋本さんは類のひと言にケラケラ笑って「随分ヤキモチを焼くようになったんだねぇ!」って。それを聞いた類が照れくさそうに少し赤くなって私の腕を掴んで自分の方に引き寄せた。


「随分工事が進んだんだね。年内には開始できそう?」

「あぁ、生徒さえ集まればね。でも、初めから欲張ったりはしないよ。ボチボチ増やしていって1人1人丁寧に見てあげたいからね。そのうち生徒の中からコンクールに出る子が出てきて音楽の道に進んでもらえれば嬉しいねぇ」

「そうだね。俺も生徒になってもいい?」

「模範生だね?大歓迎だよ!」
「え~?!類は絶対にサボり魔だよ?模範生になんてなれないと思う・・・」


このあと工事が再開されたから近くの喫茶店に移動して、珈琲を飲みながらフランスとイタリアの話をした。
お婆さまのヴァイオリンが戻って来たことは凄く喜んでくれたけど、私がそのためにピアノで苦労したって言ったら悲しそうだった。
音楽とはそんな形で無理するもんじゃないのにね・・・って。

「でもね、すごく拍手もらって嬉しかったの。なんて言うのかなぁ・・・周りがね、何にも気にならないの。類のヴァイオリンの音だけしか私には聞こえないし、その音がどんどん素敵になるの。その時に私のピアノは一緒に響いてて、少しは役に立ったのかもって思うとやっぱり嬉しいよ」

「少しじゃないよ。俺も牧野のピアノでどんどん気分が乗ってきて、いつもより気持ちよく弾けた気がする。ヴァイオリンを習い始めた時の感動に似てたよ。楽しかったよね」


「あはは!それなら良かった。聴きたかったなぁ・・・またいつかここで弾いてくれよ。2人でさ」

「うん!今度は橋本さんと協奏しよう!」
「くす、橋本さんなら仕方ないかな。牧野の伴奏、貸してあげる。スリル満点だけどね」


別れる時にパリで買ったワインを渡したら、類がワイングラスも渡してた。しかもペアグラス。
「沙耶香さんに飲ませてあげて」って言ったら「あいつがワイン好きって知ってたのかい?」って戯けて笑った。


また今度、必ず会おうって話をして、橋本さんは人通りの多い道に消えていった。


その帰り道、喫茶店”cantabile”があった場所に向かった。
そこには一面草が生えてて黒焦げた地面が半分ぐらい見えなくなっていた。

あの日、あの業火の中で沢山失ったものがあるけど、そのあとに手に入れた希望もある・・・類と2人でしばらくその場所に佇んでいたら涼しい風が吹いてきて、何処から来たのか金木犀の香りがした。


「時間ってちゃんと流れてるんだね・・・」

「そうだね。帰ろうか。最後の追い込みしなきゃね」
「・・・そうだよね」




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2018/10/03 (Wed) 12:00 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: おはようございます🎵

水香様、こんにちは。

はいそうですねぇ、ふふっ、そう言っていただけて嬉しいです♥

今度はそんなに長いヤツじゃないと思います。
また、新しいつくしちゃんで頑張ります!
(だって類君はそんなに変わらないんだもん!)


待っててくださいね!

2018/10/03 (Wed) 15:54 | EDIT | REPLY |   
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2018/10/03 (Wed) 15:57 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。

あっはは!こんなプチバージョンじゃ喉も渇きますよね?(笑)
濃厚なのねぇ・・・もうこのお話にはないかもしれないですが?

類君はプチなら何度もあったでしょ?

私ねぇ、この夏のショックでもう書けないんですって(笑)
特に類君は無理!あのプチリレーの時で力を出し尽くしました。

総ちゃんは・・・もう少し先で(笑)


復活するにはどうしたらいいでしょうね・・・?

2018/10/04 (Thu) 00:08 | EDIT | REPLY |   

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