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俺達が日本に帰国してから10日後、今度は両親が一時帰国した。
特別な用事があるわけではなく定期的な日本本社の視察を兼ねたものだ。

この時、母さんから自宅に戻るようにとの話があって、仕方なく大学を休んで花沢に戻った。


自宅に戻ると夏前とは表情が違う加代がいて、ニコニコと笑って俺を出迎えた。
これまで何故か素直に話せなかった加代だけど、あの事の礼を言っておきたくて側まで行くと少し驚いたような顔をした。

「加代、牧野に渡してくれたお婆さまのブローチのことだけど、あれ役に立ったよ。ありがと・・・」

「え?あぁ、あれですか?役に立った・・・はぁ、何のことかわかりませんけど役に立ったのなら良かったですわ。大奥様がもう随分前に私に託された物でしたので気にはなっていたんです。
どなたにお渡しすれば良いのかと・・・牧野さんという方なら間違いないのかな、と勝手に判断しましたの。私こそ類様に内緒でお渡ししてしまって申し訳ございませんでした」

「・・・いや、ホントに助かったから」

ここを出る時の悪態を思い出すと照れ臭くて気恥ずかしかった。
加代はそんな事もわかりきってるからそれ以上は何も聞かず、照れてる俺を見て笑っていたけど。


以前よりは幾分気分良くこの家の階段を上がり、両親が待つ部屋に向かった。
ノックをして母さんの声が聞こえるとドアを開け中に入った。すぐに目に入ったのはこれまでと変わらない表情の父さんが椅子で新聞を読んでいる姿、それとは反対に穏やかな顔つきの母さんが俺に近寄って来た。


「お帰りなさい、類。座りなさいな」
「はい。今日は何か用でもありましたか?あまり大学も休めないので・・・」

「別に大した用はないけど、この前の報告もあったしね・・・」

母さんが父さんをチラッと見たけど父さんからは軽く顎で合図されただけ。どうやら説明は母さんがするようだ。
こうなっても俺と話したがらない・・・ここまで頑固だったかと呆れてしまうけど俺も無視して母さんの前に座った。


「私たちが帰国する直前にローラン社長と話してジルベールは正式に花沢に入ることになったわ。あの事業もプロジェクトチームを再編したの。そこでまずは頑張ってもらうことになったわ。
アリスとのことは花沢での功績を認められれば許すって社長が言われたそうだから本気になってくれるでしょうね」

「それは良かった。何年でも待つって言っていたからその間にアリスも色々と勉強するでしょう」

「そうね。アリスもきちんと大学に通って経済学を学ぶそうよ。あれから1度会ったけど幸せそうだったわ」

「・・・そうですか」


アリスのことはいいとして、問題は牧野の事を認めてくれる気があるのかどうか。
そっちの方が重要だったけど、その事については母さんも口に出さなかった。

いや、出そうとしながら父さんの顔色を窺っているのかもしれない。チラチラと視線を送るが父さんが新聞から目を離さないから、俺の方から聞いてみることにした。


「牧野の事ですが」


両親はその一言で俺の方に目を向けた。

「彼女との事はどうなんでしょう・・・認めていただけるのでしょうか?認めないと言われても困るのですが」


再び新聞に目を戻した父さんの横で、母さんが言葉を続けた。

「私はもう反対はしないわ。牧野さんが努力家だと言うことはわかったし、ローラン会長も気に入ってらしたようだし・・・何かと大変だとは思うけど、類が色々と教えていくって言うのならいいと思ってるわ。
専攻は外国語学部だったわね。経済学も学んでいただかないといけないし、マナーなんかもあるでしょ?どうなのかしら、ピアノ以外でも頑張れる人なの?」

「それは心配ないでしょう。少しずつ教え始めていましたから」

ここでようやく父さんが新聞を閉じて、椅子から立ち上がり、窓際に歩いて行った。
そのまま腕組みして窓の外を見て、俺とは視線を合わせないまま話し始めた。


「・・・だが、調べたところに寄ると彼女の親は仕事の出来る人間ではなさそうだな。碌な生活をしておらん・・・そんな人間が身内になると厄介な事が起こるのではないか?やはり出自は確かな方が安全だがな」

「彼女の家が問題ですか?貧しいからといって人柄まで決めつけるのはどうかと思いますが。彼女の考え方を聞いてみても両親が間違った育て方をしているとは思えません」

「貧しい人間が巨額の富を目の前にしたら人格が変わって当然・・・お前はまだ甘いのだよ」


それは牧野本人のことを言ってるような気がしてムカついた。
だが、母さんが首を振って俺が刃向かうのを止めている。取り敢えず今は揉め事を起こすまいと気を鎮めて、背凭れに身体を埋めて足を組み直した。

「それに類・・・お前は私があれだけ言ったのにヴァイオリンを隠れて弾き続けたのだな。あんな物は邪魔だから止めろと何回言ったらわかるんだ?音楽など経営者には必要ないのだからさっさと貸金庫にでも預けるんだな」

「その音楽でこの度は救われたのではないですか?」

「・・・何だと?!偉そうに言うんじゃない!たまたま上手くいっただけで毎回お前の思うような結果にはならんわ!」
「あなた!もういい加減にしてください!それ以上類の事を否定しないで!!」


その声は今までに聞いたことがないような荒々しい怒鳴り声だった。
母さんにこんな声が出せるだなんて・・・それは父さんも同じだったようで窓の外に向けていた視線を俺達の方に戻した。

流石に目を大きくして、自分に反抗した母さんのことを睨み付けた。
それでも今日の母さんは怯まなかった。


「もうそんなことで啀み合うのはやめてください。あなた・・・類は将来音楽家になりたくて弾いてるわけではないわ。あくまでも趣味で弾いてるんです。経営者だから趣味を持ってはいけないと言うことはないでしょう。
これまであなたの意見には賛成してきましたけど、類の演奏を聴いて思いましたの。この子にはヴァイオリンを弾く時間があってこそ他のことも頑張れる、ある意味では類の強い味方ではないかと」

「・・・なんだと、お前まで・・・」

「・・・ごめんなさい。私のせいであなたも心を歪めてしまったのだとは思うけど、もうそれを類にぶつけるのはやめてください。この子の自由を認めてあげて・・・お願いします」


母さんの言葉の意味がわからない。
母さんが父さんの心を歪ませたってどういう事?その時、何故か那須の前田さんの言葉を思い出した。


『仲は悪くはありませんでした。むしろ仲良くしようとお互いに頑張っておられました。それは類様がご家庭でも持たれたらおわかりになりますよ。今はまだ・・・ごめんなさいね』


俺が小さな時に、お婆さまを含めて両親の間に何かがあったんだろうか・・・それはまだ教えてはもらえないのか。
いつも不思議だった母さんの怯えた行動がもう少しでわかりそうだったのに、何も聞ける雰囲気ではなかった。


「類、あなたも大学生の間、しっかり勉強して自分に力をつけなさい。そして守るべきものが出来たのなら文句を言わずに会社の行事に参加すること。逃げていないであなたもお父様と向き合いなさい。出来るわね?」

「・・・わかりました。努力します」


父さんはまた顔を背けて窓の外に険しい目を向けていたが、俺はこの後部屋を出た。

安心するのは早かったのか・・・何故かまた不安が襲う。
それを寮に持ち込まないように、牧野の好きなケーキをわざわざ買って帰ることにした。


**


「うわぁーい!!このケーキ、日本に帰ったらすぐに食べたかったんだよね!流石、類!わかってるね~!」
「くすっ、あんた、いつもこの店の前通ったら振り返って見てたじゃん。よっぽど食べたいんだろうなぁって思ってさ」

「うんうん、そうなのよ!実は毎回停まってって頼むの忘れちゃうんだよね。通り過ぎてから思い出すのよ」

ケーキを皿に移しながら牧野は明るく振る舞ってる。
今日俺が花沢に戻ったことを知っているから本当は不安で仕方ないのに・・・わざとなんでもないフリをして大袈裟に喜んで笑顔を作ってる。


珈琲を煎れたらケーキにフォークを入れて美味しそうに頬張る。
ひと口食べるごとに俺から出る言葉を気にしてドキドキしているんだろう・・・それが手に取るようにわかるから、先に話しておこうと思った。


「・・・両親と話してきたよ」
「あっ、そう!お元気だった?」

「うん、元気だった。フランスの方はもう問題なさそうだよ」
「良かったねぇ!頑張った甲斐があったってもんだよね!」

「母さんがヴァイオリンのこと賛成してくれたよ」
「うわっ、良かったねぇ!これで自由に弾けるね!」



「守るものが出来たのなら文句言わずに行事に出ろってさ・・・」

「・・・・・・」

「あんたにももっと勉強しろってさ・・・酷いよね」


そこまで言うとフォークを皿の上に置いて顔を覆った。
不安で不安で・・・不安で堪らなかったんだろう。1人で大学にいる間、ずっと悩んでいたんだろうね。

しばらく啜り泣いてたけど、次に顔を上げた時にはいつものようにニッコリ笑ってまたフォークを持ち直した。


「よし!じゃあもっとお勉強しなくちゃ!何をしたらいいの?」
「都市経済学と財政学、金融論、貿易論、産業組織論ってとこかな。環境経済学もあった方がいいかも」

「はっ?」
「冗談だよ」




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2018/10/05 (Fri) 09:46 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんにちは。


今回1番の嫌われ者、類パパ!(笑)
そうなんですよね~・・・何だか原作でも出て来ない人だから、類パパってよくわかんないんですよね。
類ママもだけど、やっぱりママって人はあんまり悪人に出来ない(笑)

よってすぐに悪者はパパになってしまう・・・ははは!


まぁ、とんでもない展開にはなりません。
これからラストに向かいますので、ほんのちょっとのスパイス付きと思っていただけましたら・・・。


台風・・・今回はもしかしたら1番うちは接近するかも?
今まで無事だったのですが・・・さて、どうだろう。

既に風が強くなりました。
どの地域でも災害が起こりませんように・・・。

2018/10/05 (Fri) 11:55 | EDIT | REPLY |   

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