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「我儘だとは思いますが10日間、いただけませんか?」
「冗談はよせ。総二郎」

「それでは1週間でどうでしょう?」
「無理だな。私など1日しかないのだぞ?」

「…5日間で我慢します」
「3日間だな」

「……」


家元から許された俺の夏休みは3日間。このあとどう粘っても願いは聞いてもらえなかった。仕方なく3日間の休みで首を縦に振るしかなく、顰めっ面でつくしの所に戻った。

部屋に入ったらつくしはまだ着物を着ていて茶を煎れてるところだった。
振り向いたその時の笑顔はいつもと変わらず穏やかで優しい。

「お疲れ様、お茶をどうぞ…今日のお仕事は全部終わったんでしょう?」
「あぁ。まぁな……」

「ふふ……そんな顔しないで?私は大丈夫だから」
「やっぱりわかるか?ごめん、3日しかとれなかった」

「十分だわ。ゆっくりしてね、総二郎」



つくしが西門に嫁いで3年目の夏のこと。
この3年間で俺達に子供が出来ないことで、つくしはまるで責任が自分にあるかのようにチクチクと各支部の連中や後援会の幹部に嫌みを言われていた。
今時そんなことを言うとは時代遅れも甚だしいが、つくしは文句も言わずにただ黙って頭を下げるだけ。

それに1年中つくしを縛り付ける着物…窮屈そうに見える帯が心まで締め付けてるように見えて可哀想だった。
長い黒髪も夜以外は結い上げられて乱れることは許されない。いつも誰かに見られている緊張感の中で、笑顔も絶えず作らなくてはならない。

だから申し出た俺の「夏休み」……この期間はつくしを「帯」から解放させてやりたかった。


俺が引き込んだために。
俺が手を離せなかったために。

俺に愛されたためにつくしは自由な時間と身体を西門に取られたようなものだ。

それを気にしないと言う。
苦痛じゃないという。

それでもここに居たいと言ってくれる……そんなつくしが愛おしかった。


「休みは来週の木曜から土曜まで。朝早くに出掛けないか?誰も起きてこないうちにさ」
「え?そんなに朝早くに行くの?ふふっ、変なの」

「誰にも声かけられたくないから。だからここを出るときから自由な格好でさ……気楽に行こうぜ」
「うん、わかった。楽しみにしてるね」


**


そして夏休みの1日目、予定通り愛車ベルリネッタで西門を出たのは朝の6時前。
まだ使用人のほとんどが動き出していない時間帯に俺達は屋敷を出た。まるで夜逃げのようだとクスクス笑うつくしに「いっその事そうしようか?」って冗談を言うと悲しそうに笑った。

少しずつ増えてくる車の間を縫うようにして俺達は目的地に向かう。

特に話すわけでもなくて、時々何かを見つけては「面白い物が見えたよ!」「あれは何だろう…なにかが建つのかな?」なんて指を差して呟く。それに簡単な返事だけして相手にしないから、ハンドルを片手で持つ俺に文句ばかり言ってる。

「ちゃんと私の話聞いてる?返事が遅いよね?」
「ねぇ、なんで教えてくれないの?ホントは分かってるんでしょ?意地悪だなぁ!」
「もうっ!少しは真面目に運転してよね?事故なんて嫌だからね?ちょっと、聞いてるの?」

「ははっ!ちゃんと聞いてるって。それに事故なんてしねぇよ」

普段誰にも言えねぇんだから、そうやって俺にぶつければいい。
いつも我慢してるんだから今ぐらいは我慢せずに吐き出せばいい。自分の中に溜めこんだもの、全部残らず外に捨てればいいんだって。

「あーっ!こんなに大きな声出したの、久しぶりだなぁ!」
「懐かしいだろ?昔は毎日大声出してたもんな。この際何でもいいから窓の外に向かって叫んどけよ」

「あはは!そんなことしないよぉ!」


朝が早いからエアコンなんてつけないで外の風を思いっきり吸い込んで、その黒い髪が自由に舞い上がってる。
片手でそれを押さえながら小さく鼻歌なんて歌ってる。そして「あ、間違えた!」って言っては1人で笑い飛ばしてた。

今日はリネンのワンピース。
夏らしいスカイブルーでなんの飾りもないシンプルなワンピースだった。つくしの身体を自由にしてくれる軽やかな服だ。


「総二郎、気持ちいいねぇ……」
「そうか?そりゃよかったな。朝早かったから眠くなったら寝とけ。着いたら起こしてやるから」

「勿体ないよ。せっかくの夏休みだもん。明るいうちは起きてるよ」
「くくっ!勿体ないってのはそういう時も使うのか?」


今回の行き先は西伊豆にあるうちの別荘だ。
着いたのは昼前で、この日の昼食だけ準備してもらって、あとは帰るまで2人っきり。誰もここに来ることはない。
帰るまでの食事は久しぶりにつくしの手料理を楽しもうと思っていた。

「総二郎、すぐそこに海が見えるよ?ねぇ、あとで行こうよ!」
「あぁ、そうだな。飯食ってからゆっくりして夕方行こうか?夕日が綺麗だから」

「うん、そうする!」

急に子供に返ったみたいな笑顔で、嬉しそうに窓から見える景色に背伸びをする。つくしが……呼吸してる。

用意してもらった昼飯は地元の新鮮食材を使った磯割烹料理。ホテルや旅館なら夕食に出されるような豪華なものだった。
誰もいないから作法なんて無視。つくしにも酒を少し飲ませて時間をかけて目の前の料理に舌を楽しませた。

戸田にしか漁業権がない高足カニに、アワビ、伊勢海老……駿河湾の幸をふんだんに取り入れた「舟盛り」に興奮して拍手を送ってるが、それは誰に対する拍手だ?って言うとまたケラケラ笑う。
今日ぐらいは”迷い箸”も許してやるって言ったら「ホントに?」って早速皿の上を迷いだした。

「今日の晩からはお前が作るんだけど大丈夫か?」
「え?作ってもいいの?うわぁっ!何食べたい?総二郎」

「何でもいいって言ったら怒るんだろ?お前の味噌汁と…煮物がいいな。沢山作るなよ?明後日までだから」
「うん!嬉しいなぁ…お台所なんて久しぶりだよ。美味く作れるかなぁ…」

「ははっ!食うのは俺だから失敗しても我慢してやるよ」
「だね!うん、頑張る!」

姿勢も崩して少しずつ酒を口に運ぶ。
そんな姿でも随分と女らしく綺麗になったもんだ……「ほら、飲め!」と徳利を差し出すとほんのり紅くなった目元を大きくさせながら一気に杯を空ける。「まだお昼だよ?」なんて言ってるけど嬉しそうにまた喉に流してる。


それが終わったら夕方まで何もせず、海が見える部屋の真ん中で俺はつくしの膝枕。
つくしは団扇で扇ぎながらずっと窓の外を眺めていた。

「潮の香りがするね……」
「あぁ…だな」

「誰かいるのかな……子供の声がしない?」
「そりゃいるだろ。子供は夏休みの真っ最中だからな」


「時間が経たないね……」
「ははっ!だからいいんじゃね?のんびりしとけ」

たまに俺の髪を撫でながら、たまに童謡なんかを唄いながら、たまにコクンと首を落としながら…つくしと俺は同じ場所で同じ時間を過ごした。


いつの間にか2人で寝てしまって気がついたら夕日がすでに海の中に消えていた。もうオレンジ色は水平線に僅か一筋、空は紫色に変わっていて星が見え始めてる。
海に沈む夕日が見たかったつくしがぎゃあぎゃあ喚いて、何故かそれが全部俺のせい。食材に八つ当たりしながら晩飯を作っていた。

「いいじゃねぇか、明日だって見られるんだし。その代わりあとで夜の海に行こうぜ?」
「もうっ!明日絶対に見るんだからね?総二郎が寝てたら放ったらかして1人でも行くんだから!」

「わかったって!もういいから包丁振り回すな!」

久しぶりに見るこいつのエプロン姿。
後ろから見てたら数年前から何にも変わってねぇ。手際よく料理器具を使って、忙しなく動いて、やっぱり独り言は多かった。
夏だからって冷たい物ばかり食うのは身体を壊す、それがつくしの口癖だったから今日もこんなに暑いのに出された飯には温かい物がちゃんと用意されてる。

汗だくになりながら作ってくれたつくしに感謝しながらそれを食った。

「やっぱ美味いな……お前の味噌汁。筑前煮っての?これも美味い!家でも作れたらいいのにな」
「そうね、時々作らないと忘れちゃうよね。これね、自信作なの。モロヘイヤと長芋を和えて梅で味がつけてあるんだよ?」

「これは?」
「これは茄子のカルパッチョ。大葉と茗荷が薬味でね、白ごまの和風タレがかかってるの」

一口食べては説明しながら、これもあれも食えって捲し立てる。
もちろん夜も少しの酒は入るから2人で時間をかけて晩飯を食ってた。

すげぇ幸せな晩飯……誰も邪魔しない俺達だけの時間。



夜になってから静かになった海辺を歩いた。

風が幾分冷めていて、波が規則的に押し寄せてきて、まるで海の中に誘ってるかのよう。
そんな砂浜を手を繋いでゆっくりと歩いた。ワンピースの裾が時々捲れ上がって膝まで見えると急いで押さえ込んで赤くなる。
「俺しか見てねぇよ」って言うと「それが1番恥ずかしいの!」って…3年も経ってまだ言うのかよ!って笑った。


ふと立ち止まって真っ暗な空を見上げる。
満天の星を見つめて「綺麗だね…」ってポツリと言った。

「あぁ、綺麗だな」って…俺はお前を見て言った。

月の光だけがつくしの顔を照らしてる。
その頬に片手を添えて引き寄せて…俺はつくしにキスをした。波が”そうしてやれ”って催促してるみたいな気がしたからさ。


その日の夜、蒸し暑い部屋の中で俺達が離れることはなかった。
つくしの甘えた声が聞こえる度に汗を飛ばしながら、夢中でお互いの身体に指を食い込ませて求め合った。

荒い息が俺を煽って、汗で張り付いた髪を指で払いながら首筋にいくつもの光が飛び散っていく。
甘えた声が何かの鳴き声のように変わって、最後は2人同時にその場に倒れ込んだ。


火花が散るような夜だった。






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Comments 2

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さとぴょん  

Plumeria様
総つくで大人っぽいお話だったからどなただろう?と思ったら
Pluちゃんだったから、バナー二度見しちまったよ(笑)
窮屈な毎日からたとえ3日間でも解放してやりたいと思う総ちゃん
優しいですよね。
なに?この家元夫人厳しいの?
「喧仲」の家元夫人ちったあ見習ってほしいよね(;^ω^)
つくしが呼吸をしている・・・ ここが好きでした。
そしてふたりだけの時間・・・
何もしないで、膝枕で海たり
しあわせそうでしたね。
ああ私も総ちゃんを膝枕して髪を撫でたい!(≧◇≦)♡
その後の夜の寝室花火・・・略してあったけどええ感じで妄想膨らみました。
後編も後ほど楽しませていただきますね♡

2018/07/25 (Wed) 16:20 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
さとぴょん様

あっはは!どういう事かしら、さとぴょん様っ!!
私が大人っぽいの書いたら不思議かしら?(笑)まぁ、2回で終わったんならよしとしましょうか。3回見直されたらちょっと殴るかもしれないけど(笑)
やる気を出したら書けるのよ・・・あんまり出さないだけで。
いつもは隠してるから。ふふふ・・・。
で、こんな所に『喧仲』の家元夫人出したら、つくしちゃんにストレスないと思うのよね?
それこそ一年中お休みになってエステに通ってしまうからダメっ!
総ちゃんに膝枕・・・髪の毛撫でるだけではすまないでしょう?
何処まで手が伸びるかわかんないからそれもダメっ!
ん?省略したけど妄想膨らんだ?
じゃあ。自宅の話も今度からそれでお願いします・・・♥

2018/07/25 (Wed) 17:17 | EDIT | REPLY |   

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