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plumeria

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類と別れた後に私が住んだのは山口県だった。
特に意味はなく、お金がないから飛行機も新幹線も乗れなくて、当てもなく乗り継いで終点だったと言うだけ。
そこで小さな民宿をやっている老夫婦に住み込みで働かせてもらっていた。

そこは夏だけが忙しくて、後は本当にのんびりしたところだった。

自分の部屋に置くものなんて何もなくて、小さなカバンに入れて持ってきた類との写真が数枚あるだけ。
それを毎日眺めながら、その写真の中の類の顔を指で触った。

桜の木の下で撮った一枚の写真がとても好きだった。
普段は撮らせてくれなかったよね・・・類は写真が嫌いだったから。
でも、私が無理を言って撮らせてもらったのよね・・・この一枚が私の宝物。

これを見たらいつも涙が出るから、すぐに小さな机の引き出しにしまうの。
涙がその写真にこぼれてしまわないように・・・もう二度と撮ることが出来ないから汚したくないの。

もっと一緒に撮れば良かったのにね。
でも少し抵抗があったのよ?類の方が綺麗なんだもの・・・私が子供っぽいのが目立つんだもの。


ねぇ、類・・・覚えてる?

私が一度だけ、類と出かけるときに頑張ってお洒落したときのこと。
類に少しでも綺麗だって言って欲しくて、バイトで溜めたお金を初めてお洒落に使ったの。
髪を巻いて、新しいピアスを買って、ちょっとだけヒールのあるパンプスも買った。もちろん春色のワンピースも・・・


「どうしたの?今日はそんな格好して・・・何かあるの?」

「何もないよ?類とのお出かけだから綺麗にしたの。ダメだった?似合わないかな・・・」

「ダメじゃないけど・・・いつもの牧野の方が好きだな。なんだか違う人みたい」


今はもう笑い話だけど、その時はすごくショックだったの。
私は類の側で少しでも可愛くしたかっただけなのに、あなたはまるで反対だった。

落ち込んだ私に類はすごくいいわけをしたわね。飾らない私がいいって・・・そのままの私がいいって言う意味だって。
泣き止まないから、デートコースを変更してこの桜の綺麗な公園に行ったのよ?
ここなら泣いた後の顔でも気にならないだろうって。

私はいつも考えてしまうの。類の横にいるためにどうしたらいいのかって。
どうやって自分を変えたらみんなは私を認めてくれるのかって・・・その思いが私を狂わせるの。

類の世界は遠すぎて、私の手は届かないから。


「牧野、俺と一緒にいるために何かを変えようなんて思わないで?今のままの牧野を愛してるから」


類のこの言葉は今の私を支えてくれている。
類と離れてしまったけど、この言葉だけは忘れない・・・一枚の写真と共に私の宝物だから。

「類、あなたと一緒にいるために私は何かを変えたかったの。あの時はそうしないとあなたを失うと思ったのよ」

きっとあの時に類がお洒落をした私を褒めてくれても、また私は同じ事を考えただろう。
その上を、その上をと類を自分のものにするために欲を出して狂い続けたかもしれない。
類はそんな私に気が付いていたのかもしれないね。
だから、それ以上狂わないように私を止めてくれたんだよね?



随分長い間離れて暮らしていた両親から連絡が来た。
今住んでいるところは教えてはいないけど携帯の番号だけは教えていたから。

内容は親戚が亡くなったと言うこと。お葬式に来るように言われた。
こんなことでもない限り東京に戻る事はないだろうと思っていたけど、この桜の時期に戻ることになるなんて。
民宿は忙しくない時期だからすぐにお休みをもらって東京に向かった。

お葬式が終わって少し両親と話してから、山口に戻る予定だったのに・・・。


でも・・・あのアパートに行ってみたくなった。
私が類と住んでいた場所・・・類と愛し合っていた場所にもう一度行きたくなった。

小雨が降っていて、少し肌寒い・・・黒いコートの襟を掴んで、ピンク色の傘を差してそのアパートの前に立った。


「全然変わんないのね・・・このあたりは東京と言っても都心から離れてるから・・・」


類と住んでいたアパートはまだそこに変わらずにあって見た目は何にも変わっていなかった。

あそこの2階が私たちの住んでいたところ・・・今は誰が住んでいるんだろう。
あの小さな窓から何度も類が帰るのを見ていた。私の所に帰る類を待っていた。帰ってきた類に何度飛びついただろう。

その部屋に住んでいる人が今、幸せだったらいいな・・・。あの時の私たちのように。
そんな事を思いながらそのアパートを後にした。


少し雨が強くなった・・・。
アパートの前の桜の花がこの雨で散っていく・・・ここを出て行くときもこんな感じだった。


どうか桜が咲いてるときは雨も意地悪をしないで・・・。

僅かな時間しか咲かない花を、こんな風に散らさないでと、小さく呟きながら帰った。

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