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plumeria

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看護師さんに言われたように白衣と帽子、マスクを身につけてその部屋に入った。

ここには24時間看護対象の重症患者や大きな手術をした人がいるからと説明され、静かにすること、不用意に歩き回らないようにと注意を受けて彼が寝ているベッドまで案内してもらった。


そこは1番奥の個室のようになっている場所で、恐る恐る入ったら沢山のモニターに囲まれた西門さんが酸素マスクをした状態で寝ていた。
それを見た瞬間、走り寄って顔を覗き込んだけど目は開けてくれなかった。

「1度麻酔からは覚めてますけどまだ意識がはっきりしてないんですよ。問題はないと思いますが出血量が多かったので少しだけここで様子を見て、数時間後には病室に行けると思いますよ」

「そうですか・・・ありがとうございました」

「不衛生な場所での怪我なので感染症が心配だけど、お若いし体力もありそうだから頑張ってもらいましょうね」


看護師さんは何度も「ここに入ったのは念のためですからね」って言ってくれたけど、現場にいた私には彼が死ぬかもしれないって思うほど怖かったから、それを言われても不安は消えなかった。


声を聞かないと、この手で抱き締めてもらわないと安心でいないよ、そう呟きながら今は私が彼の手を握る・・・そこに力は全然ないんだけど、早くこの手に力が戻って私の手を握り返して欲しい・・・それだけを願った。


「こんなに綺麗な手なのに色んな所に傷があるね。ごめんね、西門さん・・・ごめんね」

涙がポツンと落ちたらピクッと彼の指が動いた・・・でも、その1度きりで目を開けることはなかった。



しばらくしたら家元夫人だけが私と同じ格好をして集中治療室に入ってきた。
そして西門さんの顔を何度も触って名前を呼んで、ハンカチで目を押さえながら頬を撫でていた。

「明日ね、家元が朝一番に戻ってくるの。だから私は1度戻らなきゃいけないんだけど、牧野さん、ここをお願いできるかしら。さっき先生のお話を聞いたんだけど、もう心配はないだろうって言われたの・・・明日になったら話しも出来るだろうって」

「はい。私がついてますから大丈夫ですよ。家元夫人、お疲れになったでしょう?ご自宅で休んでて下さい」

「・・・ごめんなさいね。甘えてしまって・・・総二郎さんも目が覚めたときに私よりはあなたの方が嬉しいでしょうからね」

泣きながらわざとそんな言葉を出して辛そうな笑顔で笑った。


ここで3時間ほど様子を見たあとで、安定してるからって特別室に移されたのは夜中の1時を回ってからだった。


**


特別室でも西門さんの周りにつけられたモニター類は減ってるわけじゃなくて、心電図の他にも私にはわからないものに彼は繋がれていた。
点滴には強い痛み止めが入ってると言われ、これが続いている間は副作用で吐き気も酷いらしい。

最近経験した私にも少しはわかる気持ち悪さだけど、西門さんの怪我とは比べものにならなかった。

麻酔は切れてるはずだけど、まだはっきりと意識が戻らない。
小さく名前を呼んだら眉を少し動かすけど目は開けてくれなかった。

時々ピクッと指が動くからその度に握りしめて私の両手で掴む。
それでも軽く動かしてくるだけ・・・。


「いいよ・・・明日になったら話せるって聞いたよ。だから今日は我慢する・・・明日になったら声を聞かせてね」

彼の指を自分の唇に当てて、祈るような姿勢でベッドに肘をついていたら、コンコンとノックをされて大慌てでその手を離した。


入ってきたのは竹本さんと看護師さん。
もう術衣から白衣に戻っていて表情もさっぱりしていた。

またさっきの言葉を思いだして私は自分でも気が付かないうちに怯えたような顔をしたらしい。竹本さんは看護師さんがいるのにクスッと笑ってお医者さんらしくない言葉遣いで話しかけてきた。

「そんなに驚かなくても術後の回診だよ。少し出血の様子を見るから離れていた方がいいかもね。そこで君にまで倒れられたら困るから」

「・・・は、はい。わかりました」


竹本さんに言われて特別室の隅っこに避けた。
看護師さんがメディカルスクリーンで私には見えないようにして、その奥で2人が傷口の様子を話してる。聞かないようにしたいけど耳に意識が集中してその会話を聞いてしまった。


「ガーゼもう1枚増やそうか」
「はい、先生」

「少しここ持っててくれる?ドレーンで抜いた体液でシーツが汚れたね」
「仕方ないですね、でも防水シートを使ってますから下には染みてないと思いますよ」

「1度交換しようか、結構体内を消毒したからまだ出るだろうし」
「そうですね。新しいシーツを用意します。タオルの交換は2時間置きでしょうかね」

「うん・・・今日はそのぐらいでもかなり汚れるかもしれないな」
「この傷の大きさですからね。では次は1時間後にしましょう」

「異常な出血があったらすぐに知らせてくれる?大丈夫だとは思うけど」
「わかりました」


・・・怖すぎてベッドの方に向けない。


ここに来る前、集中治療室の看護師さんが話してくれたのを思いだした。

どうやら傷口の中を洗浄したから、その液と血液が一緒になって患部に溜まってしまうのを防ぐために、縫合した場所の横に少し穴を開けてドレーンを差し込み、そこから血の混じった体液を抜くらしい。
しばらくはその部分が腫れたようになるけど問題ないって言っていたような・・・。


聞いただけで身体が震える・・・私はそのあとは耳を塞いで処置が終わるのを待っていた。




「・・・ちゃん、つくしちゃん?」

「・・・はっ!」

名前を呼ばれていることに気が付いて耳から手を離すと、看護師さんが医療用具を持って部屋から出て行くところだった。
どうやら処置は終わったみたい。メディカルスクリーンも外されていて西門さんの顔が見えた。


急いでまた彼の横に向かうと相変わらず少しだけ眉に皺を寄せて目を閉じていた。
手を掴んだら同じように少しだけ指を動かす・・・ホッとして椅子に座ろうかと思ったら竹本さんが傍までやってきた。


「忘れてないよね、つくしちゃん」
「え?あっ・・・あの」

「成功したらご褒美、貰えるんだったよね?」
「それは竹本さんが勝手に言ったんでしょ!私、何にも答えていませんから!」

「へぇ、そういう事言うの?俺、頑張ったのになぁ、つくしちゃんのご褒美貰おうと思って」
「なんでお医者様が手術に成功したからって患者側にご褒美の要求するんですか?!おかしいでしょ!」

静かに!って口に指を当てて私を黙らせる。


「誰もつくしちゃんを恋人に、だなんて言ってないでしょ?お礼のキス・・・でいいんだけど?」
「・・・は?」


「してくれないとマスコミにバラすかも。警察には口止めしてるだろ?」




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Comments 8

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2018/10/08 (Mon) 13:12 | EDIT | REPLY |   
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2018/10/08 (Mon) 13:51 | EDIT | REPLY |   
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2018/10/08 (Mon) 14:26 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: こんにちは!

えみりん様、爆笑っ!!!

まさかこれが書きたくて表に(笑)
こんな展開なのにめっちゃ面白いコメントありがとうっ!!!


え?渚沙ちゃんが?

明日咲く渚沙・・・どっかで聞いたような名前(笑)

うちの実家の真っ赤なヤツも見る度に「渚沙・・・」って思うようになりました。
一昨日行った時に「じゃあ帰るね~」って玄関開けたら、目の前で渚沙ちゃんがポロッと落ちたの(笑)

瞬間・・・ビビった!

2018/10/08 (Mon) 17:53 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、こんばんは!

竹本君、何考えてんでしょうね(笑)
困った人です。

でもね、全然タイプは違うのですが私の子供が入院して手術した時の担当医は許せませんでした。

難しい病気だったので大きな病院にいたのですが、そういう所って院長先生の回診があるんですよね。
普段は回診に来なかったくせに、その院長先生の回診の時だけ同行してきたんですが、泣き叫ぶ子供の傷口を乱暴に触りながら説明するんですよ。
で、終わったら私たちには何も言わずに帰って、超ムカついたんですよね。

退院するときも診察に来たんですが、その時に

「もう2度と会うこともないでしょうから私から言うことはありません」って言ったんです!

手術前にも、「もしかしたら肋骨を2本ぐらい切り取るかもしれませんが命に関係ないんでいいですよね?」って!
そんな言い方ってどうなの?って思いましたが、子供の手術が出来る人が日本には5人しかいなくて、そのうちの1人だったので断わるわけにもいかず・・・。

あぁ!思いだしても竹本より腹が立つっ!!!

失礼しました(笑)

2018/10/08 (Mon) 18:10 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんにちは。

毎回ドレーンを付けるとは限らないんでしょうが、これはうちの娘の時の実体験です。

すっごい怖いんですよ(笑)
最初見たときに傷口が開いたと思って大騒ぎしましてね。

看護師さんに聞いたらお腹から管がぴょんと出てて、そこから余分な体液を出すんですって。
それが血と混ざるから赤くなるんですよ。確かに血を薄めた感じで、真っ赤じゃないんですけどね。

お腹に巻いたタオルが赤くなって看護師さんが取り替えに来てくれるんですが期間は術後1日~2日ぐらいですかね。
それからドレーンだけ外してくれるんです。

だから大きな傷口の横に小さな丸い傷が今でもあります。


私、病院には勤務できません。
看護師さんとか本当に尊敬します。病院にかかってばかりだからねぇ💦


ん?竹本のチュウ?あっはは!

「そんぐらいしてやれや!」って思いました?そうしたらエスカレートするかもよ?
その現場をカメラで撮ってね・・・ふふふ。ブラック竹本(笑)

2018/10/08 (Mon) 18:25 | EDIT | REPLY |   
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2018/10/08 (Mon) 19:53 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: To plumeriaさん

まりぽん様 こんばんは!

あはは!ありがとうございます♥
おそらくもうお世話にはならないので大丈夫ですよ。

ただその病気そのものは一生子供について回るので親としては気になりますが
余程のことがない限り普通の生活は問題ないようです。

肋骨も結局は切ってないんですよ。


変な事書いてご心配かけました💦興奮しちゃった(笑)
反省します・・・あはは!

2018/10/08 (Mon) 22:08 | EDIT | REPLY |   

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