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私は涙を堪えてお父様の顔をキッと睨むようにして見つめた。

「わかりました。私がここから・・・東京から出て行きます。それを類さんに知られないうちに・・・何も言わずに出ていけばいいんでしょう?その代わり類さんをこのまま日本の大学に通わせていただけますか?」

「あぁ、そうしてくれるのなら類はこのまま日本で卒業まで好きに学ばせよう」

「約束していただけますか?ヴァイオリンも認めてあげてください。彼から何も奪わないで・・・友達も音楽も、類さんの好きにさせてあげて下さい。私が全てを諦める代わりに彼からは何も取らない、それが条件です」

私の言葉にお父様は少しだけ眉を歪めた。
ちょっとは私の事を可哀想だと思ってくれたんだろうか・・・そんな目をしていた。


「何処に行くか・・・急には決められんだろうが、その準備は私がさせてもらおう。纏まった金を渡しても良いのだが、君はそういう行為を嫌うと聞いている。だから行き先の確保と当面の居住費、その程度は受け取ってくれるかな?」

「・・・確かにそうですね。自分の預金でどうにか出来るほどの余裕なんてありませんから。大学も残念ですが退学って事ですよね。私、ここに入るために必死で頑張ったんですけど・・・」

「新しい大学に入るための準備もさせてもらおう。それだけ無理を言ってるのは承知しているからね」


新しい大学の準備・・・そんなもの、誰かにしてもらっても本当は嬉しくも何ともない。
自分の力で勝ち取ったもの、選んだもの、身につけたもの・・・私はその方がずっと重要だって思って生きてきたから。

だけど綺麗事だけで世の中は渡っていけない。だから新しい大学のことはお父様の力を借りることにした。


「・・・何処か希望はあるのかね?海外でも構わんがそれは君が困るだろうしね」

「海外?あははっ、無茶なことを言われるんですね。でも、ここから出来るだけ遠くがいいんでしょ?類さんが探せないような場所ってことですよね」

「類も必死になって探すかもしれんからな。遠く、というよりは連想しにくい場所がいいだろう」


連想しにくい場所・・・思いもつかないような場所って事?

しばらく考えていたけど、私たちには思い出になる場所なんて殆どなかった。
一緒に出掛けたのは那須の別荘とヨーロッパだけ・・・類には私が行きそうな場所なんて考えつかないだろう。そのぐらい私たちは「これから」・・・だったんだから。

それなら今からは寒い季節になるから南の方に行くことに決めた。


1人なら何処に行ったって同じだ。思いつきで「沖縄に」・・・そう言うとお父様から住む場所を確保をすると言われた。
その他に引っ越しの費用も交通費も、私が何も準備できなくても花沢が全てするから心配するなと、大学は希望する学校があればその大学の好きな学部に編入できるよう手配すると言われた。

そこまでして私をここから出したいのか、そう思うと悲しかった。


「これはお母様もご存じなんですか?」

「・・・いや、あれは何も知らんよ。だが、所詮私のすることに逆らうことはしない人だからね。話せば納得するだろう」

「そうですか・・・」


あのお母様が知らないことなら良かった・・・。

お母様の事は嫌いにはなれなかったから。
あのお母様とは上手くやっていけそうだって、そんな風に思っていたから。


お父様は帰る時になっても「自分のやってることは類のためだ」を繰り返した。何度も・・・何度も。

類がこのお父様と上手くいかないの、わかる気がするなぁ・・・なんて思ったけど口には出さなかった。その大きな背中が階段を降りていくのを玄関で見送って、車が寮から去って行くのを踊り場から見ていた。


ぽっかりと・・・空っぽになった胸の中にさっきよりは一段と冷たくなった風が吹き込んできた。



その時、類の車が反対方向から戻って来た。
なんていいタイミング・・・もう少し早く帰ってきたらこの話はどうなってたんだろうね、類・・・。

彼は私に気が付いて手を振ってくれる。
手にはヴァイオリンケースが大事そうに抱えられてて、それを下から私に見せてくれて嬉しそうに笑った。

階段をすごい速さで駆け上がってきてすぐに抱き締められて「ただいま!」って言われた。
「お帰りーっ!遅かったね、銀行手間取ったの?」って聞いたら、もう片方の手には今日も私の大好きなケーキ屋さんの袋があった。


「うわあっ!買って帰ってくれたの?ありがとう!」
「食後のデザートにね。牧野、勉強しなきゃいけないでしょ?」

「あっ・・・うん、そうなのよ~!今日からまた徹夜でフランス語やらなきゃ!」
「何言ってんの、イタリア語でしょ?」

「・・・あっ、そうそう!イタリア語だよ!もう、馬鹿だよね、私ったら!」


少し涙が出たの、気が付かれなかったかな・・・。
変なテンションで話したの、バレなかったかな。


気が付いて欲しいけど気が付かれちゃ困る。泣きたいけど泣いちゃいけない・・・笑わなきゃ。

笑った顔だけ覚えててもらうんだ。
類の腕にぶら下がるようにして甘えながら部屋に入った。


**


牧野の様子がおかしいことはすぐにわかった。

このテンションの高さは彼女に何かがあったってこと。
それが俺に関する事なのか大学の事なのか、友達のことなのかってことはわからなかった。

でも、必死に隠そうとしてる。
そういう時は俺の目を見ずにテンションだけ上げるんだ。

そのテンションの上がり具合と行動は別物・・・牧野はそんな時、一気に動きが遅くなる。失敗が増える。


今日も晩ご飯っていいながら炊飯器のスイッチを入れ忘れた。
それにがっかりしてパスタに変えたのに今度はミートソースを焦がした。出来上がったのは牧野にしては驚くほどの失敗作で、でも俺はそれでも美味しかったから文句なんてない。

パスタに味噌汁が出てきたって構わないけど、それよりも牧野に起きた「何か」の方が気になった。


「牧野、何かあったの?」
「・・・え?なんで?何もないよ」

「ホントに?俺に隠し事してない?怒られる前に話してみな?」
「えぇ~!言うの?言わなきゃ怒るの?類が怒っても怖くないよ?」

そういう時も視線を外してる。その自分のクセに気が付いてないのかな・・・?
巫山戯ようとするからちょっとだけ睨んだらやっと俺の方に目を向けた。そして真っ赤な顔して・・・嘘をついた。


「あのね?体重が3キロも増えてたの・・・」
「え、そんなこと?まだ増えても問題ないでしょ?フランスで痩せたし今だって太ってないじゃん」

「やだよぉ!女の子にとっては大問題だよ!もうショックでさぁ・・・!」
「・・・馬鹿だね、聞いて損した気分」

「だから聞かない方がよかったのに!」


あはは!って頭を搔きながら笑ってるけど、本当はなにが起きたのか・・・牧野が話してくれるまで待とうって思った。

自分の前に置いた味噌汁が入れられたカフェ・オ・レ・ボウル。
1度も口を付けずに眺めている牧野は、笑ってる顔なのに泣いている目に見えたのは気のせいだろうか。




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2018/10/08 (Mon) 10:11 | EDIT | REPLY |   
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2018/10/08 (Mon) 13:18 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんにちは。

あっはは!それいいかも~!
面白い子と考えますねぇ(笑)流石さとぴょん様♥

でも、渚沙が嫌だともうよ?
あきら君とおっさん・・・交換できないでしょ(笑)

あっ!ミッキーのカチューシャ付けてたらいいかもっ!!

2018/10/08 (Mon) 17:38 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、こんにちは!

ごめんなさいねぇ💦こっちの展開で。
でも、まりぽん様・・・いいことに気が付いていらっしゃる(笑)

ふふふ、つくしちゃんのことを信じてあげてくださいね♥

類パパは・・・う~ん(笑)
まぁ、この人は放っておきましょうか。
いつかは類君がお父さんを超えて成長してくれると思います。

そのためにはね・・・♥一緒にいないとね!

2018/10/08 (Mon) 17:57 | EDIT | REPLY |   

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