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plumeria

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次の日になった。今日・・・私はここを出ていく。
類の隣の部屋からいなくなる。

それを気取られないようにいつもより慎重に朝ご飯の支度をした。
類が珈琲を煎れてくれる横で最後のサンドイッチを作りながら、目が潤んで見えなくなりそうなのを必死に堪えた。

「牧野、このお皿、もう向こうに運んでいい?」
「あ!いいよ、サラダはもう出来てるから。つくし特製のドレッシングも出来てるから持って行ってくれる?」

「了解・・・やっぱり美味しい!」
「ほんと?多めに作ったから1日だったら保存できるよ。よかったら明日使って?」

「明日も作ればいいじゃん」

あぁ・・・そうだよね。ここはそんな風に言っちゃダメだよね。
気をつけてるつもりでもつい出ちゃう『明日はいないよ』ってサイン。慌てて「そうだよね!」って答えながら類に背中を向けた。


「今日ね、少し教授と打ち合わせがあるからお昼は非常口に行けないんだ。だから1人で悪いけどカフェでお昼食べてね」
「そうなの?俺より教授の方が分かり易いの?」

「そうじゃなくて!来年の学科選択の相談なのよ。それにイタリア語の弁論大会あるでしょ?その時間割とか聞くの」
「・・・つまんない」

つまんない・・・たったそれだけでつまんないって言ってたら、この人は1人で生活出来るんだろうか。
何も食べないで、全然動かないで、化石のようにジッとして部屋に閉じ籠もってしまうんじゃないかしら。

そう思ったら胸が痛い。
だから目を合わせないようにしてそれ以上の話をしなかった。


「それじゃ、先に行くね?類はいつものように少し遅れていくんでしょ?」
「あ・・・一緒に行く?」

「ごめん!私朝一番に小島教授のところに行くから時間がないの。お昼ご飯、ちゃんと食べるんだよ?」
「ん、わかった」


まだ珈琲片手にボサボサの髪だけど、私に向かって笑顔で片手を振ってくれた。

これが・・・私が見る最後の類の姿。


「行ってきまーす!」って大きな声で元気よくドアを開けて、部屋を飛び出た。
そして今度は足を忍ばせて自分の部屋に入る・・・物音1つ立てずに、静かに・・・静かに。

そして息を止めて自分の部屋の真ん中で座った。


30分過ぎたぐらいで類の部屋のドアが開いた・・・302号室の前の通路を彼が歩いて通り過ぎる。
そーっと玄関まで行って耳を澄ませたら軽快に階段を降りる足音が聞こえた。

今度は窓の方に行って窓硝子を開け、ベランダに出ずに車のエンジン音を聞いた。


やがて類の車が寮を出て行った。


「・・・行っちゃった。あはは・・・ホント、私って馬鹿だよね」

あれだけ2人で頑張ったのに。
あれだけ守ってくれるって言われたのに。

女の子がいいな、なんて夢物語・・・本当にごめんね、類。
私が今からすること、許さなくていいから類は1人にならないでね。



引っ越し業者さんが来るまでの間、私は声を出さずに顔にクッションを押し当てて泣いた。
泣いて泣いて、もう涙なんて出ないって思うほど泣いて・・・一頻り泣いたら自分のものを片付け始めた。

段ボールも何もないから持っていく物を纏めておいたらあとは全部してくれるって言ってた。だからキッチン回りのもの、衣類、勉強道具に日用品。
掻き集めてもそんなになくて、これだったらあっという間に運び出されるだろうなって溜息をついた。


しばらくしたら管理人さんが上がってきて業者さんが来たことを教えてくれた。
その人達は片手に沢山の段ボールを持ってきたけど「これだけですか?」ってあっさり言われ、頷いたら20分ぐらいで梱包は終わったらしく、私の荷物は全部持って行かれた。

家電品や家具が備え付けだったからね、なんて呟いたけどなんて簡単な引っ越しだろう。
そして玄関に立ってる管理人さんにここのカードキーを返した。

「お世話になりました。管理人さん、お元気で」
「・・・牧野さんには色々悪いことをしたと思ってるよ。すまなかったね・・・花沢様には逆らえなくて」

「いいんです。管理人さんはご自分のお仕事をしたんですから。じゃあ・・・もう行きますね」
「何処に行くかは知らないけど、牧野さんも元気でね」


階段を降りたらもう花沢の車が待っていた。
初めて見る普通の車・・・花沢にもこんな小さな車があるのね、なんて暢気なことを考えてた。
お父様の姿は当然無いんだけど、運転手はあの時に車に乗っていた秘書の人らしい。後部座席を開けてくれてそこに乗るように指示された。


その光景を今では仲良くなった守衛さんが不思議そうに見てる。
この人はもしかしたら私が今日出て行く事を知らなかったんだろうか・・・でも、流石にもう気が付いてるよね?

だから、最後に挨拶したくて側まで行った。


「守衛さん・・・お世話になりました。私のせいで嫌な思いをしたんでしょ?ごめんなさいね」
「いや、そんな事はもういいんだけど、何かあったのかい?花沢様はこのことは?」

「類には何も言わないでくださいね。まだ知らないんだけどすぐにバレちゃうから。私は勝手にいなくなったの・・・聞かれたらそう言ってください。類の家とは関係ないって思わないとあの人、苦しむでしょ?」
「でも、牧野さんがいないだけで苦しむんじゃ・・・」

「・・・そうかもしれないけど、ここにいたらお友達がいるでしょ?そのうちまた笑顔に戻れると思うから」

守衛さんにも「お元気で」と挨拶をして1人で車に乗り込んだ。


**


羽田に着いたら秘書の男性が搭乗手続きを済ませてくれて、知らない人の名前が書かれたチケットを私にくれた。
そして新しいアパートの住所と、すぐに編入できるようにと大学の手続きを済ませた書類を渡された。落ち着いたらそこに行って、今後の事を自分で確かめるようにと。

「念のためスマートフォンの電源は必要時以外入れないように願います。類様が必ず連絡してくるでしょう。それはあなたにとっても心苦しいでしょう?」

「・・・わかりました。確かにそうですね・・・今は類の声は聞けません」

「ご理解いただけて何よりです。これも類様のためですから」


そのあとに羽田空港の中にあるポストに英徳大学宛ての『退学届』を入れた。
沖縄から出すわけにはいかない・・・東京にいるうちに出さなきゃきっと類は見つけてしまうと思ったから。



「それでは牧野様、お元気で。今まで類様のお世話をありがとうございましたと社長からのご伝言でございます」

「お世話・・・?お世話なんてしてません。私の方が助けてもらっていたんですから」

「言われたことをお伝えしたまでです。向こうに着いたら迎えの人間に全て任せてくださいね」

「はい。私1人じゃ何も出来ないですから・・・」


そう、私1人じゃ何も出来ない。
類がいなければ何もする気にならない・・・そんな生活が想像できない。


それでも私の足は搭乗ゲートをくぐり、沖縄に向かう飛行機に向かった。
なんの夢も希望も持てないけど、せめて暖かい土地で・・・それしか考えられなかった。





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2018/10/11 (Thu) 00:27 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、おはようございます。

酸素ボンベ1本、毎度あり~!!(笑)
大至急お届けしたいと思います💦

頑張れ、さとぴょん様!清司郎の所に行っちゃダメよ!


総ちゃんのお話で復活願う!(笑)

2018/10/11 (Thu) 07:36 | EDIT | REPLY |   
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2018/10/11 (Thu) 08:07 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さゆ様、おはようございます。

あっはは!ごめんなさーい!!
追いかける類君が大好きなんです♥

確かに読者さんにはハードかもしれないけど💦

この先の類君の切ないしーんでまた怒られるかも・・・?
是非是非応援してやってくださいませ!

2018/10/11 (Thu) 08:46 | EDIT | REPLY |   
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2018/10/11 (Thu) 10:01 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

わんこ様、こんにちは。

大変申し訳ありません。このような展開で。
あと2週間ぐらいで終わると思うので、もし辛いとお考えでしたらそのぐらいの期間、すっ飛ばしてください。

ごめんなさいね(笑)
私の好きなように展開させてるので。

追いかける類君が好物なものですから、これからも類つくに関してはこんな感じじゃないでしょうかね。
あまり長編物で類君にコメディ系は浮かばないのです。

あまり無理して読まないで下さいね💦
本当にごめんなさい。

2018/10/11 (Thu) 13:15 | EDIT | REPLY |   
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2018/10/11 (Thu) 14:22 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: No title

ビオラ様、こんにちは。

ご訪問&コメントありがとうございます。

あら!一緒ですか?ふふふ、好物ですよね♥
追いかける=追いつく=ハピエン♥これは決まっているのですよ(笑)

どうやって追いつくかを考えるのが好きなんですよね~💦
ややこしい設定で申し訳ございません(笑)


類パパ・・・ちょっとヤバい人になりすぎましたねぇ💦
本当はもう少し優しい部分も入れたかったんですが何故かこうなってしまった!

ここまで来たら無理矢理なラストになりそうですが、最後までお付き合いくださいませ。


応援コメント、めっちゃ嬉しいです♥
ありがとうございました。

2018/10/11 (Thu) 17:46 | EDIT | REPLY |   

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