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plumeria

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その日の夜、俺はただ夢中で牧野を抱いていた。

この3年間の空白を埋めるように、この狭い部屋の小さなベッドであの頃と同じように。
雨に濡れたせいで少し熱があるのかもしれない・・・牧野の身体は熱くて自分の手が冷たく感じるほどだった。
それでも離すことなんて出来ない。
今住んでいる所へ帰るって言うのを、許すことなんて出来ないよ。

少し赤くなっている牧野の顔を俺の両手が包み込んだら、一粒だけ涙を流した。
その涙を唇で吸い取ってそのまま瞼にキスをする・・・くすぐったくて肩を竦めてしまう仕草がとても好きだった。
その癖は変わっていないんだね・・・。

「牧野・・・この3年の間に誰かを知ったの?それとも・・・まだ、俺だけ?」

「誰もいるわけないじゃない・・・類しか知らないよ。類こそ・・・あの時の人はどうしたの?」

「あの時の人?誰のこと?・・・俺はずっとここに1人でいたよ。牧野以外の人なんてここには入れないから」


やっぱり、花沢が動いたんだね。
だから、牧野は自分から消えたんだ・・・俺の将来のために、自分の気持ちを犠牲にしたんだね。

「花沢が誰かを連れてきたとしても、その人が牧野の代わりになんてならない・・・そんな事もわかんなかった?
わかんなかったんなら・・・今からでも教えてあげる」


ごめんね・・・熱があるんだろうけど、我慢できない。牧野が欲しくて止めることが出来ない。
何度も耳元で愛してるって囁いて、そっとキスをする。
牧野の声が小さく答えるから、その先を聞きたくて・・・俺の舌は牧野の首筋に走る。

もっと声を聞かせて・・・?牧野の声が甘く変わるとき、その細い身体が撓るとき、その黒い髪が乱れるとき・・・
もっと俺を感じて欲しくて、思わず指先に力が入る。

もっと、俺の事を求めて欲しくて動きを止めたら、牧野の方が背中に回した手で俺を引き寄せるんだ。
これは昔からの牧野の強請りかた・・・今でもそうやってくれるんだね。



どのくらい愛してると言えば、類を私にくれますか?
たった一言、愛してるって言葉をくれたら・・・ずっと牧野の側にいるよ?



絡めた指が一度も離れることなく、お互いを求め続けて・・・牧野と眠りについたのは明け方だった。
でも、牧野は知らないよね。牧野が寝てしまった後もずっとその寝顔を見ていたんだ。
少しだけ大人っぽくなった・・・牧野の寝顔はすごく綺麗だったから。



次の日、雨が上がって春らしい青空が広がった。

牧野が山口に置いている物を取りに行きたいと言うから、月曜日に休みを取ることにして2人で行った。
着くまでにお互いの3年間を話し合った。電車の中の俺たちはほとんどの時間その片手を繋いだままで・・・

俺の成長ぶりに牧野はクスクス笑って、その変貌ぶりを面白がった。
牧野の寂しい毎日の話には、逆に何も言えなくなった。時々涙を浮かべる牧野の手を強く握ってやるしか出来なかった。

随分遠いところにいたんだね。着いたときにはもう夜になったいた。
牧野が世話になっている民宿の夫婦に牧野を連れて帰ると説明をして頭を下げた。
孫のように可愛がってくれたのだろう、その老夫婦はとても喜んでくれていた。

「まぁ、これがつくしちゃんの彼氏かいね?ええ男やないの!よう、ここまで来ちゃったねぇ。今日はゆっくりして
明日早ように帰ったらええよ。つくしちゃん、良かったねぇ」


牧野が暮らしているというアパートより小さな部屋に泊まった。持って帰るものはほんの少しだけ。
ここで3年も暮らしたんだと思うと胸が痛んだ。そして机の引き出しから出したものは・・・

「この写真だけはどうしても持って帰りたかったの。私の宝物だから・・・」

そう言って見せてくれた俺の写真・・・3年間見てくれていた写真の中の俺。
牧野がとても大事そうに、折れないようにとノートの間に挟んでカバンにいれた。
俺が持ち続けた牧野の鍵と同じように、こんな写真を大切に持っていたんだね・・・お互いに一つずつ持っていたんだね。

「類ともう会うことはないって思ってたから・・・私一番好きな類の笑顔の写真なのよ?類は嫌かもしれないけど
これだけは絶対に手放したくないの」

「ここに本人がいるのに?本人の方が暖かいから絶対いいはずだよ?だって写真はこんなことしてくれないでしょ・・・」

昨日からずっとこんな風にキスしてる・・・だって、3年分だから・・・。



東京に帰って、また2人であのアパートで暮らした。以前と変わらずに小さな幸せに包まれて暮らした。
でも、少しだけ変わった事がある。

学生だった俺は働いているし、アパートの名義は牧野じゃない。
俺が遅くなっても牧野は部屋で待っているし、牧野が忙しいときは俺が台所に立つ。
お互いが求め合うときも、不安を消すためじゃない。喜びを分かち合うため・・・


そして桜の花が全部終わって葉桜に変わった頃に、一輪だけ狂い咲きの桜が咲いた。
俺たちの間にもちょうどその頃、一輪の花が宿った。



来年桜の咲く頃にもしもまた雨が降るのなら、今年以上に優しく降って・・・と心の中で呟いた。
俺たちの宝物に綺麗な桜を見せたいから・・・。


fin。

sakura.jpg
突然予告もなく書いてしまったお話です。
ちょっとすごく落ち込むことがありまして、その時に本当に雨が降っていて
桜の花が濡れているのを見たときに、自分と何となく重なって悲しくなって・・・
いきなり書いてしまったものでした。
基本ハピエンなのですが、この時は悲しいのもいいじゃん・・・って思って
1話だけのつもりでSSとして書いたのですが・・・なんだか続きが必要な感じに
なって、2話で終わろうって思ったら・・・このまま終わったらいけない感じに
なってきて。

どうしたらいいんだろうって書いてたら・・・6話になってしまいました。

そしてこれで良かったのか、このお話が終わる頃には私の悲しかったことも
解決してしまいました。
沢山の応援ポチに助けられた6日間、読みに来ていただいて
本当にありがとうございました。

感謝・・・!

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Comments 6

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2017/04/12 (Wed) 12:26 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: 好きです(*´ω`*)❤

凪子様、こんにちは🎵

いや、びっくりしましたよ。そんないきなり❤
照れるじゃないですか❕

と、思えばやっぱり相手は類君でしたか。( *´艸`)

こんな庶民的な類にしてすみませんでしたぁ!

でも意外とみなさん、お好きみたい。こんな切ないのは類っぽくないと思われるだろうな~って思いながら書いたんですよ。
受け入れていただいて、良かったです‼

また、いつか挑戦してみようかな?

今日もありがとうございました。(*≧∇≦)ノ

2017/04/12 (Wed) 12:47 | EDIT | REPLY |   
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2017/04/12 (Wed) 12:49 | EDIT | REPLY |   
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2017/04/12 (Wed) 12:50 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: こんにちは

えみりん様、こんにちは🎵

あら?泣いちゃった?すみません。
お弁当は類に作ってもらいましょう!
あと1年あれば、より家事もこなせるようになってるはず!卵焼きも焦げずにできるはず!

私も誰かに作ってもらいたい。
ちょっと会社も休みたいです!
えみりん様、私の有休申請を承認してくださいませ!

なんて、いいながら❗今日も仕事してます。

えみりん様もいつもありがとうございます。
ゆっくり頑張ります。

2017/04/12 (Wed) 16:05 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

K様、はじめまして。そしてありがとうございます。

類君のお話ではあんまりない感じですが、喜んでいてだけたのなら良かったです。
こんな庶民的な類で申し訳ないとは思うんですけど、私も書いてて新鮮でした。下書きなしの初挑戦だったので、つながりが悪かったですけど。

また、おもいついたら頑張ってみます。

応援コメント、本当に嬉しいです。
ありがとうございました‼

2017/04/12 (Wed) 17:20 | EDIT | REPLY |   

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