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なんでそんなに楽しそうに鼻歌なんて歌ってんのかしら。

私は西門さんの部屋でやたら浮かれている彼を見ながら腕組みをして仁王立ちだった。
そんな私を横目で確認しながらスマホで何かを調べてる・・・そしていきなり立ち上がったら「茶室に行ってくるから待っとけ」ってひと言だけ残して出て行った。


・・・お茶室へ?

今からそんなところに行ってどうするのかと思ったけど、私の返事なんて聞かずに今来た廊下を戻っていく。西門さんの頭の中がよくわからなくてポカンと口を開けてお茶室に消えて行く彼の後ろ姿を見ていた。


しばらくしたら数人のお弟子さんが大きな箱を抱えて西門さんの後ろにくっついてきて、部屋の前まで来たら何処かに運ぶように指示されてる。
ペコペコと頭を下げて彼から何かを受け取ったら裏口の方に回った。

今度は自分の部屋のパソコンをカタカタと触りながら上機嫌・・・この訳のわからない行動をソファーに座って眺めていた。


「・・・よし、じゃあ行くか!」

「は?何処に行くの?雲隠れって本気なの?」
「勿論!こんな家に1ヶ月もいられねぇし、マンションでも同じだろ?誰にも邪魔されないところに行くんだよ」

「誰にも邪魔されないところ?」

そう言いながらニッコリ笑って元気よく、たまに「いてっ・・・」って脇腹を押さえながら裏の駐車場に向かった。
「そんなに痛いんならおとなしくしときなよ」、そう言うと急に身体は真っ直ぐになる。


裏の駐車場に行ったら今日乗るのはメタリックブルーのマセラティ・ギブリ。
「いつも乗ってる赤だと目立つだろ?」って言うけど、これでも充分目立ってる・・・絶対振り向かれること間違いなしの超高級車で出掛けるらしい。

そこにはさっきのお弟子さんが立っていて西門さんに車のキーを渡していた。


「ねぇ、何処に行くの?こんな車でウロウロしたら絶対誰かに見つかると思うんだけど?」
「目的地に着いたら動かねぇから問題ねぇって」

「だから、その目的地って何処?」
「奥日光の別荘。そこで牧野の修行を1ヶ月ってわけ」

「・・・はっ?私の修行?!」
「そう、だから道具を車に積んだんだ。食うもんや着るもんはパソコンからでも手配出来るけど道具だけは持っとかないとな」


それでお茶室・・・そこからお稽古に必要なものを持ち出したって事?
車の後ろを覗き込んだら後部座席にさっきの箱が並べられていた。

なるほど・・・あの赤い車はスポーツカーだから殆ど荷物は乗せられないもんね。だからこのセダンタイプの車な訳ね?
で、パソコンでカタカタしてたのは生活必需品の手配ってこと?まったくお金持ちは何考えてるかさっぱりだわ!


「行ってらっしゃいませ!若宗匠、お気を付けて」
「親父とお袋を頼むな」

「畏まりました!」


私の意見なんか1つも聞かずに、お弟子さんに見送られてそれからすぐに西門邸を出た。



************



奥日光へ車で行く場合、紅葉が見頃の今なら渋滞を見込んでも東京から約3時間。
東北自動車道を北上し、宇都宮ICから日光宇都宮道路で日光ICまで20分・・・そこからどんどん奥に入って行けばこの季節に毎年使う西門の別荘がある。

いつもは数日間しか滞在しないから管理人に食事や掃除を全部任せるんだが、今回は1ヶ月・・・牧野と2人っきりで過ごしたいから定期的な物資配達以外は近寄らないようにと指示を出した。


しかもここには専用の温泉がある。
塩化物泉のように殺菌作用のある泉質には不要な雑菌を消毒し、創傷・切り傷の回復を助けると言われているし、硫酸塩泉・石膏泉のようなカルシウムを含んだものは痛みを和らげる効果があるらしい。
特に硫酸塩泉は「傷の湯」と呼ばれるほど、皮膚の損傷に対する効能があるってことで、ここはまさしくその性質を持った温泉。

ここで傷の治療も行いながら牧野の「稽古」も行う。ははっ!一石二鳥とはこの事だ!



紅葉に染まった山の中を走って行くと趣のある生け垣と、古くていつの時代のものだかわからないような門が見えてくる。その門を通り抜けて奥の車止まりに向かうと、そこはもう過去に迷い込んだかと思うような庭の造りと屋敷の色。

それでも手入れだけは毎月きちんとされてるから「朽ちている」というわけでもない。
本当に良い状態のまま残された日本家屋・・・そしてここの庭の紅葉も見頃を迎えていた。


「うわあっ!凄い別荘だね・・・中は?中も古いの?」

「当然!ここは昔の屋敷のままだから洋間なんてないし、いい感じの茶室があるぜ?それに奥の方には川が流れてるから風呂に入りながら川に映る紅葉も見られるんだ」

「お・・・お風呂に入りながら?」
「そ!楽しみだろ?傷口に優しい温泉だ」

「私のお腹の傷なら治ってるから心配ないよ」なんて赤い顔してそっぽを向く。その反応が可愛くて面白くて・・・。


屋敷内に入ったら自分たちの荷物を先に部屋に置いてから最後に茶道具を運び入れた。
釜や茶碗、その他の小さな道具まで揃えるとかなりの重さと量だ。それを2人で抱えて茶室に置き、すぐに牧野を連れて庭に向かった。


そこでやったのは「榊」を切り取ること。

庭で切り取った榊をこの屋敷の神棚に供え、手を合わせる。
これは西門本邸でも毎日行われる朝の行事の1つ・・・それをここで牧野に覚えさせる。修行のうちでもあるし、こんな小さな事でも茶道の宗家には必要な知識って事だ。

これが来客との会話の幅を広げる「手掛かり」にもなるから、今のうちから少しずつ身体に染み込ませていく。


「榊ってのは”神の木”って書くだろ?具体的に木の名前ってわけじゃなくて『神事に用いられる常緑樹の総称』なんだ。だから寒いところでは椿が使われてたりするんだ」

「へぇ、そうなんだ?」

「樹木信仰って言ってな、樹木は「再生」と「永遠」の象徴ってわけ。春に芽を出し花を咲かせ、葉を茂らせて実を結び、やがて葉を落とし再び春を待つ、それがずっと続いていくだろ?
常に緑である常緑樹というのは「永遠」を象徴するってことで神聖視されてきたんだと思う」

今、自分で切り取った木の枝にもそんな意味があるのかと、牧野は神棚を見上げて、まだよくわからないって顔をしていた。
それも当然・・・小さい頃から聞かされてきたから今ではわかるだけで、この年になってから言われてもピンとは来ないだろう。


「榊の名前の由来ってのもあって”栄える木”から来たって説と、”人間界と神の世界の境の木”ってのがある。どっちが正しいかって論じられてる事もあるけど、要は”神域”を表すって事だとは思うんだけどな」

「それ、茶道と関係あるの?」

「直接あるかって言われればないけど、たとえば椿は茶花としても使うだろ?だから客との談話の時なんかにそんな話したりとかな。昔の人の考え方の中には面白いものがあるって事かな」

一般的に榊と呼ばれるこのは南の方で自生する植物で関東から北では育たない。
だから実は今取ったのはこっちの方で「ヒサカキ」と呼ばれる椿なんだと教えたら・・・既に困った顔をしていた。


「わかるようでわかんない・・・それも知らなきゃいけない事なの?全部そんな感じのお話ばっかり?」

「ははっ!堅苦しく考えたら頭が痛くなるだろ?その都度覚えればいい。こうやって少しずつ教えてやるから歴史の勉強だと思って頭の隅に置いとけ」

「うん、じゃあ少しずつ!」



西門の事なんて焦りはしない。
この先の方が長いんだからゆっくり、ゆっくりでいい。

俺が焦りたいのはそっちじゃねぇって言ったら・・・逃げるかも知れねぇな。




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2018/10/12 (Fri) 12:48 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんにちは。

えっ!!だって昨日はまだ西門邸ですよ?いきなり今日・・・?
それもすごい展開ですよね?(笑)

そこまで流れを無視して始められないですよ(笑)怖いわぁ!

明日・・・?
明日、明日・・・どうだろう(笑)


えーと、本格的に始めるときは冒頭に注意書きが入るのでそれでご判断ください。
多分明日は・・・違うような気がする。

「待て!」状態続く?(笑)

2018/10/12 (Fri) 14:12 | EDIT | REPLY |   
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2018/10/12 (Fri) 14:17 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様 こんにちは。

ふふふ、そう言っていただけると調べて良かったって思います♥

書き始めの頃にはそこまで調べて書かなかったんですが、これも欲が出るんでしょうかねぇ?
適当に書くよりきちんと書かなきゃ!って他の作家さんを見て思うんですよ。

なので他では役に立たない知識が増えました(笑)

日本の観光名所にも詳しくなりましたよ?
ただ自分の足では行けないんですけどね(笑)

ブログを辞めたら自分で書いた場所に行くのが夢です。ふふふ、楽しみだなぁ!


って事で、明日から総ちゃんとつくしちゃんの「修行」が始まります♥
しばらくはラブラブしちゃいますので宜しく・・・ははは!

2018/10/12 (Fri) 18:38 | EDIT | REPLY |   

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