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高橋さんが「着きましたよ」と言って車を停めたのは名護市でも海側にある小さなアパートの前。

そこは比較的新しい感じの可愛いアパート「シーサイドハイツ・田中」・・・3階建てで、また302号室。
なんて偶然なんだろうって可笑しかった。


このアパートは各階に7部屋ぐらいあった。
学生寮じゃないから色んな人が入ってるんだろう・・・アパートの前には自転車置き場があっておもちゃが放置されてたり、三輪車やママチャリがあったり。
入り口も2つあってもう1つの方からはお婆さんが出てきた。

綺麗なゴミステーションなんかじゃなくて道路脇に捨てに行くみたい。分別ゴミの収集日の紙を高橋さんが私にくれた。

管理人さんは101号室で、当然だけど守衛さんなんていない。
防犯カメラもないし門だってない。

1階に住んでいる人にだけ小さな庭があってお花を育ててる人がいるような、本当に普通のアパートだった。


「それではお部屋に行きましょうか。すぐに生活が出来るようになってるそうですよ」

「そうですか。ご面倒かけたんですね」

「面倒なんてそんな!花沢社長のお知り合いでしょ?うちの支店長が大慌てでしたよ。あ、言っちゃいけないんだった!忘れて下さいね!」

「くすくす・・・はい、忘れます」

類のお父様はこんな所にも圧力をかけて急かしたんだね。
そしてすぐにみんなが動く・・・それだけ権力持ってる雲の上の人だもんね。


高橋さんが鍵を開けてくれて部屋の中に入った。

そこは6畳二間に小さいけどダイニングキッチンがあって既に家電品は全部揃えられていた。高橋さんの言うとおり・・・お父様の指示で家具家電は完璧だった。

もしや、と思って冷蔵庫を開けたらそこにも困らない程度の食材がある。
洗剤やタオル類も最低限必要な量が備え付けの棚に並べてあった。


「それではこれが鍵でこっちが合鍵です。それとこれが大学の資料でして、一応編入試験を受けて下さいとのことでしたよ。それはご自分で大学に確認して下さいね」

「はい、わかりました」

「それとこっちが家電品の保証書とこの部屋の契約書類。沖縄は初めてでしたっけ?簡単な観光ガイドのようなものがあった方がいいかと思って用意しておきましたよ」

「観光・・・あはは!落ち着いたら色んな所に行ってみますね」

「困ったことがあったらいつでもご相談下さい。私は那覇市の方に滞在しておりますから」

「はい、色々とありがとうございました」


高橋さんは私に一通りの説明をしたら今来た道を引き返して行った。
私はその車を3階の通路から手を振って見送った。

見えなくなってもしばらくは車が消えて行った方向を眺めていた・・・本当に1人になっちゃった、そんな気がしてぽっかり心に穴が開いて、ついさっき出会った高橋さんでさえ恋しくなった。


また1人で部屋に入る。
何の音もしない冷え切った部屋に入る。


そこの冷たいカーペットの真ん中に座って膝を抱え、まだ届いてない自分の荷物を待つ・・・ここは温かい沖縄のはずなのに寒くて寒くて堪らなかった。

喉の真ん中が痛い・・・泣きたいけど泣けない。
もうすっかり治ったはずの指先が痛む・・・それは私の心が悲鳴をあげているからだろうか。


「類・・・ごめんね。・・・もう1回会いたいな・・・でも、もう会えないんだよね」


スマホの中には沢山類の写真がある。
あれから1度も見ていない。見たら涙が溢れるから・・・でも、消すことなんてもっと出来ない。

見たくて見たくて堪らないのに、私の手はスマホを遠ざける。


そこで笑ってる類をいつになったら見ることが出来るんだろう・・・。



****************



俺が花沢に着いたのはその日の夕方遅く。
連絡もせずに帰ってきた俺に驚いて、執事も加代も慌てて飛び出してきた。

「お、お帰りなさいませ!類様、どうされたのですか?」
「父さんと母さんは?」

「え?旦那様も奥様も珍しくもうお帰りで自室にいらっしゃいますが、それがどうかされましたか?」
「・・・わかった」

「は?類様・・・類様?!」


両親がいることを確認したら、後は返事もせずにその部屋に向かった。

すれ違う使用人も驚いて壁にへばり付くように避ける・・・俺の顔がそれだけ恐ろしいんだと思う。
ここまでの怒りを誰かに感じたことはこれまで1度もなかった。お婆さまをこの屋敷から遠ざけた時でさえ、もう少し冷静だったと思えるぐらいだ!


両親の部屋に着いたらノックもせずに、バンッ!と大きな音を立ててドアを開けた。
それに驚いて母さんが入り口の俺を見ている。

父さんはこうなることがわかっていたからなのか、身動き1つせずに椅子に座って新聞を読んでいた。


「・・・どうしたの?類、何をそんなに怒っているの?」

母さんの質問には答えずに父さんの椅子の方に向かい、その目に前に立った。
俺がそこまで行くと流石に新聞から目を離し、鋭い目で俺を見上げた。母さんは呆然とその光景を見ていたけど、何かが起きたのだと察して俺の傍に近寄って来た。


「父さん、牧野に何を言ったんです?彼女を何処に行かせたんですか?」


「・・・・・・知らんな、何のことだ」

「ご存じないとは言わせませんよ。父さんが寮に来たことは既に聞いています。管理人達に口止めをされたようですが見ている人は他にもいるんです」

「そんな所に私が出向くなどする訳があるまい。人違いだ」

「都合よく監視カメラも故障させたから証拠がないとでも言いますか?でも、その事が既にあなたが行ったという証拠だ!」


父さんはシラを切り通すつもりなんだろう、この言葉の後は再び新聞に目を向けた。

母さんは驚いたように俺を見つめた。
俺の怒鳴った声なんてこの人達は初めて聞くはずだから当たり前、しかも父さんに向かってだから余計に母さんはびっくりしただろう。
目を大きく見開いたまま父さんの椅子の後ろに回って行き、今の質問について確かめようとした。

「あなた・・・!今の話は本当なんですか?牧野さんに・・・彼女に何をお話になったの?・・・あなた!」
「・・・知らんと言っている」

「牧野さんをあの部屋から追い出したの?・・・どうしてですか!そこまでする必要がありましたの?!」
「五月蠅い!!何度も言わせるな!私は知らん・・・小娘1人の行動に興味などない!」


父さんの怒鳴り声にいつもならここで怯んで終わるはずなのに、今日の母さんは黙ってはいなかった。


「類、話を聞かせてちょうだい。牧野さんがどうしたと言うの?」
「お前・・・!私が知らんと言ってるのがわからんのか!」

「いいのよ、類。私が話を聞くわ。言いなさい」


母さんは父さんの後ろからまた俺のところに戻って来てソファーに座れと・・・だからこの後は最近の牧野の様子と今朝の会話のことを話し、父さんらしき人物が寮を訪れたこと、今朝牧野の部屋の荷物を引っ越し業者が取りに来たこと、その後で牧野の姿が寮から消えたことを説明した。


「・・・数日前からおかしいとは思っていました。俺に隠し事をしてるんじゃないかと・・・それがこの引っ越しだったんですよ。
あれだけフランスで一緒に闘ってくれた彼女が、俺に何も言わずに出て行くのなら相当の圧力があったはず。それは花沢としか考えられない・・・そうでしょう?」

「・・・そうね。可哀想に・・・今頃どんな気持ちで何処にいるのかしら。心細いでしょうに・・・」

「それを知っているのは1人しかいませんよ」

「まだ19歳の女の子なのに1人で決断したのかしら。どんなに辛い朝だったんでしょうね」


それを言われるとその時間まで一緒にいた俺は、どれだけ馬鹿だったんだ?
疑問を持ちながら問い詰めることはしなかった。牧野の甘え方もはしゃぎ方もいつもと違うって感じながら、その胸の奥の痛みをわかってやれなかった。

そのうち全てを話してくれると信じてた・・・でも、それすら出来ない状況があって当然な世界だったのに。


母さんと俺が父さんを睨んでも、眉すら動かさず視線を合わせようともしない。
そのうちスッと立ち上がって新聞をバサッと机に置き、顔を見ようともせずにボソッと言葉を出した。


「私は明日、フランスに戻る。次に戻るのは来年だな」




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Comments 6

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2018/10/14 (Sun) 11:47 | EDIT | REPLY |   
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2018/10/14 (Sun) 15:44 | EDIT | REPLY |   
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2018/10/14 (Sun) 17:20 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

わんこ様、こんばんは。

そうですねぇ・・・かなり悪い役になっちゃいましたねぇ(笑)
まぁ、楓さんと思えばこんな感じじゃないですか?

この先は類ママに頑張っていただきたいと思います。

あはは!高橋さん(笑)彼にですか?
そりゃお話が終わらなくなりますね!まぁ、いい人の設定ですけどね♥

もう1度会えるまで、みんなの応援宜しくお願いします!

2018/10/14 (Sun) 18:00 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは!

ごめんね💦他がほんわかしてるのにこの話だけブリザード級に寒くて・・・。

何とか早くこの話もほんわかしないとね💦
・・てか、この話にはもうないですからね?

期待しちゃダメよ?

2018/10/14 (Sun) 18:14 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

miz**様 こんばんは!

コメントありがとうございます。
つくしちゃんの空元気はしばらく続くのですけどね・・・。

もう少し我慢していただこうかと思います。


類君の家の過去について・・・はこれからですが、ここまで類パパを悪者にしたので
それに似合うだけの過去問題か?💦ってちょっと悩んでます・・・。

「理由はそれだけかいっ!!」ってなったら笑って許してください!ひえ~💦どうしましょうーっ!!



2018/10/14 (Sun) 21:13 | EDIT | REPLY |   

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