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なんの説明もしようとせず、父さんは急にフランスに戻ると言い出した。
自分が日本からいなくなればこの話が沈静化するとでも思ったのか・・・逃げるような発言に無性に腹が立ち、言い返そうかと立ち上がったが、それを制止したのは母さんだった。

同じように驚いた顔をしていたが俺よりも先に席を立ち、父さんと向かい合った。


「フランスに?向こうに戻る予定は来週ですわ。何をそんなに急いで戻らないといけませんの?」
「・・・お前にもわからんような仕事を山ほど抱えてるんだ。口出しするな!」

「それなら私たちの質問にお答えになってからにしてください。牧野さんは今、何処にいるんですか?」
「だから知らんと言ってるだろう」

「お逃げになるの?いつからそのように情けないことをするようになったの?恥ずかしいとは思わないのですか?
女の子を1人、あなたは暗闇に突き落としたようなものですよ?!」

「なんだと?人を犯罪者のように言うつもりか!それならばお前は・・・!!」

「・・・それとこれとは別ですわ。牧野さんになんの罪もありません!」



・・・最後の方、意味不明な部分はあったけど両親の言い争う姿は初めて見た。
母さんがここまで父さんに怒りを露わにするなんて想像もしていなかった。唯一、今この状況でそれだけは有り難かった。

俺はこの部屋を出ようとする父さんに向かって、自分のこれからについて言葉を出した。


「よくわかりました。何も語らないのならもういい・・・牧野の事は俺がどんなことをしてでも探します。そして俺は彼女のいる場所で生きていく・・・もし、花沢がどうしても認められないと言うのなら今度こそこの家を捨てます。
牧野がいないのであれば何もする気が起きない・・・情けないですが俺は動けなくなるんです。そんな俺が花沢に残ってもご迷惑かけるだけですからね」

「・・・そんな事が出来るものか。フランスでも花沢のためにあれだけ動いたのだ。お前はこの家を捨てることなど微塵も考えてはいないのだよ。一瞬の感情で言うだけだろう」

「勘違いしないでください。俺が踏み留まったのは牧野のためです。牧野を失いたくないから死に物狂いで頑張っただけのこと・・・彼女がいないのなら頑張る気力なんてひと欠片も出ませんね」


父さんはこの言葉には返事もせずに部屋を、その後は屋敷を出て行った。
執事には「本社で資料を見る」だなんて見え透いた嘘を言ったようだが、母さんとも顔を合わせにくくなったからこの様子だとホテルにでも泊まるんだろう。

屋敷を出て行く父さんの車を2人で窓から見ていた。



「困った人だわ。どうしても類の結婚相手にはそれなりの家からって思うのね。もう今ではそんな事で揺らぐほど小さな企業じゃないのに・・・」

「・・・それほど俺の事が信用できないんでしょう。子供の時からそういう目で見られていたから今更驚きませんよ」

「牧野さんの事は私が調べるわ。お父様のことですもの、次に牧野さんが住める場所を探してそこに向かわせたんだと思うし、極秘で事を運んだつもりでしょうけど花沢の名前で動いてる部分もあると思うから探れば何かわかるかもしれないわ」

「秘書が教えてくれますか?」

「いいえ、秘書はたとえ私が聞いても絶対に言わないでしょう。それだけこの件については私も信用されてないと思うの。だから面倒だけど庶務課や総務・・・そうね、不動産部門や最近お父様に呼び出された役員がいないか探ってみるわ」


ふと思った・・・母さんがこれまで1度も逆らわなかったのに何故今回父さんに従わなかったのか。
フランスでも俺に話さないといけない事があると・・・こんな非常時だったけどその話も聞いておいた方がいいような気がして母さんに尋ねた。


「母さん、お聞きしておきたい事があります。俺に話さないといけないって言っていたのは何ですか?父さんと何か関係があるんですか?」

「・・・そうね、お父様が何故あなたには厳しくするのかって事には関係があると思うわ」

いきなりの質問にまた驚いた顔をした母さん・・・でも、言うべき時が来ていたんだろう。すぐに表情は和らいで、もう1度そこに座るように指示された。
執事に紅茶を頼み、それが届くまでの間頬杖をついて俯き、虚ろな目で考え事をしていた。


温かい紅茶がテーブルに置かれてから俺の方が先に言葉を出した。

「教えていただけますか?実は那須に行ったときに不思議だったことがあります。お婆さまと母さん・・・俺にはあまり繋がりがないように感じていたのですが、年に何回も贈り物のやりとりをしていますよね?そこまでするのに会話はなかった・・・父さんがお婆さまを遠ざけた時も反対はしなかった。むしろ父さんの味方だったような記憶があります。
管理人の前田さんにも2人は仲良くしようと頑張っていた、と言われました。何かあったんですか?」

那須、という言葉にビクッとした気がした。
そして今度は悲しそうな・・・辛そうな表情に変わったけど、1つ大きく深呼吸したあとで紅茶を口に運び、震えた小さな声で話し始めた。


「あれは類がまだ3歳の時だったわ・・・」


思い出させてはいけなかったのだろうか・・・でも、母さんの話は始まった。



***************



「よし、こんなもんかな・・・うん、美味しく出来た」

お味噌汁を作って簡単なおかずを2つだけ。
私の沖縄での初めての晩ご飯がこれだった。

花沢が用意してくれていた食材の中には沖縄の特産品もあるんだろう、私には初めてのものもあったけど、幸いさっき高橋さんがくれた観光ガイドにそういうものが載っていた。

「これはマンゴーでしょ?パイナップルはわかるとしてこれは何だ?ドラゴンフルーツ・・・?どうやって食べるんだろ?ヨーグルトにサラダ?適当に書いてるなぁ・・・で、こっちは・・・」


シークワーサーにグァバの実、これはビタミンCが多いらしい。
パパイヤもあるけど熟すとフルーツ、未熟のものは野菜として使うと書いてあった。でも、調理方法なんて知らないからネットで調べなきゃ・・・。

ゴーヤも紅いももわかる。黒糖ももずくも大丈夫。
覚えにくそうなのはお肉の名前・・・ラフテーは「沖縄風豚の角煮」、ミミガ-は「豚の耳の皮」、ソーキは「豚のあばら肉」・・・流石沖縄、言葉がわからない。


なんてお行儀が悪いんだろうって自分でも思うけど誰も見てないんだもん。
ご飯を口に入れて味噌汁で流し込むようにして食べて、観光ガイドを肘で押さえながら箸でおかずを摘まむ。

「あっ!このお魚冷蔵庫にあったヤツ?へぇ・・・”ぐるくん”?変わった名前。白身の淡泊な味・・・唐揚げでいいのね?で、これが”海ぶどう”ね!これは聞いたことあるわ。三杯酢でもドレッシングでも・・・かぁ」


これからはこの土地のことを覚えなきゃいけないのね・・・観光ガイドを閉じて表紙の鮮やかな南国の海の写真を眺めた。
何故かこの明るい風景に寂しさしか感じないけど。


もしかしたら南よりも北に行った方がよかったのかな、なんて思いながら残りのおかずを食べた。


それが終わったらシャワーを浴びてさっさとベッドに潜り込む。
真新しいお布団の感触が逆に肌に痛いような気がして涙が出てきた。


毎日遅く起きて早く寝よう。
毎日昼間は動きまくってクタクタになろう。バイトも毎日入れよう・・・何も考えなくてもいいように。


毎日夢も見ずにぐっすり寝て、いつの日かこれが思い出になればいい・・・。




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2018/10/15 (Mon) 00:12 | EDIT | REPLY |   
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2018/10/15 (Mon) 01:09 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんにちは。

あっはは!相当渚沙ちゃんにやられてますね?
ここでは誰もつくしちゃんを狙いませんから(笑)

私も沖縄に行ったときに食べられなかったもの・・・豆腐よう。これはダメでした(笑)
それ以外は大丈夫でした。

個人ツアーじゃなかったので自由行動できなかったけど、両親と一緒に行った最初で最後の旅行でした。
母がずっとスーパー勤務だったので日曜に休みがなかったんですよね。

そのスーパーが閉店になって辞めたので行ったんですが、ちょうど10月の沖縄でした。
懐かしいなぁ(笑)

もう1回行ってみたいです・・・沖縄。

2018/10/15 (Mon) 10:42 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、こんにちは。

類ママの辛い過去・・・何が起きたのかをやっとここで(笑)

これまでお母さんが何となく類君に冷たかった、というかお父さんに怯えてきた理由みたいなものですかね。
えっ!そんなことで?って思うかもしれませんが、類ママの気持ちが少しでも伝わればいいなぁって思います。

つくしちゃんは・・・元気を振り絞って頑張ってくれると思います。

長かったなぁ・・・(笑)
実は昨日お話を書き終えましたのでホッとしてます。

最後まで応援してやってくださいね♥

2018/10/15 (Mon) 10:49 | EDIT | REPLY |   

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