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俺が3歳の時、母さんと2人で那須の別荘に遊びに行った・・・その時の事を母さんはゆっくりと話し始めた。


**


『おばあさま、ジョンがぼくの手を舐めてくる~!ジョン、ダメだよ!あっ、ジョンったら!』

その頃、那須の別荘にはミニチュアダックスフンドのジョンがいて、俺は東京ではペットなんて飼ってなかったからその子と遊ぶのが好きだったらしい。

部屋の中で2人で寝転んでじゃれ合って、時には噛まれて泣いたりして、それなりにやんちゃな時があったと母さんは懐かしそうに語った。


『ほほほ、類は本当に可愛らしい子ねぇ!もう少ししたらヴァイオリンを教えてみようと思うのよ。お爺さまもお上手だったし筋がいいかもしれないわ』

『お義母様・・・あの人がなんて言うかしら。私は反対しませんけどあの人はヴァイオリンは好きではないでしょう?』


それまで俺を見て微笑んでいたお婆さまの顔が曇った。
それを心配そうに覗き込んだ母さん・・・お婆さまの目は最近亡くなったお爺さまの形見のヴァイオリンに向かった。

『・・・そうね。確かにあの子は自分が弾くことを禁止されてしまったから、それ以来音楽に対して嫌悪感を抱いてるものね。
全ては私のせいなのよ。お医者様に早く連れて行かなかったから・・・本当に悪いことをしたわ。あなたは類のこと、充分に気をつけるんですよ?私のようにならないでね』

『わかっていますわ、お義母様・・・でも、今はあの人も普通に暮らせてるんですもの。誰のせいでもありませんわ』

2人は部屋の中ではしゃぐ俺を見ながらそんな会話をした。
勿論俺はそんな2人の会話なんて聞いてもなくて、小さなジョンを相手に追いかけっこばかり・・・大人の顔色なんて窺うような歳じゃなかった。


那須の別荘は自然に溢れていたから、俺は屋敷内よりどちらかと言うと外に出て遊びたがったらしい。この時もジョンを連れて外に行こうとして2人には何も言わずに部屋を出て行った。

それを見た2人が慌てて俺を追いかけた。
ジョンは俺よりも早く階段を降りてしまうから、それに合わせようとして危なっかしい足取りで階段を降り始めた。

『あら、類!危ないわ、そんなに急いで降りてはダメよ!』
『お義母様こそ走ってはいけませんわ!類・・・類、止まりなさい!』

俺は2人の言うことなんて聞かずにジョンを追いかけて、転けそうになりながらも1階に降りたらしい。


悲劇はその時に起きた。


『類、類・・・!危ないわ、類!ああっ・・・!』
『お義母様っ!』

階段を2段ぐらい降りたお婆さまが足を滑らせて落ちそうになり、それを母さんが横から飛びついて身体を止めた。
そして1度は落ち着いたかと思って2人が油断した時、お婆さまが再び蹌踉けて母さんを押してしまい、その瞬間、今度は母さんが後ろ向きに階段を踏み外して転落・・・母さんは1番下まで転がり落ちて全身を強打した。

『ああーーっ!遙香さん、遙香さんっ!誰か、誰かぁ!!』
『ううっ・・・うっ、お腹が・・・お腹が・・・!』

お婆さまの叫び声で使用人が全員集まり、すぐに救急車が呼ばれた。
でも、ここは那須高原の外れ・・・大きな病院に運ばれるまでには相当な時間がかかった。



『大変お気の毒ですが・・・お腹のお子様は・・・』


この時、母さんの中には俺の弟妹がいたらしい。
しかも双子・・・男の子と女の子のようだと言われ、父さんも母さんも大喜びだったそうだ。


母さんはこの時の事が原因で2度と妊娠できなくなった。それを知った時の母さんは3日間泣き続けて誰にも会わなかったらしい。


**


「ごめんなさい・・・全然覚えてはいません。ジョンがいたことは覚えてるけど今の話は初めて聞きます」

「そうね、言わなかったもの。まだ3歳の類に罪はないわ。それにお婆さまにも罪はないのよ・・・それは判っているわ。
ただ、お父様には全てが許せなかったのね。それからお婆さまにも類にも・・・私にも怒りをぶつけるようになったの」

母さんは目を赤くして、当時の事を思い出しているようだった。


やっと安定期に入ったばかり・・・父さんはそんな状態で那須に行くことに大反対したが俺とお婆さまを会わせるためと、都会の息苦しさを紛らわすためにと母さんの方が無理を言ったらしい。



『わかっているのか?花沢には大事な子供だ!私のように1人きりで全部を背負わないためには子供はとにかく何人でも欲しい・・・何かあったら取り返しがつかないのだぞ!』

『大丈夫ですわよ。どんなことがあってもお腹の子も類も守ってみせます。このお屋敷が子供の声で五月蠅くなるほど増やしたいのでしょう?ふふふ、それなら私にもリラックスさせてくださいな?心配性ねぇ、あなた』

『・・・くれぐれも事故のないようにな?類も勿論だが、お前の身体にも何かあったら困るのだから』




それで起きてしまった事故・・・黙って飛び出した俺と、足が悪いのに慌てたお婆さま、妊娠中なのに無理をした母さん。
そして失われた2つの命・・・。

母さん同様、父さんも初めて仕事に行けない程伏せったのだと母さんは話していた。


「お父様は独りっ子でそれは厳しくお爺さまに育てられたんですって。だから類をそうさせないために弟妹は1人でも多くって言うのがお父様の願いだったのよ。それで授かったのが双子・・・しかも男の子と女の子だったから私たちにも夢と希望が広がったの。その時は花沢も大きくなりつつあったから、将来類だけに負担がかからないようにって・・・すごく楽しみにしていたの」

「・・・そうだったんですか」

「お婆様はご自分を責めて毎日お父様に泣いて謝ったけど、お父様は何も言わなかったわ。責めもしないけど許しもしなかった・・・それは私にも同じだったの。もう類1人しか自分の跡継ぎがいないんだって納得するのに時間がかかったんだと思うわ。
私の身体の治療にも随分と手を尽くしてくれたけど・・・結局ダメだって判ったのは2年ぐらい後だったかしらね・・・」


だから父さんは俺に厳しくなり、母さんに高圧的な態度を見せるようになり、お婆さまにはぶつけようのない怒りを感じていたんだ。


そのうち気晴らし程度に俺にヴァイオリンを教えたら、何も知らない俺はヴァイオリンに夢中になった。

父さんにしてみれば自分は好きでも続けられなかったヴァイオリンを、自分の子供達を失うきっかけを作ったお婆さまが教え始めたことに再び怒りを爆発させたんだろう。

母さんは父さんの言葉を聞かずに出掛けて事故に遭い、出来るだけ沢山と望んだ子供を1人しか持てなくなったことに対する引け目から怯えるようになった。
もう2度と父さんには逆らえない、そんな風に自分を追い込んでいったんだろう。

だからフランスで牧野にドレスを着せた時に優しい顔になったのか・・・妹が無事に産まれていたら17歳。
牧野とそこまで変わらないぐらいに成長しているはずの自分の娘とダブらせてしまったんだ。


そしてお婆さまとは顔を会わせにくくなったけれど、お互いを思いやる気持ちだけは持ち続けたから事ある毎に贈り物を送り続けた。それがあの那須に残された送り状・・・お婆さまはそれすら捨てることは出来ずに持っていたんだろう。



「それに類が産まれた頃にね・・・1度花沢が大きな負債を抱えたことがあるの。挑戦した事業に失敗してね、その時に花沢の危機を救ったのは私の父だったの。あなたのもう1人のお爺さまよ。
それがあるからじゃないかしら・・・類の相手にもそれなりの人をって気持ちが強いのは」

「もう20年も前です。その頃と今では花沢も規模が違う・・・他から援助されなくても自己回収出来るんじゃないですか?いや、その逆ってことですか・・・失敗した時の負債額も大きくなるから?ローラン社の時のように?」

「そうね・・・今となっては花沢が大きくなりすぎてお父様も不安なんだと思うわ。後継者があなたしかいないんですもの。好きなようにさせてやりたいと思う気持ちも持ってないわけじゃないと思うけど、会社も守らなくてはいけないでしょ?
だから牧野さんっていう何も持っていない女の子にあなたが夢中になって、花沢の事が後回しになるのが怖いのよ」

「・・・他の女性とのことなんて考えられないのに?それこそ花沢は俺で終わりになりますよ」

「ふふふ、そうね。今は私もそう思うわ。フランスで牧野さんがあんなに強い子だと判るまではお父様と同じで私も不安だったもの。弱いお嬢さんなら類が振り回されてしまう・・・たとえ一緒になれたとしても精神的に弱い人だと類の力になれるかわからないものね。これはまだ花沢物産に拘わっていないあなたには理解が出来ないところね」



このあと、母さんが父さんの説得と牧野の行き先を突き止めると張り切りだして話は終わった。


花沢の屋敷を出たのは夜の10時。

何処かで牧野がこの星空を見ながら泣いてる気がしてならなかった。
早くそこに辿り着いて抱き締めてやりたくて、胸の奥を掻き毟られるような感覚に襲われながらある場所に向かった。




kenka30.jpg
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2018/10/16 (Tue) 06:33 | EDIT | REPLY |   
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2018/10/16 (Tue) 06:41 | EDIT | REPLY |   
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2018/10/16 (Tue) 11:05 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、こんにちは!

いや~ん!嬉しいコメントありがとうございます!
そうなんです~♥
そんな願いが込められてるんです~!

このクソジジィと化してます(笑)類パパを元に戻してあげたいのです~。

ご理解いただけて嬉しいです!
と、言うことで類君はつくしちゃん探し、頑張ります!

2018/10/16 (Tue) 13:57 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは。

コメントありがとうございます。

あはは、つまんない設定で申し訳ございませんでした💦
でも、困った大人というのはそんなものです。

幼い頃受けた心の傷とかって大人になっても消えませんし、無くしたものが大きければ大きいほどいくつになっても後を引くもの。
そういう人って自分でもわかってるけど歳を重ねるごとに心の修正をしにくくなるんだと思います。
類パパのような人には本当はつくしちゃんのような人が必要なんだと思いながら書きました。

意固地でクソジジィですがいつかはそんな類パパを笑顔にさせてあげたいもんです♥
私に筆力がないために、ここまで類パパのイメージは悪いものばかりでしたが、残り僅かな話数の中に少しの変化をみていただけたらなと思っています。

どうもありがとうございました。

2018/10/16 (Tue) 14:14 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんにちは。

ある場所?さとぴょん様の好きな場所よ?(笑)

類パパ、困った人でしょ?(笑)
愛情を上手く表現できない人なんでしょうね。そういう人、いますもんね。

なんでも持ってるけど愛情にだけ不器用・・・そういうのが類パパの設定なんです。
類ママが怯えてしまうのも余計に類パパを孤立させたって思うんですよね。

お互いが本心を言えない状況になってしまって、でも会社は成長していくし、類君はお婆さまに懐くし。

「タイミングわるっ!」・・・ひと言で言えばそういう家族(笑)


早くつくしちゃん連れ戻して明るい花沢家にしたいもんですね~!(お前が言うな!)

2018/10/16 (Tue) 14:26 | EDIT | REPLY |   

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