Set in Motion・23
秋が深まったから虫の声がすごい・・・それを聞きながらつくしを抱き締めて布団の中に入ってた。
こいつはさっきの風呂での出来事で疲れ果て、もうウトウトしてる。
俺の方もまだ少し傷口が疼く・・・まぁ、あれだけの怪我だったのに無理したんだから仕方ねぇけど。
俺の腕の中で寝返りを打とうとしたけど顔を反対側に向けるのなんて許さねぇ・・・また向きを変えさせて引き寄せ、顔にかかった髪をそっと直してやるとほんの少し目を開けた。
「・・・ん、あれ?まだ起きてたの?西門さん」
「だから、そうじゃないって言ったろ?」
「・・・あは、えっと、総二郎・・・これでいい?」
俺の右腕に頭を乗せたつくしが顔を擦り寄せながらそんな事を言う・・・それ、体調が万全だったら速攻始めてるぞ?って思いながら額にキスだけした。
「明日っからホントに稽古するからな。ここでするのは茶道に華道に書道・・・着物に慣れるためにたまには着物でするぞ」
「うん・・・わかった・・・」
「俺はこう見えて結構厳しいからな。覚悟しろよ?」
「うん・・・する」
「でも、悪いけど飯の準備は手伝えねぇわ。そういうのは任せるからな」
「うん・・・頑張る」
「お前、何も考えてねぇだろ?」
「うん・・・」
・・・すげぇ可愛いけど超ムカつく!この俺が話してるのに上の空ってどういう事だ?
腹が立つからもう1回窒息するほどキスしたら、本気で苦しかったのか思いっきり胸を殴られた!
「馬鹿っ!!エロ門っ、何回襲ったら気が済むのよっ!」って、お前だってさっき『もう1回見たい』って言ったじゃねぇか!
ゴホゴホと噎せ返りながら、それでも俺の腕の中から出ていかないんだから・・・やっぱり可愛いヤツだな。
**
朝・・・鼻を擽るような味噌汁の匂いで目が覚めた。
薄く目を開けたらつくしはもう起きてて着替えも済ませ、台所で朝飯を作っていた。まるでドラマのワンシーンみたいにトントンと包丁の音がこの部屋まで響く。
マンションだとそこまで聞こえなかったこの音が、ここだと嘘みたいによく聞こえる・・・暫くそんな”幸せな音”を布団の中で聞きながらあいつが起こしに来るのを待っていた。
「・・・そ、総二郎、もう朝だよ・・・寝てるの?」
くくっ、総二郎って頑張って呼んでる。
絶対に真っ赤になって無理して呼んでるんだろうから、面白がって目を開けなかった。
「総二郎・・・もう起きなきゃお稽古始めるの、遅くなるよ?総二郎?」
今度は真横に座ってきた・・・まさか目覚めの、なんて事はしねぇよな?って、それでも少し期待して待っていたらつくしが近寄って来たのが判った。
嘘・・・マジで?ホントにそんなこと出来んのか?
耳の近くでつくしの体温を感じる・・・目を閉じてるけどすげぇ敏感になってるから身体がむず痒くなってきて我慢の限界!
ガバッと起き上がってつくしを抱き締めるとそのまま自分の身体の上に乗せた!
「ぎゃああぁーっ!!何すんのっ!やっぱり起きてたわね?!」
「あっはは!お前が思わせぶりな態度で近づくから我慢出来なくなった!」
「そんなんじゃないわよ!もしかしたら昨日お風呂で巫山戯すぎたから熱でも出たのかと思って計ろうとしただけだよ!」
「熱?そんなもん、出る訳ねぇじゃん。まぁ、つくしを抱き締めて寝たから汗はかいたけど」
「うわあぁっ!だから、そんな言い方しないでってば!」
「キスして?」
「・・・は?」
俺の上でジタバタしていたのにこのひと言で動きが止まった。めっちゃデカい目で俺を見下ろして、途端に耳まで茹で蛸状態になった。
腹に負担をかけるから1度は降ろしたけど、布団の上に寝っ転がったまま「ほら、早く!」と言えば困った顔してやがる。
「あっ、あの、じゃあさ、目・・・目を閉じてて!」
「・・・くくっ、こうか?」
「い、いくよ!」
そんなキスの仕方ってあるのか?ってここでも可笑しくて噴き出しそうだったけど、つくしは目を閉じた俺の唇にすげぇ短くて軽いキスをしたら走って台所に逃げていった。
あいつの感触すら残らねぇぐらいの簡単なキスだったけど、それだけで幸せな気分になって俺も布団から起き上がった。
**
朝食が終わると昨日と同じように神棚に手を合わせた後に茶の稽古をする。
先に俺が茶を点て、その後でつくしが俺に点てる。
1番多い薄茶点前を問題なく熟せるようにする事と、別荘だから茶懐石は出来ないが茶事全般の流れをマスターすること。
西門で生きていくためにはこれが絶対条件・・・時間はかかるだろうが、後援会の爺さん達に納得してもらえる茶を点てられるように指導するのが俺の役目だから。
ここでは気を引き締める意味もあって全て敬語で巫山戯ることはしない。
今までは許していた小さなミスもこれからは見逃すわけにはいかないと話すとつくしも真面目な顔で頷いた。
同時に華道とは違う茶花の生け方も教える。
「花は野にあるように」、これが千利休の教えの1つだから華美で人工的な形にしない事が大事。あくまでも花が自然のままそこにあるように、その日の茶事のテーマに合ったものをその日に摘む。
うちの庭だからあちこちに茶花用に植えた草花がある。
2人で庭に出て俺が指さしたものをつくしがハサミで丁寧に切り取っていった。
「そこにあるのが 緋扇、少し向こうにあるのが 蓮華升麻・・・で、 丸葉藤袴を一枝、少し長めに切り取れよ?全部が短いと生けるときに困るから」
「はい。これで全部?」
「いや、この季節に欠かせないのが 秋海棠ってヤツと 吾亦紅 ・・・吾亦紅も長めに切り取ってくれ」
「・・・どれ?」
「これ。花屋で売ってる花なんて使わないからまずは名前を覚えなきゃな。今日使う花は西門の裏庭でも咲いてるヤツだから何度もやりゃすぐに覚えるさ」
屋敷内に入ったらすぐに水揚げをする。
「茶会当日は朝露がついてるぐらいの時間に切り取って準備するんだ。ここではしないけど濡れてるまま生ける時もある。その日の雰囲気と花の種類にもよるけどな」
「はい、その日1番初めの作業なんですね?」
「そうだ。そして水揚げは水の中で切るのが基本。切口を水に浸けてそこで切るように・・・その時に切り口を少し潰して給水面を広くしてやるといい」
「へぇ!そうなんだ・・・意外と難しい・・・」
「言葉遣い!今は稽古中だぞ」
「あっ!ごめん・・・じゃなかった、すみません!」
そんな事を言ってるけど2人でニヤけてる。
この後つくしに茶花を生けさせたが、全部やり直しでガックリしてたのには本気で笑ってしまった。
こいつはさっきの風呂での出来事で疲れ果て、もうウトウトしてる。
俺の方もまだ少し傷口が疼く・・・まぁ、あれだけの怪我だったのに無理したんだから仕方ねぇけど。
俺の腕の中で寝返りを打とうとしたけど顔を反対側に向けるのなんて許さねぇ・・・また向きを変えさせて引き寄せ、顔にかかった髪をそっと直してやるとほんの少し目を開けた。
「・・・ん、あれ?まだ起きてたの?西門さん」
「だから、そうじゃないって言ったろ?」
「・・・あは、えっと、総二郎・・・これでいい?」
俺の右腕に頭を乗せたつくしが顔を擦り寄せながらそんな事を言う・・・それ、体調が万全だったら速攻始めてるぞ?って思いながら額にキスだけした。
「明日っからホントに稽古するからな。ここでするのは茶道に華道に書道・・・着物に慣れるためにたまには着物でするぞ」
「うん・・・わかった・・・」
「俺はこう見えて結構厳しいからな。覚悟しろよ?」
「うん・・・する」
「でも、悪いけど飯の準備は手伝えねぇわ。そういうのは任せるからな」
「うん・・・頑張る」
「お前、何も考えてねぇだろ?」
「うん・・・」
・・・すげぇ可愛いけど超ムカつく!この俺が話してるのに上の空ってどういう事だ?
腹が立つからもう1回窒息するほどキスしたら、本気で苦しかったのか思いっきり胸を殴られた!
「馬鹿っ!!エロ門っ、何回襲ったら気が済むのよっ!」って、お前だってさっき『もう1回見たい』って言ったじゃねぇか!
ゴホゴホと噎せ返りながら、それでも俺の腕の中から出ていかないんだから・・・やっぱり可愛いヤツだな。
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朝・・・鼻を擽るような味噌汁の匂いで目が覚めた。
薄く目を開けたらつくしはもう起きてて着替えも済ませ、台所で朝飯を作っていた。まるでドラマのワンシーンみたいにトントンと包丁の音がこの部屋まで響く。
マンションだとそこまで聞こえなかったこの音が、ここだと嘘みたいによく聞こえる・・・暫くそんな”幸せな音”を布団の中で聞きながらあいつが起こしに来るのを待っていた。
「・・・そ、総二郎、もう朝だよ・・・寝てるの?」
くくっ、総二郎って頑張って呼んでる。
絶対に真っ赤になって無理して呼んでるんだろうから、面白がって目を開けなかった。
「総二郎・・・もう起きなきゃお稽古始めるの、遅くなるよ?総二郎?」
今度は真横に座ってきた・・・まさか目覚めの、なんて事はしねぇよな?って、それでも少し期待して待っていたらつくしが近寄って来たのが判った。
嘘・・・マジで?ホントにそんなこと出来んのか?
耳の近くでつくしの体温を感じる・・・目を閉じてるけどすげぇ敏感になってるから身体がむず痒くなってきて我慢の限界!
ガバッと起き上がってつくしを抱き締めるとそのまま自分の身体の上に乗せた!
「ぎゃああぁーっ!!何すんのっ!やっぱり起きてたわね?!」
「あっはは!お前が思わせぶりな態度で近づくから我慢出来なくなった!」
「そんなんじゃないわよ!もしかしたら昨日お風呂で巫山戯すぎたから熱でも出たのかと思って計ろうとしただけだよ!」
「熱?そんなもん、出る訳ねぇじゃん。まぁ、つくしを抱き締めて寝たから汗はかいたけど」
「うわあぁっ!だから、そんな言い方しないでってば!」
「キスして?」
「・・・は?」
俺の上でジタバタしていたのにこのひと言で動きが止まった。めっちゃデカい目で俺を見下ろして、途端に耳まで茹で蛸状態になった。
腹に負担をかけるから1度は降ろしたけど、布団の上に寝っ転がったまま「ほら、早く!」と言えば困った顔してやがる。
「あっ、あの、じゃあさ、目・・・目を閉じてて!」
「・・・くくっ、こうか?」
「い、いくよ!」
そんなキスの仕方ってあるのか?ってここでも可笑しくて噴き出しそうだったけど、つくしは目を閉じた俺の唇にすげぇ短くて軽いキスをしたら走って台所に逃げていった。
あいつの感触すら残らねぇぐらいの簡単なキスだったけど、それだけで幸せな気分になって俺も布団から起き上がった。
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朝食が終わると昨日と同じように神棚に手を合わせた後に茶の稽古をする。
先に俺が茶を点て、その後でつくしが俺に点てる。
1番多い薄茶点前を問題なく熟せるようにする事と、別荘だから茶懐石は出来ないが茶事全般の流れをマスターすること。
西門で生きていくためにはこれが絶対条件・・・時間はかかるだろうが、後援会の爺さん達に納得してもらえる茶を点てられるように指導するのが俺の役目だから。
ここでは気を引き締める意味もあって全て敬語で巫山戯ることはしない。
今までは許していた小さなミスもこれからは見逃すわけにはいかないと話すとつくしも真面目な顔で頷いた。
同時に華道とは違う茶花の生け方も教える。
「花は野にあるように」、これが千利休の教えの1つだから華美で人工的な形にしない事が大事。あくまでも花が自然のままそこにあるように、その日の茶事のテーマに合ったものをその日に摘む。
うちの庭だからあちこちに茶花用に植えた草花がある。
2人で庭に出て俺が指さしたものをつくしがハサミで丁寧に切り取っていった。
「そこにあるのが
「はい。これで全部?」
「いや、この季節に欠かせないのが
「・・・どれ?」
「これ。花屋で売ってる花なんて使わないからまずは名前を覚えなきゃな。今日使う花は西門の裏庭でも咲いてるヤツだから何度もやりゃすぐに覚えるさ」
屋敷内に入ったらすぐに水揚げをする。
「茶会当日は朝露がついてるぐらいの時間に切り取って準備するんだ。ここではしないけど濡れてるまま生ける時もある。その日の雰囲気と花の種類にもよるけどな」
「はい、その日1番初めの作業なんですね?」
「そうだ。そして水揚げは水の中で切るのが基本。切口を水に浸けてそこで切るように・・・その時に切り口を少し潰して給水面を広くしてやるといい」
「へぇ!そうなんだ・・・意外と難しい・・・」
「言葉遣い!今は稽古中だぞ」
「あっ!ごめん・・・じゃなかった、すみません!」
そんな事を言ってるけど2人でニヤけてる。
この後つくしに茶花を生けさせたが、全部やり直しでガックリしてたのには本気で笑ってしまった。