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「お疲れ様でした、マスター。おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ。気をつけて帰るんだよ」

お店を出たのは午前3時半・・・こんな時間になったらバスがないからタクシーで帰る。それを拾おうと大通りまで出た時に後ろから声をかけられた。
それは坂本さん・・・もう随分前に帰ったはずなのに、まだこの辺りに居ただなんて驚いた。


同時に抱える不安・・・暗闇から出てきたこの人の髪が街灯で余計に茶色く光る。

それを見たらドキッとする。
全然違うって判っていても、似た人を見たらそれだけで胸が痛くなるから・・・やっぱり苦手だ。


「華さん、お疲れ様・・・やっと出てきたんだね」
「坂本さん、まだお帰りじゃなかったの?こんな時間まで何してたの?」

「すぐそこの深夜営業のカフェで華さんを待ってたんだ。あぁ、変な意味じゃなくてさ・・・送って行こうと思って」
「・・・どうもありがとう。でも、お断りします。私、1人で帰るのが好きなんです。ごめんなさい」


そんな訳ないけど住んでる場所を知られるのは困る。
私は家に帰れば「牧野つくし」になるんだから「華」はこの時間まで・・・その入れ替わりを誰にも見せる訳にはいかないもの。

私が断ると坂本さんは困ったような顔をした。
でも、彼が勝手に待ってた事であって私のせいじゃない・・・そう考える事にしてタクシーが停まっている場所まで歩いて行った。
そうしたら慌てたようについてきて肩を軽く掴んで止められた。

久しぶりにそんな風に誰かの手が私に触れる・・・男の人の力を感じて、またドキッと心臓が音を立てた。


「じゃあせめてバス停2つ分、俺と歩いてくれないかな」
「・・・疲れてるんですけどね、それでいいなら・・・」

お店じゃないから少しだけ態度に出しちゃう。わざと迷惑そうな顔をして「嫌な女」っぽくしてみたけど坂本さんには通用しなかったみたい。
子供のような嬉しそうな顔で横を歩いてるから何も言えなくなった。


『ホントにお人好しだよね、あんた』・・・また彼の声が聞こえてきそう。
うん、それが取り柄であり欠点でもあるよ、なんて心の中で答えながら人通りの疎らな真夜中の道を歩いていた。


「華さんってさ、誰か好きな人がいるの?」
「・・・どうしてですか?そんな風に見える?」

「いつも誰かの事を想ってるような気がする・・・それって、別れた彼氏とか?」
「別れた彼氏かぁ・・・ふふっ、その人ならもう私の事なんか見向きもしないでバッチリ仕事して頑張ってると思う。私も全然思い出さない・・・今の言葉で久しぶりに顔が浮かんだわ」

「そうなんだ、やっぱり恋人はいたんだね」
「私をいくつだと思ってるんですか?恋ぐらいしますよ・・・人よりは少ないかもしれないけど」


その時、こんな時間なのに自転車が無灯火で私たちの方に向かってきた。
しかも酔っ払ってるのかふらふらしてて危なっかしい・・・その人がすぐ傍まで来た時にふらっと自転車ごと蹌踉けたから私は思わず道の端っこに飛ぶようにして避けた。

よく見たら坂本さんは私の反対側にさっさと避けてる。


あぁ、こんな所はあの人とは違うんだよね。
あの人なら私の腕を掴んで自分の腕の中に入れて守ってくれる・・・それが今よりももっと危なくない時でもきっとそうする。

『あんた、ドジだから自分から当たりに行きそうだもん』なんて言いながら。


「酔ってるのに自転車なんて・・・迷惑だよね」
「・・・そうですね。転けて怪我しなきゃいいけど」

「ああ言う人は怪我でもしなきゃわかんないのかもしれないよ?」
「それでも、誰も怪我なんてしない方がいいですよ」

「・・・華さん?」


それは身体の怪我のことじゃなかったのかもしれない。心が怪我をしてしまったら・・・なかなか治らないもの。


ホントにバス停2つ分歩いたらそこら辺に来たタクシーを拾った。
一緒に乗りたそうだった彼には悪いけど「じゃあ、また」って声をかけて別れた。

似てるだけってホント困る。どうしても比べちゃうもの。
今日はきっと彼の夢を見るんだろうな・・・坂本さんがお店に来た日はいつもそうだもの。


そのうちタクシーは寂れた裏通りに入って私のアパートのすぐ近くで停めてもらった。
時間はもう午前4時を回ってる。静かに階段を上がらなきゃまた1階のおばさんに怒られるわ、なんて考えながらヒールを浮かせて自分の部屋に戻った。


**


翌々日の日曜日はお店がお休み。

この日だけはいつも朝早く起きることにしている。
朝ご飯も普通に作って1人で食べて、掃除機も念入りにかける。お洗濯もシーツや大きなものを洗ったりお布団を干したり、休みの方が忙しい。
そして一週間分の食料品はこの日に買い溜めをする。

「ピピピ!ピピ!」
「はいはい、ハクの好きなお野菜も後で買って来るね。ホームセンターにも行くから餌もね」

「ピピ、ピピ、ピピピ!」
「もうちょっと待って?洗濯物を干し終わったら出してあげるから」

ハクもこの日だけは嬉しそう。
朝、早い時間から私が活動するから自分も遊べるし、喜び過ぎてカゴの中で大騒ぎしてる。
あんまり鳴くとまた苦情が来るから「しーっ」なんて指を立てて怒るけど、インコに判るはずもなくお構いなしに鳴きまくる。


部屋の片付けが終わったらハクをカゴから出してやって、私はやっと珈琲タイム・・・日課のスマホニュースも見ずにぼーっと無料ゲームなんかやってみる。全然出来ないんだけど。

ハクは自分の遊び場でしばらく遊んだら、私の肩に止まって「ピピ!ピピ!」と小さく何度も鳴いて甘えてる。
構って欲しい時のこの子のサイン・・・だから指に乗せたり頭を搔いてやったり、たまには水浴びさせたり。

「ハク、楽しそうだね。本当はあんたにも友達がいたらいいんだけど、今よりもっと五月蠅くなるから飼えないの・・・ごめんね」
「ピピ・・・ピピピ」

「こんなお仕事いつまでも続けられないから、本当は東京から離れて田舎で暮らせばいいんだけどね・・・」

ハクの頭を撫でながらそんな事を言う。
この子は勿論わかんないから気持ち良さそうに目を閉じて頭を傾けるだけなんだけど。


午後からは帽子を被ってサングラスまで掛けてお買い物に行く。
行くのは小さなスーパーで、大きな店には絶対に行かない。今までここで友達にも知り合いにも会った事はないけど、念の為に必ず顔を隠して入ってる。

店員さんも初めのうちは変な人を見る感じで露骨に嫌な顔をしたけど、この生活が2年間にもなると愛想は良くなるから不思議。本当はニッコリ笑って話したいけど、それすら我慢して仏頂面で店内を彷徨いてる。
ここでは半分だけ・・・「華」になってるみたいな気分。


今日はこの後にホームセンターにも出向いて日用品を買い込んだ。
帰りなんて大荷物で手が痛くなるけど、休日にタクシーなんて贅沢は出来ないからひたすら歩いてアパートを目指した。


空を見上げて思うのはいつも彼の顔・・・元気かなぁって心の中でその名前を呼んだ。

「花沢類」・・・今、幸せですか?


返事が聞けたらいいのにな。




*******************




日本に戻ってきて数日後の日曜日、俺の足は英徳学園に向かっていた。

牧野と初めて会った場所・・・あの非常階段の踊り場に縋って真っ青な空を見ていた。
彼女と同じように真っ直ぐ雲を見て、風を受けて、大きく息を吸って・・・そうしたら牧野が何処かで同じような事をしてるような気がして。


ねぇ、牧野・・・俺はずっとこの場所に自分の気持ちを置きっぱなしにしてたんだと思うよ。
ここに置き忘れたままフランスに行ったから向こうでは全然力が出なかったんだ。

だから今日、ちゃんと取り戻しに来たからね・・・あんたへの「恋心」


「だって、簡単なんだもん。好きなら頑張る・・・それだけでいいんだと思う。小細工も嘘も要らない。好きだって言ってくれる人が居るだけでいいんだと思う」


あんたに向けて言った言葉、今は自分に向けて言うよ。
あの時も本当は自分に向けてたのかもしれないけど。


待ってな、牧野・・・俺、絶対あんたの傍に行くから。




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Comments 4

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2019/03/13 (Wed) 00:27 | EDIT | REPLY |   
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2019/03/13 (Wed) 07:00 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ミキッp様 こんにちは。

ああっ!切なかったですかねぇ💦

そうそう、ヤバい人だったりして・・・?
見た目は類君に似てることにはしてるんですが、中身は全然って感じですね。

類君、これから頑張ってくれるはず・・・って言うか、長くない話ですからご心配なく♡
出会わなかったら私が怒られてしまう(笑)

恋心も取ってきたので大丈夫!!
もう少しだけ待ってやってくださいね♡

2019/03/13 (Wed) 14:35 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ビオラ様、こんにちは!

あはは!それはきっといいことが有るかも?(笑)
皆様、夜中なのにお読みくださって嬉しいですが、くれぐれも寝不足にならないでって思います💦


うんうん、何処にでも居る勘違い男かもしれませんね(笑)

ところで都会のバス停ってどのぐらい離れてるのかしら?田舎だと結構離れてるんだけど、すぐだったりして💦

しかも深夜バスってあるのかしら・・・調べたけど、あるようで無さそうで(笑)
一晩中あるんだったらどうしよう💦
(許してもらえるかな?)

2019/03/13 (Wed) 14:43 | EDIT | REPLY |   

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